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長時間労働者への産業医面談が必要になる基準とは?面談を実施する流れも解説

過重労働の一つとされる長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患など、脳・心臓疾患の発症と強い関連性があります。このため、長時間労働者に対して企業は、産業医(医師)による面接指導を行わなければなりません。

本記事では、産業医面談が必要となる長時間労働者の基準や産業医面談の流れなどについて解説します。

長時間労働者への産業医面談とは

長時間労働者への産業医面談とは、過重労働をしている長時間労働者の勤務状況・疲労の蓄積状態などを把握し、産業医が面接指導を行うことです。

長時間労働者への面接指導は、従業員の健康障害発症のリスクを下げること、従業員の健康状態を把握して適切な指導を行うことを目的に実施されます

長時間労働(過重労働)と脳・心疾患の発症には、強い関連性があると指摘されています。
具体的には、時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、発症の関連性が強まるとされています。

加えて、月100時間を超える時間外・休日労働時間、または2~6ヶ月平均で月80時間を超える時間外・休日労働時間が認められる過重労働の場合、発症との関連性が強いと評価できるとされています。

長時間労働者に対する産業医面談(医師による面接指導)は、労働安全衛生法で定められている企業の義務です。企業には、面接指導の結果を踏まえて適切な措置を取ることが求められます。

【参考】
厚生労働省「過重労働とメンタルヘルス」
厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」

【関連記事】
産業医面談を行う目的と企業担当者が注意すべき対応ポイントとは?
長時間労働はなぜ問題になるのか?労働環境を見直すべき理由

産業医面談が必要な長時間労働者の基準

産業医面談の対象となる過重労働・長時間労働者は、働き方によって3つに分けられます。以下のケースに該当する従業員は、医師による面接指導が義務とされています。

(出典:厚生労働省「長時働者への医師による面接指導制度について」

月に80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労蓄積がある従業員のうち、「面接を申し出た者(面接を希望した従業員)」には、面接指導の義務が生じますしかし、企業は申し出のない従業員にも面接指導を実施するよう努めなくてはなりません。

また、企業の努力義務として、事業主が自主的に定めた基準に該当する従業員、研究開発業務従事者にも面接指導を行います。

高度プロフェッショナル制度適用者の場合は、面談を申し出た従業員には労働時間にかかわらず面接指導を実施しましょう。

産業医面談の対象者に「疲労蓄積がある」と記載がありますが、これを確認するには厚生労働省が公開している、労働者の疲労蓄積度チェックリスト」を活用するとよいでしょう。

【参考】厚生労働省「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」

従業員が産業医面談を拒否した場合の対応

当該従業員が産業医面談を拒否した場合、産業医面談は企業のためではなく、従業員の健康のために行うものであることを伝えましょう

また、従業員の中には「面接指導を受けることで人事評価に影響が出るのではないか」「会社の中で不利益をこうむるのではないか」と考える方もいます。

誤解を招かないためにも、産業医面談を勧奨する際には以下の内容を明確に伝えましょう。

  • 産業医には守秘義務(業務で知りえた情報を口外してはならない義務)がある
  • 産業医面談の内容が人事権のあるものに伝わることはなく、評価に影響は生じない
  • 産業医面談を受けても従業員が不利な扱いを受けることはない

産業医面談は原則、あくまでも従業員からの申し出があったときにのみ実施可能で、無理やり受けさせることはできません。とはいえ、長時間労働者を放置すると安全配慮義務違反になる可能性があるので、産業医面談を勧奨しましょう。

【関連記事】産業医の面談は意味ない?従業員が面談を拒否した場合の対処法も紹介

長時間労働者に産業医面談を実施する流れ

産業医面談を長時間労働者に対して行う流れは、以下のとおりです。

  1. 当該従業員の労働時間・健診結果を産業医に伝える
  2. 当該従業員に産業医面談を勧奨し面接指導を実施する
  3. 産業医の意見を踏まえて必要な就業措置を講じる
  4. 産業医から勧告を受けた内容を衛生委員会に報告する

適切な流れで産業医面談を実施できるよう、内容を理解しておきましょう。

1.当該従業員の労働時間・健診結果を産業医に伝える

2019年4月の労働安全衛生法の改正により、医師が面接指導を実施する際に従業員の労働状況を正しく判断するための重要な情報として、事業者から産業医へ労働者の情報提供が義務化されました。

厚生労働省令に定められている記録方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録、その他の適切な方法とされています(「労働安全衛生規則 第五52条の7の3」より)。労働時間を正確に把握し、産業医に伝えましょう。

加えて、当該従業員の健康管理に必要な情報や資料も産業医に提供する必要があります。健康診断の結果を産業医と共有しましょう。

【参考】
e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
厚生労働省「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」

【関連記事】働き方改革関連法で、産業医・産業保健機能はどう変わる?

2.当該従業員に産業医面談を勧奨し面接指導を実施する

事業者は当該従業員に産業医面談を受けるように勧奨し、従業員が面談を申し出たら産業医による面接指導を実施します。

産業医の選任義務がない事業場の場合は、産業医紹介会社や地域産業保健センターに相談をして、面接指導を担ってくれる産業医を紹介してもらうとよいでしょう。

【関連記事】地域産業保健センター(地さんぽ)とは?役割や利用時の注意点を解説

3.産業医の意見を踏まえて必要な就業措置を講じる

長時間労働者に面接指導をしたら、事業者は産業医の意見を踏まえて以下のような就業上の措置を講じます

  • 就業場所の変更
  • 業務量の軽減
  • 配属部署の変更
  • 労働時間の短縮
  • 深夜業の回数減少

必要に応じて当該従業員の主治医とも連携し、健康を保持するために必要な措置を決定します。最終的には、実施した就業措置の内容を産業医に報告します。

産業医からの報告書や産業医面談の結果の記録は、5年間保存しなければなりません。

【参考】厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」

4.産業医から勧告を受けた内容を衛生委員会に報告する

産業医から従業員の健康維持に関する勧告を受けた場合、事業者はその内容を衛生委員会に報告しなくてはなりません。

勧告を受けて講じた措置、今後講じる予定の措置を報告します。措置を取らなかった場合でも、その理由を報告しなくてはなりません。

【参考】厚生労働省「改正労働安全衛生法のポイント」

【関連記事】
安全衛生委員会と衛生委員会とは? それぞれの役割と開催条件について
産業医の勧告権とは?無視した場合のリスク

長時間労働者への産業医面談で配慮すべきこと

産業医面談を長時間労働者に受けてもらうために、事業者は以下の点に配慮しましょう。

  • 産業医面談の申し出をしやすい環境を作る
  • オンラインでも産業医面談を受けられる体制を構築する

産業医面談の申し出をしやすい環境を作る

産業医がこまめに職場巡視を行うなど、従業員と産業医の接点を増やすことで、従業員にとって産業医が身近な存在となり、相談や面談のハードルが下がることが期待できます。

面接指導を実施する際は他の従業員に面接指導を受けていることが分からないように面接指導日を伝える、プライバシーが守られる空間(会議室など)を手配するなどの配慮をしましょう。

また、産業医面談の申し出をしやすくするためには、面談の実施・申し出方法を周知しておくことも大切です。

産業医面談の目的やメリット、対象となる条件や希望する場合の申し出方法について、社内掲示板やメールなど、すべての従業員が確認できる形式で周知しましょう。

オンラインでも産業医面談を受けられる体制を構築する

対面だけでなく、オンラインでも産業医面談を受けられる体制を整えておきましょう。時間の確保が難しい、会社に行くと周りの目が気になるなどの従業員でも、面談が受けやすくなります。

オンラインでの面談実施の際には、以下に留意すべきとされています。

  • セキュリティを確保してもらうこと/確保された環境であることを従業員に伝える
  • 同席者(上司、人事、産業看護職等)がいる場合にはそれも伝える
  • 事前にビデオオンで面接が行われることを伝える
  • マスクを外した状態で、表情、顔色、声、しぐさ等を確認できる環境を作るように伝える
  • 面接結果のフィードバック方法や緊急時の対応法を決めておく
  • 面接指導前に問診票を配布し、その内容が「明らかに重度の疲労や睡眠障害、希死念慮を疑わせる場合」はオンラインでなく対面面談を検討する

産業医面談をオンラインで実施する際には、事前に衛生委員会で実施方法を審議し、決定事項を従業員に周知しましょう。

【参考】厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について(令和2年11月19日付け基発1119第2号)」

【関連記事】産業保健活動、オンライン対応がOK、NGなものは?―今さら聞けない産業保健vol.4

長時間労働を改善するための取り組み

長時間労働を改善するための取り組みには、以下が挙げられます。

  • 長時間労働の解消に向けたトップメッセージを発信する
  • 「過重労働対策推進計画」を策定する
  • 時間外労働を削減する
  • 多様な働き方ができる制度を整備する

それぞれの取り組みについて解説します。

長時間労働の解消に向けたトップメッセージを発信する

長時間労働を解消するためには、まずは企業として長時間労働を削減する方針とメッセージ発信しましょう。

現場でいくら長時間労働を減らそうとしても、業務量や仕事のやり方を根本から改善しなければ効果はなかなか得られません。

そのため、経営者や管理監督者、労務担当者が具体的な方針を打ち出すことが重要です。企業全体の方針をトップが示すことで、従業員が長時間労働の削減に積極的に取り組むことが期待できます。

過重労働対策推進計画を策定する

経営陣が決めた方針にもとづいて、過重労働対策推進計画を策定します。これまでの経験や勘に頼ることなく、PDCA(Plan, Do, Check, Act)サイクルを活用して、システムとして活動を展開することが重要です。

PDCAサイクルを具体的な文書にすると、手順や役割、内容、記録が明確になるのでさらに効果的です。厚生労働省が推奨するPDCAサイクルの例は以下のとおりです。

(出典:厚生労働省「過重労働対策推進計画」)

過重労働対策の推進体制には、職場の管理監督者、衛生管理者・衛生推進者、人事労務担当者、産業医や保健師等の産業保健スタッフなどの各部門を含み、推進にあたっては、衛生委員会などを活用しましょう。

各部門がそれぞれ連携して対応することで、過重労働、長時間労働が起こりにくい状況を作り、面接指導等の実施までスムーズに進むことが期待できます。

時間外労働を削減する

時間外労働の削減は、長時間労働の解消につながります。時間外労働削減のための取り組みは、以下などが挙げられます。

  • 「朝型勤務」や「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」の導入
  • 時間外労働時間の可視化
  • 部下の長時間労働抑制について管理職の人事考課項目に追加
  • ワークシェアリングによる業務分散

これらの取り組みは現場の従業員に丸投げするのではなく、事業者や管理・監督者の主導で実行することが重要です。業務時間・業務量が削減されることで組織の生産性を損なわないように注意しつつ実施しましょう。

多様な働き方ができる制度を整備する

多様な働き方ができる制度を整えることが、長時間労働の解消につながる可能性もあります。たとえば、以下のような制度の導入を検討しましょう。

  • 短時間正社員制度の導入
  • テレワーク(在宅勤務)の導入
  • フレックスタイム制の導入
  • 年次有給休暇以外の休暇制度の導入

ただし、さまざまな働き方を認めようとすると、そのぶん労務担当者や管理者の負担が増えることも考えられます。

制度を導入するだけでなく、制度を適切に運用できる仕組みや労務管理ツールの導入も同時に検討しましょう。

年次有給休暇の取得を促進する

従業員が年次有給休暇を取得しやすくすることも、長時間労働の削減につながります。労働時間が削減できるだけでなく、従業員のリフレッシュにもなるでしょう。

有給休暇を取りやすくするための施策には、以下などが考えられます。

  • 休暇取得計画の設定と、その計画が実施されるためのフォロー
  • 月1日以上の休暇、連続休暇での取得の推奨
  • 年次有給休暇の計画的付与制度の導入
  • 部下の休暇取得状況について管理職の人事評価項目に盛り込む

業務量が多い部署では、周りに迷惑がかかるとして有給休暇を取りにくいと感じる場合もあるでしょう。単純に取得を呼びかけるだけではなく、制度化して取得しやすくすると効果的です。

産業医と連携し長時間労働の解消を

長時間労働の基準は、通常の労働者・研究開発業務従事者・高度プロフェッショナル制度適用者のそれぞれで決められています。事業者は当該従業員に産業医面談を受けるよう勧奨しましょう。

もし従業員が産業医面談を拒否した場合、従業員側にもメリットがあることを説明し、受けてもらえるように促しましょう。また、産業医に相談しやすい、面談を申し出やすい環境を作ることも重要です。

同時に長時間労働を解消するための取り組みも欠かせません。経営陣や管理監督者が方針を示し、産業医と連携しながら長時間労働の解消に努めましょう。

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