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適応障害の予兆を捉え、進行を防ぐ3つのポイント―産業医のメンタルヘルス事件簿vol.8

企業の人事労務担当者が思い悩むことの1つに、従業員のメンタルヘルス対応が挙げられるでしょう。「産業医のメンタルヘルス事件簿」では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の産業医兼精神科医の先生方に、産業保健の現場で起きていることやその対応について寄稿いただきます。

今回はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷のパートナー医師である岸本雄先生に、職場で起きやすい適応障害とその対応方法について教えていただきました。

新卒も、ベテランも、適応障害を発症するリスクはある

もうすぐ4月を迎える中、異動や就職など、会社の中でも大きな動きがみられる時期が近づいてきました。日本には「5月病」という言葉がありますが、その実態は、労働環境、条件の変化などに適応できずに発症する「適応障害」を指していると思われます。今回は異動や就職を期に発症しやすい、キャパオーバー型適応障害のありがちなパターンを紹介し、企業としてどのような手を打つことが望ましいのかお伝えできればと思います。

【事例1:想定外の事態に弱く、こだわりが強いAさん

 

従業員数30人規模の不動産会社に、新卒の営業職として就職したAさん。Aさんは、学生時代から想定外の用事があると困惑しやすい傾向があった。一方でレポート課題についてはエビデンスを明確にし、緻密に論旨を組み立てるため、評価が高かった。しかし時折データ整理などに固執することがあり、締め切りを過ぎることがあった。

4月に入り、営業職が始まるとAさんは困惑した。予約した時間通りに顧客は来ないと、おろおろと落ち着かずに歩き回った。遅刻した顧客に対してAさんは、開口一番「時間を守るのは社会人としての当然のマナーですよね」と注意するのだった。顧客の希望を完全に満たす物件がないと「そんな物件はありませんね」と即答し、ニーズが明確になっていない顧客に関しては「まずはご自分でニーズを整理してからまた来てください」と答えて帰してしまうのだった。このため会社にクレームがくるようになった。先輩や上司から詰められても、Aさんはなぜ怒られるのか理解できなかった。マニュアルもなく、「空気を読め」「見て覚えろ」と言われても、全く非論理的で理解できなかった。

4月中旬頃になると、徐々に入眠が困難になった。職場に近づくと、不安と緊張から動悸、嘔気、腹痛が出現した。次第に朝起きた瞬間から症状が出るようになり、毎日トイレにこもるため、遅刻するようになった。トイレから出られない時は欠勤の連絡を入れるが、欠勤の電話が終わると嘔気と腹痛は嘘のように消えるのだった。一方でどうしても出勤しないといけない日は一駅ごとに降り、個室トイレに入って息を整えないといけなくなった。5月からはいよいよ連日欠勤するようになり、会社から休職を勧められた。

Aさんのケースは、20代の若年者でみられることが多いです。会社に入り、理想と現実との間でギャップを感じて戸惑ってしまうことが最初の引き金になることがあります。また、症例のように診断基準は満たさないものの、発達障害のような特徴をお持ちの方や、対人場面における過敏性を持つ方の場合、リスクが高まると考えられます。もともとの傾向と仕事内容がミスマッチした結果、自分自身のキャパシティをオーバーして適応障害に至ります。

【事例2:気力、体力、仕事をこなす能力が人並み以上にあるBさん】

 

30代のBさんは、従業員数100人規模のIT企業に勤務していた。体力もあり、月残業時間100時間をなんなくこなし、仕事の進捗スピードも速かったため、上司、同僚からも慕われていた。4月からチームリーダーとして抜擢されたが、チーム全体の進捗スピードを上げるため、自分の業務だけでなく部下の業務も肩代わりするようになった。土日も仕事の段取りのことを考えるようになり、深夜になっても頭が冴えるため、寝酒をするようになった。ゴールデンウイーク中はリフレッシュできたが、明けたころから飲酒量が増え、入眠困難となった。日中も些細なことでいらだつようになり、部下に対するあたりもきつくなった。5月中旬、重要なプロジェクトの会議に遅刻したことから上司の目に留まるようになった。Bさんは「何も問題ありません」と最初は語ろうとしなかったが、遅刻やささいなミスが増えている事実を上司が数字で示したところ、ようやくぽつぽつと語り始めた。5月中旬以降、Bさんの睡眠時間は3時間程度になり、ここ数日は「チームに迷惑をかけている」「消えた方がいいのではないか」と自責感が強まっていることがわかった。このため上司から休職を勧められた。

上記のケースは、3-40代のベテラン社員で、気力、体力、仕事をこなす能力が人並み以上にある方が多いです。そのうえで、もともと断るのが苦手で仕事を引き受けすぎてしまう、完璧主義で適度に手を抜くことができないなどの特徴をお持ちの場合、発症リスクが高まります。タイミングとしては異動だけでなく、仕事に慣れて周囲から任される仕事量が急激に増えた時、部下を持つようになったがその部下をうまく使いこなせない時にも発症しやすくなります。また、実際に症状が出始めても「自分がメンタル不調になるはずがない」と否認してしまい、周囲の人達からも気づかれないまま進行し、重症化してしまうパターンがみられるため、注意が必要です。

適応障害の進行を防ぐ3つのポイント

適応障害に進行することを食い止めるうえで重要なことは、①周囲の人(同僚や上司)が当事者の変化に早く気付くこと、②速やかに負荷を減らすこと、③早く精神科などの専門家につなげることの3つになります。がむしゃらに仕事をしている人を前に「お、頑張っているねえ」と思うのではなく「無理していないか?」「なんでこの人だけ忙しそうにしているんだ?」という視点を持つことが重要になります。

変化に気づく

急にミスが増えた、遅刻が増えた、仕事のスピードが落ちた、怒りっぽくなったなどの変化がみられた場合、適応障害に進行する前段階かもしれません。周囲の人は当事者の変化に気づいた場合、いつからどんな変化が生じており、その頻度がどうなっているのか、仕事にどのような支障が生じているのか、よく観察する必要があります。
記録などを残しておくのも有効です。変化するスピードや症状の程度から緊急性の高さを評価することが可能になります。本人に対して「産業医や外部の医療機関に相談した方が良いと思う」という説得材料にもなりますし、外部医療機関宛ての情報提供書を作成する際にも、記録は重要な情報になります。

話を聞く

部下の変化に気づいた場合、そして運よく部下の方から相談を持ち掛けてきた場合、まずはしっかり思いを聞くようにしましょう。その際には30~40分ほどのまとまった時間を取り、プライバシーに配慮した個室などを用意するのが望ましいでしょう。

業務を配慮する

まずは当事者が今抱えている仕事の種類、量、締め切りなどについて整理していきます。特にどんな内容のタスクを加えてから症状が出現したのか?それがどう負荷になっているのか、確認することが重要です。始業前と就業前に15分ずつ時間を確保し、タスクの進捗具合を客観的にチェックするのも有効でしょう。当事者一人では気づかない苦手なタスクが見えてくることがあります。可能であれば、部署全体の進捗状況も把握したいところです。仕事の偏りを知ることができれば、発症リスクの高い人物を発見できますし、仕事を均等に分配しやすくなります。

・事業所内保健スタッフに繋げる
特に、Bさんのような方の場合、職場の関係者が話を聞こうとしても遠慮してしまい、自分が病気であるという認識が乏しいために面談を拒否することがあります。その場合は「僕が代わりに相談しようと思うんだけれどもいいだろうか」と本人に確認し、許可を得たうえで産業医に相談するのも一手です。
また、話はしてもいいけれども「会社の関係者には一切知られたくない」という方もいます。その場合は外部の医療機関に繋げる必要も出てくるでしょう。産業医に相談していただければ、適切な医療機関を選定するお手伝いも可能ですし、産業医が選任されていない50人未満の事業所では、産業保健総合支援センターに相談するのも有効です。

適応障害はいかに早く気づき、進行を食い止めるかが要になります。同僚にいつもとちょっと違う「変化」が見られたら、お気軽に我々産業保健職にご相談ください。

<参考資料>
・岡田 尊司:ストレスと適応障害 つらい時期を乗り越える技術.幻冬舎新書,2013
・厚生労働省:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~
こころの健康、気づきのヒント集
・厚生労働省:15分でわかるラインによるケア
産業保健総合支援センター

岸本 雄 (きしもと ゆう)

産業医・精神科医

宮崎大学医学部医学科卒業。東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科医局に所属。同大学や都立松沢病院、東京警察病院にて精神科急性期、緩和ケア、精神障がい者の復職・就労支援に従事。現在は労災指定病院である多摩済生病院およびVISION PARTNERメンタルクリニック四谷にて、精神科慢性期、ビジネスパーソンの精神的ケアに従事している。

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