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〈産業医が解説〉衛生委員会とは?設置の目的とテーマ選びの要点

健康経営の重要性が叫ばれる昨今、産業医を配置して産業保健活動の強化を図る事業場が増えています。産業保健活動を効果的に進めるにあたり、意思決定の場として役割を担うのが衛生委員会です。

本稿では、衛生委員会について概略を説明していきます。また、委員会で協議する内容やスムーズに進めるためのポイントなどもまとめて取り上げるため、ぜひ最後までご覧ください。

衛生委員会の基礎的知識

産業保健活動は事業者側の取り組みだけでは不十分であり、現場で働く従業員側の意見も取り入れ、労使が一体となって円滑に進めて行くことが求められます。職場の労働衛生などについて充分な議論を重ね、適切な対応をするために、労使双方からメンバーが構成される委員会が設置されます。

委員会には、衛生委員会、安全委員会、安全衛生委員会があります。衛生委員会は、従業員の健康障害や労働災害に関して調査審議するための委員会です。

一方、安全委員会では従業員の危険防止について調査審議を行います。そして、衛生委員会と安全委員会の機能を統合させたものが安全衛生委員会となります。

衛生委員会においては、構成員として産業医の設置が義務づけられているため、安全衛生委員会においても同様に産業医を設置する必要があります。衛生委員会と安全衛生委員会の詳細やそれぞれの違いについて、説明していきます。

衛生委員会とは

衛生委員会とは、事業者側と従業員側が一体となり、従業員の健康保持増進や労働災害の防止に関する取り組みなどについて、調査審議を行う委員会です。

労働安全衛生法第18条にて設置が義務づけられており、事業者と従業員が交渉する場ではなく、双方が歩み寄って最善の解決策を考えるための組織です。

そのため、労使の意見が合致できるよう可能な限り議論を尽くし、労使双方が納得できる結論を導き出す努力が求められます。

【参考】厚生労働省「職場のあんぜんサイト」

【関連記事】
産業医が衛生委員会に出席するのは義務?役割や注意点を解説
衛生委員会をオンライン化する際の注意点とポイントを解説

衛生委員会の設置目的

衛生委員会の設置目的は、事業場側と従業員側が協働して従業員の健康障害や労働災害を防ぎ、健康に業務に従事できる職場環境を目指すことです。

衛生は、「健康に保ち、病気にかからないようにすること」を意味する言葉です。したがって、労働者の健康管理を適切に行うことが最大の目的です。

その際、従業員の意見を反映しながら、従業員の危険や健康被害を防ぐのが望ましいです。衛生委員会で実施する議事は、従業員が安心して働ける職場づくりのきっかけとなります。

衛生委員会の設置基準、義務

衛生委員会の設置義務が生じる基準は、業種を問わず常時50人以上が勤務する事業場となります。この基準に該当する事業場では、月1回以上の衛生委員会を開催する必要があります。

「常時50人以上」の従業員数には、パート・アルバイトや派遣社員も含まれることに注意が必要です。

50人に到達した時点から衛生委員会の設置義務が発生するため、この基準を満たすことが見込まれる場合には、早めに衛生委員会の設置に向けた準備をする必要があります。

設置しなかった場合、50万円以下の罰金が課せられます。

【参考】厚生労働省「安全衛生管理の基本」

構成メンバーとその役割

衛生委員会の構成メンバーと役割は以下の通りです。

1.総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者

      • 議長として、中立的な立場で労使双方の意見をまとめる役割を担います。また、議論が活性化するように発言を促したり、話題を提供したりします。

     

      • 2.衛生管理者
        衛生管理者とは、事業場の衛生全般の管理を担う、労働安全衛生法に規定された国家資格です。事業者側のメンバーとして衛生委員会に参加し、職場の労働条件や労働環境の改善、疾病予防処置等を担当する立場にあたります。産業医をはじめ、外部の専門家との窓口になることも多いため、職場の状況に詳しく、専門的な知識を有する従業員が適任です。常時50人以上の従業員がいる事業場は、衛生管理者を選任しなければなりませんが、必要な選任人数は事業場の規模によって異なります。
      • 【関連記事】衛生管理者とは?選任義務と必要な資格について解説

     

      • 3.産業医
        産業医とは、医師免許を有した医師であることに加えて、労働者の健康管理などを行うのに必要な医学に関する知識を有する者です。産業医は事業者側のメンバーとして衛生委員会に参加します。労働安全衛生法において、常時使用する従業員が50人以上のすべての事業場に産業医の選任義務が課されています。また、常時使用する労働者が1,000人以上の事業場と、有害業務に常時500人以上の従業員を使用する事業場には、専属の産業医を選任しなければなりません。
      • 【関連記事】産業医とは?企業での役割、病院の医師との違いを解説

     

    • 4.当該事業場の労働者で衛生に関し経験を有する者
      従業員のうち、衛生に関する経験を有する者の参加が義務付けられています。衛生管理者とは異なり、こちらは従業員側のメンバーとして衛生委員会に参加します。人数の規定はありませんが、多様な所属や属性を持つ従業員を選出することで、幅広い意見が反映される委員会にすることが望ましいです。

議長以外のメンバーは事業者が指名することとされており、一般的には1〜2年程度での入れ替えが多いです。

また、議長以外のメンバーの半数は、当該事業場における従業員の過半数で組織される労働組合からの推薦にもとづいて指名される必要があります。

労働組合がない場合には、従業員の過半数以上の推薦にもとづいて指名する必要があります。 このように、衛生委員会は、事業者側にのみ都合のよいメンバーで構成されないように配慮されています。

衛生委員会の審議内容

衛生委員会は、従業員の衛生に関する課題の評価・対策について審議が行われます。具体的な審議内容は以下のとおりです。

  1. 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
  2. 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
  3. 労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
  4. 衛生に関する規程の作成に関すること。
  5. 危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、衛生に係るものに関すること。
  6. 安全衛生に関する計画(衛生に係る部分)の作成、実施、評価及び改善に関すること。
  7. 衛生教育の実施計画の作成に関すること。
  8. 化学物質の有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
  9.  作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること。
  10. 定期健康診断等の結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること。
  11.  労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること。
  12. 長時間労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること。
  13. 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。
  14.  厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官又は労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告又は指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること。

【出典】厚生労働省「安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
【関連資料】衛生委員会テーマサンプル集

衛生委員会の開催頻度、議事録の記録と保管方法

衛生委員会は、月1回以上開催することが法律で定められています。また、事業者は衛生委員会の開催の都度、議事録を労働者に周知しなければなりません。

また、委員会の意見や講じた措置の内容、委員会における議事で重要なものに関わる事項を記録します。

議事録は、労働安全衛生規則第23条4項にて3年間保存するように義務付けられているため、誤って処分しないように注意しましょう。なお、情報の活用を目的とし、3年以上議事録を保存するのは問題ありません

【参考】厚生労働省「安全衛生委員会を設置しましょう」
【関連資料】衛生委員会議事録フォーマット

衛生委員会と産業医の関わり方

衛生委員会において、産業医は医療の専門家として職場環境や労働災害対策に関する適切な指導・助言を行います。また、衛生講話を通じて、委員に医学知識の啓発や教育を行い、事業者全体の健康意識を高めることも大切な役割です。

産業医の衛生委員会への参加は、必須ではありません。しかし、産業医の参加により、委員会の議論が活性化し、労働環境改善へ向けた取り組みが加速することが期待されます。

また、産業医が衛生委員会を欠席した場合、後日議事録に目を通してもらう必要があります。

ひと目でわかる! 衛生委員会、安全衛生委員会の違い

衛生委員会は健康管理に焦点を当て、安全衛生委員会は安全と衛生の両面をカバーする観点からさまざまな違いがあります。

しかし、労働者が健康に業務に従事できる職場環境を実現する方向性は共通しています。皆が安全で快適に働ける職場環境の実現に向けて、活気のある衛生委員会を運営していくことが大切です。

衛生委員会 安全衛生委員会
開催目的 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策などの重要事項について、労働者の意見を反映させるよう十分な調査審議をすること 労働者の危険または健康障害を防止するための基本となるべき対策などの重要事項について、労働者の意見を反映させるよう十分な調査審議をすること
構成メンバー 1.総括安全衛生管理者または総括安全衛生管理者以外の者でその事業場においてその事業の実施を統括管理するものもしくはこれに準ずる者の中から事業者が指名した者(議長)

2.衛生管理者

3.産業医

4.労働者(衛生に関し経験を有する者)

1.総括安全衛生管理者または総括安全衛生管理者以外の者でその事業場においてその事業の実施を統括管理するものもしくはこれに準ずる者の中から事業者が指名した者(議長)

2.安全管理者および衛生管理者

3.産業医

4.労働者(安全に関し経験を有する者)

5.労働者(衛生に関し経験を有する者)

設置基準 常時50人以上が勤務するすべての事業場 衛生委員会の基準

特定の業種で一定の規模要件を満たす事業場

主な審議内容 1. 衛生に関する規程の作成に関 すること

2.衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること

3.衛生教育の実施計画の作成に 関すること

4.定期健康診断等の結果に対する対策の樹立に関すること

5.長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること

6.労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること

衛生委員会の審議内容に加えて、

1.安全に関する規程の作成に関すること
2.危険性または有害性等の調査およびその結果にもとづき講ずる措置のうち、安全に係るものに関すること
3.安全に関する計画の作成、実施、評価および改善に関すること
4.安全教育の実施計画の作成に関すること

 

衛生委員会で取り上げるテーマ・ネタの決め方

安全衛生委員会や衛生委員会を開催するにあたって、議題探しに悩んでいる場合は、以下の方法で話し合う内容を決めてみましょう。

  • 当番制で決定する
  • 社会全体で話題になっているテーマを取り上げる
  • 自社で困っている内容を取り上げる
  • 社内公募する
  • 年間スケジュールに沿って決める

当番制で決定する

議題の決定は、当番制にするのがおすすめです。毎回同じ人物が議題を決めていると、視点が固定されてしまい、会議そのものがマンネリ化してしまいます。

マンネリ化した結果、他のメンバーの積極性そのものが失われる可能性も出てきます。

当番制にすれば視点が固定化されず、常に新鮮な議題を取り上げられるでしょう。また、議題を決める役割を従業員全員が担えば、当事者意識をもって委員会に参加することが期待できます

当事者意識をもって参加するようになれば積極性が高まり、自発的な行動を取る姿勢も生まれやすくなります。

社会全体で話題になっているテーマを取り上げる

社会問題など世の中で話題になっているテーマを取り上げるのも選択肢の一つです。

たとえば、昨今ニュースでも頻繁に取り上げられているパワハラやセクハラは、労働環境のよし悪しに直結する問題です。社内規範や就業ルールで各種ハラスメントを抑制できないかなど、衛生委員会の議題として適しています。

また、働き方改革やマイノリティなどもテーマに向いていますいずれも従業員のストレス緩和やメンタルケアのヒントになる可能性が高いです。

自社で困っている内容を取り上げる

自社で困っている物事について取り上げるのもおすすめです。ストレスチェックの結果や健康診断の結果が思わしくない場合、安全衛生委員会の議題にして話し合うのも有効です。

また、社内コミュニケーションに関する問題も議題に向いています従業員同士のコミュニケーションが積極的に行われていれば、社内環境も自然とよくなります。

そのためにはどのような工夫をすればよいか、委員会で話し合ってみましょう。

社内公募する

当番制で議題を決定するのに限界を感じた場合は、社内公募で議題を集めましょう。委員会のメンバーとは異なる視点を取り入れられるため、従来であれば見逃されていた問題を発見できる可能性があります。

社内公募をする場合は、アンケート形式で意見を集めるのがおすすめです。社内メールを利用すれば集計がしやすくなります。

年間スケジュールに沿って決める

年間スケジュールに沿って議題を決める方法もあります。月ごとにテーマを決めておけば、議会で話し合うネタを見つけやすくなるうえに、ネタ被りも防げます

また、季節に合わせた議題選びもおすすめです。たとえば、冬場に流行するインフルエンザなどの感染症から従業員の健康を守るために、どのような対策が相応しいか話し合うのもよいでしょう。

その他に、9月の防災の日に合わせて通勤災害や交通事故の防止策を話し合うのも意義があります。

【関連記事】ネタがマンネリ化しがち…衛生委員会のテーマを決めるポイントは?

衛生委員会を業務改善に活かすには

衛生委員会や安全衛生委員会では従業員の声を直接反映できるため、事業者側は今現場で起きている課題を把握できます。

事業者は、その課題に対する産業医や多様な委員の意見を聴き、審議内容を事業者内で共有・実践することで、業務改善や解決策を検討・立案できます。

その結果を委員会で再度評価、審議することにより、業務改善のサイクルを継続的に回せるようになります。

意義のある衛生委員会を実施しよう

衛生委員会従業員の健康と安全を守るために必要な存在です。法律で定められているからと形式的に行うのではなく、明確な目的意識を持って実施しましょう。

また、意義のある委員会にするためには、事業者と産業医、従業員の連携が必要不可欠です。普段から従業員にアンケートを実施するなどして、意思の疎通がしやすい環境づくりを目指してください。

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Dr. ごろり

皮膚科医・産業医

某国立大学医学部医学科卒業。皮膚科医として大学病院、基幹病院勤務を経て、現在某国立大学院にて皮膚疾患に関する研究を行っている。皮膚科医としての診療経験から、病院での限られた診察時間だけでは病に苦しむ患者さんを減らすことは難しいと痛感し、予防医学の実践のため産業医としての活動を開始。現在は東証一部上場企業や某外資系大企業、地域の中小企業、中核病院まで、幅広い業種の約15社で嘱託産業医活動を行っている。Twitterでも健康についての情報を日々発信中。

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