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過重労働を防ぐためには?基礎知識と企業が取り組むべき対策

健康経営コラム編集部

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昨今、過重労働に関する問題が大きな注目を集めています。
大企業勤務の従業員が過重労働による過労死・過労自殺の事案が大きく報道されるにつれて、過重労働の問題点がクローズアップされ社会問題化しました。
また日本は先進国の中では年間労働時間・時間外労働時間ともに非常に長いこと、また年次有給休暇の取得率が低いことが調査の結果明らかとなっています。
これらを受けて国も過重労働対策に本腰を入れ始め、2019年には残業時間の規制を盛り込んだ労働基準法が改正されました。
今回は、過重労働と改正された労働基準法について詳しく解説し、健康被害から大切な従業員と会社を守る方法についてお教えします。
 

過重労働とは

過重労働の定義ですが、残念ながら法的にはっきりとしたものはありません(2020年8月現在)。
一般的には、不規則な勤務や頻繁な出張、そして労使協定で定めた時間外労働を大幅に超える状態で働くことを過重労働といいます。
このような働き方は労働者に身体的・精神的に過度な負荷を負わせ、過労死や過労自殺の原因となります。
後ほど詳しく解説しますが、実際に、時間外や休日の労働時間が増えると、脳疾患や心臓疾患、精神疾患など健康障害のリスクが高まることが知られています。
 
 

過重労働の基準は?

人差し指を立てる男性
1日あたり、または1ヶ月あたりどのくらいの時間働けば「過重労働」になるのでしょうか?
それを知るには、まず「労働者は1日あたり、もしくは1ヶ月あたり何時間まで働いてよいのか?」という法的な基準を知る必要があります。
この基準のことを法定労働時間といいます。
 

そもそも、法定労働時間とは?

法定労働時間は、1日あたり、また1週間あたり労働可能な時間の限度として、労働基準法第32条で以下のように定められています。

  • 労働時間:原則として1日に8時間以内、1週間に40時間以内(休憩時間を除く)
    (商業などの特例措置対象事業場では1週間に44時間まで)
  • 休憩時間:労働時間が6時間を超える場合は45分以上
    8時間を超える場合は1時間以上
  • 休日:毎週1日以上、または4週を通じて4日以上

 

過重労働のリスクにつながる目安時間とは?

過重労働の健康リスクにつながる「目安時間」とは、厚生労働省が過重労働による労働災害の適用に関して定めている一定の基準時間のことを指します。
つまり、時間外労働時間が目安時間の前後になれば、過重労働による労働災害のリスク(特に脳・心臓疾患発症のリスク)が高まると考えられます。
時間外労働の目安時間はおおむね月に80時間以上ですが、短期間でも非常に長い時間外労働(おおむね100時間以上)を行っている場合には、脳・心臓疾患の発症リスクが高いことが知られています。
具体的には以下の基準を満たすと、業務と発症の関連性が高いとされています。

  1. 1.脳・心臓疾患の発症前2ヶ月間ないし6ヶ月間にわたって、1ヶ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働があった場合
  2. 2.脳・心臓疾患の発症前1カ月間におおむね100時間を超える時間外労働があった場合

 

過重労働者は、医師による面接指導が必要

労働安全衛生法第66条の8により、時間外・休日労働時間が1ヶ月当たり100時間を超える長時間労働者のうち、申出を行ったものについては、医師による面接指導が義務付けられています。
面接指導は、長時間の労働により疲労が蓄積し健康障害発症のリスクが高まった労働者について、その健康の状況を把握し、これに応じて本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた措置を講じるものです。
面接指導を行う医師は、産業医の要件を備えた医師であることが望まれます。
 
 

過重労働と労働基準法の関連は?

過重労働を減らすために、労働基準法が2019年4月に改正されました。改正前後の法律を比較すると、以前はなかった罰則規定を新たに盛り込むなど、企業側に時間外労働を削減するために一歩踏み込んだ施策を取るよう求める内容となっています。その主な内容が「時間外労働の上限規制」です。
 

時間外労働の上限規制

2019年4月に行われた労働基準法の改正では、残業時間の上限規制が法制化されました。大企業の場合は2019年4月1日から新しい規制に従った労働時間の管理が必要です。
一定の基準を満たしている中小企業であれば、法改正の適用を2020年の4月1日からに遅らせることができます。
2019年3月31日を含む期間について締結された36協定は、経過措置として1年間有効とされました。次に、法改正で変わった点を簡単にまとめていますので、参考にしてみてください。

改正前

 

  • 労働時間の上限は事実上なし。(大臣告示による残業時間の上限は月45時間/年間360時間でしたが、労働基準法36条に書かれていた時間外労働についての労使協定(通称「36(サブロク)協定」を締結すれば、労働時間の上限を超える労働が許されていました。)
  • 違反した場合は行政指導のみ。罰則なし。

改正後

 

  • 法律で残業時間の上限を定め、これを超える残業はできない。
  • 労使の合意があっても上記の上限を超えることはできない。
  • 残業時間の原則は、従前どおり月45時間/年間360時間まで
  • 特別な事情があって労使が合意していても、年間の残業時間は720時間以内
  • 複数月の時間外労働時間が平均80時間以内(休日労働を含む)
  • 月100時間未満(休日労働を含む)
  • 月45時間を超えていいのは年間6ヶ月まで
  • 違反した場合は罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)あり

 

過重労働のリスク

過重労働を法律で厳しく規制するようになったのは、長時間労働と健康被害の関係が明らかになってきたからです。
 

身体的な健康障害のリスク

過重労働は、さまざまな健康障害の原因となります。特に生命の危険と直結するとともに労働生産性を大きく低下させるのが、脳・心臓疾患の発症です。
過去1ヶ月間の労働時間が 1週間あたり61時間以上(1ヶ月間の時間外労働に換算すると約80時間以上)になると、1週間あたりの労働時間が40時間以下(1ヶ月間の時間外労働に換算すると0時間)の場合に比べて、心筋梗塞を発症するリスクが1.9倍になるという報告もあります。
過重労働による健康障害としては、脳・心臓疾患以外にも胃十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、腰痛、月経障害など、さまざまなジャンルの疾患が挙げられます。
一見関係のなさそうな職場での事故や怪我なども、長時間労働が一因になっている場合があります。
【出典】Liu Y, et al. Occup Environ Med 2002;59:447-451.
 

精神障害の発症

過重労働で発症するのは身体疾患だけではありません。
長時間労働や交代勤務、出張などの不規則勤務が多い労働者は精神的な負担が増加している場合が多く、心の不調が生じる可能性があります。
長時間労働者は睡眠時間が不足していることが多く、睡眠不足による疲労の蓄積が心身ともに大きな負担となっています。
実際に、精神障害による労災受給者は年々増加しており、2017年度時点の労災認定件数は506件と、2007年の268件と比較し10年間で1.88倍に増加しており、現在も減少傾向は見られていない状況です。
精神障害による労災受給者
【出典】厚生労働省:平成29年版過労死等防止対策白書
 

自殺・過労死

過労死とは、過重労働が原因の疾患による死亡または自殺のことです。
過労死防止対策推進法では、過労死を「業務における過重な身体的若しくは精神的な負荷による疾患を原因とする死亡(自殺による死亡を含む)又は当該負荷による重篤な疾患をいう」と定義しました。
2019年には年間174件が過労死として労災認定されましたが、これらは氷山の一角とされています。
仕事による過労・ストレスが原因の一つとなって精神疾患等を発病し、自殺に至ることを特に「過労自死」と呼ぶこともあります。
2018年の日本の自殺者数は20,840人でしたが、このうち勤務問題を原因・動機とした自殺者の割合は約9.7%と年々増加傾向にあります。

勤務問題を原因・動機とした自殺者の割合

【出典】警視庁:平成30年中における自殺の状況
 
 

過重労働者を発生させないために

ガッツポーズする社員
過重労働は、心身ともに深刻な健康被害を及ぼします。健康被害を防ぐためには、過剰労働をなくすことが一番の近道です。ここでは過重労働を少しでも減らすための方策についてご説明します。
 

労働環境の見直し・改善を図る

過重労働を減らすには、労働環境の根本的な見直しが必要です。まず自社の長時間労働がどのような状況で起こっているかを知ることで、それに対する対策を立てることができます。
まずは従業員の正確な労働時間を知るために、勤怠管理システムの導入を検討したいところです。
昔ながらのタイムカードでは、打刻忘れなどが容易に発生するため、勤怠の実情を知るには不向きです。
その他、従業員アンケートやヒアリングのほか、各部署の業務の棚卸しを行います。長時間勤務が集中している部署がないか、部署間での作業量の偏りはないか、非効率な業務や会議がないかなど、業務内容全般についての改善点を洗い出します。
また、社内レイアウトの改善も有効です。資料探しなどに時間を取られることなく、効率の良い働き方を推進することにつながります。
また、固定デスクを廃止しオープンデスクとすることで、他部署間の交流が進み、業務効率が上がったという例もあるようです。
一般的な企業でよく見られる過重労働につながりやすい3つの問題点について、少し解説を加えておきます。
 

過重労働者の業務量を見直す

 
部署単位の作業量のチェックや見直しも大切ですが、一人あたりの業務量を確認しておくことも重要なポイントです。仕事ができる人ではなく、残業を断れない人に業務が集中していることもあります。
業務量に対し人材が根本的に足りていない場合もありますし、全体で見ると人材は足りているものの、部署の縦割り意識が強く、流動性がないために効率が低下している場合もあります。
全体を俯瞰する視点で一から業務を見直し、必要に応じて業務の棚卸しや統廃合・標準化に加え、人材再配置や新規採用などの対策を取りましょう。
 

マネジメント不足に陥っていないか確認

 
一人に業務が集中している部署では、管理職のマネジメント能力の不足が原因となっていることも多々あります。管理職に対しては、マネジメント研修、管理責任の明確化、人事制度の見直しなどを通して、過重労働に対する意識を高めていく必要があります。
 

企業風土の見直し・改善を図る

 
過重労働対策を行う上で見逃せないのが、企業風土の改善です。
日本には昔から、残業を美徳とし、長時間労働を良いものとする企業風土があります。逆にいうと、効率良く仕事をするから残業をしない「仕事ができる」従業員への評価が低いともいえます。
また従業員側も、残業手当を目当てに無駄な残業をしているという事例が見られます。
まずは社長をはじめとした上層部の意識改革が求められます。
従業員に対しては研修での意識改革、評価制度の見直し、効率性へのインセンティブなどを並行して行うのが理想的です。削減できた残業代を従業員に給料で還元することも即効性のある残業対策です。
 

会議体を見直す

 
企業風土の問題は、無駄な朝礼、物事が決まらない会議・打ち合わせ、またそのための資料作成など、日本特有の非効率な業務展開にもつながっています。
会議についてはゴールを決めること(事前のアジェンダ)、時間や参加人数を制限すること、進行役のファシリテーション技術の向上など、会議の質を上げることを検討してみてください。
いっそのこと会議や打合せを一度やめてみると、意外と業務の進行には関係なかったことがわかるかもしれません。
 

リモートワーク下における、過重労働対策

リモートワークでは労働時間の管理が重要です。仕事ぶりを間近でチェックする人がいないため、長時間労働になりやすいのです。
システムのログインなどで勤怠管理、時間外のアクセス制限、メール送付時間の適正化(深夜・休日など時間外にメールを送らない)など、リモートワークならではの対策を適切に講じる必要があります。
 

時間外労働削減の好事例

ここでは、実際に企業で実施されている労働時間削減のための取り組みについてご紹介いたします。以下、厚生労働省の「時間外労働削減の好事例集」によると、実際に実施されている取り組みとして多いものは以下の3点です。

  • 従業員間の労働時間の平準化
  • 残業を事前に承認する制度
  • 従業員の能力開発の実施や自己啓発の支援

時間外労働削減の好事例集

【出典】厚生労働省:時間外労働削減の好事例集
様々な取り組みのうち、実施している職場と実施していない職場を比較した結果、実際に実労働時間短縮に効果があった取り組みは以下の2点でした。

  • ノー残業デーやノー残業ウィークの設置
  • 労働時間適正化に関する従業員向けの教育の実施

時間外労働削減の好事例集

【出典】厚生労働省:時間外労働削減の好事例集

事例1:自分で決める「ノー残業デー」と業務効率の向上目標で時間外労働を抑制

事業所プロフィール
企業名・事業所名
B社・b事業場
事業内容
運送業
従業員数
9名(うち、正社員6名)
所在地
群馬県太田市
勤務形態
9:00~18:00。週休2日制
  • 課題:時間外労働が多い。
  • 対策:
    • ①各自が自分の都合で「ノー残業デー」を決める
    • ②業務効率向上の目標を設定した計画書を作成、進捗状況は上司がチェック
  • 結果:時間外労働が減った。

B社では、各自がそれぞれ週1日、自分の都合に合わせてノー残業デーを設定しています。個人によって業務内容、進捗状況はそれぞれ異なるため、自らが休みやすく業務に支障をきたさない日を設定できます。
ノー残業デーは職場の一覧表で全員分を管理しており、「ノー残業デーを決めたけど他の人と被ってしまったので当日返上した」ということがありません。気兼ねなく休めるようになったと好評です。
また、業務効率向上の目標も自ら設定しています。半年に一度、各自が今の業務上の課題を抽出して、「どのようにしたらよくなるか」「何を変えたらもっと仕事が早く進められるか」を考えて計画書を作成しています。
計画書には目標達成のための具体的な手段や達成可否の判断基準を盛り込み、進捗状況については1か月に1度上司のチェックを受けています。

事例2:トップダウンで業務改善の取組「5S」を推進、残業の事前申請制度を導入

事業所プロフィール
企業名・事業所名
D社・d工場
事業内容
食料品製造業
所在地
茨城県
勤務形態
スタッフ
8:00~16:30 週休2日制
現場(交代制)
①6:00~14:30
②13:30~22:00
③21:30~6:30
  • 課題: 時間外労働削減に向けての足並みが社内でなかなか揃わない
  • 対策:トップダウンで残業の事前申請制度の導入と業務改善の取組を推進
  • 結果:以前は1ヶ月あたり30時間以上あった時間外労働が半分以下に減少

D社ではスタッフが週休2日制、現場は3交代制の24時間勤務で、時間外労働削減に向けての足並みが社内でなかなか揃わない状況でした。
そこで、社長と工場長がトップダウンで残業の事前申請制度の導入と業務改善の取組「5S」を推進することとしました。
業務が終了せず本日は残業が必要と考えた従業員は、時間外労働申請書を上司に提出します。
上司は内容を検分し、残業してでも本日行わなければならない業務かどうかを見極め、残業の可否を決めます。
申請書をやり取りすることで、上司は部下が抱える仕事の量や進捗状況を把握し、部下は無意味な残業を減らすことができます。
できるだけ残業時間を減らすため、仕事に優先順位をつけることができるようになり、日中の仕事の効率も上昇しました。
工場では整理・整頓・清掃・清潔・しつけの「5S」を徹底しました。職場がきれいになり動線が明確になることで、作業効率が明らかに上昇しました。
「5S」が習慣化されるにつれ従業員の意識も変わり、無駄を排除し時間管理が徹底されるようになりました。
以上の施策で、以前は1ヶ月あたり30時間以上あった時間外労働が半分以下に減少しました。

事例3:管理職の人事評価と部下の時間外労働時間を連動させ、長時間労働を削減

事業所プロフィール
企業名・事業所名
株式会社ミートサプライ・草加工場
事業内容
食料品製造業(食肉加工)
従業員数
90名(うち、正社員8名)
所在地
埼玉県八潮市
勤務形態
8:15~17:00を基本的な就業時間とする。週休2日制
  • 課題:取引先からの注文量の増減など、外部要因による業務量の増減がある
  • 対策:管理職の人事考課の項目に、部下の時間外労働を組み入れる
  • 結果:管理職はできるだけ時間外労働が出ないように部下の指導に注力

時間外労働の削減に管理職の人事考課を利用したのが、株式会社ミートサプライです。
取引先からの注文量の増減など外部要因による業務量の増減がある中、管理職の人事考課の項目に部下の時間外労働を組み入れ、削減へのモチベーションが高まる仕組みを作りました。
残業は事前申請制度となっており、管理職が実施状況まで含めて管理を行っています。
時間外労働が多い部署は、管理職が会社に伺い書を提出するルールとなっており、管理部門から改善措置を取るよう指示が出ます。
部下の時間外労働が管理職の人事考課に含まれており、評価や褒賞にも影響が出ることから、管理職はできるだけ時間外労働が出ないように部下の指導に力を入れています。
【参考】厚生労働省:時間外労働削減の好事例集
 
 

過重労働対策は、産業医と協力を

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