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2020年6月1日に「パワハラ防止法」が施行されました。
パワハラを防止するための措置を義務づける法律ですが、ハラスメントと一口に言っても、昨今では多種多様なハラスメントが顕在化しています。
モラルハラスメント(モラハラ)もその一つです。
しかし、「モラハラ」と「パワハラ」の定義や違いをきちんと理解されている方は少ないのではないでしょうか?モラハラはパワハラと似て非なるものであり、人事担当者として、当然、画一的に議論することは望ましくありません。
ここでは、職場における「モラハラ」の定義から人事担当者が講ずべき対応策まで詳しく解説していきます。
モラハラとはモラルハラスメントの略であり、倫理を外れた嫌がらせを指します。
職場内での発生を例にとると、同僚間での嫌がらせなどがモラハラに該当し得るということです。
さらに、同僚間となると、目撃証言が得やすいパワハラと異なり監視の目が緩くなり、目が行き届きにくいという性質があります。
すわなち、モラハラは、名実ともに上下関係が存在しない者同士であっても発生し得ることから、母集団としては、パワハラよりも多くなる可能性を有しています。
モラハラは、パワハラのように職務上優越的な人間関係を背景とする必要がありません。
反対にパワハラは職務上優越的な人間関係を背景に業務場必要な程度を超えた言動等により労働者の就業環境を害することです。
尚、パワハラの場合(職務上優越的な人間関係)は、同僚と同僚、部下と上司の構図であっても、前者が後者に対し、明らかに職務上必要とする経験値を兼ね備えている場合、パワハラは成立し得るということになります。
モラハラは他のハラスメントと比較して会社の人事担当者も端的に説明できないことが多く、他のハラスメントと比較して、判例も少ないのが現状です。
しかし、お察しの通り、実務上、似た判例を参考にしようとしても、背景が全く同じ事件はありません。
ゆえに、目の前の事案に対して、事実を一つひとつ丁寧に確認し、誠実に対応することがトラブルを肥大化させないコツと言えます。
モラハラは暴力のような明らかな身体的な攻撃ではなく、言葉や態度で被害者を追い詰めていくものです。
そして、パワハラと比較して第三者から気づきにくく、特に密閉された部屋で行われた場合は目撃証言もなく信憑性がないと言われることもあるでしょう。
具体例として、忘年会の席で仕事上の話とともに「存在が無意味だ」、「いつまで経っても覚えが悪い」などの発言で被害者の精神状態を必要以上に陥れていくことです。
例えば、対顧客での対応において、不適切な対応があったのであれば、気づきを与えてくれる機会はあって然るべきといえます。
しかし、存在を否定するような発言は因果関係を立証するのは困難であり、発言の妥当性に欠けると言わざるを得ません。
職務上必要な会話であれば問題はありませんが、職務上必要な程度を脱線した会話(例えば身体的なコンプレックスなども含む)の場合、精神的に敏感な労働者の場合、強いストレスを感じることは想像に難しくありません。
モラハラがもたらす企業のリスクは3点あります。
まず1点目は、安全配慮義務違反です。
安全配慮義務とは、企業は労働契約に伴い、労働者が安全に労務の提供をできるように必要な配慮をしなければなりません。
これに違反することが安全配慮義務違反と言います。
モラハラを例にすると、同期入社の同僚同士でモラハラが起こっている事実を知っていながら何の対応もせず、そのまま放置している場合です。
その場合、義務違反として場合によっては、損害賠償責任が問われるということです。
同義務違反は過去の判例からも広く企業に科される義務であり、守っていないことのみをもって、会社側に責任があったと認定されます。
企業は労働契約に伴い、労働者が生命、身体などの安全を確保しつつ労働することできるよう必要な配慮をしなければなりません。(労働契約法5条)
この条文の「生命、身体などの安全」には、心身の健康も含まれます。
モラハラが事実上黙認されてしまうと、「何を言っても変らない・被害者を守ってくれない」と組織を見切ってしまい、離職を前提に考えることが予想されます。
また、モラハラが常態化してしまうと危機管理能力の欠如が見られます。
これは、甚大な被害に発展しなければ、「注意しなければならない」という感覚が喚起されないことです。
そこまでの状態となってしまうと、その職場に居続けるメリットを感じることは難しいでしょう。
既にモラハラによる被害を受けている場合、生産性が落ちていることが多く、組織への貢献度を感じ取ることができません。
具体例として、いつまた標的にされるかと疑心暗鬼にならざるを得ないストレス等、自身の能力を発揮できる環境とはとても言えません。
このような問題は、その時点で被害にあっている労働者だけが抱えるストレスに留まらず、次は、自分がそのような被害者になるのではないかと考えることも想像に難しくなく、そのような状態が続けばモチベーションも下がってしまうのは当然でしょう。
内勤の従業員から突然、同僚からモラハラを受け、心身ともに違和感を覚え、病院にかかりました。
そこで、従業員から「うつ病」、「1か月間の自宅療養を要す」と記載された診断書が送付されてきました。
しかし、本日納期の業務の為にその従業員は出社しています。
会社としてはどう対応すべきでしょうか?(病気休暇又は休職が整備されている企業にて)
いかがでしょうか?この場合、筆者は(1)を選択します。
診断書が出てきている以上、会社には安全配慮義務の履行が求められます。
少なくともこの時点では、業務を続けることによる安全性の判断がつきません。
終業時刻を待たずに病気休暇(又は休職)の手続きをすることが適切と考えます。
そして、モラハラ行為者とされる人物にすぐに連絡をするのは得策とは限りません。
まず、被害者に「内容を(どの程度・どこまで)開示して良いか」意向を確認すべきでしょう。
被害者の意向も確認せず、いきなり「モラハラの実態を調査する」などと先走る対応は(咄嗟に事実を隠蔽されるリスクもあり)明らかに望ましくありません。
よって、今回は、健康確保の観点から、被害者である従業員の作業を中断させ、話を聴き、病気休暇(又は休職)に入るように話をします。その際にどの程度・どこまで開示し、聴取しても良いかを確認したうえで関連部署の上司などと連携し、調査を進めましょう。
また、被害者の精神状態によっては、どのような言動があったか、又、調査の手法についての意向も聴取することが望ましいでしょう。
まず、モラハラには直接的な法的責任および罰則は明記されていません。
しかし、訴訟されるリスクは常に孕んでいます。
被害者、被害者の親族、又は被害者の遺族などが原告となり、会社を相手取り、法的な争いに発展するということです。
まず、放置とは非常に曖昧な表現とも言えるでしょう。
名実ともに義務の履行を果たさなかったことですが、以下の点が争点となります。
まずは、安全配慮義務違反です。
安全配慮義務違反は損害賠償請求の根拠となるもので、就業規則に明確に定めていなくとも信頼関係構築の上においても当然に科されるものです。
また、セクハラであれば男女雇用機会均等法、マタハラであれば育児介護法、パワハラであれば労働施策総合推進法が直接的な防止を図る法律です。
モラハラには直接的な法整備がなされていませんが、民法を適用し、民事上の不法行為と認定されるリスクがあります。
また、ハラスメントが発覚し、被害者から労働局へ通報が入ると、勧告、指導、企業名公表となります。
当然、情報化社会においては、レピュテーションリスク(批判的な評判)が生じ得るということです。
原則として、同僚間でも比較的、立場が上にある人が多いです。
つまり、対外的には職務上優越的な地位にないとされるものの、「実態」は同僚間で上に立ちたい(既に立っている)人です。
これらの者は上司との調整力に長けていることや、上司への「ご機嫌取り」も苦にならないことが多く、外堀から自分が優位に立てる環境を築いていく特徴があります。
モラハラは、パワハラと比較し、容易に判断し難いという性質があります。
よって、まずは、直感的に違和感を覚えた場合は、その後一定期間注視することが肝要でしょう。
前述のモラハラをしやすい人とは真逆で、大人しい性格であることや、言い争いの際に引いてしまうこと人が多い傾向にあります。
また、モラハラ被害者であるにも関わらず、自覚がないことや、無視されることを恐れ、必要以上に平然を装うこともあります。
モラハラ行為者は先に自身の優位な状況でハラスメントを実行することも多く、露見しにくい状況を作ることに長けています。
よって、第三者から情報を聴取するなどの点はパワハラと同じですが、パワハラより情報を掴むまでに時間を要することが多いのが特徴です。
モラハラ被害者が深刻な状況にまで陥ってからようやく人事担当者が状況を掴むといったことも珍しくありません。
まずは、相談窓口の設置が挙げられます。
窓口は被害者からの相談窓口と第三者からの通報窓口の機能も持ち合わせておきたいです。
相談窓口の設置は既に2020年6月施行の「パワハラ防止法」では大企業に設置の義務付けがなされていますが、「モラハラ」の場合、パワハラよりも発見が遅れる可能性が高いことから、むしろパワハラ以上に必要性が高いと言えるでしょう。
窓口の機能としては以下の3点は網羅しておきたい部分です。
相談窓口として、担当者ごとに異なる対応をしてしまうことは、リスクを未然に摘み取ることが難しくなり、また、従業員との信頼関係を築くことも難しいでしょう。
マニュアルの整備がなければ、企業として、たまたまその日にいた担当者の主観に依存した対応となってしまうことがあります。
窓口担当者の知見に差がある場合で、かつ過去に対応例のないモラハラ相談が寄せられた場合、窓口担当者の主観での対応となってしまい、適切な対応が取れるとは限りません。
そのような場合に、マニュアルが整備されていれば、一定レベルの対応が担保されていると言えるでしょう。
会社が「意識を変えてきた」と既にモラハラが発生している場合に、一定の抑止力への期待と実際にモラハラが発生する前にそもそも発生させないという会社としての意思表示を示すことです。
社内報の注意点として、モラハラ行為者が「見ていなかった」と主張することが予想されます。
社内報の発信に加えて、各部署の上長からもアナウンスをし、逆に見なかったことによる過失の存在を明確化しておくことが重要です。
モラハラが認定された場合に、そもそも懲戒規定が整備できていなければ懲戒処分にすることが難しいです。
また、規定変更に伴う周知ができていなければ、就業規則の有効性を否定されるリスクも生じることから、手続き面は抜かりなく進めておくことが適切です。
しかし、人員などの問題からパワハラ窓口と分けて設置するまでは必要ないと考えます。
自社のキャパシティーを考慮し、決定したい部分です。
まずは、人事担当者の主観で判断しないことです。
モラハラの認定は、あくまで客観的な調査に基づいて行われる必要があります。
主観で判断してしまうと、人事担当者が極端なバイアスに陥っていた場合、事情聴取が表面的又はスタート時点から的はずれの方向に進んでいることがあります。
客観的事実をもとに被害者の主観も考慮しながら、平均的・社会通念的な判断をしていくことが適切です。
そして、粛々と事実確認をしていきましょう。
周囲の目撃情報から実際に被害者に事情を聴取すると、被害者自身がそもそも被害を認識していない又は認めたくないというケースもあります。特に前者の場合、既にモラハラが常態化し、精神疾患の前兆である可能性も否定できません。
後者の場合は、学生時代に輝かしい実績を残してきた若手社員などは、自身の経歴に傷が付くことを嫌がり、事実を認めたくないと考えるケースもあります。
そのように就業環境が継続されるようでは、一定レベルの生産性が担保されているとは言えません。
被害に遭うことは必ずしも被害者に落ち度があるわけでもなく、又、能力が低いからということではない旨を話すべきでしょう。そして、産業医面談、直属の上司への情報の共有(事態を把握していない場合は急を要する)、配置移動の検討など次への一歩を踏み出すべきです。
企業には、安全配慮義務や職場環境配慮義務など、モラハラを黙認することができない義務が課せられています。
また、モラハラと認定されるまでは、決め付けでの聴取は避けるべきです。
万が一、周囲の誤認での通報があった場合は、逆に「偽ハラ被害者」として、人事担当者に「カウンターパンチ」が飛んでくる可能性も否定できません。
加害者と認定した場合は、自宅待機又は出勤停止などの措置が想定されます。
一般的に自宅待機であれば、職務命令であるため、賃金支払い義務を負っている点は留意すべきでしょう。
しかし、出勤停止(本来は懲戒処分に該当するが、加害者の今後の反省に期待し、一定期間出勤を停止させる)の場合は、賃金支払い義務はないと解されます。
また、対応に疑念を抱かれ、訴訟にまで発展した場合、「実態」はどうであったかが見られます。
よって、就業規則に全く規定が設けられていなかった場合などは出勤停止が否定され、遡って賃金支払い命令が下される可能性も考慮しておくべきです。
併せて就業規則の根拠条文の確認も進めましょう。
判例を参考にする場合において、おさえておきたい視点として、「背景が全く同じ事件はない」ということです。
法律には具体的な実務対応までは記載されていないことが多く、実務上は判例などから類推して対応を決めることもあるでしょう。参考にしながらも背景が異なる部分に画一的に論点を当てはめることは、必ずしも適切ではないということです。
被害者から診断書が提出された場合、基本的には、診断した医師は主治医と産業医に分かれます。
例えば「自宅療養2ヶ月を要する」などと記載があった場合、患者の職場環境は職務上の負荷の程度まで鑑みて記載すること事実上困難と言わざるを得ません。
しかし、産業医であれば、被害者の心理的負荷の程度と職場環境から想定される職務上の負荷の程度まで俯瞰しての判断が可能であるため。主治医より本質的な判断が可能であることが多いと言えます。
そして、業種のいかんに関わらず、常時50人以上の労働者を雇用する場合、産業医を選任しなければなりません。
しかし、形式的な選任にとどまらず、本質的な連携をし、被害を最小限で食い止め、企業の生産性の低下を防ぐ運営が適切です。
ここまで人事担当者として留意すべき点をご説明致しました。
モラハラは対外的には発覚し難い性質があり、被害が大きくなってから人事担当者に情報が入るというケースも珍しくありません。
気付けなかった自身を責めるのではなく、予め誰もが気づける環境を整備していくことが長期的・本質的にも人事担当者の職務であると考えます。
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50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け