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過重労働者に産業医面談は必要! 長時間労働の基準、面接指導の対象者や流れを解説

過重労働の1つとされる長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患など、脳・心臓疾患の発症と強い関連性があります。このため、過重労働者に対して企業は産業医(医師)による面接指導を行わなければなりません。本記事では、面接指導となる過重労働者の基準、面接を実施する際に企業が気をつけたいポイント、面談の流れなどについて解説していきます。

そもそも「長時間労働」とは?

長時間労働に明確な定義はありません。しかし、長時間労働(過重労働)と脳・心疾患の発症には、強い関連性があると言われています。脳・心臓疾患にかかわる労災認定基準においては、週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなるほど、関連性が強まるとされています。

加えて、月100時間を超える時間外・休日労働時間または2~6か月平均で月80時間を超える時間外・休日労働時間が認められる過重労働の場合、発症との関連性が強いと評価できるとされています。

なお、長時間労働に伴い、睡眠時間の確保が難しくなることが懸念されます。睡眠時間とメンタルヘルス不調には密接な関係があるため、過重労働がメンタルヘルス不調を引き起こす要因になることも認識しておきましょう。

出典:厚生労働省「過重労働とメンタルヘルス」
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「長時間労働者への産業医による面接指導制度」とは?

「長時間労働者への産業医による面接指導制度」とは、過重労働をしている長時間労働者の勤務状況・疲労の蓄積状態等を把握し、面接指導を行うことです。企業には、面接指導の結果を踏まえて適切な措置を取ることが求められます。

この長時間労働者に対する産業医面談(医師による面接指導)は、労働安全衛生法で定められている企業の義務です。面接指導を実施しなかった場合は法令違反になることもあります。

過重労働者への面接指導の主な目的は、脳・心臓疾患の発症予防です。前述の通り、長時間労働と脳・心臓疾患の発症は強い関連性があるとされています。
労災認定された自殺事案には、過重労働が認められるケースも多くあります。従業員が過労死などに至った場合、人材損失のみならず、社会的信用を失墜させてしまうことに繋がります。ほかにも、労働基準監督署による労災認定・書類送検、民事訴訟などによる刑事罰や事業名の公表、新規採用難、賠償金の支払いなど、大きな損失を生じることが考えられます。

【関連記事】従業員が産業医の面談を拒否した場合はどうする?
産業医面談を行う目的と企業担当者が注意すべき対応ポイントとは?

面接指導の実施者になれるのは?

過重労働者に対する面接指導は、産業医学の専門家である産業医が望ましいです。とりわけ、事業場で選任している産業医に対応してもらうことが理想的です。
労働者の状況によっては、面接指導の前に、産業看護職が面談をするケースもあります。

産業医を選任していない事業場は、産業医紹介サービスや地域産業保健センターを活用するとよいでしょう。

【関連記事】産業保健師と産業看護師の違いは? 上手に活用して健康経営を推進しよう
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産業医面談が必要な長時間労働者の基準とは?

産業医面談の対象となる過重労働・長時間労働者は、働き方によって3つに分けられます。以下のケースに該当する従業員は、医師による面接指導が義務とされています。

引用:厚生労働省「長時働者への医師による面接指導制度について」

2019年4月まで、面接指導が義務となる対象に必要な労働時間は「月100時間」、努力義務として必要な労働時間は「80時間」とされてきましたが、労働安全衛生法の改正に伴い、義務となる労働時間の基準が80時間に引き下げられました。法改正に伴い基準も変化するため注意が必要です。
産業医面談の対象者に「疲労蓄積がある」と記載がありますが、これを確認するには厚生労働省が公開している、労働者の疲労蓄積度チェックリストを活用することを推奨します。

出典:厚生労働省「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」

面接指導の対象者は面接を希望した従業員のみ?

月に80時間を超える時間外・休日労働を行い、疲労蓄積がある従業員のうち、「面接を申し出た者(面接を希望した従業員)」には面接指導の義務が生じますが、企業は申し出のない従業員にも面接指導を実施するよう努めなくてはなりません。
従業員には、裁量労働制で働く従業員や管理監督者も含まれることに注意してください。

このほか、企業の努力義務として、事業主が自主的に定めた基準に該当する従業員、研究開発業務従事者にも、面接指導を行います。
高度プロフェッショナル制度適用者の場合は、面接を申し出た方には労働時間にかかわらず面接指導を実施するようにしましょう。

もし、従業員が産業医面談を拒否したら……

産業医面談の実施は、法的な強制力までは持ち合わせていません。
産業医面談は、あくまでも従業員の申し出があったときにのみ実施することが可能です。長時間労働者の従業員に対し、企業が無理やり面接指導を受けさせることはできないのです。

しかし、過重労働者の対象になった従業員を放置するわけにはいきません。長時間労働者から産業医面談を拒否された場合の具体的な対処法については、以下の関連記事をご確認ください。

【関連記事】従業員が産業医の面談を拒否した場合はどうする?

長時間労働者(過重労働者)に産業医面談を実施する流れ

長時間労働者に医師による面接指導(産業医面談)を依頼・実施する流れは以下です。産業医面談の前後にいくつか対応があるため、しっかりと対応していきましょう。

引用:日本労働組合総連合会「『労働安全衛生法』が改正されました」

長時間労働者へ産業医面談を実施する前に企業がやるべきこと

従業員の時間外・休日労働時間が80時間を超えた場合、企業は以下の対応を行います。

  1.  本人に、超えた時間に関する情報を通知しなければならない。
  2.  申し出があった場合、医師による面接指導を実施しなければならない。
  3.  面接指導を行った医師から必要な措置について意見聴取を行い、必要と認める場合は、適切な事後措置を実施しなければならない。
  4.  本人に関する作業環境、労働時間、深夜業の回数、時間数等の情報を産業医に提供しなければならない

これらの対応をスムーズに行うためには、以下に取り組むことが必要です。

産業医面談の実施・申し出方法を周知する

先述の通り、産業医面談を実施するためには、従業員が面談を希望する必要があります。
産業医面談の目的やメリット、対象となる条件、希望する場合の申し出方法については、社内掲示板、社内システム、ポスター、メールなど、全ての従業員が確認できる形式で周知しましょう。

併せて、産業医面談は企業のためではなく、従業員の健康のために行うものであることを伝えましょう。産業医面談について正しく認識してもらうためには、「従業員が健康に働き続けるためのもの」「産業医面談を受けたからといって人事評価には影響を及ぼさないこと」「本人の同意なく面談内容が企業側に知られることはないこと」をきちんと伝えることが非常に重要です。

従業員の中には、「面接指導を受けることにとって人事評価に影響が出るのではないか」「会社の中で不利益をこうむるのではないか」と考える方もいます。そのような誤解を招かないためにも、産業医には守秘義務があるので面接指導の内容は口外されないこと、人事評価に影響はないこと、従業員が不利になることはないことをあらかじめ共有しておきましょう。

従業員が産業医面談の申し出をしやすいように配慮する

産業医がこまめに職場巡視を行うなど、従業員と産業医の接点を増やすことで、従業員にとって産業医が身近な存在となり、相談や面談のハードルが下がることが期待できます。

面接指導を実施する際は、他の従業員に面接指導を受けていることがわからないように面接指導の実施日の伝え方、プライバシーが守られる空間(会議室など)を手配するなど配慮しましょう。

産業医面談をオンラインで行える環境を整える

産業医面談はオンラインでも実施可能です。ただし、オンラインでの面談実施の際には以下に留意すべきとされています。

  • セキュリティを確保してもらうこと/確保された環境であることを従業員に伝える
  • 同席者(上司、人事、産業看護職等)がいる場合にはそれも伝える
  • 事前にビデオオンで面接が行われることを伝える
  • マスクを外した状態で、表情、顔色、声、しぐさ等を確認できる環境を作るように伝える
  • 面接結果のフィードバック方法や緊急時の対応法を決めておく
  • 面接指導前に問診票を配布し、その内容が「明らかに重度の疲労や睡眠障害、希死念慮を疑わせる場合」はオンラインでなく対面面談を検討する

参考:厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について(令和2年11月19日付け基発1119第2号)」

【関連記事】産業保健活動、オンライン対応がOK、NGなものは?―今さら聞けない産業保健vol.4

労働時間の状況を正確に把握する

労働時間の状況を正確かつ客観的な方法で把握しておくことは、長時間労働を防ぐためだけでなく、残業代を正しく計算するためにも必要です。

2019年4月の労働安全衛生法の改正により、医師が面接指導を実施する際に従業員の労働状況を正しく判断するための重要な情報として、事業者から産業医へ労働者の情報提供が義務化されました。

厚生労働省令にて定められている記録方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録、その他の適切な方法とされています。(「労働安全衛生規則 第五52条の7の3」より)

【関連記事】担当者必見!働き方改革関連法における産業医・産業保健の変更点

会社の状況を理解している産業医(医師)に面接指導を依頼する

長時間労働者への医師による面接指導は、産業医のほか、産業医の要件を備えた医師、従業員の健康管理を行える医師が実施することが望ましいです。産業医のように、会社の状況を理解した医師が面接指導の役割を担えると良いでしょう。

産業医選任の義務がない事業場の場合、産業医紹介会社や地域産業保健センターに相談をして、面接指導を担ってくれる産業医を紹介してもらいましょう。いずれの場合も、面接の費用は事業者負担になるため、契約を取り交わす際によく確認しましょう。

【関連記事】【まとめ】産業医の探し方 産業医紹介4つの相談先と選び方のポイント

企業と産業医との連携を図る

長時間労働者への面接指導を行う場合、企業は、当該従業員の健康管理に必要な情報や資料を医師に提供する必要があります。
医師が確認する健康障害は、脳・心臓疾患とメンタルヘルスの不調です。このため、当該従業員の正確な労働時間のほか、血圧や血糖値など健康診断の結果を医師に伝えましょう。

厚生労働省から公開されている「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」の結果も併せて医師に伝えるとより詳しく把握できるため、ぜひ活用してみてください。

出典:厚生労働省「労働者の疲労蓄積度チェックリスト」「医師による長時間労働面接指導実施マニュアル」

長時間労働者へ産業医面談を実施した後に企業がやるべきこと

長時間労働者への面接指導を実施した場合、面接実施から1ヶ月以内に医師から結果報告を受けるとともに、必要な措置について医師の意見を聴かなければなりません。医師からの報告書や面接指導の結果の記録は、5年間保存する義務があります。

また、事業主は医師の意見に基づき、必要に応じて措置を講じなくてはなりません。例えば、就業場所の変更や作業の転換、配属部署の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などが挙げられます。

過重労働を改善・解消するために取り組むこと

これまでのことを踏まえ、長時間労働(過重労働)を改善・解消する方法について解説していきます。

過重労働を改善する取り組み例

時間外労働の削減

  • 「朝型勤務」や「ノー残業デー」「ノー残業ウィーク」の導入
  •  時間外労働時間の可視化
  •  部下の長時間労働抑制について管理職の人事考課項目に追加

年次有給休暇の取得促進

  • 休暇取得計画の設定やその計画が実施されるためのフォロー。月1日以上の休暇、連続休暇など
  • 年次有給休暇の計画的付与制度の導入
  • 部下の休暇取得状況について管理職の人事評価項目に盛り込む

労働時間などの設定の改善

  • 短時間正社員制度の導入
  • テレワーク(在宅勤務)の導入
  • フレックスタイム制の導入
  • 年次有給休暇以外の休暇制度の導入

上記はあくまで一例となりますが、職場に「長時間働くのではなく早く帰る雰囲気」「休暇を取得しやすい雰囲気」をつくることが重要です。

意識改革を行うにはトップダウンで

過重労働を解消するためには、経営者や管理監督者、労務担当者等が危機感を持ち、長時間労働の削減に向けた取り組みを率先して行うことが重要です 。
経営陣が長時間労働の解消に向けた「過重労働による健康障害、過労死を生じさせない」という方針を決め、トップダウンで従業員に周知を徹底することで、より効率的に取り組みを実行することができます。

「過重労働対策推進計画」を策定する

経営陣が決めた方針に基づいて、過重労働対策推進計画を策定します。これまでの経験や勘に頼ることなく、PDCA(Plan, Do, Check, Act)サイクルを活用して、システムとして活動を展開することが重要です。PDCAサイクルを具体的な文書にすると、手順や役割、内容、記録が明確になるので、さらに効果的です。
厚生労働省が推奨するPDCAサイクルの例は下記の通りです。PDCA

【出典】厚生労働省「過重労働対策推進計画

過重労働対策の推進体制には、職場の管理監督者、衛生管理者・衛生推進者、人事労務担当者、産業医や保健師等の産業保健スタッフなどの各部門を含み、推進にあたっては、衛生委員会等を活用しましょう。
各部門がそれぞれ連携して対応することで、過重労働、長時間労働が起こりにくい状況を作り、面接指導等の実施までスムーズに進むことが期待できます。

産業医と連携して、過重労働の解消を

過重労働の解消は、従業員の健康改善だけでなく、労働生産性の向上も期待できます。長時間労働による疲労や睡眠不足は、従業員の体調不良やメンタルヘルス不調を招くほか、休職や離職、最悪の場合は自殺にも繋がりかねません。
労働者がいきいきと働ける職場環境を整備するためにも、産業医と連携を取り、過重労働の解消に努めましょう。

【関連記事】職場で自殺が起きた時、会社が取るべき対応とは?―産業医のメンタルヘルス事件簿vol.5

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