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産業医面談を行う目的と企業担当者が注意すべき対応ポイントとは?

森賀麻由良(もりか まゆら)

産業医・循環器内科医

某国公立大学医学部医学科卒業後、循環器内科医として20年以上のキャリアを積む。 現在は総合病院循環器内科に勤務しながら、2020年より本格的に産業医業務に従事している。 現在は、東証一部上場企業をはじめ複数の企業の嘱託産業医として産業保健活動に携わる。 高血圧をはじめとした生活習慣病の予防と管理から、過労死を減らすことを目標として活動中。

近年、メンタル不調を訴える従業員の増加や長時間労働に対する対応として、産業医面談の重要性が高まっています。
ところが、事前準備や周知を行わずに対象となる従業員に面談の通知をしても、面談を断られたり、面談を実施できても効果が上がらず休職してしまったりする可能性があります。

今回は、人事・総務の担当者向けに、産業医面談とは何か、どんな時に行うものなのか、そして実際に産業医面談を行うときに注意すべき点についてまとめました。

産業医面談、押さえておきたい4つのポイント

産業医面談について正しく理解し有効に活用するためには、企業の担当者は産業医や面談に関わる基本的な知識をもっておくことが重要です。
ここでは、担当者が最低限理解しておくべきポイントを4つに分けて説明します。

そもそも産業医とは?

産業医とは、従業員が健康的に仕事をできるように指導や助言をする医師のことです。

病院やクリニックの医師と異なる点は、産業医は診断や治療行為を行わないことです。産業医が従業員との面談の結果「専門的なケアが必要」と判断した場合には、病院やクリニックなど医療機関への紹介が行われます。

産業医についてもう一つ覚えておきたいのは、産業医は企業と従業員、どちらにも偏らず常に中立の立場を取る存在であることです。産業医は企業に雇用される立場ではありますが、必要に応じて企業側に職場環境の改善について勧告を行うこともあります。

そして、産業医には「守秘義務」と「報告義務」が課されています。
「守秘義務」とは、「業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない」という義務です。産業医に対しては、「労働者の同意がない限り、労働者の健康管理情報を上司および企業側に伝えてはならない」という守秘義務が労働安全衛生法第105条によって規定されています。これらは非常に重い義務であり、刑法には罰則規定もあります。

一方で産業医に課される「報告義務」とは、「労働者に健康上の問題があることを知ったときには、事業者にこれを指摘・報告する義務」です。これは、企業に対し従業員が安全・健康に働けるよう労働環境を整備する「安全配慮義務」を果たすためのものです。

これらの2つ相反する義務が課されている産業医ですが、基本的には守秘義務の方が優先となります。そのため、従業員が産業医に話した内容は、基本的には企業側に伝えられることはありません。

産業医面談とは?

産業医面談とは、従業員の心身の健康を管理することを目的に行われる面談です。専門知識を持った産業医が、第三者の立場で従業員の健康状態を診て適切な対応を促します。

具体的には、以下の状況の際に面談が実施されます。

  • 健康診断後に必要と判断された場合
  • ストレスチェックで高ストレスと判定された場合
  • 体調不良の場合
  • 長時間労働が続いている場合
  • メンタルヘルス不調の可能性がある場合
  • 休職や復職をする場合

先述の通り、産業医には守秘義務が課されています。そのため産業医面談の内容は、自傷行為や伝染病など、報告しないと本人もしくは周囲の人間の生命に関わることや、本人が企業に通達を希望した場合を除き、企業側には秘密とされます。また、産業医が報告義務に基づいて面談内容の報告を行う場合も、報告の内容は危険を排除するのに必要な最小限度に限られます。

なお、産業医面談は対面だけでなく、オンラインでも実施可能です。ただし、オンラインでの面談実施の際には以下に留意すべきとされています。

  • セキュリティを確保してもらうこと/確保された環境であることを従業員に伝える
  • 同席者(上司、人事、産業看護職等)がいる場合にはそれも伝える
  • 事前にビデオオンで面接が行われることを伝える
  • マスクを外した状態で、表情、顔色、声、しぐさ等を確認できる環境を作るように伝える
  • 面接結果のフィードバック方法や緊急時の対応法を決めておく
  • 面接指導前に問診票を配布し、その内容が「明らかに重度の疲労や睡眠障害、希死念慮を疑わせる場合」はオンラインでなく対面面談を検討する

参考:厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について(令和2年11月19日付け基発1119第2号)」

産業医面談で、産業医と従業員はどんなことを話すのか?

産業医面談では、従業員の仕事の状況などのほか、仕事以外のことも含めたストレスの要因についての相談が行われます。

睡眠や食事・運動などの生活習慣に関わることや、治療中の病気についての相談(診察ではなく「病院に行ったほうが良いか?」という質問への対応や、健康診断の数値についてなど)を受け、必要に応じて受診勧奨を含めたアドバイスを行います。

そのほか、職場の愚痴や現状への不満について聞き取りを行うこともあります。繰り返しになりますが、産業医には守秘義務があるため、生命の危機があるなど緊急の場合を除き、企業側には面談の内容が伝えられることはありません。

産業医面談は義務?

産業医面談の実施は、法律で義務付けられているわけではありません。あくまでも「従業員本人の申し出があった場合」に実施されるものであり、本人が希望していないのに無理やり面談を受けさせることはできないのです。

実際に、「忙しくて面談を受けている暇がない」「産業医面談を受けることで人事評価に悪影響を及ぼすのではないかと不安」などの理由で、面談の対象となっても拒否する従業員も少なくありません。

しかし、例えば時間外労働者に労災が起きてしまった場合には、業務と労災の因果関係が強く問われます。そして、労災が起こる前に面談を含めた予防の措置を講じたかどうかは、企業が安全配慮義務を果たしたか否かの大きな判断材料になります。

そのため、従業員の申し出の有無にかかわりなく、時間外労働が続いているような場合は、産業医による面接指導を実施するのが望ましいと言えるでしょう。

産業医面談の目的と企業の対応

スーツの女性

産業医面談が実施される目的は、大きく7つに分けられます。それぞれの目的についての詳細と、企業の担当者が取るべき対応について説明します。

健康診断

事業者は、健康診断等の結果、異常の所見があると診断された労働者について、就業上の措置について、3か月以内に医師の意見を聴かなければなりません。

事業者は、医師等からの意見を勘案して、必要があると認めるときは、該当する労働者の作業内容、労働時間その他の事情を考慮して、必要な措置を講じるべきであるとされています。

産業医は健康診断結果を確認し、問題のある従業員と面談を行います。
そして本人に改善のためのアドバイスを行うとともに「通常業務」「就業制限」「要休業」等の意見を記載します。

●面談当日までに必要な書類
・該当事業場における従業員の健康診断結果

ストレスチェック

ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員には産業医面談の案内が行われます。面談の勧奨があった従業員のうち、希望者に対して実施されます。

なお、厚生労働省の指針では、「ストレスチェック後の面談を希望した時点で、ストレスチェック結果を企業に通知することに同意した」とみなして良いとしています。ただし、従業員本人から「面談は希望したが結果の開示には同意していない」と言われる可能性もあるため、この指針の内容について事前に説明しておくことが望ましいでしょう。

企業側は、ストレスチェックの結果をもとに従業員に対して解雇や配置転換などの不利益な扱いをすることは禁止されています。ただし、面談で得た情報のうち、希死念慮など緊急性・必要性があると判断したものについては、本人の同意がなくても企業側と共有されることがあります。また、産業医は従業員本人にアドバイスを行うとともに、企業側にも適切な対応をするよう助言します。

●面談当日までに必要な書類
・厚生労働省「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書様式」

体調不良

体調不良が続き、それを理由に遅刻や欠勤といった影響が出ている場合にも、産業医面談が実施されることがあります。

原因不明の体調不良や、ストレスが原因の体調の悪化は、なかなか周囲の理解を得難いこともあります。しかし、産業保健や労働衛生に精通している産業医であれば、従業員の労働環境を理解した上でのアドバイスや指導が期待できるでしょう。

産業医との面談の結果、現状の環境で働き続けることが難しいと判断された場合には、時短勤務や休職などの就業制限が必要とする意見書が企業側に提出されることもあります。

長時間労働

定時間以上の長時間労働を行った場合も、産業医面談の対象となります。面接指導の対象となる条件は、従業員の区分によって以下の通り異なります。

・労働者:時間外・休日労働時間が1カ月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者

・研究開発業務従事者:上記に加えて月100時間超の時間外・休日労働を行った者

・高度プロフェッショナル制度適用者:1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について月100時間を超えて行った者

「高度プロフェッショナル制度適用者」とは、高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が 明確で一定の年収要件を満たす労働者のことです。「健康管理時間」とは、​​対象となる労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計を指します。
上記要件を満たした従業員には産業医面談が推奨され、希望を申し出た従業員に対して面談が実施されます。

長時間労働は睡眠・ 休養時間、家庭生活・余暇時間の不足を引き起こし、疲労を蓄積させます。そして、脳や心臓疾患の発症、精神障害、自殺の危険性を高めることも明らかになっているのです。そのほか、事故や怪我、胃十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、腰痛、月経障害など、様々な健康問題を引き起こすリスクも指摘されています。

長時間労働者に対する産業医面談の目的は、疲労が蓄積し、健康障害発症のリスクが高まった従業員に対し、健康状態を把握してアドバイスを行うことです。面接指導実施後は、産業医が就業判定や必要な措置に関しての意見書を作成します。

●面談当日までに必要な書類

  • 直近1カ月間の勤怠管理表
  • 健康診断結果
  • 対象となる従業員の氏名、性別、年齢、所属する事業場名、部署、役職、業務内容等

メンタルヘルス相談

心身の不調、またはストレス関連疾患を有している可能性がある従業員と産業医が面談し、医療機関への受診勧奨、就業判定や就業に際して配慮が必要な措置に関しての意見書など、必要な措置を行います。

メンタルヘルス不調は職場内でのトラブルや休職の原因となりやすいので、早めの対処が必要です。

面談の内容は本人が希望しなければ秘密とされること、面談を行っても不利益な扱いをすることはないことなど、メンタル不調者が気軽に面談を希望できる職場内の雰囲気作りが重要です。

●面談当日までに必要な書類

  • 直近1カ月間の勤怠管理表
  • 健康診断結果
  • 対象となる従業員の氏名、性別、年齢、所属する事業場名、部署、役職、業務内容等

休職

休職願いのあった従業員、または休職指示を検討している従業員と産業医が面談を行い、主治医の診断書、休職への意思、就業能力の評価、休職の原因等を基に意見書を作成します。

●面談当日までに必要な書類

  • 直近1カ月間の勤怠管理表
  • 健康診断結果
  • 主治医の診断書
  • 就業規則など、復職判定基準が記載されている資料
  • 対象となる従業員の氏名、性別、年齢、所属する事業場名、部署、役職、業務内容等

復職

復職を希望している従業員の方と産業医が面談を行います。

就業への意欲があるか、規則的な生活ができているか、安全に出社できる環境が整っているかなど、復職への障害がないかを確認します。場合によっては、上司などが面談に同席することもあります。

面接指導実施後は、復職への意思、就業能力の評価を基に、復職判定や就業に際して配慮が必要な措置に関する意見書を作成します。

主治医は「病気が回復したか」を見ているのに対し、産業医は「仕事に戻る準備が整っているか」という観点で判定を行いますので、時には本人や主治医と産業医の意見が異なることもあります。

●面談当日までに必要な書類

  • 休職前 直近1カ月間の勤怠管理表
  • 健康診断結果
  • 主治医の診断書(※主治医が「復職可能」と記した診断書 )
  • 就業規則など復職判定基準が記載されている資料対象となる従業員の氏名、性別、年齢、所属する事業場名、部署、役職、業務内容等
  • 休職に至るまでの経緯がわかるもの
  • (入手可能ならば)治療記録

産業医面談の実施にあたり、人事労務が配慮すべきこと

女性

特にメンタル不調対策に非常に有効な手段である産業医面談ですが、残念ながら、従業員が産業医面談に対して良いイメージを持っていないことも多いです。「産業医面談の呼び出しがあるだけで人事評価が下がる」「上司や同僚の間で変な噂が立つ」「産業医に相談すると企業に筒抜けになる」という誤った認識を持つ従業員も少なくありません。

ここでは、このような誤解を生まないために、企業側が配慮すべきことについて紹介します。

産業医面談の周知方法

産業医面談の導入についての周知は、社内の掲示板やポスター、メール、社内システムなど、全社員がわかるような方法で行いましょう。

先述の通り、産業医面談を実施するためには、従業員が面談を希望する必要があります。そのため、ただ通知するのではなく、産業医面談の目的やメリット、対象となる条件を従業員によく説明することが大切です。

特に、面談は企業のためではなく、従業員の健康のために行うものであることを周知するよう意識しましょう。産業医面談について正しく認識してもらうためには、「従業員が健康に働き続けるためのもの」「産業医面談を受けたからといって人事評価には影響を及ぼさないこと」「本人の同意なく面談内容が企業側に知られることはないこと」をきちんと伝えることが非常に重要です。

産業医面談の対象者への連絡方法

産業医面談の対象となった従業員への連絡は、メールやチャット、封書などを利用し、できるだけ他人に分からないように行いましょう。面談の対象となった従業員は、そのことを他の人に知られたくないと感じることが多いためです。

社外にも相談窓口を置く

産業医面談の内容が本人に無断で企業側と共有されることはありませんが、それでも不安を覚える従業員もいます。高ストレス者やメンタル不調者の場合、不調を抱えていることを社内の人間に知られたくないと強く思っていることも多いでしょう。

そのような従業員が面談に至るハードルを下げるためには、社外に相談窓口を置くのも有効です。そのほか、匿名で相談ができるホットラインのようなものを設置することも一つの方法でしょう。

なお、2020年6月の改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行に伴い、ハラスメント防止対策も強化されています。これにより、ハラスメント相談窓口の設置も義務化されていることを覚えておきましょう。

参考:厚生労働省「パワーハラスメント対策が事業主の義務となりました! ~セクシュアルハラスメント等の防止対策も強化されました~」
厚生労働省「2020年(令和2年)6月1日より、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」
関連記事:【2020年6月】ハラスメント相談窓口の設置が義務化!企業における必須知識とは

企業は産業医面談の場を設け、適切な対応をとることが大切

スーツの男性

産業医面談は、従業員本人の健康を守るために非常に有効な手段です。従業員に健康で長く働き続けてもらうためにも、企業は必要に応じて産業医面談の場を従業員に提供することが重要です。

また企業には、面談の結果を踏まえて職場環境の改善を行ったり、配置換えや業務内容の変更をしたりするなど、適切な措置をとることも求められます。産業医面談を「ただ実施して終わり」とするのではなく、そこで得られた結果をしっかりと活かしていきましょう。

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