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治療と仕事の両立支援とは?対象疾患や取り組み事例も紹介

疾患を持ち、治療が必要な従業員がいる事業場では、本人の希望に応じて治療と仕事の両立支援に取り組む必要があります。しかし、具体的な支援方法が分からず、悩んでしまう担当者もいるのではないでしょうか。

事業場で治療と仕事の両立支援に取り組む際は、必要な準備や活用できる制度などがあります。

本記事では、治療と仕事の両立支援の事前準備や実際の進め方、取り組み事例などを紹介します。対象疾患や事業者が活用できる助成金・支援制度・支援人材についてもまとめていますので、ぜひ参考にしてください。

事業場では従業員の治療と仕事の両立支援が必要

治療と仕事の両立支援とは、疾患を抱える従業員から申し出があった場合に、治療と仕事の両方を無理なく進められるよう事業場が配慮・支援することです。

疾患を抱える従業員は、入院・通院・療養などが必要です。また、疾患の症状・治療の副作用・障害などによって、業務を遂行する能力が下がることも考えられます。

労働安全衛生法では、事業者は従業員の健康確保のための対策を行う必要があると定めています。そのため事業場では、従業員の状況を踏まえた配慮や支援をしなければなりません。

厚生労働省では、治療と仕事の両立支援のための情報ポータルサイト「治療と仕事の両立支援ナビ」や「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」を公開しています。事業場の人事労務担当者は、参考にするとよいでしょう。

【参考】労働安全衛生法「第3条」

治療と仕事の両立支援の対象疾患は?

労働者健康安全機構では、治療と仕事の両立支援はすべての疾患を対象に行うとしています。なかでも代表的なのは、反復・継続して治療が必要になりやすい以下の9疾患です。

  • がん
  • 脳卒中
  • 肝疾患
  • 指定難病
  • メンタルヘルス不調
  • 心疾患
  • 糖尿病
  • 若年性認知症
  • 骨折などの外傷

また、厚生労働省のガイドラインには、がん・脳卒中・肝疾患・指定難病・メンタルヘルス・心疾患・糖尿病の7つについて、基礎情報や対応方法などが記載されています。支援方法を検討する際に活用しましょう。

【参考】
労働者健康安全機構「治療就労両立支援事業」
厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」

治療と仕事の両立支援を行う前の準備

治療と仕事の両立支援に取り組む前には、入念な準備が必要です。主な内容として、以下の4つが挙げられます。

  • 基本方針を公表し従業員に周知する
  • 従業員や管理者を対象に研修を行う
  • 相談窓口を設ける
  • 両立支援に向けて社内制度を整える

それぞれの内容について、詳しく解説します。

【参考】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」

基本方針を公表し従業員に周知する

まずは、治療と仕事の両立支援にどのように取り組むのか、事業場の基本方針や社内ルールを決めましょう。具体的には、以下のような例が挙げられます。

  • 事業場に両立支援コーディネーターを配置する
  • 治療による短時間勤務制度や休暇制度を設ける

取り決めた方針は事業場全体に周知して、従業員が制度などを利用しやすい環境を整える必要があります。社内メールや文書、社内掲示板などを活用して、すべての従業員への周知を徹底しましょう。

従業員や管理者を対象に研修を行う

治療と仕事の両立支援については、当事者だけでなくすべての従業員が理解しておく必要があります。支援を必要とする従業員が、他の従業員から理解を得られないことで、制度を利用できないケースがあってはならないからです。

治療と仕事の両立支援を正常に機能させるためには、すべての従業員・管理者に研修を行い、事業場全体で意識を高める必要があります。

相談窓口を設ける

治療と仕事の両立支援を従業員が活用するためには、相談しやすい窓口が必要です。相談窓口の形は、それぞれの事業場で実現可能なものでなければなりません。

人事部内に窓口を設置したり、電話やSNSによる相談窓口を開設したりするなど、方法は事業場によって異なります。自社で運用できる相談窓口の形を検討しましょう。

両立支援に向けて社内制度を整える

厚生労働省のガイドラインでは、以下の5点における治療と仕事の両立支援への整備を推奨しています。自社で取り組めるものを確認しておきましょう。

整備の内容 具体例
休暇制度・勤務制度の整備 ・時間単位の年次有給休暇

・傷病休暇、病気休暇

・時差出勤制度、短時間勤務制度

・テレワーク、試し出勤制度

従業員から支援を求められた場合の対応手順・各関係者の役割の整理 同僚・上司・人事労務担当者や、産業医・保健師・看護師等の産業保健スタッフの、それぞれの役割と対応手順を決める
従業員本人の他、人事労務担当者や主治医など関係者間の情報共有を円滑にする仕組みづくり ・主治医に従業員の就業状況を適切に伝えるための様式を決めておく

・就業継続の可否、必要な就業上の措置、治療に対する配慮について主治医の意見を求めるための様式を定めておく

両立支援が実際に機能するための環境整備 ・すべての従業員に向けて制度・相談窓口について周知する

・担当者に対して相談を受けた際の対応手順や支援制度、体制についての研修をする

労使や産業保健スタッフの連携 環境整備に向けた検討をする際、衛生委員会などで調査審議する

【参考】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.4~5)」

治療と仕事の両立支援を進める際の3ステップ

事前準備を整えて実際に治療と仕事の両立支援に取り組む際には、以下の3ステップで進めるのが一般的です。

  1. 従業員から両立支援の申し出を受ける
  2. 支援を求める従業員から主治医の意見書を受け取る
  3. 必要な支援を検討し支援プランを作成する

それぞれの内容について、詳しく説明します。

1.従業員から両立支援の申し出を受ける

治療と仕事の両立支援は、個人的事情による疾患に関わるため、従業員本人からの申し出があった場合にのみ取り組むのが基本です。事業者側から支援を勧めることは一般的でない点に留意しましょう。

2.支援を求める従業員から主治医の意見書を受け取る

従業員から申し出があり両立支援を行うことになったら、従業員の主治医からの意見書が必要です。主治医に作成してもらう意見書には、以下の4点が記載されていることが望ましいとされています。

●   病状、治療の状況

●   退院後又は通院治療中の就業継続の可否に関する意見

●   望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の可否、出張の可否等)

●   その他配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保等)

【出典】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.6)」

意見書を求める際には、情報が不足しないよう事業場で決まった様式を用意しておくのがおすすめです。厚生労働省のガイドラインには、従業員の勤務状況を主治医に伝えるための様式例や、意見書の様式例が掲載されているので活用しましょう。

3.必要な支援を検討し支援プランを作成する

事業者は、従業員から提出された情報をもとに、産業医などの意見を踏まえて必要な配慮・支援を検討します。産業医がいなければ、従業員の主治医から提供された情報を参考に決めるのが一般的です。

従業員の入院や休業が不要な場合は、両立支援プランの作成が推奨されています。両立支援プランに記載すべき内容は、以下のとおりです。

①治療・投薬等の状況及び今後の治療・通院の予定

②就業上の措置及び治療への配慮の具体的内容及び実施時期・期間

  • ●   作業の転換(業務内容の変更)
  • ●   労働時間の短縮
  • ●   就業場所の変更
  • ●   治療への配慮内容(定期的な休暇の取得等)等

③フォローアップの方法及びスケジュール(産業医等、保健師、看護師等の産業保健スタッフ、人事労務担当者等による面談等)

【出典】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.8)」

なお、従業員が休業する場合は両立支援プランではなく、職場復帰支援プランの作成が推奨されています。ガイドラインには「両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例」が掲載されているため、参考にするとよいでしょう。

治療と仕事の両立支援で事業者が活用できる制度・機関・人材

治療と仕事の両立支援に取り組む際は、事業者が利用できる国の制度などがあります。主なものは以下の3種類です。

  • 助成金
  • 支援機関
  • 支援人材

それぞれの内容を理解し、うまく活用してスムーズに両立支援を進めましょう。

助成金

治療と仕事の両立支援をする際、事業場が活用できる助成金は以下の4つです。

助成金の種類 内容 申請先
団体経由産業保健活動推進助成金 事業主団体や労働保険の特別加入団体が、従属している中小企業等に対して、産業保健サービスを提供する費用の5分の4(上限100万円)を助成 ・独立行政法人労働者健康安全機構
キャリアアップ助成金

(障害者正社員化コース)

障害のある有期雇用労働者などを正規雇用する事業者を助成 ・都道府県労働局
障害者介助等助成金 働く障害者を支援するため、介助者の配置などの特別措置を行う事業者を助成 ・都道府県支部の高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)

・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

職場適応援助者助成金 事業場で雇用している障害者に対し、企業在籍型職場適応援助者を配置して援助を行う事業者を助成 ・都道府県支部の高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)

・独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構

助成金には、産業保健サービスの導入や、障害者雇用に関するものなどがあります。申請する窓口・助成を受けるための条件・助成金額などは各事業場の状況によって異なるため、詳細は各申請先のホームページで確認しましょう。

【参考】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.20~21)」

支援機関

治療と仕事の両立支援をする際、従業員や事業場が活用できる支援機関は以下の5つです。

支援機関 支援内容
産業保健総合支援センター ・事業者などに対する啓発セミナー

・産業医・産業保健スタッフ・人事労務担当者などに対する専門的な研修

・関係者からの相談への対応

・支援に取り組む事業場への個別訪問指導

・患者(従業員)と事業者の間の調整支援

ハローワーク ・がん診療連携拠点病院と連携し、がん患者などに対する就労支援

・がん患者の就労における必要な配慮を把握したうえでの企業に対する人材紹介

・事業者向けセミナーなどの開催

障害者就業・生活支援センター ・雇用・保健・福祉・教育などの関係機関と連携し、障害者の身近な地域において、就業面や生活面を支援
地域障害者職業センター ・専門職の障害者職業カウンセラーが事業主に対し、障害者の雇用管理に関して専門的なアドバイスを提供
難病相談支援センター ・関係者からの相談への対応

・患者(従業員)と事業者の間の調整支援

・難病に理解のある企業を積極的に周知する取り組み

・企業に対し、難病への理解を深める取り組み

上記の支援機関では、両立支援に関連するセミナーや研修、相談受け付けなどを行っていますがんや難病を抱える従業員のほか、障害者を雇用している事業場への支援を行う機関もあるため、必要に応じて活用しましょう。

【参考】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.21)」

支援人材

治療と仕事の両立支援をする際、従業員や事業場が活用できる支援人材は以下の7つです。

支援人材 支援内容 配置場所
両立支援コーディネーター ・対象従業員に対して継続的な相談試験

・治療や業務状況に応じた必要な配慮などの情報提供

産業保健総合支援センターなどの支援機関
肝炎医療コーディネーター ・肝疾患の基礎的な知識や情報の提供

・相談に対する助言や相談窓口の案内

・肝炎ウイルス感染発覚後の検査や治療の勧奨など

保健所や専門医療機関など

 

難病診療連携コーディネーター ・患者の病気の状態に応じて診療を調整し、身近な医療機関へ相談・紹介 難病診療連携拠点病院など
難病相談支援員 ・生活情報の提供

・各種公的手続きの支援

・日常生活の支援

・難病患者就職サポーターや就労支援担当職員と連携し就労支援

難病支援相談センター
難病患者就職サポーター 難病相談支援センターなどと連携しながら、難病患者に対して総合的に支援 ハローワークの障害者専門援助窓口
若年性認知症支援コーディネーター ・若年性認知症の人に対して、適切な専門医療機関への案内、および継続的な支援

・就労支援

・利用可能な制度やサービスの情報提供

都道府県相談窓口や医療機関
就職支援ナビゲーター 長期療養が必要な人への就職支援 ハローワーク

支援人材には各事業場に配置できるものと、支援機関で相談ができるものがあります。専門知識を持つスタッフから、事業場の抱える悩みに沿ったアドバイスを受けられるのがメリットです。

【参考】厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ」

治療と仕事の両立支援の取り組み事例

実際に治療と仕事の両立支援に取り組んでいる企業の事例を紹介します。

TIS株式会社(ITサービス業)の取り組み事例

ITサービス業のTIS株式会社では、社内のポータルページにて、自社で作成した治療と仕事の両立についてのガイドラインを公開し、従業員がいつでも確認できるようにしています。

また、人事部メンバーのみで構成した相談窓口を設置し、支援が必要な従業員が利用しやすい仕組みも整えています。

導入している治療と仕事の両立支援制度は、特別休職制度の制定や短時間勤務、テレワーク、時差勤務などです。

支援制度が終了するまで産業保健スタッフや両立支援コーディネーターが対象従業員と面談などをして、治療と仕事の両立をサポートしています。

【参考】厚生労働省TIS株式会社|両立支援の取組事例|治療と仕事の両立支援ナビ」

AGF鈴鹿株式会社(食品製造業)の取り組み事例

味の素グループのAGF鈴鹿株式会社では、健康管理規程や就業規則を電子掲示板に提示して、すべて従業員に公開しています。

また、グループ企業間で定期的な打ち合わせをして、就業制限のある従業員や求職者の状況などを共有しているのも特徴です。

治療と仕事の両立支援制度は、担当保健師による相談窓口や休暇制度、復職後段階的に勤務時間を増やしていく治療出社制度などがあります。病気による休暇は最長60日間可能で、休暇期間中は賃金の85%を支給しています。

【参考】厚生労働省「AGF鈴鹿株式会社|両立支援の取組事例|治療と仕事の両立支援ナビ」

【関連記事】治療と仕事は両立できる “万がいち”のときまで社員に寄り添う会社―「健康経営優良法人」企業の取り組みインタビューvol.13

治療と仕事の両立支援の注意点

治療と仕事の両立支援に取り組む際の注意点を頭に入れておきましょう。

【参考】厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(P.3)」

支援体制を常に整えておく

治療と仕事の両立支援に取り組む際は、従業員の疾患が就労によって悪化・再発しないよう、常に配慮しなければなりません。従業員の体調に合わせて、業務内容の変更や勤務時間の短縮などの措置を講じる必要があります。

業務の多忙などを理由に、支援が滞ることがあってはなりません。従業員が必要な支援を必要なときに受けられるよう、体制を整えましょう。

個人情報の保護を徹底する

支援が必要な従業員の治療状況や、疾患に関する情報は個人情報に当たります。治療と仕事の両立支援に取り組むからといって、事業者が本人の許可なく情報を取得してはなりません

また、健康診断や従業員本人からの申し出によって取得した情報は、事業場において適切に保護する必要があります。情報が第三者に漏洩しないよう管理体制を整えることも重要です。

必要な措置を講じて治療と仕事の両立支援体制を整えよう

治療と仕事の両立支援とは、疾患を抱える従業員が治療と仕事の双方を無理なく進められるよう、事業場で配慮や支援をする取り組みです。

治療と仕事の両立支援を行う際は、事前にすべての従業員に取り組み内容を周知したり、従業員が利用しやすい相談窓口を設けたりする必要があります。

事業場が活用できる助成金・支援機関・支援人材などもあるため、うまく活用しながら支援体制を整えましょう。

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