
#php if (is_mobile()) : ?> #php else : ?> #php endif; ?>
「安全配慮義務」という言葉はご存知でしょうか。会社として労働者の命や安全に配慮しなければいけない義務です。
人事総務の担当の方や管理職ならば必須の知識ではありますが、詳しく知っている方はあまり多くないのではないでしょうか。知らぬ間に安全配慮義務違反で損害賠償を求められてしまうことにならないために、ポイントをわかりやすく解説していきます。
安全配慮義務は、民法の基本的な原則から発展してきた義務です。権利の行使や義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければなりません。
会社が自分の事業のために労働者に働いてもらっている以上は、「賃金さえ払えばこき使ってよい。」などという理屈は通りません。快適な職場環境でしっかり働いてもらい、安全と健康を確保できるように配慮しなければならないのです。
以下、根拠条文でも明確に示されておりますので、ぜひ一度目を通しておくと良いでしょう。(使用者・事業者という言葉は、会社やその管理者等を指します。)
1.民法第1条第2項
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
2.労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
3.労働安全衛生法第3条第1項(事業者等の責務)
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。
会社は労働者の生命身体等の安全を確保するためにちゃんと対応しなければいけません。「結果として労働者にケガや病気がなければそれで良い」といった軽い義務ではないのです。
労働者がケガや病気にならないよう、快適な職場環境が保たれるよう最善の努力をしなさい、という意味です。義務の範囲はとても広いものです。しかし、良識のある経営者ならば、当然のことだとご理解いただける内容だと思います。
「労働者の安全に配慮する」というときの「労働者」とは誰でしょうか。
自分の会社の労働者だけでなく、会社のために働いてもらっている外部の方の安全も配慮しなければなりません。例えば次のような方も安全配慮義務の対象となります。
これらの方々は会社とは直接の労働契約はありません。
しかし、会社指揮命令や管理監督のもとで働いてもらっているので、会社は安全配慮義務を負うべきだ、と考えられています。
安全配慮義務は労働災害などの事故や災害の防止、職業病等の防止などが元々の内容でした。
その後、過重労働防止対策として、健康診断や労働時間管理をしっかりして労働者の健康に配慮する、という義務も含まれるようになります。これは「健康配慮義務」と呼ばれます。
また、いじめなどによるうつ病や自殺などが深刻化する中で、いじめ防止対策(ハラスメント対策)も会社の義務とされました。職場の環境をちゃんと整えなさい、という義務であり「職場環境配慮義務」と呼ばれます。
それではどんな場合が安全配慮義務違反になるのでしょうか。
会社がするべき事をしなかった、という事です。
例えば、労働安全衛生法など各種法令・細則・指針などで定められた会社の義務を果たさなかった、というのが典型的な例です。
今一番の話題は新型コロナウイルス感染症対策でしょう。厚生労働省などから様々な注意が出されています。会社が従わなければ、義務違反といわれかねません。
人事労務担当者は最新の情報をしっかりチェックする必要があります。
会社の義務違反が原因でケガをしたとか病気になったという因果関係が必要です。
「長時間労働で心臓疾患を発症した。会社が労働時間管理をちゃんとしていなかったからだ。」という事例を考えましょう。
ただし、会社に労働時間管理がずさんという義務違反があっても、労働者の連日の深酒が原因で心臓疾患を起こしたなら、それは会社の責任とは言えません。
会社がケガや病気などを予想できなかったなら、会社に安全配慮義務違反はないと考えられます。しかし、これは容易には認められません。
例えば、うつ病で、労働者が自殺した場合に、会社として「うつ病で自殺するとは思わなかった。」「予見可能性はなかった。」等といえるでしょうか。
うつ病などの精神障害を発症していれば自殺の可能性が高いことは医学的にも明らかです。予見可能性がなかったという主張がそのまま通ることは難しいでしょう。
会社の側に安全配慮義務違反があっても労働者の側に過失があったり、要因があったりすれば、会社の損害賠償額などが減額されることがあります。
システムエンジニアが過重労働のために脳疾患で死亡してしまった事例では、労働者に重度の高血圧があり、健康診断で精密検査を受けるように指示されていたのに受診しなかったので、「労働者の側にも過失があった」として損害賠償額を5割減額されました。
いくつか具体的な事例を検討してみましょう。
事故・災害型では以下が安全配慮義務の範囲となります。
車両が事故を起こして同乗者が死亡した事案では、会社に次の義務があるとされました。
職業病型では、安全配慮義務として、有害物質排出抑制、衛生設備設置、保護具装着、安全教育、健康診断など様々な義務を課しています。
最近大きく問題になったのが石綿被害では、会社の義務は次のようなものとされています。
なお、新型コロナウイルス感染症も職業病型の労働災害になりえます。
詳しくは後述します。
過重労働による脳心臓疾患、精神障害、自殺が深刻な問題になっています。
会社は労働者が過重労働で心身の健康を損なわないようにする「健康配慮義務」を負っています。具体的内容は次の通りです。
なお、労働者が仕事の遂行や労働時間配分について裁量を有している場合でも、労働者だけの判断に任せるのでなく会社として注意すべきことがあります。そうでないと、過重労働を解消していくことは難しいでしょう。
例えば次のような事例です。
いじめ、嫌がらせ、ハラスメントなどは、労働者の人格的利益(人格権)を侵害し、働きやすい職場環境を整える義務を損なうものです。安全配慮義務のうちの「職場環境配慮義務」に違反する、といわれています。
会社としては、事実の有無をしっかり調査して、いじめ防止や配置転換などといった適切な措置を講ずる義務があります。
上司同僚によるいじめ・嫌がらせで労働者がうつ病になり自殺した事案では、会社が十分な予防措置などを取らなかったとして、安全配慮義務(職場環境配慮義務)違反が認定されたものがあります。
直接の労働契約などの関係がない労働者に対しても会社には安全配慮義務があります。
例えば次のような事例です。
【例】
- シルバー人材センターとその高齢者会員、工務店と1人親方(労働者ではなく仕事を請け負って働く大工さんなど)
- 大学病院と無報酬のインターン大学院生
企業が安全配慮義務を果たすには、何をすればよいでしょうか。ポイントを解説します。
まずは、安全衛生の管理体制を整えないといけません。
(より詳細な内容については、厚生労働省の安全衛生に関するQ&Aを参照ください。)
常時使用している労働者の数と業種により「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「安全衛生推進者」などを選任します。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、各事業場ごとに産業医を選任する必要があります。
産業医の職務は次の通りです。
安全衛生管理の様々な項目に対応するものであり、産業医の重要性をご理解いただけると思います。
これらの職務のうち、最近重視されているものが次の通りです。
面接指導
長時間労働をする労働者について面接指導が義務づけられています。その結果に基づいて会社は労働者の健康保持のための措置について産業医の意見を聞かなければなりません(労働安全衛生法第66条の8)。
ストレスチェック
労働者と心理的な負担の程度を把握するための検査実施です。労働者50人以上の事業者について必須の義務になっています。
これらは概ね特定の業種についての規制ですが、該当する業種の方は規制内容をしっかり把握しておきましょう。
労働者も会社の安全衛生措置を守らなければいけないという義務があります(自己保険義務)。
請負関係の場合には、請負業者や注文者の義務なども定められています。
業種に限らず、守るべき措置として次のようなものがあります。
労働者を雇い入れたり、新しい仕事に就かせたり、一定の危険有害業務に従事させるためには安全衛生教育を実施しなければなりません。
最近では、特に第3次産業で転倒事故などが深刻化しています。これまで労働災害や安全衛生にそれほど関心がなかった業種です。
非正規の社員など不慣れな人の増加、さらに、高齢者の就業が進んできたことから、思いがけない事故が増加しています。安全衛生教育は会社の義務です。以下を参考に取り組んでみてください。
【参考サイト】
厚生労働省:職場のあんぜんサイト
厚生労働省:労働災害事例(重大事故が多数紹介され、克明な原因分析が大変参考になります。)
厚生労働省:ヒヤリハット事例(身近な事例が沢山紹介されています。)
東京労働局:職場の転倒災害を防ぎましょう!
これまで危険業種では作業環境整備が進んできたと思われますが、第3次産業でも、整理整頓、転倒防止といった細かな作業環境の整備は必須です。
会社は労働者に健康診断を実施しなければなりません。労働者にも受診義務があります。
会社は、労働者に異常の所見があれば産業医等の意見も参考に、就業場所の変更や、作業負荷の軽減、作業環境チェックなどを行う必要があります。
一方で労働者側も医師などの保健指導を受けなければいけません。
前述の通り、異常所見のある労働者が再検査を受けずに疾病・死亡などに至った場合、会社の損害賠償義務について過失相殺などの軽減が図られることがあります。
時間外・休日労働が月80時間を超えて疲労がたまっているとみられる労働者には、医師による面接指導を行わなければなりません。
その前提として、会社ではすべての労働者の労働時間の状況を把握することが義務づけられています。管理監督者とか裁量労働制の適用者も対象です。
医師の面接指導に基づいて労働者の健康確保のために必要な措置をするときにも、医師の意見を聞く必要があります。必要に応じて就業場所の変更、作業転換、労働時間短縮、深夜業減少などの措置を取らなければなりません。
会社は労働者に対して「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」すなわち「職場環境配慮義務」を負っています。
労働者への啓発や研修の実施、会社としてハラスメントは許さないという方針を明示する、適切な相談体制、ハラスメント発生時の事後の迅速かつ適切な対応などが義務付けられています。
このような義務を十分に果たさずにハラスメントが発生すれば、安全配慮義務が厳しく問われることになります。
【関連記事】パワハラ防止法遂に施行!人事労務担当者が今取り組むべき対策と定義を徹底解説
「自然災害は企業と関係ない、そこまで面倒は見切れない。」と思っていませんか。自然災害においても、企業は従業員への安全配慮義務を持っています。
裁判例などでは従業員の生命・身体を守るため次のような義務があるとされています(以下は一例です)。「想定外」という言い訳は許されないと考えておきましょう。
1.行動指針の策定
自然災害時に労働者の生命身体を守るための行動指針を策定しておかなければならない。
2.防災マニュアル等の策定周知・避難訓練などの実施
3.現場責任者が被災した場合の対応を行動計画で明確にしておく。
4.停電や通信途絶などを想定した代替策、予備対策等の策定・準備
5.職員の安否確認の方法の明確化と徹底
6.過去の被災事例などを元にした検討の徹底
伝染病などの感染症は、業務に起因して発症した場合は労働災害と認められます。
「新型コロナウイルス感染症」も、業務起因性が認められれば労災保険給付の対象になります。しかも新型コロナウイルスは症状がなくても感染する、という特性があります。
厚生労働省では、労災に該当するかどうかは、当分の間は本省と相談して慎重に決定するように指示しています。
例えば、複数の感染者が出た職場に勤務していたとか、顧客との接触が多い職場(小売店、バス・タクシー等の運送業務、育児サービス業務等)なら、感染の蓋然性が高いことを考慮することになっています。
安直に「感染経路不明だから業務起因性がない」などと決め付けないように注意喚起されています。
会社としても新型コロナウイルスが普通の感染症よりもはるかに恐ろしいことをよく考えて、安全配慮義務を尽くす必要があります。
例えば、職場環境で避けられる限り3密をさける、時差通勤やテレワークを認める、出張の削減などできることをしっかりやっておく必要があります。
顧客との接触が多い職場なら、レジに透明シールを設けたり、混雑時の来店を避けるよう顧客に呼びかけたりされています。
そのような対応が不十分なままで感染者が出たときには、「予見可能性がなかった」などとはとても言えないでしょう。
なお、自社の従業員だけではありません。業務上接触する人であれば、下請従業員や派遣労働者なども当然に安全配慮義務の対象となります。
会社として安全配慮義務を十分尽くしたつもりなのに、自社の労働者や下請労働者派遣労働者など関係のある人から安全配慮義務違反を訴えられたら、どうすればよいでしょうか。
概ね次のような手順で対応することになります。
1.社内調査により十分な事実確認をおこなう。
前述「安全配慮義務違反になるかどうかのポイント」を確認していくことになります。
2.安全配慮義務違反があれば休業補償などの対応を行う。
3.労災保険の対応
労働災害に該当する場合には会社としても労災保険の認定請求をサポートすべきでしょう。労災保険の給付の認定を得られれば、その限りで会社は責任を免れます。
4.民事訴訟の対応
労災保険の給付は定率定額のものであり、労働者からそれを超える慰謝料や損害賠償を求められれば、民事訴訟で争うこともありえます(労災民訴)。労働者側の落ち度があれば過失相殺などで減額交渉を試みることになるでしょう。
なお、労災保険法の給付に関しては、労働者の過失による減額はありません。
労働の現場で労働者はリスクを負って仕事をしています。万一の労働災害のときには、過失の有無を考慮せずに労災保険で定められた定率定額の給付を行うことになっています。
安全配慮義務についてイメージを掴んでいただけたでしょうか。
会社の事業に尽くしてくれる人を大切にしなければならない、という当たり前のことを「安全配慮義務」という名前で纏めているのだとお考えください。
健康で生き生きと働ける職場を作ることが経営者に求められています。そのような職場でこそ、労働者は活力に満ち生産性を向上させ、イノベーションに溢れる職場を作っていくでしょう。
従業員数が50名を超えた事業場には、労働法令によって4つの義務が課せられています。
「そろそろ従業員が50名を超えそうだけど何から手をつければいいんだろう」「労基署から勧告を受けてしまった」。従業員規模の拡大に伴い、企業の人事労務担当者はそんな悩みを抱えている人も少なくありません。
本資料ではそのようなケースにおいて人事労務担当者が知っておくべき健康労務上の義務と押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。
産業医の選任など、産業保健関連の法定義務が一目でわかるチェックシートです。
最近では、労基署から指摘を受けた企業担当者からの相談も少なくありません。働き方改革を推進する観点から、国では今後も法定義務が遵守されているかの確認を強化していくと思われるため、定期的に自社の状況を確認することをお勧めします。