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産業医とは?企業での役割、病院の医師との違いを解説

三橋 利晴 (みつはし としはる)

産業医・労働衛生コンサルタント

岡山大学にて産業衛生・疫学・予防医学の実務や研究を行う。 平行して2008年からは嘱託産業医として様々な業種の事業所を担当。 大学病院では疫学や研究倫理の観点から院内の臨床研究支援を行う。

一定規模以上の事業場には産業医を選任することが義務付けられています。しかし、産業医とは職場で何をしてくれる人なのか曖昧になっているかもしれません。また、何を相談したら良いのか?何を相談できるのか?について、わからないこともあると思います。ここでは、産業医の役割や相談できること、病院やクリニック勤務の医師との違いについて説明します。

産業医とは?

産業医とは、職場において従業員の安全や健康を守るための医師です。そのため、同じ医師でも、病院やクリニックで患者の病気を診断・治療する医師とは職務が異なります。
産業医には、従業員が安全かつ健康に働くことができる職場環境となるように、専門的観点から指導や助言を行う役割があります。この役割を担うために、従業員の健康情報などを取得する必要があります。そのため、産業医には守秘義務が課せられているのです(労働安全衛生法第105条、刑法134条第1項)。

なお、厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、全国の届出「医師数」は339,623人となっています。「医師会が関わる産業保健の現状」によると、2022年10月時点の認定産業医有効者数は70,208人です。そのうち、産業医として活動している人の割合が48.7%、活動していない人が51.3%となっており、産業医として活動しているのは医師全体の10%弱、およそ33,600人というのが現状です。

参考:厚生労働省「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」
「医師会が関わる産業保健の現状」

産業医の要件

産業医は医師免許を有していることを前提に、厚生労働省令で定める要件を備えている者である必要があります。具体的には、労働安全衛生規則第14条第2項により以下のように定められています。

  1. ① 労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する法人が行うものを修了した者
  2. ② 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
  3. ③ 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
  4. ④ 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授または講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、またはあった者
  5. ⑤ このほか、厚生労働大臣が定める者

参考:厚生労働省「産業医の関係法令」

産業医と一般的な医師の違い

産業医には、事業場で従業員の安全や健康管理を行うための専門性が必要です。医師であることに加えて、産業医学の専門知識について一定の要件を満たしていることが必要です。また、産業医は病院やクリニックに勤務する医師(臨床医)とは役割が異なります。具体的には、産業医は従業員を対象に健康に働けるか/働けないかを判断、臨床医は患者を対象に病気の治療・診断をする点です。詳しくは、以下の表をご参照ください。

産業医 臨床医
活動する場所 企業などの事業場 病院・クリニック・診療所
契約する相手 事業者 患者
活動の対象 従業員 患者
活動の目的 事業場の安全と健康の保持・増進 検査・診断・治療
事業者への勧告権 あり なし

この表の中では、事業者への勧告権という聞き慣れない言葉が出てきます。この「勧告権」によって、職場の安全や従業員への健康影響について特に大きな問題点がある場合には、産業医は事業者に対して改善のための勧告を行うことができます(労働安全衛生法第13条)。このような事業者に対する権限も、産業医と臨床医の大きな相違点です。

注意! 産業医の兼務が禁止の場合も

産業医の要件を満たしていても、なかには産業医の兼務ができない場合があります。それは、法人代表者等を産業医に選任するケースです。これは、2017年4月1日の労働安全衛生規則の改正により禁止されています。病院やクリニックを経営する医療法人等は注意が必要です。詳しくは、以下の記事をご確認ください。

【関連記事】院長の産業医兼任が禁止に いま医療機関が検討すべき選任方法とは

産業医の主な業務内容

産業医の職務はさまざまですが、法令上、以下のように分類ができます。

【産業医の職務(安衛則第14条第1項)】

  1. ①健康診断の実施とその結果に基づく措置
  2. ②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
  3. ③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
  4. ④作業環境の維持管理
  5. ⑤作業管理
  6. ⑥上記以外の労働者の健康管理
  7. ⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
  8. ⑧衛生教育
  9. ⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

このように、産業医の業務内容は多岐にわたっています。それは、事業場ごとで業種や作業内容が異なるため、それぞれの事業場に合った産業医業務を行っているためです。
次に、多くの事業場で共通している産業医の業務内容について説明します。

健康診断の実施とその結果に基づく措置

産業医の業務として、健康診断に関することがあります。多くの事業場では、健康診断の実施自体は外部の健康診断機関に委託しています。一方で、産業医業務としては、従業員の健康診断結果に基づいて、就業上の制限などの指示や保健指導を行う業務(健康診断事後措置)があります。

長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置

長時間労働は、さまざまな健康リスクと関連しています。そのため、長時間労働対応も産業医の重要な役割です。産業医は、事業者から従業員の長時間労働に関する情報について提供を受けて、健康リスク評価や実際に面談を行います。面談では、従業員の健康リスクや就業状況などを踏まえて、健康を保持するための指導を行います。その際に必要と考えられる場合は、就業上の制限についての意見が出されることもあります。

ストレスチェック実施者、高ストレス者への面接指導・その結果に基づく措置

50人以上の従業員がいる事業場では、従業員自身が自己のストレス状態を知り、適切に対応するためにストレスチェックが義務付けられています。産業医はストレスチェックの実施者となったり、高ストレス者への面接指導を実施したりします。面談指導の結果、必要と考えられる場合は、産業医から事後措置に関する意見を出すこともあります。

職場巡視と職場環境に関する助言・指導

産業医は月1回(条件を満たした場合は2ヶ月に1回)で職場巡視を行います。職場巡視では、従業員の安全や健康を守るための確認・観察をします。もし、職場に危険や健康問題があれば、指摘したうえで解決に向けた取組について指導・助言します。

職場巡視から、安全・衛生の観点から問題があると考えられる場合には、作業環境の維持管理、作業管理の一貫として、改善のための助言・指導を実施します。

衛生委員会への出席

50人以上の従業員がいる事業場では、月1回の衛生委員会を開催することが義務づけられています。産業医が出席している際には、直近の職場巡視の状況等を報告します。また、安全や健康上について話し合われている議題に対して、産業医学の専門的観点から意見を出し、職場の改善を促します。
産業医の出席は義務ではありませんが、職場改善のための意見を直接出すためにも、可能な限り出席することが必要です。

休職・復職における面談

従業員の体調不良のため休職が妥当と考えられる状況や、休職していた従業員が回復し復職可否を判断するような状況において、産業医による面談が実施されます。面談で話し合われた内容によって、産業医という専門的な立場から休職の要否(または、復帰の可否)について意見を出します。なお、従業員の復職可否についての最終決定は事業者が行います。

健康相談・保健指導

従業員から申し出があれば、従業員自身が健康上で不安に感じていることに対する相談や、健康診断結果から必要な指導を行います。前述の通り、産業医は従業員が抱える疾患の治療はできかねます。

健康教育・衛生教育

個別の健康相談や指導だけではなく、健康を保持増進するための集合教育や、作業を安全に健康への悪影響なく実施するための教育も産業医の業務内容として行われます。このような教育は、特に健康に有害な業務(有機溶剤を用いる業務など)を行う従業員に対して行うことが重要です。

産業医に相談できること

産業医と一緒に職場の安全・健康について進めていくのは、人事労務担当者や衛生管理者などです。事業場側の担当者からスムーズに相談ができると、企業の健康経営にもプラスになります。ここでは、そのような担当者が産業医に相談したいと思っているけれど、相談してよいか不安に思っている主なことについて説明します。

健康相談

体調不良による突発的な休みが多い等、健康上の懸念がある従業員について、上司や人事労務担当の方が心配になっている(困っている)場合には、産業医に相談できます。産業医からは、体調不調者の状態や就業状況などを考慮して、必要な措置・対策について専門的な立場からの意見や指導が行われます。特に体調不調が重大な場合には、専門医への受診や休職についての意見が出されます。一方で、症状が軽症であり、環境改善で対応できるような場合には、改善のための指導が行われます。

メンタルヘルスの相談

メンタルヘルスに関する相談も、健康相談とほぼ同様です。メンタルヘルス不良による突発的な休みが多いなどの理由で、安定継続した就業に懸念がある従業員について、産業医に相談することで、必要な対応について意見・指導が行われます。特に、メンタルヘルス不調では、上司や人事担当の方が「どのように対応すれば良いか分からない(下手に触れない方が良いのでは)」と考え、部署内で抱え込むことにならないように、早期に産業医に相談した方が良いでしょう。

職場環境

騒音、空気環境などの職場環境について従業員から訴え・苦情がある際に、産業医に相談できます。客観的な情報収集のための調査や結果に基づく対応について検討したり、衛生委員会に付議したりして、具体的な対応を実施するためにも、まずは産業医に相談することが有効です。

面談を受けてくれない従業員への対応方法

何らかの理由によって産業医面談が必要と判断し、産業医に相談したにもかかわらず、従業員側が産業医面談を受けてくれない場合もあります。このような場合では、産業医だけでなく、関係者(上司、人事担当者など)も含めて相談し、対応を検討することが重要です。
従業員が産業医面談を受けたくない理由は、ケースバイケースです。そのため、一概に上手い方法があるわけではありませんが、同意を取った上で外部の関係者(従業員家族・主治医等)との情報共有、および、面談を受けないことによる不利益を説明するなどの対応を産業医に依頼することができます。

こんなとき、どうすればいい?

産業医を選任しているものの、うまく健康経営に繋がっていない事業場もあります。そのような事業場では、産業医に対してスムーズに相談できていないことも要因にあるようです。ここでは、相談を円滑に行うためにはどうすればいいか、説明していきます。

産業医訪問日以外で、相談したいことがある場合どうすればいい?

専属産業医であれば、ほぼ事業場に常駐していますので、この点が問題になることはないかと思います。一方で、嘱託産業医の場合は、「1ヶ月に○日の訪問、1回○時間」といった契約内容になっていますので、訪問日以外の日が圧倒的に多くなります。「産業医訪問日以外で相談したいこと」が想定される場合は、後々トラブルの元になる可能性がありますので、産業医との契約時に訪問日以外の対応についてあらかじめ決めておく必要があります。

まず、「ちょっとしたことを相談したいが、どのレベルだとお金が発生するのか。メールで相談していいものなのか」といった疑問もあるかと思います。この場合は、一般的にメール相談で大丈夫である旨を記載します。このような軽微な相談対応の例として、「社内書類の確認・押印をお願いしたいが、郵送してOKか?」、「復帰後の従業員の体調確認を次回訪問時に予定した方が良いか?」といったものがあります。
ただし、「ちょっとしたこと」の範囲が大きかったり、回数が多かったりすると、産業医側も負担になるため、次に示すような別対応になると考えた方がよいでしょう。

また、軽微な相談対応の範囲を超えそうな場合としては、「緊急度が高い案件が発生し、訪問日以外にオンライン含めて対面で話したいことが出てきた場合、どうすればいいのか」といった内容が考えられます。このようなメールだけで対応することが困難な場合では、追加日程での対応が必要になります。この場合の例としては「重大事故により死傷者が発生した。事故で助かった従業員がメンタルヘルスを悪くしているので、予定訪問日以外で対応をお願いしたい」という状況で面談対応するような場合です。
どのような場合であっても、産業医は契約内容を踏まえながら、できるだけ対応しますが、定期外訪問やオンラインミーティングとなると、予定調整が難しいこともあります。

 

産業医への相談ごとがあっても、なかなかできない

産業医への相談があっても、さまざまな理由によってなかなかできない、という声もあります。どのように対処していけば良いのか、相談しにくい理由を踏まえて説明していきます。

相談しにくい障壁は、事業場側の担当者が持っている不安と産業医由来のものがあります。主な理由を列挙すると、下記の①~④に大別できるかと思います。

①企業担当者が産業医に相談するのにためらいを感じている
②相談内容が産業医に答えてもらえる内容なのかわからない
③産業医の専門外の事かもしれないという不安
④産業医が乗り気ではない(いわゆる名ばかり産業医)

このなかで、事業場の担当者が持っている障壁(①~③)を払拭するためには、企業担当者と産業医とのコミュニケーションが必要です。最初の相談時には不安に思うことがあるかもしれませんが、まずは相談することで対応して貰えることが多いと気づくはずです。また、あらかじめ訪問時以外にメール相談も可能かどうかを確認しておくと良いでしょう。
一方で、産業医由来の障壁(④)については、対応が困難です。一朝一夕には対応ができませんが、定期訪問時にできるだけコミュニケーションをとり、定期外の突発事項の相談ができる繋がり・環境を(やや気長にであっても)徐々に築くことが必要です。

まとめ

産業医の業務は、病院やクリニック勤務の医師の業務と異なり、従業員の安全や健康に関するものです。産業医とうまく連携をとることで、企業の健康経営にも繋がります。「産業医に相談したいことがあるけど、こんなことを相談していいかわからない」と思わずに、まずは産業医とコミュニケーションをとって、必要に応じて相談してみると良いでしょう。
産業医と連携を図るためには、事業場担当者から相談しやすい環境を作っておくことが必要です。このような環境を作るためには、定期訪問時にコミュニケーションを取り、契約時にどのような連絡手段が可能か、また、定期外の対応はどこまで可能かについて、あらかじめ決めておくことが重要です。

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