1. トップページ
  2. 健康経営コラム
  3. 【産業医が解説】自社に適したストレスチェック調査票は? 23項目・57項目・80項目版の違い

【産業医が解説】自社に適したストレスチェック調査票は? 23項目・57項目・80項目版の違い

ストレスチェックを行う上で、どの調査票を使うのかも重要と言えます。一般的な57項目版だけでなく、23項目・80項目もあり、それぞれに特徴があるためです。この記事では、それぞれの調査票の特徴、どのような企業・事業場が使用するのに適しているのかについて産業医・労働衛生コンサルタントの三橋利晴先生に解説していただきました。

ストレスチェックとは

ストレスチェックとは、ストレスに関する調査票の回答内容から、労働者自身が普段の業務の中で感じているストレスの状態を客観的に調べるための簡易な検査です。
この結果に応じて、セルフケア・自己管理に繋げたり、職場で必要に応じた措置を行ったりすることで、ストレスが体調に与える悪影響を予防することを目的としています。ストレスチェックを実施することが、近年増加傾向にある「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための一助になると言えます。
2015年12月に労働安全衛生法が改正され、ストレスチェックを毎年1回は実施することが常時50人以上の従業員を使用する事業場に義務づけられました。なお、50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施は努力義務となっています。

ストレスチェックで必ず確認する項目とは?

ストレスチェック実施のために調査票を企業・事業場で用意する必要があります。法令では、質問内容や個数など具体的な様式について指定がありませんが、いくつかの条件があります。まずは、その内容を確認したいと思います。

ストレスチェック調査票には、労働安全衛生規則(第52条の9)によって規定されている必須領域が3領域あります。まず、業務の多さ・難しさなどの「ストレスの原因に関する質問項目」、次に倦怠感などの「ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目」、そしてストレス軽減要因とも言える「労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目」です。
しかし、3領域が揃って入ればそれで良いというわけでもありません。ストレスチェックには、含めるべきでない項目があります。ここでは2点を紹介します。

まず、「性格検査」「適性検査」については含めるべきではありません。ストレスチェックの趣旨から外れますし、人事評価に影響すると懸念しますと、ストレスチェック自体を受検しない者が増えてしまいかねません。また、「希死念慮」「自傷行為」についても含めるべきではありません。これらは、背景情報を含めて評価する必要があります。ストレスチェック実施者が、労働者の希死念慮や自傷行為という情報を知ってしまった以上は、ストレスチェック実施者は自らの心に留めるのではなく、労働者の安全を確保するために何らかの対応を取る必要があります。具体的な対応をとることができないのであれば、知るべきではない情報です。ただし、希死念慮や自傷行為などの重篤な疾患が懸念されるような場合に、どこに相談するべきかを情報提供することは必要です。

ストレスチェック調査票に含むべき項目には前述した条件がありますが、厚生労働省のホームページではこれらの3領域が揃った調査票を配布しています。推奨しているのは57項目版の調査票ですが、その他に簡略化した23項目版と、さらに詳細にストレスプロフィールを評価する80項目版があります。次の段落でそれぞれについて紹介していきます。

ストレスチェック57項目版の特徴

【57項目版のメリット・デメリット】
◎ 回答の所要時間が5~10分程度で、回答が集まりやすい
◎ 労働者個人のストレス状況について把握できる
△ 職場への評価項目がなく、職場環境に対するストレスが把握できない

【57項目版の使用が向いている企業・事業場】
・新規にストレスチェックを始める企業・事業場
・統計情報を用いて、同業他社との比較を行いたいと考えている企業・事業場
・各種分析ツールを活用したい企業・事業場

ストレスチェックの調査票のうち57項目版は、オーソドックスな調査票であり、厚生労働省も推奨しています。

57項目版の調査票は、回答の所要時間が5~10分程度で、23項目版や80項目版の調査票の中間に位置しています。80項目版と比べると職場への評価は少なく、労働者個人のストレス状況を把握する項目に限定されています。一方で、23項目版に比べると、ストレスの状況についてより詳細な情報がわかるように構成されています。また、厚生労働省が推奨しているため、多くの企業・事業所が利用している特徴があります。

この57項目版の調査票の利用が勧められる企業・事業者としては、次の3点が挙げられます。オーソドックスな調査票ですので、新規にストレスチェックを始める企業が利用するのに良いでしょう。次に、57項目版は採用している企業も多く、統計情報が揃っています。そのため、同業他社との比較を行いたい企業・事業場での利用が勧められます。また、厚生労働省が推奨している事もあり、厚生労働省・労働衛生サポート企業・大学などで分析ツールやWebシステムがありますので、それらを使いたい企業・事業場にも勧められる選択肢です。

ストレスチェック23項目版の特徴

【23項目版のメリット・デメリット】
◎ 質問数が少なく、回答してもらいやすい
△ 質問項目が簡易的なため、労働者個人のストレスが十分に把握できない

【23項目版の使用が向いている企業・事業場】
・ストレスチェックをまずは試してみたい企業・事業場
・職場改善施策の効果検証として活用したいと考えている企業・事業場

23項目版の調査票は、厚生労働省が推奨している57項目版から一部の項目を省略した調査票です。例えば、57項目版では周囲のサポートについて「上司」「同僚」「配偶者、家族、友人等」の3つの項目がありますが、23項目版では周囲のサポートは「上司」「同僚」の2項目に省略されています。

23項目版の調査票は、57項目版や80項目版と比較しますと、設問数が少なくなっていますので、所要回答時間は5分程度と短く済みます。そのため、労働者に回答してもらいやすい特徴がありますが、労働者個人のストレスに関する情報が不十分になってしまいます。

この調査票は、項目数が多いと回答率が下がると心配している企業や、ストレスチェック制度が努力義務である従業員50人未満の企業や事業場でお試しとして利用する場合に良いでしょう。
また、法的な義務としてストレスチェックを実施するのではなく、職場改善施策の効果をA/Bテストで検討するような場合にも利用しやすい調査票になっています。
A/Bテストの評価では、対象施策に関する質問票を回答してもらうだけでなく、短時間で回答できる23項目版も追加で回答してもらうことで、対象施策のストレスへの影響が評価できます。このような使い方をする場合に57項目版や80項目版を使用すると質問量が多くなり、回答率が下がってしまいますので、23項目版が使いやすい場面です。

ストレスチェック80項目版の特徴

【80項目版のメリット・デメリット】
◎ 労働者個人のストレスだけでなく、人事評価に対する項目もある
◎ 集団分析をすることで、得られる情報が充実している
△ 質問数が多いため、回答に時間がかかる
△ 集団分析を自社で行う必要がある

【80項目版の使用が向いている企業】
・ストレスチェックで得られた情報を自社で集計・分析できる企業・事業場
・従業員のメンタルヘルス、職場環境を向上させたいと考える企業・事業場

調査票のうち80項目版は「新職業性ストレス簡易調査票」とも呼ばれています。57項目版や23項目版では、労働者個人に関する質問内容だったのに対し、80項目版では、働きがい(ワークエンゲージメント)やハラスメント、上司のマネジメント、人事評価に関する項目が追加されています。例えば、追加された質問として「経営層からの情報は信頼できる」や「職場や仕事で変化があるときには、従業員の意見が聞かれている」といった項目があります。
80項目版の内容構成としては「57項目版+新版推奨尺度セット短縮版(23項目)」となっています。80項目版よりも更に多い120項目版「57項目版+新版推奨尺度セット標準版(63項目)」もありますが、法律の義務としてのストレスチェックでは120項目版はあまり使われていないようです。

この調査票は、設問数が多いため、回答の所要時間が10~15分と長くなっています。その代わり、職場環境について直接質問する項目が充実していますので、集団分析によって得られる情報が多いことが特徴です。ただし、調査票の開発元である研究班では、無償での技術的サポートは提供していませんので、集団分析を適切に行うために困難な場合もあることに注意が必要です。
80項目版の利用に向いている企業・事業所は、80項目版の多岐にわたる情報を集計・分析できる企業・事業場や職場環境を心の健康を向上させるために変えていく余力がある企業・事業場になります。

自社に合わせた調査票の選び方

「57項目版」「23項目版」「80項目版」のどれを選ぶためのチェックポイントとして、次の3点があります。

  1. どの程度詳細なストレス状態を把握したいか
  2. 項目数(項目数が多いと回答割合が下がってしまうため)
  3. 得た情報から職場改善などのストレス対策をどのくらい行えるのか

57項目版と23項目版では、労働者個人のストレス状況(ストレス反応、ストレス要因、サポート状況)を質問しています。つまり、高ストレス者の割合や面接指導した高ストレス者のストレス状況を把握することができます。ストレスを抱える個人にどのように対応するのかを悩んでいる企業では、57項目版または23項目版の調査票を用いることをお勧めします。詳細な情報が必要であれば57項目版を、回答率を重視するのであれば23項目版を選ぶと良いでしょう。

80項目版は労働者個人の状況に加えて、職場や企業全体の状況も質問していますので、働きやすい職場作りを阻害する要因を発見することができます。職場環境に悩みを抱えている場合には、80項目版(あるいは120項目版)を用いた評価を行うと良いでしょう。

どの調査票を用いるにせよ、実施後の対応をどのように行うのか、あるいは、行うことができるのか、についてよく考えることも必要です。例えば、80項目版の調査票でストレスチェックを実施したとしても、その後の職場環境改善・職場作りに活かせないならば、57項目でも良いのではないでしょうか。57項目版の方が回答率も高くなりやすく、高ストレス者をより広く捉えることができるためです。

ストレスチェック後は、必要に応じた措置を

ストレスチェックを実施した後には、いくつかの法的な義務があります。まず、「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を用いて、ストレスチェック実施について労働基準監督署に報告することが必要です。次に、高ストレスと判定された労働者からの面談指導の申し出があった場合、医師による面接指導を実施しなければなりません。さらに、面接指導を踏まえ、必要に応じた就業上の措置を行うことも必要になります。また、努力義務ですが、集団分析の実施も法的に定められています。
ここでは、医師による面接指導やその後の就業上の措置について紹介します。

医師による面接指導の実施

「高ストレス」という結果を受けた労働者が面接指導を希望する場合、申し出から1ヶ月以内に医師による面接指導を実施しなければなりません。そのため、この面接指導は、本人が面接指導を希望しない場合は実施されません。注意点として、ストレスチェックの結果は、通常は事業者へは伝えられない点があります。しかし、面接指導を受ける場合には、結果を事業者に提供する必要があります。そのため、面接指導を受ける労働者に対して、「ストレスチェックの結果を事業者に提供すること」に関して同意を受けておく必要があります。

面接指導を実施する目的は、大きくわけて2点あります。1つは、医師が従業員のストレス状況をより詳細に評価し、セルフケアについてアドバイスをするためです。もう1つは、企業・事業場の目的になりますが、メンタルヘルス不調やメンタルヘルス疾患のリスクを評価し、事業場内で適切な対応を行うために医師の意見を聴取することです。面接指導は多くの場合で産業医が実施します。産業医は面接中にストレスチェックの回答内容をより詳細に聴取します。その内容から、労働者を取り巻く職場環境に問題がないか、うつ病や適応障害などのメンタルヘルス疾患と診断できる状態に陥っていないか、などを確認していきます。

必要に応じた就業上の措置

医師による面接指導後に、企業・事業場側は医師からの報告・意見を聴取します。そして、医師の意見を踏まえ、必要に応じた就業上の措置を実施することが必要です。

就業上の措置の内容を決める際に、いくつか注意点があります。
まず、医師の意見を踏まえながらも関係者(職場の上司等)とも検討する必要があります。これは、医師の意見が職場で実施不可能な措置だった場合、改めて現実可能な措置を検討するためです。また、予め措置の範囲を提示しておくことを安全衛生委員会で検討するのも良いでしょう。
次に、措置の内容が高ストレス者に特別に有利あるいは不利な扱いにならないように注意する必要があります。特定の労働者に有利な扱いが継続すると、他の労働者がカバーする状況が長期化してしまいます。周囲の労働者のストレス状況が悪化するなどの影響も考慮した上で、措置を検討することが必要です。

【無料でダウンロードできる】ストレスチェック調査票

集団分析レポートなどの分析は一般に有料ですが、ストレスチェックに必要な調査票自体は、いずれも無料で利用できます。下記にダウンロード可能なサイトを紹介します。

ストレスチェック調査票 23項目・57項目

厚生労働省が推奨している57項目版の調査票と簡略版である23項目版の調査票は、厚生労働省のホームページからダウンロードできます。
このサイトでは、調査票自体だけでなく、ストレスチェック制度に関する説明文書や掲示用ポスターなどもあります。他の調査票を用いる場合でも役に立つ情報がありますので、是非チェックしてみてください。

ダウンロード可能サイト:https://stresscheck.mhlw.go.jp/material.html

ストレスチェック調査票 80項目・120項目

「新職業性ストレス簡易調査票」とも呼ばれる80項目版の調査票、および、完全版である120項目版の調査票は東京大学の川上先生のサイトからダウンロード可能です。このサイトでは80項目版の開発経緯や使用上の注意などの情報もありますので、80項目版を利用する際には、是非活用してください。

ダウンロード可能サイト:https://mental.m.u-tokyo.ac.jp/jstress/

ストレスチェック調査票 外国語版

昨今では、海外からの労働者も多くなっています。そういった労働者にもストレスチェックを受けてもらうために、外国語版の調査票も存在しています。いずれも57項目版ですが、英語版が厚生労働省のホームページから、中国語、ベトナム語、ポルトガル語が静岡労働局のホームページからダウンロードできます。また、研究報告書の別紙という形ですが、その他の言語での利用も可能になっています。
ただし、いずれも一般的な57項目の翻訳のみですので、海外から日本にきたことに起因するストレス(生活習慣の違いなど)は、調査票に含まれていないことに注意が必要です。

 

・英語:https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/dl/stress-check_e.pdf

・静岡労働局(英語・中国語・ベトナム語・ポルトガル語):https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/anzen_eisei/hourei_seido/_120099.html

・研究班報告書(ペルシャ語・ポルトガル語・ミャンマー語・ベトナム語・スペイン語・タガログ語・インドネシア語):https://www.mhlw.go.jp/content/000615114.pdf

 

まとめ

ストレスチェックの実施に必要な調査票には、57項目版・23項目版・80項目版という3種の調査票があります。それぞれの特性がありますので、自社にとって最適なものを選ぶようにしましょう。ストレスチェック実施後に、高ストレスと判定され、面接指導を希望した労働者に対しては、医師による面接指導を行い、必要に応じて就業上の措置を検討することとなります。ストレスチェック制度を効果的に運用するためには、産業医学について専門的な知識をもった産業医を上手く活用することが重要です。

三橋 利晴 (みつはし としはる)

産業医・労働衛生コンサルタント

岡山大学にて産業衛生・疫学・予防医学の実務や研究を行う。 平行して2008年からは嘱託産業医として様々な業種の事業所を担当。 大学病院では疫学や研究倫理の観点から院内の臨床研究支援を行う。

おすすめのお役立ち資料

  • 従業員50名以上の事業場に求められる健康労務上の4つの義務

    従業員数が50名を超えた事業場には、労働法令によって4つの義務が課せられています。 「そろそろ従業員が50名を超えそうだけど何から手をつければいいんだろう」「労基署から勧告を受けてしまった」。従業員規模の拡大に伴い、企業の人事労務担当者はそんな悩みを抱えている人も少なくありません。 本資料ではそのようなケースにおいて人事労務担当者が知っておくべき健康労務上の義務と押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。

  • 一目でわかる!人事労務担当が産業保健で法令違反しないためのチェックシート 

    産業医の選任など、産業保健関連の法定義務が一目でわかるチェックシートです。 最近では、労基署から指摘を受けた企業担当者からの相談も少なくありません。働き方改革を推進する観点から、国では今後も法定義務が遵守されているかの確認を強化していくと思われるため、定期的に自社の状況を確認することをお勧めします。

産業医紹介サービスのご案内

  • 50人以上の事業場向け

    50人以上の事業場向け

    嘱託産業医
    紹介サービス

    勤務頻度

    2か月に1回 または
    1か月に1回

    詳しく見る
  • 1,000人以上の事業場向け
    ※有害業務従事の場合は500人以上

    1,000人以上の事業場向け ※有害業務従事の場合は500人以上

    専属産業医
    紹介サービス

    勤務頻度

    常勤

    詳しく見る
  • 単発の面談が必要な事業場向け

    単発の面談が必要な
    事業場向け

    スポット産業医
    サービス

    勤務頻度

    単発

    詳しく見る

お電話でのお問い合わせ 03-6895-1762

受付時間:土日祝を除く10:00〜19:00

紹介会社
比較表付き!

5分でわかる!産業医サービス紹介パンフレット

エムスリーキャリアが提供する産業医紹介サービスについて分かりやすく1冊にまとめたパンフレットです。
従業員規模やお悩み別におすすめの産業医サービスがひと目でわかります。

資料請求する
  • お見積り・お問い合わせ

    サービスに関するご質問や相談等がございましたら、ご遠慮なくお気軽にお問い合わせください。

    お問い合わせ
  • お役立ち資料

    人事労務担当者が抑えておくべき産業保健に関するノウハウや、産業医紹介サービスの概要資料を無料でご覧いただけます。

    ダウンロードはこちら
  • サービス説明会

    20分でわかる!M3Careerの産業医サービスオンライン説明会
    日時 平日2回(10:00〜/14:00〜)

    参加申し込みはこちら