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産業医の「名義貸し」が企業にもたらす3つのリスクとは?

森賀麻由良(もりか まゆら)

産業医・循環器内科医

某国公立大学医学部医学科卒業後、循環器内科医として20年以上のキャリアを積む。 現在は総合病院循環器内科に勤務しながら、2020年より本格的に産業医業務に従事している。 現在は、東証一部上場企業をはじめ複数の企業の嘱託産業医として産業保健活動に携わる。 高血圧をはじめとした生活習慣病の予防と管理から、過労死を減らすことを目標として活動中。

2019年4月に施行された働き方改革関連法により、産業医の権限が大幅に強化されました。それとともに産業医が企業で果たすべき役割も非常に大きなものとなっていますが、時代の流れについていけない企業や産業医の間で「名義貸し」が横行しています。
産業医の「名義貸し」は、本来行うべき従業員の健康管理が適切に行われないばかりか、「名義貸し」が発覚することによって企業のイメージが大幅に毀損され、ビジネスにも大きな悪影響を与えることにもなりかねません。
今回は、そもそも産業医の「名義貸し」とは何か、どうして「名義貸し」状態になってしまうのか、また「名義貸し」産業医を選任し続けることの3つのリスクについて説明するとともに、自社にあった適切な産業医の探し方などについてご紹介します。

産業医の「名義貸し」状態とは

「名義貸し産業医」とは、産業医として選任されているのに産業医業務を十分にしない「名前だけの産業医」のことです。
産業医の「名義貸し」状態は、法律に違反しています。厳密にいうと、名義を貸していること自体ではなく、産業医が「労働安全衛生法」で定められた業務を行わないことが労働安全衛生法違反となってしまうのです。

具体的には、以下のような産業医が「名義貸し産業医」であると言えます。

  • 書類に押印だけ行い、そもそも企業を訪問しない
  • 訪問しても職場巡視を行わず、部屋で雑談して帰ってしまう
  • ストレスチェックを実施しない、もしくは実施後の高ストレス者への面接指導を行わない
  • メンタル面に問題がある従業員への対応を行わない

なぜ、産業医の「名義貸し」が起きてしまうのか?

では、どうして産業医の「名義貸し」が起こるのでしょうか?これには、企業側と産業医側、双方に問題がある可能性があります。

人事・労務担当者が違反に気付いていない

産業医の業務には、従業員の健康状態のチェックやそのことに関する相談や指導、メンタル面のチェックや職場の衛生環境の確認など、さまざまな業務があります。
産業医には、職場巡視など労働安全衛生法などの法律で定められた業務もありますが、これまで産業医を選任したことがない、もしくは名義貸し産業医に業務を委託していた企業では、人事・労務担当者が違反に気付いていないことがあります。

産業医が職務範囲を認識していない

働く人の健康を守るため、ここ10年あまりの間で産業医に求められる役割は非常に大きくなっています。心身に負担を抱える従業員を早めにケアするために、ストレスチェックも法令で義務化されました。
某大手企業の過労死事案を契機とした働き方改革は、労働者の健康管理に対する社会のあり方をさらに大きく変えました。2019年4月に施行された労働安全衛生法により、産業医の権限はさらに大きくなるとともに、企業からの独立性・中立性が高まっています。
ところが、同じ企業で長年産業医をしている医師の場合、職場巡視やストレスチェックが法律上の義務であることなど、自分の職務範囲についてきちんと理解していないケースが考えられます。さらに精神科医ではないからなどの理由で、ストレスチェックはもちろんのこと、メンタル面に問題を抱える従業員への対応を拒むケースも散見されます。
このような産業医を選任し続けていることは、結果的に「名義貸し産業医」を作り出していることになります。

コストを抑えるために、企業と産業医が共謀している

悪質なケースでは、産業医へ支払う報酬を抑えるために業務内容を絞るよう、企業と産業医が示し合わせていることがあります。企業側には相場より安い報酬で法律上の選任義務を果たせるメリット、産業医側は名義を貸すだけで少々の収入が得られるメリットがあります。このケースは、「法規定されているため」、「罰則金を払わないようにするため」、「安全配慮義務違反にならないようにするため」に、とりあえず選任すれば良いという従業員の健康を守る意識の低い企業と、少しでも楽をして報酬が欲しい産業医側、双方の意識の低さに大きな問題があります。

なぜ、産業医の「名義貸し」が発覚するのか?

産業医の「名義貸し」が発覚する理由のほとんどは、労働基準監督署(以下、労基署)による立ち入り調査です。

立ち入り調査には「定期監督」と「申告監督」の2種類があります。

・「定期監督」
通常調査。ランダムに選出された企業に行われる調査で、事前に立ち入り日時が通知されます。調査に備え、あらかじめ必要な資料を揃えておくことができます。

・「申告監督」
労働安全衛生法や労働基準法などが守られていないなどの内部告発があった際に行われる調査。証拠隠滅の危険を防ぐために、抜き打ちで行われます。情報提供者を守るため、時には「定期検査」という名目で検査に入ることがあります。

産業医の「名義貸し」3つのリスク

一見すると企業側にも産業医側にもメリットがあるように見える産業医の「名義貸し」ですが、発覚した場合にはそれらのメリットをはるかに凌駕するリスクが存在します。産業医の「名義貸し」によるリスクは、長期間にわたって企業に影響を及ぼします。場合によっては企業の存続にも関わるほど大きなものです。次に、産業医の「名義貸し」が企業に及ぼす3つのリスクについて解説します。

労働安全衛生法違反による罰則がある

産業医が実施する業務には、法律に定めのあるものがいくつかあります。そのうちの一つが職場巡視です。職場巡視は労働安全衛生規則第15条に定められた産業医の義務です。「名義貸し」産業医を選任した結果、職場巡視を怠ると、労働安全衛生法第13条第1項違反となり、同法第120条の処罰規定に触れてしまいます。職場巡視を怠った場合の罰則は50万円以下の罰金です。

法令違反の企業として公表される

労基署から指摘が入ると、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として企業名を公表される可能性があります。「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は、厚生労働省のサイトで誰でも確認することができます。名前を公表された企業は労働環境が整っていない“ブラック企業”であると認識する人もいますので、企業イメージが大きく毀損されます。

労基署の追加調査が入るリスクがある

産業医の「名義貸し」は、れっきとした労働安全衛生法違反です。「名義貸し」の発覚をきっかけに、労基署の追加調査が入る可能性があります。追加調査で未払いの残業代や違法な長時間労働などが発覚した場合、名義貸しの罰金(50万円以下)とは比べものにならないほど大きな金額を支払わざるを得ないことになります。

産業医の「名義貸し」を防ぐために

「名義貸し」産業医との契約を防ぐためには、企業側にも最低限の知識とモラルが求められます。ここでは、産業医の名義貸し状態を発生させないために企業が簡単にできることを紹介します。

人事・労務担当者が産業医の業務をしっかり把握する

人事・労務の担当者になったら、産業医が企業内で行う業務について確認しましょう。特に、法律上定めのある業務については、要件なども含めてしっかり把握することが大切です。基礎知識のないまま産業医を選任してしまうと、本来実施されるべき業務が行われていないことに気がつかず、知らないうちに自社で産業医の「名義貸し」状態が発生してしまいます。
産業医が最低限実施すべき業務については以下のようなものがあります。

職場巡視

産業医は月に1~3回のペースで職場巡視をします。その中で安全確認を行い、問題点や改善点が発見されたら適切な指導を行う必要があります。

従業員×産業医面談

長時間労働者や高ストレス者など、産業医面談が必要とされた従業員は速やかに産業医と面談を行い、適切な助言や指導を受けることが必要です。

ストレスチェック

年に1回実施するストレスチェックにおいて、産業医は計画や実施、事後措置まで携わり、高ストレス者と面談の機会を設ける必要があります。

健康診断結果のチェック

労働安全衛生法では「健康診断結果に異常の所見があった場合、事業所は3か月以内に医師などに意見を聞く必要がある」と定められています(労働安全衛生法第66条の4)。産業医を選任している企業であれば産業医に、選任していない企業であれば従業員のかかりつけ医などに意見を聞くのが一般的です。
要所見の診断が出た従業員に対し、必要に応じて医療機関への受診を指示するとともに、今後の就労の可否や就労制限の判断を行います。必要に応じて就労についての意見書を作成します。
労働基準監督署に提出する健康診断結果報告書にも産業医の署名と捺印が必要です(2020年12月現在)。

衛生委員会への参加

衛生委員会の参加は必須ではありませんが、産業医は積極的に参加することが望ましいです。参加するだけでなく、その場で意見を出すことも大切な役割となります。
産業医が衛生委員会に参加しない場合は、作成された議事録に目を通す必要があります。

企業として依頼したいことを産業医にしっかり伝える

産業医を選ぶ前に、なぜ企業には産業医が必要なのかを改めて考えてみましょう。産業医の選任は、自社の抱える問題点を洗い出す良い機会となります。従業員が健康に働ける環境にするためには自社に欠けているものは何か、自社ではどのような傾向があるのかを客観的に見直してみましょう。
例えば、最近お悩みの企業が多いメンタル面での手厚い対応を期待する場合には、メンタル面のケアが得意な産業医を選びましょう。必ずしも精神科を専門とする医師が産業医として適性があるわけではないので注意が必要です。高齢な従業員が多い職場であれば生活習慣病の指導を得意とする産業医を、また女性の多い職場では女性特有の悩みなども相談しやすい女性の産業医を選任するなど、自社の抱える問題点を洗い出しておくと産業医の選任がスムーズに進みます。

産業医が機能していないと感じたら、交代の検討を

過労死などが社会問題となる現在、社会的にも健康経営が重視されています。従業員の健康管理に関わる産業医の選任は、従業員の採用以上に慎重に行うことが望まれます。
自社のニーズと予算に合った産業医を選ぶためには、「なぜ企業には産業医が必要なのか」、「産業医は企業内でどのような役割を果たすのか」、「産業医を選任することによって自社の労働環境をどのように変えていきたいのか」を明確にすることが大切です。従業員がより楽しく元気に働き続けられる環境にするためにも、自社の傾向にあった産業医を選ぶ必要があります。
以前は、医師会の紹介や知り合いのつてなどで産業医を選ぶことが多かったものですが、現在では紹介会社に依頼するなど、いろいろな方法で産業医を選任することができます。適切な報酬で自社のニーズに合った産業医を選任しましょう。

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