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裁量労働制とは?2024年4月の法改正についても解説

裁量労働制は労務管理の負担を軽減でき、優秀な人材の獲得も見込める企業にとって魅力ある制度です。

しかし、裁量労働制の導入にあたっては、適切な手続きをしなければなりません。また、2024年4月からは、裁量労働制に関する改正省令などによりルールが変更になるため、変更点も理解しておく必要があります。

本記事では、裁量労働制の種類や対象となる業務、改正による変更点などを解説します。裁量労働制のメリット・デメリットや導入手順についてもまとめていますので、裁量労働制の導入を検討している人事労務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

裁量労働制とは

裁量労働制とは、一定の業務(職種)に限り、実働時間ではなく、あらかじめ定められた時間を働いたものとみなして労働時間を計算する制度です。

実際に働いた時間が6時間でも、みなし労働時間が8時間であれば8時間分の賃金を支払わなければなりません。企業は、出勤時間や退勤時間を従業員の自由な裁量に委ねることになります。

裁量労働制の種類と対象業務

裁量労働制には、専門業務型と企画業務型の2種類があります。それぞれの制度について解説します。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、業務の進行や時間配分などに関する具体的な指示が難しい特定の業務や専門職に従事する従業員に適用される制度です。

厚生労働省令および厚生労働大臣告示による、以下の20業務に従事する従業員が対象です。

  • 新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
  • 情報処理システムの分析又は設計の業務
  • 新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送番組の制作のための取材若しくは編集の業務
  • 衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
  • 放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
  • 広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務
  • 事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務
  • 建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務
  • ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
  • 有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務
  • 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
  • 大学における教授研究の業務
  • 銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務
  • 公認会計士の業務
  • 弁護士の業務
  • 建築士の業務
  • 不動産鑑定士の業務
  • 弁理士の業務
  • 税理士の業務
  • 中小企業診断士の業務

【出典】厚生労働省「専門業務型裁量労働制」

専門業務型裁量労働制を導入する際には適用要件の労使協定を結び、実際に従業員を対象業務に就かせた場合に、労使協定で定めた労働時間を働いたものとみなします

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析業務に従事する従業員に適用される制度です。導入するには、以下の要件をすべて満たしている必要があります。

  • 事業の運営に影響をおよぼす業務(事業戦略など)
  • 企画・立案・調査・分析に関する業務
  • 業務の遂行・方法を従業員に委ねる必要性があると客観的に判断される業務
  • 業務の遂行・手段、および時間配分に関して、事業者が具体的な指示を出さない業務

(参考:厚生労働省「企画業務型裁量労働制について」

企画業務型裁量労働制の対象となる職種には、経営企画職などが挙げられます。企画業務型裁量労働制を導入するためには、労使委員会の設置が前提です。

労使委員会が決議した、知識・経験を有する従業員を対象業務に就かせたときに、労使委員会の決議で定めた労働時間を働いたものとみなします

法改正により2024年4月から裁量労働制のルールが変更

裁量労働制に関する改正省令などにより、2024年4月1日から裁量労働制のルールが変更になります。変更内容を理解しておきましょう。

専門業務型裁量労働制に関する追加事項

専門業務型裁量労働制に関して追加された内容は、以下のとおりです。

  • 制度を適用する際には従業員の同意を得る
  • 同意をしなかった従業員に不利益な取扱いをしない
  • 制度の同意を撤回する際は手続きをする必要がある
  • 健康福祉確保措置・苦情処理措置の実施状況に関する従業員ごとの記録を3年間保存する
  • 従業員の同意・撤回に関する従業員ごとの記録を3年間保存する

(参考:厚生労働省「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」

現行では裁量労働制の導入時、企画業務型のみ従業員本人の同意を得なければならないと定められています。しかし改正後は、専門業務型裁量労働制も本人の同意が必要になります

企画業務型裁量労働制に関する追加事項

企画業務型裁量労働制に関しての追加事項は、以下のとおりです。

  • 制度の同意を撤回する際は手続きをする必要がある
  • 健康福祉確保措置・苦情処理措置の実施状況に関する従業員ごとの記録を3年間保存する
  • 従業員の同意・撤回に関する従業員ごとの記録を3年間保存する
  • 評価・賃金制度を変更する場合は、労使委員会に説明をする
  • 労使委員会を6ヶ月以内に1回開催する
  • 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項を、労使委員会の運用規程に定める
  • 労働基準監督署への定期報告は、初回は労働委員会の決議が行われた日から6ヶ月以内に1回、それ以降は1年以内ごとに1回行う

(参考:厚生労働省「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」

改正により、企画型裁量労働制の対象従業員の評価・賃金制度が変更になる場合は、労使委員会に変更内容の説明が必要になります

また、定期報告の頻度も変更点です。現行では、決議が行われた日から6ヶ月以内に一度、健康・福祉確保措置の実施状況や労働時間の状況を所轄の労働基準監督署に報告しなければならないとされています。

しかし2024年4月からは、初回のみ6ヶ月以内に1回ですが、2回目以降においては1年以内ごとに1回の定期報告となります。

裁量労働制を導入するメリット

裁量労働制を導入するメリットには、以下が挙げられます。

  • 人件費を予測しやすくなる
  • 労務管理の負担を軽減できる
  • 優秀な人材を獲得しやすくなる

人件費を予測しやすくなる

裁量労働制は、賃金の支払い対象となる労働時間が実働時間ではなく、みなし労働時間であるため、原則として残業代が発生しませんそのため、人件費を予測しやすくなるのが企業としてのメリットです。

労務管理の負担を軽減できる

労務管理の負担を軽減できるのも、裁量労働制のメリットです。従業員ごとに実働時間を集計し、賃金を計算して支払うといった労務には手間がかかります。

裁量労働制は、原則として深夜労働・休日出勤を除き時間外手当が発生しないため、労務管理の負担を軽減できます

優秀な人材を獲得しやすくなる

裁量労働制の導入は、優秀な人材の確保につなげられます。裁量労働制では、業務の進め方や時間配分をある程度自分の裁量で決めることが可能です。

そのため、成果への評価重視で効率よく仕事を終わらせたい人にとって、裁量労働制は魅力的な制度といえます。裁量労働制をアピールすれば、能力の高い優秀な人材が集まりやすくなるでしょう。

裁量労働制を導入するデメリット

裁量労働制にはメリットだけでなく、以下のデメリットがあることも理解しておきましょう。

  • 業種によっては適用できない場合がある
  • 長時間労働を助長してしまう恐れがある
  • 導入や運用に労力がかかる

業種によっては適用できない場合がある

裁量労働制を適用できる業務は労働基準法で決められているので、すべての業種・職種が対象ではありませんそのため、裁量労働制を導入したくても諦めなければならない場合もあります。

長時間労働を助長してしまう恐れがある

裁量労働制は、長時間労働を助長してしまう恐れがあるとの指摘も多くあります。時間外手当を支払いたくない企業が本来の趣旨と異なる目的で裁量労働制を導入したり、実働時間の管理がおろそかになったりする可能性があるためです。

企業には裁量労働制の趣旨をきちんと理解し、導入後も実働時間の管理を怠らず適切に運用する姿勢が求められます。

導入や運用に労力がかかる

裁量労働制は労務管理の負担を軽減できる反面、制度の導入や運用には以下のような労力がかかります。

  • 労働基準法施行規則が定める事項の協定や議決が必要になる
  • 健康・福祉確保措置を実施して記録を保存しなければならない
  • 苦情処理措置を実施して記録を保存しなければならない
  • 上記1~3の措置の実施状況を、労働基準監督署に対して定期的に報告しなければならない

上記は裁量労働制を導入するために必須の手続きなので、時間に余裕を持って制度導入を進めていきましょう

裁量労働制と他の労働制度時間の違い

裁量労働制以外に柔軟性のある働き方の労働制度には、以下があります。

  • 変形労働時間制
  • フレックスタイム制
  • 事業場外みなし労働時間制
  • 高度プロフェッショナル制度
  • みなし残業制度(固定残業代制度)

それぞれの労働制度と裁量労働制の違いを理解しておきましょう。

変形労働時間制との違い

変形労働時間制は、たとえば月末が忙しい職種なら1~3週目は1日7時間、最終週の4週目は1日10時間というように、業務の繁閑に合わせて法定労働時間を配分できる制度です。1ヶ月間や1年間など一定期間における法定労働時間の総枠の範囲内で働きます。

裁量労働制でも時間外手当は発生しますが、変形労働時間制の場合は、法定労働時間の総枠を超えて働いたら時間外手当てを支払います。また、対象職種や業務に制限がないのも裁量労働制と異なる点です。

【参考】厚生労働省「1年単位の変形労働時間制」

フレックスタイム制との違い

フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間内で、従業員が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めて働ける制度です。就業時間を柔軟にする制度ともいえます。

始業時刻と終業時刻を従業員の裁量に任せる点は裁量労働制と同じです。しかし、実働時間を定める点や、対象業種や業務に制限がない点は裁量労働制と異なります

【参考】厚生労働省「フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き」

事業場外みなし労働時間制との違い

事業場外みなし労働時間制とは、社外での業務により労働時間の算定が難しいときに、所定労働時間を労働したとみなす制度です。たとえば、旅行会社の添乗員や外回りの営業職などの職種に適用されます。

実働時間ではなく、みなし労働時間で労働時間(賃金)を計算する点は裁量労働制と同じです。しかし、事業場外で行う業務のみが対象である点や、業務・職種による制限がない点は裁量労働制とは異なります

【参考】厚生労働省「事業場外労働に関するみなし労働時間制の適正な運用のために」

高度プロフェッショナル制度との違い

高度プロフェッショナル制度とは、高度な専門知識を有し一定水準以上の年収要件(1,075万円以上)を満たす従業員に対して、法定労働時間の規定を適用しない制度です。

始業時刻や終業時刻を従業員の裁量に委ねる点や対象業務が限定されている点は、裁量労働制と共通しています。

しかし、裁量労働制のほうが対象業務の範囲は広い、年収要件がないなどの違いがあります

【参考】厚生労働省「高度プロフェッショナル制度わかりやすい解説」

みなし残業制度(固定残業代制度)との違い

みなし残業制度(固定残業代制度)は、実際の残業時間にかかわらず契約で一定の残業時間働いたとみなす制度です。

みなし残業制度は、実働時間でなく所定の労働時間がみなされる点で裁量労働制と共通しています。しかし、裁量労働制は所定労働時間、みなし残業制度は残業時間を対象としている点で異なります

また、法律上の制度でないため、みなし残業制度には対象業務の縛りがありません。

【参考】厚生労働省「働き方改革応援レシピ 賃金制度導入編」

裁量労働制を導入する流れ

裁量労働制を導入する流れは、専門業務型と企画業務型とで異なります。それぞれの導入手順を見ていきましょう。

専門業務型裁量労働制の導入手順

専門業務型裁量労働制を導入する際は、まず労使協定を締結しその内容に沿って個別の就業規則を整備します。労使協定で定める内容は、以下のとおりです。

  • 制度の対象となる業務
  • 労働時間としてみなす時間
  • 企業が対象従業員に具体的な指示をしないこと
  • 健康および福祉確保措置に関する内容
  • 苦情処理の措置に関する内容
  • 制度の適用時に従業員の同意を得る必要があること
  • 労使協定の有効期間
  • 従業員ごとの記録を有効期間の満了後3年間保存すること
  • (2024年4月1日以降)制度の適用に従業員の同意を得る必要があること
  • (2024年4月1日以降)同意をしなかった従業員に不利益な取扱いをしてはならないこと
  • (2024年4月1日以降)同意の撤回に手続きが必要なこと

労使協定を締結したら専門業務型裁量労働制に関する協定届と、規定を改正した就業規則を所轄の労働基準監督署に提出します。

【参考】厚生労働省「専門業務型裁量労働制の解説」

企画業務型裁量労働制の導入手順

企画業務型裁量労働制の導入手順は、以下のとおりです。

  1. 労使委員会を設置する
  2. 労使委員会で決議をする
  3. 個別の労働契約や就業規則を整備する
  4. 所轄の労働基準監督署に決議を届け出る

労使協定は、労使の代表者と労働者の過半数以上で構成される労使委員会で決議します。決議には、全委員の5分の4以上の賛成が必要です。労使委員会での決議事項は、以下のとおりです。

  • 対象業務
  • 対象従業員の範囲
  • 労働時間としてみなす時間
  • 健康および福祉確保措置に関する内容
  • 苦情処理の措置に関する内容
  • 制度の適用時に従業員の同意を得る必要があること
  • 同意をしなかった従業員に不利益な取扱いをしてはならないこと
  • 決議の有効期間
  • 従業員ごとの記録を有効期間の満了後3年間保存すること
  • (2024年4月1日以降)同意の撤回に手続きが必要なこと
  • (2024年4月1日以降)評価・賃金制度を変更する場合は、労使委員会に変更内容を説明すること

労使委員会で決議したら、所轄の労働基準監督署に企画業務型裁量労働制に関する決議書と改正した就業規則を提出します。

【参考】厚生労働省「企画業務型裁量労働制の解説」

裁量労働制のメリット・デメリットを理解し導入を検討しよう

裁量労働制には、人件費を予測しやすく労務管理の負担を軽減できる、優秀な人材を獲得しやすくなるといったメリットがあります。

しかし、適用できる業務・職種が限られており、導入や運用に労力がかかります。裁量労働制のメリットとデメリットの両方をしっかりと理解した上で導入すべきか慎重に決めましょう。

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