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産業医はハラスメント防止にも対応できる?相談窓口における役割や注意点

近年、職場環境に関する法令の整備と施行が相ついでいます。とくに問題となっているのが、パワーハラスメントに代表される各種ハラスメントです。これに伴い、「ハラスメント相談窓口」の設置が大企業、中小企業ともに義務化され、労働者を守る手助けをしてくれる産業医の存在も一般的になりました。

本記事ではハラスメント相談窓口の設置に関する知識全般、そして企業における産業医の役割について解説します。

ハラスメントとは

ハラスメントとは、相手の意に反する行為を行い相手を不快な気分にさせたり、人間としての尊厳を著しく傷つけたりすることです。そのため、相手を傷つける意図がなかったとしても、相手が不快な思いをした時点でハラスメントは成立します。

現在ではあらゆるハラスメントが社会問題化しており、各業界、企業で対策が行われています。

代表的なハラスメント

昨今はさまざまなハラスメントが発生していますが、企業や産業医が警戒すべき代表的なハラスメントについて解説します。

パワハラ

パワハラとはパワーハラスメントの略で、上司と部下のような優越的な関係を背景に、職場において行われる相手に苦痛を与える言動全般を指します。パワハラを細分化すると暴力によって相手を傷つける身体的攻撃型や、言葉の暴力による精神的攻撃型などの種類が存在します。

異性間でパワハラが発生した場合、セクハラも同時に行われている可能性が高いです。なお、業務上適切かつ必要な指導であれば、パワーハラスメントとして扱われません。

セクハラ

セクハラとはセクシャルハラスメントの略で、他者を不快にさせる性的言動全般のことです職場におけるセクハラは、職場にて労働者の意に反する性的な言動によって職場環境を著しく害する、労働条件について不利益を被る行為全般と定義されています。

被害を受けた側の性自認や性的嗜好に関係なく、性的な言動であればセクハラと認定されます。たとえば、新婚の部下に対してしつこく家庭内の性生活について尋ねるのも、立派なセクハラ行為です。

【参考】厚生労働省「職場におけるセクシュアルハラスメント

マタハラ

マタハラとは、マタニティハラスメントの略です。主に女性労働者が妊娠、出産したことで同僚や上司から仕事を奪われるなどの嫌がらせを受け、就業環境を害される行為を指します。

マタハラに近いハラスメントとして、パタハラも存在しています。こちらはパタニティハラスメント、つまり父親に対するハラスメントのことです。男性が育児のための休暇を取ろうとしても申請を意図的に無視する、育休後にわざと仕事を与えないなどが典型的なパタハラの例です。男女共働きが一般的になりつつある昨今、マタハラとパタハラの相談件数も増加傾向にあります。

【参考】神奈川県労働局「平成 27 年度神奈川労働局雇用均等室における法施行状況-

設置義務がある、ハラスメント相談窓口とは?

2020年6月1日、改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)の施行に伴い、ハラスメントに対する防止対策が強化されました。ハラスメント相談窓口の設置はこの措置義務として定められており、2023年3月現在、大企業、中小企業いずれも対象となっています。ハラスメント相談窓口の設置義務を怠ると法律違反の対象となり、厚生労働大臣からの勧告や企業名の公表などの社会的制裁措置の可能性があります。

ハラスメント相談窓口では、職場における他者からのさまざまなハラスメントを扱います。

パワハラだけではなく、セクハラ、マタハラなどの職場でのハラスメント全般について一元的な相談窓口を置くことで、労働者がより声を上げやすい環境の整備を目指します。

産業医をハラスメント相談窓口の担当者にできる?

職場で労働者の健康管理を行う産業医を、ハラスメント相談窓口の担当者にすることは可能です。ただし、ハラスメント相談窓口の業務内容はハラスメント被害者の相談だけではありません。就業規則にもとづいた懲戒処分の検討や配置転換など、業務内容は多岐に渡ります。

そのため、産業医一人ではハラスメント相談窓口は成り立ちません。産業医だけではなく、それ以外のハラスメント相談窓口の担当者も配置する必要があります。

【関連記事】
パワハラ防止法遂に施行!人事労務担当者が取り組むべき対策と定義を徹底解説

産業医を含めたハラスメント相談窓口の体制

ハラスメント問題を埋もれさせないためにも、担当者の選定は重要です。選定の際は、実績と守秘義務への対応姿勢が大きなポイントとなります。ハラスメントは個人的かつデリケートな問題のため、企業との信頼関係の構築のみならず、調査力や対応力、提案力も選考条件に加えましょう。

相談窓口の担当者として適任な人材として、産業医以外に以下の立場の人が挙げられます。

  • 人事労務担当
  • コンプライアンス担当
  • カウンセラー
  • 労働組合
  • 弁護士

社員を相談窓口担当者とする場合には、相談担当者が対応する範囲を定める必要があります。相談担当者がどの程度まで責任を持ち関わるのかを事前に明確にしておきましょう。

また、守秘義務などの対応ルールを策定し、規定からの逸脱がないようにするためのチェック体制の整備も重要です。相談担当者については傾聴、および対応スキルの向上に向け、ハラスメントセミナー、カウンセリング講座の受講など、企業として可能な限りサポートをしていくとよいでしょう。

ハラスメントを防ぐために行う産業医の取り組み

産業医がハラスメント防止のためにできる取り組みには、以下のようなものがあります。

心身の健康に関する相談

ハラスメント防止のためにも、産業医の存在は必要不可欠です。鬱や適応障害といった各種精神疾患の兆候、胃痛や睡眠障害などの身体の問題を見逃さず、適切に対応できるように常に相談の門戸を開く必要があります。

状況によっては休職や復職の相談、サポートも発生します。スキルが確かな産業医を雇えるように、選考段階で過去の実績などをチェックしましょう。

月1回以上の職場巡視

産業医には、月1回以上あるいは2ヶ月に1回以上の職場巡視が義務付けられています。そのため、産業医自らが実際に職場の様子をチェックして、ハラスメントや労災のリスクが存在するか、それらが発生していないかを判断しなければなりません。

改善すべき問題点が見つかった場合、専門的な立場である産業医から事業者向けに指導やアドバイスが行われます。産業医による指摘後は、事業者サイドは速やかに問題の改善案の検討、および改善を実行しなければなりません。

安全衛生委員会への参加

安全衛生委員会とは、労働災害の防止のための対策を話し合ったり、重要事項について調査、審議を実施したりする委員会のことです。労働安全衛生法第18条にて、委員会の構成員として産業医の設置が義務付けられています。

産業医は安全衛生委員会に参加する義務はありませんが、毎回不参加の場合、有意義な話し合いができない可能性が高まります。そのため、産業医の巡視タイミングに合わせて委員会を開催するなど、産業医が参加しやすい工夫をする必要があります。

【関連記事】
産業医の職場巡視は義務!2ヶ月に1回でもOKな理由、罰則、チェックリストを確認

ハラスメント防止における産業医と産業カウンセラーの違い

産業カウンセラーとは、職場でカウンセリングを行うカウンセラーです。

両者の最大の違いは、国家資格の有無です。産業医として働く場合は国家資格が必要ですが、産業カウンセラーとして働く場合、国家資格は必要ありません。

産業カウンセラーの仕事は、あくまで労働者のメンタルヘルスの維持と向上です。しかし、産業医は労働者の心身の両面に対するサポートを行う必要があります。

ハラスメント相談窓口を活用して、従業員が産業医に相談した場合の注意点

従業員が産業医にハラスメント相談窓口を活用して相談や面談を行った際、注意しておきたいポイントがあります。

産業医は中立の立場

産業医は従業員と事業者、どちらに対しても中立な立場であることが求められます。従業員がハラスメント相談窓口を活用して産業医面談を希望・実施した場合も、例外ではありません。

産業医には守秘義務がある一方で、事業者への報告義務と勧告権があります。事業者には産業医の役割を理解したうえで、産業医と適切なコミュニケーションをとる必要があります。

ハラスメント相談窓口を活用した従業員への配慮

労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、従業員がパワハラやハラスメントに関する相談をしたり事実を述べたりしたことを理由に不利益な取り扱いをすることを禁じています。

ハラスメント相談は相談者にとって極めて個人的な内容です。事業者には、相談者のプライバシーを守ることも求められます。

ハラスメント相談窓口を社内に周知するために

ハラスメント相談窓口を設置後、確実に役割が果たせるようにするには、社内周知をしっかりすることが大切です。

職場環境の向上を図るためにも、従業員にハラスメント相談窓口を認識してもらう工夫が必要です。次に、その方法について具体例を挙げていきます。

メールなどで周知

ハラスメント相談窓口は、当事者になってみないとその必要性が実感できないものです。
必要なときに従業員がすぐに接点を持てるよう、常日頃から周知を繰り返すことが大切です。

ハラスメント相談窓口について案内するポスターや標語を活用し、エントランスや社員食堂、休憩スペースなど、従業員の目に付く場所への掲示を行いましょう。企業のトップからの通達や社内報で定期的に取り上げることで、全社的な取り組みであることが認知されやすくなります。

リモートワークをしている社員には、人事・労務からの連絡として、全社員にメールで周知するようにしましょう。

また、従業員向けのサイトトップページなど、業務前に必ずアクセスする場所に掲示して注意喚起を行うのも有効です。従業員に印象づけられていれば、悩んだときに思い出してもらえるでしょう。

社内でハラスメントを発生させないために、研修実施の検討を

ハラスメントを全社的に防止することを目的に、ハラスメントが社会的に認められない行為であることを周知する場として研修や勉強会を開催しましょう。

ハラスメント行為が個人にとってどれほど痛みのあるものなのかについて触れると同時に、社内環境の悪化を引き起こす原因となり、業績に悪影響を及ぼしかねない問題であることを伝えていきます。

何がハラスメントに当たるのか、具体例をもって示すことで、それまで自分がしていた何気ない言動が相手を傷つけていたことに気付く場合もあります。

社内だけではインパクトが与えられない場合は、外部講師などを招き、社会的な問題であることへの理解を促します。

産業医に相談しやすい環境作りを行う

ハラスメントに限らず、産業医に気軽に相談できる環境を企業全体で作る必要があります。人によっては相談を第三者にする際に、「こんなことを相談して呆れられないか」と不安を抱えているケースもあります。

そのため、従業員の不安を取り除けるように、定期訪問時に産業医から積極的にコミュニケーションを取るようにしましょう。定期訪問を待たずに、すぐに相談したい労働者向けに、オンラインでの相談を実施するのもおすすめです。

ハラスメントが起きやすい職場の特徴

ハラスメントはどの職場でも発生する可能性があるため、常に当事者意識をもつことが大切です。ハラスメントが発生しやすい職場には、以下のような特徴があります。

過重労働とストレスが多い職場

過重労働とストレスが多い職場は、ハラスメントが発生しやすいです。昨今は労働力の不足が各企業、業界で問題となっており、海外から技術実習生を受け入れるなどして課題の解決を図っている企業もあります。しかし、人員を増やせない会社では少ない従業員たちのみで仕事を回す必要があり、残業時間が増えるなどして過重労働に陥りがちです。

その結果、従業員のストレスも増大しハラスメントが横行しやすい状況となってしまいます。産業医の場合、健康診断の結果などから過重労働が発生していないか判断する必要があります。

コミュニケーションが不足している職場

「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査報告書」において、パワハラ経験者と未経験者の間で回答割合の差が大きかった項目がいくつかありました。その中で最も差が大きかったのは、上司と部下のコミュニケーションに関する項目です。パワハラを経験した人は37.3%、過去3年間にパワハラを経験していない人は15.1%が上司とのコミュニケーションが少ない、または無いと回答しています。

話しかける行為は相手を認め、気にかけているメッセージです。円滑な人間関係を構築するためにも、話しかける、話を聞くなどのコミュニケーションを積極的に行う必要があるでしょう。

【参考】厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査

閉鎖的な職場

外部企業や他部署と関わりが少ない、閉鎖的な環境の職場でもハラスメントは発生しやすくなります。客観的に見れば明らかにハラスメントであるにもかかわらず、閉鎖的な環境下ではその実態に気づけない場合もあります。

おかしいと思っても古参の職員たちの結束力が強く、問題が放置されてしまうケースもあります。

成果主義な職場

ノルマを課している職場では、失敗したスタッフに対する風当たりが強いため、各種ハラスメントが横行しやすいです。その結果、明らかに達成ができないノルマのために無茶な働き方をし、体調を崩してしまった例もあります。

また、不正な手段を用いて売り上げの水増しを行うなど、ハラスメント以外の問題に発展してしまうケースも珍しくありません。

ハラスメント意識が欠如している職場

そもそも、自分がハラスメントを行っている意識がない人も一定数います。とくに年齢層が高い従業員は各業界、企業のコンプライアンス意識の変化についていけず、過去には容認されていたハラスメント行為を無意識に行ってしまうケースもあります。

この場合は職員同士のコミュニケーション不足が原因のハラスメントに通じる部分があるため、定期的に開催されるハラスメントに関する講習会に参加させるなどして防げるでしょう。

ハラスメントの実例

過去にどんな職場で、どのようなハラスメントが発生したのか取り上げます。解決までの流れについても簡単に紹介するため、参考にしてください。

保険会社の事例

サービスセンターに勤務しているとある職員。上司から「意欲が無い、やる気が無いなら仕事をやめるべき」と記載された趣旨のメールが職員本人、そして職場の関係者に一斉送信されました。メールの内容は、仕事に対する叱咤督促の趣旨も伺えます。

しかし、メールの記載内容は職員本人に対する退職勧告として受け入れられてしまう可能性もありました。結果、メールを送った上司の非が認められ、損害賠償が発生しました。

【参考】厚生労働省「あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

医薬品製造・販売関連会社の事例

被害者職員は上司から営業成績や仕事の仕方についてしばしば厳しい言葉を浴びせられていました。結果、心身共に不調をきたし、営業上のトラブルが発生。その後、被害者職員は自殺しました。

被害者職員の妻が労災保険給付の請求をしましたが、給付が認められず訴訟に発展します。最終的には被害者職員の自殺と、上司の日常的なハラスメントの因果関係が認められました。

【参考】厚生労働省「あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

【関連記事】職場で自殺が起きた時、会社が取るべき対応とは?―産業医のメンタルヘルス事件簿vol.5

幼稚園の事例

幼稚園に勤務していた被害者職員が、幼稚園の園長から妊娠を理由とする中絶や退職の強要をされました。また、職員としての責任を果たすように迫られ夏期保育のために出勤した結果、流産してしまいます。

その後、裁判で園長による被害者職員に対する行為は雇用機会均等法8条(現9条)に反しており、民法709条の不行為責任を免れないとされました。

【参考】厚生労働省「あかるい職場応援団 -職場のハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ)の予防・解決に向けたポータルサイト-

日頃からハラスメントを発生させない、産業医に相談しやすい環境づくりを

ハラスメントは、個人の人間性への攻撃です。ハラスメントによって社員の健康が侵されたり、離職につながったりすれば、従業員はもちろん、企業にとっても大きな損失となります。

ハラスメントを発生させないためにも、企業にはハラスメントに関する危機意識を社内全体で共有する、産業医と連携し個人感情に配慮しながら迅速かつ適切な環境整備を行うことが求められています。

一番大切なのは、従業員が気軽に相談できる職場環境を作ること、相談できる安心感を抱いてもらうことです。従業員が安心して相談・活用できるハラスメント相談窓口の適切な運用が、企業運営の健全化につながるでしょう。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

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