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ラインケアは、企業の管理職などが実践するメンタルヘルス対策です。過剰なストレスからのメンタル不調者が増加している昨今、従業員に直接接する管理職はメンタルヘルス対策の中でも重要な立場にあります。今回は、ラインケアについて管理職がどう取り組むべきかを解説します。
2022年に行なわれた厚生労働省の調査では、「仕事や職業生活に関することで、強いストレスになっていると感じる事柄がある」と答えた労働者の割合は82.2%でした。前年の調査では53.3%だったことから、ストレスを抱える労働者が急増していることがわかります。ストレスが引き金となってメンタルヘルス不調になるケースもあるため、企業は従業員のメンタルヘルスケアに注力する必要があるといえます。
出典:厚生労働省「令和4年 労働安全衛生調査」
ラインケアとは、厚生労働省が定める「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に示される4つのケアのうちの一つです。
職場のメンタルヘルスを良好に保つためには、本人を含め、本人を取り巻くさまざまな側面からの取り組みやサポートが求められます。中でもラインケアは、事業監督者によるメンタルヘルス対策です。管理監督者には、事業者から部下を管理することが求められているため、安全配慮義務に努める必要があります。メンタルヘルス対策として、従業員(部下)と直接関わる上司層の取り組みは、企業内でも重要な位置づけにあるといえます。
メンタルヘルス対策として推奨されているのは、「セルフケア」「ラインケア」「事業場内産業保健スタッフらによるケア」「事業場外資源によるケア」の4つです。ラインケアの詳細に入る前に4つのケアを確認しておきましょう。
セルフケアとは従業員自らが主体となって実践するメンタルヘルス対策です。例えば、ストレスについての理解、ストレスチェック、ストレス緩和・解消に向けた適切な対処などが当てはまります。事業者は従業員に、セルフケアが適切にできるように研修や情報提供を行うなどの支援をすることが重要です。
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当記事のテーマとなる、事業者や管理職など組織管理者によるメンタルヘルス対策です。例えば、部下からの相談への対応や、部下が休職から職場復帰する際の支援などが当てはまります。
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事業者や従業員が、産業保健分野の専門家とは限りません。そこで頼りになるのが産業医や保健師などの専門職や、産業医などの助言や指導を受けながら、事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務を担当する従業員です。
セルフケアやラインケアが効果的に実施されるように支援し、企業のメンタルヘルス対策の立案や事業所外の専門医療機関などとの連携も行います。
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事業所外の専門機関や医療機関などからの支援を受けるメンタルヘルス対策のことです。事業場内産業保健スタッフへのメンタルヘルス情報の提供、企業に病状などを知られたくない従業員などからの相談にも対応します。事業場外資源の例としては、産業保健総合支援センターや、労働衛生コンサルタント、公認心理師、精神保健福祉士、産業カウンセラー、臨床心理士などの専門職、精神科、心療内科の医療機関が挙げられます。
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EAPとは?メンタルヘルス対策としての概要や導入メリットを解説
【出典】
厚生労働省:職場における心の健康づくり
職場におけるメンタルヘルス対策として、重要なのは一次予防です。一次予防にしっかり取り組むことで、メンタル不調を未然に防ぐことができます。
小規模の事業場、部署、チームであれば、従業員一人ひとりの変化に気付きやすいですが、従業員数が増えれば増えるほど、変化に気付きにくくなってしまいがちです。このため、従業員の上司がラインケアを実践し、メンタルヘルス不調の兆しを捉えることが重要となってきます。
出典:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策について」
メンタルヘルス対策でラインケアを実施することで、従業員や企業にとってメリットがあります。それぞれについて解説していきます。
ラインケアを実施することで、従業員のメンタルヘルスを良い状態に維持することが期待できます。
管理監督者がラインケアを実施することで、部下が抱える課題に対して、適切な対処方法を伝えられるため、従業員のメンタルヘルスの課題解消につながります。部下が一人でストレスや不安を抱えずに済むので、良好なメンタルヘルス状態を維持できることが期待できます。従業員が心身ともに健康に働ける環境は、生産性向上にもつながるため、企業にとっても良い影響があると考えられます。
ラインケアを行うことで、企業に課せられている安全配慮義務を遵守することができます。
従業員が業務や職場環境を起因としたメンタルヘルス不調に陥った場合、法令違反を指摘される可能性があります。安全配慮義務を遵守するにはあらゆるアプローチ方法がありますが、上司が部下に直接働きかけられるラインケアはその1つといえます。
前項でも触れた通り、ラインケアを実施することで従業員の良好なメンタルヘルスの維持が期待でき、安全配慮義務を遵守することができます。この結果、従業員の生産性向上、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことにつながります。ラインケアに取り組むことで、企業の健康経営を推進することができ、企業の業績アップや発展が期待できると考えられます。
次に、ラインケアにおける具体的な取り組みについて解説します。
ラインケアは、これまでお伝えしてきたように、メンタルヘルス対策における管理監督者が担う取り組みです。管理監督者とは、いわゆる「管理職」のことで、部下を持つ立場の人を指します。
管理監督者には、部下に対して指揮、命令、評価する権限が与えられるとともに、従業員の健康に気を配ることも求められます。部下と接する中で、懸念される変化やストレス要因に気付いた時は、状況や環境の改善に取り組まなければなりません。部下からの相談にも対応します。
ときには、産業医など専門スタッフへの相談を促したり、あるいは、本人に了解を得た上で専門スタッフのアドバイスを受けたりすることも必要です。
各事業所は、管理監督者がメンタルヘルスケアについての十分な理解のもとにこれらの支援を実行できるよう、教育研修の実施やメンタルヘルス関連の情報提供をしておきましょう。
メンタルヘルスに関する問題は、部下の状態が「いつもと違う」ということに、できるだけ早く気づくことが大切です。いち早く変化に気づくには、部下の健康な状態を把握しておく必要があるので、日頃から、行動パターンや人間関係などは知っておくとよいでしょう。
特に部下の「勤怠」「仕事」「行動」については、以下のポイントに注意してください。もし、いつもと違う様子が見られたら、「睡眠時間は取れている?」「休みの日は趣味を楽しめている?」というように積極的に声をかけるようにしましょう。
欠勤や遅刻・早退の頻度が目安になります。無断欠勤があった時は要注意です。
また、残業や休日出勤が増えている部下の状況も注視しましょう。
ストレスが過剰になると、業務進捗の遅れや業務の結果が出せないといった状況が起きがちです。報告や連絡が滞ることもあります。職場での会話が減った、あるいはいつもより多弁になった時もストレスにさらされているサインかもしれません。
表情やあいさつなどにも変化が表れやすいです。ストレスや体調不良があると、服装や身だしなみに意識が行き届かず、不潔な状態や乱れた状態になるかもしれません。また、不自然な言動やミス・事故が目立つようになったら要注意です。
部下が、身近な上司に相談を持ちかけることはよくあります。日頃から気軽に相談できる関係性を築いておくことが大切です。部下から相談を受けた際の対応のポイントを解説します。
部下に関心を持ち、積極的に話を聴きましょう。じっくり時間を取って向き合い、傾聴の姿勢が部下に伝わるよう振る舞うことも大切です。部下の言葉を批判したり、話の途中で割り込んだりせずに最後まで聴きます。
聴き終えた後に注意したいのが、自分や会社の意見を押し付けることです。本人と同僚を比較して意見を述べる、本人のミスや失敗を強調する、ポジティブ思考の強要になる言葉がけは逆効果です。部下本人の話をまずは受けとめるよう努めましょう。
また、部下から話を聴く環境にも配慮しましょう。会話の内容が漏れない、周囲の声が入ってこない会議室を手配し、気兼ねなく話せる環境を整えるのも上長の努めです。
自身のことを産業医などに相談したくないという人もいます。その場合は、上司が「自分が代理で産業医などに相談してみてもいいか」を部下に確認してみましょう。了承を得られたら、産業医からのアドバイスに沿って、対応していくことをお勧めします。
特にメンタルヘルスに関する問題は個人情報への配慮が必要です。管理監督者は、部下の健康情報を含む個人情報の保護と、部下の意思の尊重に努めなければなりません。情報の収集・管理・使用には、本人の同意が必要です。相談されて聞いた情報についても、管理を徹底しましょう。
職場にはさまざまなストレス要因が存在します。管理監督者は職場環境に対してどのような対応や取り組みを実施すればいいのでしょうか。
まず、職場でのストレス要因を確認しましょう。
仕事のストレスは、仕事量や責任など「仕事の要求度」と「仕事の自由度」、のバランスがポイントとなるという説があります。特に、高ストレス状態にしないためには、部下への仕事の要求度に見合うように、部下の仕事の自由度を上げることが重要です。また、周囲の協力や支援が得られにくいと、ストレスが高くなる傾向があるとされています。
また、本人の努力に見合う承認・ねぎらいがないと、ストレスフルになるといわれています。
ストレス要因を特定したら、できるものから改善していきましょう。
職場のストレスの要因としては、以下のようなものも挙げられます。
これらがストレス要因だとわかった場合は、できるだけ早い改善が求められます。従業員からの意見聴取やストレスチェックなども貴重な情報源となるでしょう。
仕事で経験する多少のストレスは、人を成長させたり、職場を活性化させたりします。しかし、過剰なストレスは、従業員に健康上の問題だけではなく、職場全体の業務や生産性にも悪影響をもたらす可能性があります。
従業員が過剰なストレスを抱える状態を防ぐためにも、組織として職場環境のストレス要因を取り除いていく努力が必要です。
ここで、職場環境を改善するための取り組みを5つのステップに分けて説明します。効果を上げるには、職場全体で取り組んでいくことが重要です。
1.職場環境の評価(現状把握)
まずは、職場環境の現状を把握することが先決です。日常的な管理監督者の観察、産業保健スタッフによる職場巡視、個々の従業員からのヒアリング内容も状況判断の材料となります。また定期的に実施するストレスチェックの集団分析の結果も参考にしましょう。
2.職場環境改善のための組織づくり
職場環境の改善には、産業医や産業保健スタッフだけではなく、職場の責任者や管理職の協力が不可欠です。当該職場の上司、産業保健スタッフを含めた職場環境改善のためのチームを編成します。責任者や管理職に対して、職場環境の改善に関する教育研修などを実施した方がいいケースもあります。
3.改善計画の立案
編成したチームで、職場環境の改善計画を検討します。上司層や従業員など現場の声をよく聴き、ストレス要因となっている可能性がある問題を具体的にリストアップしましょう。これらの問題に対して、職場やチームで議論し、改善計画を作ります。計画立案を支援するツールも開発されているので、必要に応じて活用してください。
【計画立案の支援ツール】
・メンタルヘルスアクションチェックリスト
・メンタルヘルス改善意識調査票(MIRROR)
・快適職場調査
4.計画・対策の実施
改善計画を実行し、その進捗状況を確認します。改善の実施が従業員の負担になっていないか、円滑に実施されているかも含め、継続的にチェックしましょう。あらかじめ、状況や結果、効果について共有できる発表会などを計画しておくことをお勧めします。
5.実施した改善・対策の効果評価
改善が完了したら、その効果を評価しましょう。評価ポイントは「プロセス」と「効果」の2点です。プロセスについては、計画通りに実施されたかどうか、されていない場合は何が原因になったかを評価します。効果については、目標としておいた指標が改善できたかどうかを見ましょう。
項目によっては結果が出るまでに、数年以上の時間を要するものもあります。評価は長期的に行いましょう。なかなか改善が見られない点については、計画を見直すことも必要です。
メンタルヘルスの不調によって休業した従業員が職場に復帰する際にも支援・サポートが必要です。休業前と同じような不調が再発しないよう、上司がしっかりバックアップしていきましょう。
しばらく休職していた部下が職場復帰したとき、不調になる前と同じ仕事量を与えるのは早計です。病状が回復し、業務に支障がないように見えても、本人にとって大きな負担となります。
休業から復帰した直後の本人は、職場の人たちからどう思われているのか、発病前のようにきちんと仕事がこなせるのか、再発してしまうのではないかとさまざまな不安を抱えています。
「上司は自分のことをわかってくれている」と感じられるよう、こまめな声かけをすることが大切です。上司と復職者が信頼関係を築けていると本人だけでなく他の部下たちの緊張も和らげるでしょう。
職場復帰者への支援として管理監督者が理解しておきたい3つのポイントを解説します。
1.復帰後の業務・配置
原則的には休業前と同じ職場・業務に復帰させます。ただし、職場内に不調の要因があった場合は配置変換が有効なこともあるので考慮が必要です。
2.適切な業務の割り当て状況確認
主治医や産業医の見解を踏まえ、復帰者の状態を考慮した業務を与えます。また、本人の状況を確認する時間を設けましょう。
3.定期/継続通院への理解
復帰後も定期的な通院加療を続ける人が多いため、通院時間を確保できるようにしましょう。
【出典】
厚生労働省:職場における心の健康づくり
厚生労働省 こころの耳:管理監督者メンタルヘルス研修のマニュアル
管理監督者の知識レベルを均一化するために、資格取得してもらうのもいいでしょう。
ラインケアに関する資格に「メンタルヘルス・マネジメント検定試験」があります。働く人たちの心の不調を未然に防ぎ、活力ある職場づくりを目指して、メンタルヘルスケアに関する知識や対処法を取得することを目的とするものです。メンタルヘルス・マネジメント検定試験には、次の3種のコースがあります。ラインケアコースはⅡ種に該当します。
出典:大阪商工会議所「メンタルヘルス・マネジメント(R)検定試験」
ラインケアについて、管理職の理解や積極的な実行を促すには教育研修の実施が有効です。
ラインケア研修の最終的な目的は、管理監督者の行動変容です。
最低限、以下の3点については、受講者が必要な技術、知識を習得できることを目指しましょう。
①事業場のメンタルヘルスの方針と体制の理解
②心の健康についての正しい知識
③事業場ごとで必要な項目
研修の内容としては、厚生労働省は以下の項目を推奨しています。
① メンタルヘルスケアに関する事業場の方針
② 職場でメンタルヘルスケアを行う意義
③ ストレス及びメンタルヘルスケアに関する基礎知識
④ 管理監督者の役割及び心の健康問題に対する正しい態度
⑤ 職場環境等の評価及び改善の方法
⑥ 労働者からの相談対応(話の聴き方、情報提供及び助言の方法等)
⑦ 心の健康問題により休業した者の職場復帰への支援の方法
⑧ 事業場内産業保健スタッフ等との連携及びこれを通じた事業場外資源との連携の方法
⑨ セルフケアの方法
⑩ 事業場内の相談先及び事業場外資源に関する情報
⑪ 健康情報を含む労働者の個人情報の保護等
それぞれの具体的な研修内容については、厚生労働省 こころの耳でダウンロードできる「管理監督者メンタルヘルス研修のマニュアル」を参考にしてください。
【出典】
厚生労働省:職場における心の健康づくり
厚生労働省 こころの耳:管理監督者メンタルヘルス研修のマニュアル
ラインケアは、企業のメンタルヘルス対策の中でも重要な取り組みです。ラインケアに取り組むことで、上司が部下に直接働きかけることができるため、メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応につなげることができます。
ラインケアを実践するためにも、企業は産業医と連携を図り、管理監督者向けにラインケア研修を実施したり、該当者への労働環境に配慮したりするようにしましょう。メンタルヘルスの状態によっては、産業医面談を実施するなど、個々人へのフォローも欠かさずに行いましょう。
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