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長時間労働と産業医面談|人事担当者が知るべき義務と対応

労働者の健康管理は、企業の重要な義務であり、法令遵守の観点からも、決して軽視することはできません。特に、長時間労働者に対する産業医面談は、労働安全衛生法に基づいた適切な対応が求められます。しかし、その手続きや運用方法について、曖昧なままになっている企業も少なくありません。
本記事では、人事担当者が知っておくべき産業医面談の対象者、実施の流れ、法的な義務、そして案内文のサンプルや拒否された際の対応策まで、実務に役立つ情報を網羅的に解説します。

長時間労働と産業医面談|なぜ実施する必要がある?

労働安全衛生法により、企業は長時間労働を行う労働者に対し、産業医による面接指導を実施することが義務付けられています。これは、従業員の健康障害を未然に防止し、安心して働ける安全な職場環境を維持するために非常に重要な取り組みです。
この産業医面談は、以下の2つの観点から重要性が高まっています。

  • 労働者の健康確保: 長時間労働は、心身の不調や、最悪の場合過労死・過労自殺といった重大な健康問題を引き起こすリスクを高めます。産業医が個別の面談を通じて、労働者の心身の健康状態を客観的に把握し、適切な助言や指導を行うことで、健康リスクの発生を未然に防ぎます。これは、企業が従業員の健康に配慮する「安全配慮義務」を果たす上でも不可欠な要素です。
  • 企業の安全配慮義務: 企業には、労働者が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務があります。産業医面談を実施することは、この義務を果たすための重要な手段であり、未実施の場合は法令違反となり、罰則が科される可能性があります。また、長時間労働が原因で従業員が健康を害した場合、企業は損害賠償請求を受けるリスクも高まります。したがって、産業医面談の適切な実施は、リスクマネジメントの観点からも非常に重要です。

産業医面談の対象者と実施の要件

長時間労働者に対する産業医面談には、法的な実施要件が厳密に定められています。

対象となる労働時間と労働者

以下の条件に当てはまる労働者は、産業医面談の対象となります。

  • 時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超えている労働者:労働安全衛生法第66条の8により、事業者は労働者本人からの申し出があった場合に面接指導を実施する義務があります。この申し出は、時間外・休日労働時間が80時間を超えた時点から1ヶ月以内に行われる必要があります。
  • 時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり100時間を超えている労働者:この場合、産業医や医師の勧告があった場合、または事業者が実施の必要があると判断した場合に、面接指導を実施します。100時間という基準は、過労死の労災認定基準にも関連しており、特に慎重な対応が求められます。

労働者からの申し出がなければ面談は不要?

労働者の健康を守る観点から、企業は従業員からの申し出を待つだけでなく、労働時間が80時間を超えた時点で積極的に産業医面談を推奨することが望ましいとされています。これにより、従業員が面談を申し出る心理的ハードルを下げ、早期の健康管理に繋げることができます。

長時間労働による産業医面談の実施フロー

産業医面談をスムーズかつ効果的に実施するための一般的な流れをご紹介します。このフローに沿って進めることで、手続きの抜け漏れを防ぐことができます。

  1. 対象者の抽出と面談の申し出
    まず、時間外労働時間が80時間を超えた労働者を正確に抽出し、本人に産業医面談の申し出を促します。この際、労働者へは面談の目的や重要性を丁寧に説明し、面談が強制ではなく、あくまで本人の健康を守るためのものであることを強調することが大切です。
  2. 産業医との面談スケジュールの調整
    労働者から面談の申し出があったら、速やかに産業医と面談日時を調整します。面談は、労働者の業務に支障がないよう、また、プライバシーが確保された静かな場所で実施することが望ましいです。
  3. 労働者への案内文送付
    面談日時が決まったら、書面やメールで労働者に正式な案内を送付します。案内文には、以下の内容を盛り込むと、労働者も安心して面談に臨むことができます。
    • 面談の目的(長時間労働による健康リスクの確認)
    • 面談日時と場所
    • 面談の所要時間
    • 面談内容の秘密保持に関する説明
    • 面談を拒否する場合の連絡先と、拒否した場合の会社の対応
    • 面談を受けることのメリット(例:健康状態の把握、ストレス対処法の助言)
  4. 産業医面談の実施
    産業医は、労働者の労働時間や業務内容、心身の健康状態、ストレス状況などをヒアリングします。この面談結果は、就業上の措置が必要かどうか判断するための重要な情報となります。
  5. 産業医からの意見聴取と就業上の措置の検討
    面談後、産業医は労働者の健康状態を踏まえ、就業上の措置(労働時間の短縮、配置転換など)について意見を述べます。事業者は、産業医の意見を尊重し、必要に応じて適切な措置を講じなければなりません。

産業医面談を拒否された場合の対応

労働者から産業医面談を拒否された場合、どのように対応すればよいのでしょうか。

80時間超の面談は強制ではない

労働時間が80時間を超えた場合の面談は、本人の「申し出」が要件であるため、拒否された場合は強制できません。しかし、企業には安全配慮義務がありますので、以下の対応を検討してください。

  • 面談の重要性を再度説明する: なぜ面談が必要なのか、その目的と意義を丁寧に説明し、労働者の理解を促します。特に、面談によって得られる健康上のメリットを具体的に伝えると効果的です。
  • 拒否の理由を確認する: 拒否の背景に、業務多忙や面談への不安があるかもしれません。労働者の気持ちに寄り添い、状況に応じて柔軟に対応を検討しましょう。たとえば、面談時間を調整したり、場所を変更したりするなどの配慮が考えられます。

100時間超の面談は義務となるケースも

労働時間が100時間を超え、かつ医師の勧告や事業者の判断があった場合は、面談が事業者の「義務」となることがあります。この場合、労働者からの拒否はできません。労働者から拒否があった場合、企業は就業規則に基づいた命令や、必要に応じて懲戒処分を検討することも可能ですが、まずは丁寧な説明と説得を試みることが重要です。

まとめ|産業医面談は健康経営の第一歩

長時間労働者に対する産業医面談は、法令遵守はもちろんのこと、従業員の健康を守り、活気ある職場環境を築くための重要な取り組みです。今回解説した情報を参考に、貴社の産業医面談制度を適切に運用し、従業員が安心して働ける環境づくりを推進していきましょう。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

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