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産業保健師と産業看護師の違いは? 上手に活用して健康経営を推進しよう

コロナ禍は私たちの働き方を大きく変えました。雇用市場の不安定化や在宅勤務の増加などの要因により、メンタルヘルス不調をはじめとした健康不安を訴える人が増えています。従業員が健康を損なうと企業の生産性が落ちることが明らかになってきたこともあり、ここ数年、健康経営に関心を持つ企業が増えています。
一方で、健康管理に重要な役割を担う産業医の業務負担過剰、健康管理の専門家が社内にいないなどの課題が浮き彫りになってきました。そこで昨今、注目されているのが産業保健師や産業看護師などの産業看護職です。産業保健師も産業看護師も企業の従業員の健康管理に関する業務に従事していますが、同じような業務を担当することも多く、保健師と看護師の違いがわからないといった声も少なくありません。

本記事では、産業保健師や産業看護師の役割や違いについてまとめました。また企業が産業保健師や産業看護師を採用するメリットについても詳しく解説します。

産業保健師、産業看護師とは

産業保健師・産業看護師とは、企業で働く保健師や看護師のことです。これらの職種をまとめて産業看護職と呼ぶこともあります。

産業看護職の主な勤務場所は、病院ではなく企業内に設置された健康管理室や医務室・保健室などです。企業によっては、総務部や人事部に所属する場合もあります。

産業保健師とは

産業保健師とは、企業で働く保健師のことです。産業保健師は健康の専門家として、従業員が病気になる前に予防すること、すなわち企業で働く従業員が健康・安全に働けるようサポートします。産業医や人事労務部門の担当者たちと連携しながら、職場環境の改善などに取り組むのも重要な役割のひとつです。

保健師業務の中でも産業保健師は人気がありますが、実際に産業保健師として働いている方の割合は少ないです。産業医と異なり、産業保健師の設置は法的義務ではないからです。厚生労働省が毎年まとめている衛生行政報告例(就業医療関係者)によると、保健師として従事する方の合計は55,595人であるのに対し、企業(事業所)で働く保健師は3,789人と、保健師における産業保健師の割合は全体の7%弱となっています。

出典:厚生労働省「令和2年衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況」

産業保健師に必要な資格

産業保健師として企業で働くためには、「保健師免許」と「看護師免許」、2つの国家資格を取得する必要があります。保健師免許は保健師国家試験、看護師免許は看護師国家試験にそれぞれ合格することで取得できます。

企業が産業保健師を募集する際には、応募条件として臨床経験や産業カウンセラーなどの資格を設定している場合もあります。

産業保健師の具体的な仕事内容

産業保健師の具体的な仕事内容としては、主に以下のようなものがあります。いずれも産業医の職務のうち法定外のものをフォローする、従業員の健康を守るために重要な仕事です。

  • 健康診断のデータ整理など
  • ストレスチェックの実施、分析
  • 安全衛生委員会への参加
  • 長時間労働対策・面談
  • メンタルヘルス対策・面談
  • 休職者の復職支援・面談
  • 従業員への健康教育
  • 職場巡視への同行

産業看護師とは

産業看護師とは、企業に勤める看護師のことです。産業看護師の多くは、企業内の診療所や医務室・健康管理室で働いています。病院に勤務している看護師と同じく病気や怪我の治療の補助も行いますが、産業保健師と同様に、従業員の健康管理やメンタルヘルスケアを行うことも重要な役割のひとつです。企業の医務室のほか、治験センターや製薬会社、医療機器メーカーに勤務する産業看護師も多いです。

産業看護師に必要な資格

産業看護師として働くためには「看護師免許」が必要です。看護師免許を取得するためには、大学や短大などの看護系学部を卒業し、看護師国家試験に合格する必要があります。

産業看護師には、制度や資格がいくつかあります。まずは産業保健の専門家が集まる学会である日本産業衛生学会の産業看護部会が認定する「産業保健専門家制度」です。これは産業保健チームの一員として、質の高い産業保健サービスを提供できるようにと構築されたシステムであり、「産業保健看護専門家制度登録者」「産業保健看護専門家」「産業保健看護上級専門家」の3つの資格から構成されています。
また、治験コーディネーター、臨床開発モニター、品質管理者、ヘルスカウンセラーなど、それぞれの専門性を極めて認定される資格もあります。

産業看護師の具体的な仕事内容

産業看護師は、主に企業内診療所や医務室・健康管理室に常駐し、怪我や病気をしてしまった従業員のケアを行います。特に工場や建設現場を抱える企業の場合、従業員の怪我が多いので、産業看護師が活躍する機会も多くなります。

このほか、産業保健師と同様、健康診断やストレスチェック、長時間労働や休職者のフォローなど従業員の健康管理をはじめ、健康教育や社内の環境整備などを行うことも多いです。

産業保健師と産業看護師の違い

保健師と看護師は、法律上の役割が異なります。法律上は、それぞれの役割を下記のように定義しています。

<保健師助産師看護師法>
第2条
この法律において「保健師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、保健師の名称を用いて、保健指導に従事することを業とする者をいう。

(中略)

第5条
この法律において「看護師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助を行うことを業とする者をいう。

引用:eGov法令検索「保健師助産師看護師法(昭和二十三年法律第二百三号)」

法律上の役割の違いを見ると、保健指導やメンタルヘルス対策などを期待する場合は産業保健師が、社内で発生する急病人の対応を期待するのであれば産業看護師が適していると言えます。
しかし保健師は看護師免許も所持していること、また看護師に求められる「療養上の世話」には病気に対する療法指導が含まれていることもあり、実際には、企業における両者の業務には違いがないことがほとんどです。

産業保健師を選任している企業は多い?少ない?

エムスリーキャリアが2023 年 4 月に「産業医・産業保健業務に関する市場調査」を実施したところ、回答者の過半数以上が保健師を選任している結果となりました。

従業員規模が多い企業ほど、契約形態を問わず、選任する保健師の数が多い傾向にあります。契約形態で見てみると、常勤保健師よりも非常勤保健師を選任している企業が多いことがわかります。前述の通り、産業保健師は法律上の選任義務はないため、産業看護職を採用して産業保健対応や健康経営に積極的に取り組んでいる企業が多いことが考えられます。

産業保健師、産業看護師を設置するメリット、デメリット

企業が産業保健師を導入するメリットはたくさんありますが、ここでは代表的な3つのメリットを紹介します。

①手厚い健康管理体制の構築

産業医に加え、産業保健師・看護師が企業内の産業保健のチームに加わることで、より手厚い健康管理体制を構築することができます。健康診断の事後措置者のフォローやメンタル不調者を含めた健康相談、また休職者の復職支援の相談窓口として産業看護職がうまく機能することにより、従業員の健康不安に対してより早い段階で介入することができます。

②職場環境の整備

産業医も職場巡視を行いますが、多くて月1回程度の巡視では、実際に毎日働く人の目線で環境整備を行うのが難しいことも多いです。例えば、朝・夕だけ部屋が寒い、夕方になると部屋が暗くなるなど、産業医の巡視時にはチェック不可能な項目もたくさんあります。

職場に産業保健師が常駐することで、衛生管理者による職場巡視に毎回同行が可能となります。これにより、健康を害する要因を専門家の目線から検討し、職場環境改善に役立てることができます。

③産業医の負担軽減

産業保健師・看護師に期待できる一番のメリットは、産業医の負担軽減です。産業医は、産業保健について専門的な立場や法律的な責務を有する唯一の医療職であるため、職場の健康・安全管理について幅広い見識と対処が求められます。反面、産業医に求められる業務量も多く、数人の産業医で数万人以上の従業員の対応に当たることもまれではありません。

法律で産業医が行うことが規定された業務以外を産業保健師が行うことで、産業医は法律で定められた業務のほか、組織的な職場環境改善などの重要な業務に注力できるようになります。また、昨今はメンタルヘルス対策として産業医に面談を求める傾向が強いですが、法律で義務付けられていない範囲を産業保健師・看護師が肩代わりすることで、一人一人の従業員にきめ細かいフォローを早い段階から行うことが可能です。

また、産業医に相談しにくい健康相談も、いつも職場にいて身近に感じやすい産業保健師・看護師であれば相談できるケースもよくみられます。特にメンタルヘルス対策は早期発見が重要ですので、気軽に相談できる産業保健師・看護師の存在は大きいです。

産業保健師・看護師を配置するデメリットとしては、やはりコストがかかる点です。反面、有効に利用することができれば、かかったコスト以上のリターンが見込めます。また、求職者の中には、臨床業務に馴染めず産業看護職に転向した方もいるため、コミュニケーション能力や社会性を含め、企業で働く能力に難のある人材が少数ながら存在します。採用時にしっかりと面談を行い、これまでの職歴について詳細に評価を行うなど、採用時点のチェックを綿密に行いましょう。

産業保健師・看護師を配置する際に注意したいのは、産業医の業務を全て肩代わりできるわけではないということです。法律上、同じ医療職でも産業医にしかできない業務が存在します。労働安全衛生規則第14条第1項各号に定める職務は、産業医に定められた職務です。産業看護職は、産業医を配置するよりもコストが安いのは間違いありませんが、できないこともあることをしっかり理解しておきましょう。

産業保健師、産業看護師と産業医が連携するには?

質の高い産業保健活動を展開するには、産業保健師・看護師と産業医の連携が欠かせません。法律上、産業医にしかできない業務は多岐にわたります。一方で、産業保健師・看護師は法律で設置が定められた職種ではないため、担当できる業務の定めがありません。うまく両者が連携するには、産業保健師・看護師が主体となって産業保健活動を行うというより、産業医の業務の一部を分担し、そのフォローを行う意識を明確化することが重要です。

産業医は、組織として職場全体の健康を総括的に管理します。産業保健師・看護師は、法定外の多様な業務について産業医のフォローを行うとともに、職場で起こる個別事例の一次相談窓口として機能するのが理想的です。また衛生管理者をはじめ、人事など非医療系の他職種と連携し、個別事例を通じて職場の問題点を拾い上げ、産業医とともに解決に導いていくことが求められます。

必要に応じて、産業保健師、産業看護師を設置しよう

産業保健師や産業看護師は企業の健康経営を円滑に進めるために非常に重要な役割を担いますが、法律上の設置義務がありません。一方で、産業医の設置は法律上の義務であり、良い産業医を選任することは健康経営には欠かせません。優秀な産業保健師・産業看護師を加えることで、産業医の業務を上手にフォローし、従業員にとって相談しやすい存在として、企業の発展に大きく貢献してくれるはずです。

産業医の設置後の次のステップとして、また産業医のいない企業における健康経営の要として、産業看護職の設置を検討してみてはいかがでしょうか。

森賀 麻由良 (もりか まゆら)

産業医・循環器内科医

某国公立大学医学部医学科卒業後、循環器内科医として20年以上のキャリアを積む。 現在は総合病院循環器内科に勤務しながら、2020年より本格的に産業医業務に従事している。 現在は、東証一部上場企業をはじめ複数の企業の嘱託産業医として産業保健活動に携わる。 高血圧をはじめとした生活習慣病の予防と管理から、過労死を減らすことを目標として活動中。

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