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健康経営は、従業員の健康保持・増進を経営的な視点で捉え、企業の戦略として取り組む経営手法です。厚生労働省や経済産業省が推奨していることもあり、健康経営への関心は高まっています。
本記事では、健康経営が推進されている背景や取り入れるメリット、取り組み事例を紹介します。
「健康経営」とは、企業で働く人の「健康推進」を経営的な観点でとらえて、戦略的に実践することです。
従業員の健康に企業が投資することで、主体的・意欲的に働ける人材による生産性向上、組織活性化、ひいては自社の業績や株価アップなども期待されます。
経済産業省は、2014年より「健康経営銘柄」の選定を行っています。さらに、2016年には「健康経営優良法人認定制度」が始動しました。
積極的に健康経営に取り組んでいる企業を社会に公表し、ステークホルダーから「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業」として社会的に評価できるようになっています。
また、健康経営は政府が推進する日本再興戦略、未来投資戦略上の「国民の健康寿命の延伸」のための取り組みでもあります。
健康経営が推進されている背景には、以下の3つが挙げられます。
それぞれの背景について詳しく見ていきましょう。
健康経営が推進されている背景には、生産活動を中心となって支える15〜64歳の生産年齢人口の減少による人手不足が挙げられます。
内閣府が公表している「令和5年版高齢社会白書」によると、日本の生産年齢人口は、最も多かった1995年の8,716万人から年々減少傾向です。2022年には7,421万人まで減少しています。
今後も減少は続き、2070年には4,535万人になるのではないかと予測されています。
(出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書(全体版)」)
生産年齢人口が減ると一人あたりの業務量が増え、長時間労働による労働環境の悪化が懸念されます。労働環境が悪化すれば、健康リスクが高まります。
人材を確保するためには、健康経営を推進し従業員が働きやすい環境を整備することが重要です。
従業員の高齢化も健康経営が推進されている背景の一つです。
高年齢者雇用安定法の改正により、企業は定年制の廃止や70歳までの定年の引き上げなどが努力義務として課せられることになりました。そのため今後、高年齢の従業員が増えていきます。
高齢になると健康問題が生じやすくなるため、高齢の従業員でも健康を維持して安全に働ける職場環境を整える必要があります。このような背景から、健康経営に関心が集まっています。
健康経営が推進されている背景には、国民医療費の増加も挙げられます。厚生労働省の「令和3(2021)年度 国民医療費の概況」によると、2021年度の国民医療費は45兆359億円で、前年度の42兆9,665億円から4.8%増加してます。
医療費の増加が続くと国の財政がひっ迫し、医療保険制度の維持が危ぶまれる状況になりかねません。このような状況に国は危機感を募らせており、医療費適正化を図るために企業に対し健康経営を推進しています。
参考:厚生労働省「令和3(2021)年度 国民医療費の概況」
健康経営を取り入れることで、以下のようなメリットが期待できます。
それぞれのメリットについて解説します。
健康経営は生産性向上に寄与します。健康経営により従業員が心身ともに健康であれば、パフォーマンスや集中力が高まりやすくなるため、業務効率の向上が期待できるでしょう。
また、健康経営の取り組みにより職場環境を改善し、働きやすい環境を構築すれば、従業員のモチベーションを維持しやすくなります。従業員が意欲的に業務を遂行できれば、企業全体の業績向上に大きく貢献します。
健康経営に取り組んだ結果、社内が活性化し従業員のモチベーションが上がると、企業への帰属意識が高まり、退職者が少なることが期待できます。
離職率の低下は業務の知識が蓄積、継承されやすい職場にもつながり、業務効率の観点からもメリットがあります。
また、健康経営を行っているホワイト企業であることをアピールすれば、「従業員を大切にする企業」と認識され、人材が確保しやすくなるでしょう。
【関連記事】ホワイト企業認定とは?取得するメリットや認定基準を解説
健康経営によって従業員の健康リスクが低下し、病院にかかる頻度が減れば医療費の軽減につながります。医療費の補助制度を設けている企業などでは、出費が抑えられるでしょう。
また、疾病に伴い従業員が休職すれば、休職に伴う対応にもコストがかかります。休職者が増えれば他の従業員の負担が大きくなり、場合によっては新規採用に伴うコストも発生します。
健康経営を実践し、企業の経済的負担の軽減が見込めるのは大きなメリットといえるでしょう。
健康経営の推進により、企業イメージの向上が期待できます。健康経営の取り組みを実践し、従業員の健康保持・増進に努めていることをアピールすれば、求職者やステークホルダーに良い印象を与えられるでしょう。
また、健康経営の取り組みが評価され、健康経営優良法人や健康経営銘柄に認定されれば、優良法人であることを客観的に示せるため、企業の信頼度が高まります。
【参考】経済産業省「健康経営優良法人認定制度」
健康経営には、以下のような懸念すべき点もあります。
それぞれの内容について解説します。
健康経営のデメリットには、実施した施策の効果が分かりにくい点が挙げられます。健康経営は数値化して効果を示すことが難しい側面があるからです。
たとえば、健康経営を進めるなかで従業員の活力が上がっても、どのくらい向上したのか数値化するのは困難です。
また、離職率や欠勤率が低下していても、その原因が従業員の個別事情によるものか、健康経営の施策によるものなのかを特定できないこともあるでしょう。
一般的に健康経営の効果を短期間で評価するのは難しいため、半年や年単位で検証をするとよいでしょう。
健康経営の導入準備や取り組むべき施策の実施には、時間と費用がかかります。たとえば、職場環境改善のための設備投資や従業員の健康管理のツールの導入が必要になる可能性があります。
加えて、健康経営に取り組むには、以下のようなタスクも発生するため、時間と労力がかかりデメリットと感じるかもしれません。
また、経営陣や従業員に健康意識が浸透・定着するまでに時間がかかる点も考慮しておく必要があります。
ここでは、健康経営を推進する企業への認定制度について解説します。
「健康経営銘柄」とは、健康経営を実践している企業の中からとくに優れていると認定された企業です。
東京証券取引所の上場企業33業種のなかから、業種ごとに1~数社ずつ選ばれます。制度開始から10回目となる2024年度では、27業種52社が選定されました。
健康経営に優れた企業は、中長期的な企業価値の向上を重視する投資家に注目企業として紹介されます。これにより、企業による「健康経営」への取り組みがさらに促進されることを期待しているのです。
健康経営銘柄に選ばれるメリットや認定基準は、以下の記事で詳しく紹介しているので参考にしてください。
【関連記事】健康経営銘柄とは?認定基準や選定されるメリットを解説
【参考】経済産業省「「健康経営銘柄2024」に53社を選定しました!」
「健康経営優良法人認定制度」とは、健康経営に取り組む優良企業を顕彰するための制度です。健康経営優良法人認定制度の対象法人区分には、大規模法人部門と中小規模法人部門があります。
2024年度で8回目となる「健康経営優良法人2024」では、大規模法人部門2,988法人、中小規模法人部門16,733法人が認定されています。
健康経営優良法人に認定されると、認定企業であることを示すロゴマークの使用が可能です。認定ロゴマークをコーポレートサイトや求人票などに記載しアピールすれば、求職者の増加や投資家などからの評価が期待できます。
健康経営優良法人認定制度については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
【関連記事】健康経営優良法人2025の認定基準は?認定までのスケジュールや申請方法を解説
【参考】経済産業省「「健康経営優良法人2024」認定法人が決定しました!」
健康経営の実施によって利用できる助成金を活用すれば、施策にかかる費用を削減できます。健康経営に関連する助成金には、以下のようなものがあります。
助成金の申請時には、健康経営の取り組み内容を証明できる書類の提出が求められる場合もあります。
また、助成対象となる施策の要件が細かく設定されていることもあるので、事前に要件を確認しておきましょう。
健康経営に活用できる助成金・補助金の種類については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
【関連記事】健康経営に活用できる助成金・補助金9選!活用するメリットも解説
健康経営を始める際は、以下の手順で進めます。
健康経営の実践は、Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)のPDCAサイクルの繰り返し、投資対効果の分析をすることが重要です。
経済産業省が公表している「企業の健康経営ガイドブック」にもとづき、健康経営の取り組み手順を解説します。
【参考】経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック」
健康経営を始める際は、まず健康経営理念・方針を決定し、社内外に表明します。企業の持続的成長が目的であることを明らかにし、自社の企業理念や中長期計画にもとづいて宣言します。
健康経営はあくまで組織のマネジメントの一つです。実行するには経営の基盤となる考え方があり、それが現場の施策と連携していなくてはなりません。
従業員に健康経営の意義を十分に理解させ、「従業員の健康増進」が経営課題だと認識してもらう必要があります。また、ステークホルダーに理解できるように示すことも重要です。
経営理念がすでにあるならば、その中に従業員の健康を増進することを加えて明文化します。「わが社は健康経営に取り組み、従業員の健康増進を図っている」姿勢をメッセージとして社内外に広めることが第一歩となります。
また、従業員の健康と密接な関係をもつ各保険者との連携も重要です。前述した健康経営優良法人への申請も、各保険者が実施する健康宣言事業への参加が必要です。
所属する保険組合の健康宣言事業に参加し、連携して健康経営を目指しましょう。
健康経営理念・方針を決定したら、健康経営を推進する組織体制を構築します。具体的には、施策を決定・実行するための専門部署の設置や、役割の明文化などを行う必要があります。
組織体制を構築する際は、健康経営のノウハウや健康管理の知識などをもつ人材を配置することが大切です。産業医や保健師、健康経営アドバイザーなどの専門資格をもつ者を配置するとよいでしょう。
専門資格をもつ人材がいない場合は、外部から講師を招いて研修をする方法もあります。
重要なのは、全社的な従業員の行動変容を促す体制づくりです。従業員の意識と行動を変えるには、各部署が一丸となって取り組める仕組みが必要です。
そのためには、部署長が参加する会議で健康経営を議題にあげるなど、経営トップから現場まで理念が共有されるような体制づくりが求められます。
組織体制を構築したら、従業員にどのような健康上の課題があるのかを把握しましょう。健康診断結果やストレスチェック結果などを客観的に考察して課題を洗い出します。
また、健康保険組合などの保険者が保有しているデータも活用するとよいでしょう。自社と保険者のそれぞれのデータを掛け合わせることで、健康上の課題の傾向が把握しやすくなります。
たとえば、自社と保険者がそれぞれ保有しているデータを分析し、特定の症状をもつ人が、ある部署に集中していた場合、業務内容や職場環境が健康状態を損ねている可能性があると想定でき、改善のための検討ができるようになります。
さらに、従業員の年代別におけるデータも重要な要素です。たとえば、年齢の割にメタボリックシンドロームの人が多いなどの結果が見える場合は、将来の生活習慣病のリスクが高まっていることを意味しています。
生活習慣病は治療費などの経済的負担、通院にかかる時間的負担など、生産性を低くする要素が満載です。健康経営の取り組みにより、できるだけ早い時期に対策を取らなくてはならないと気がつくでしょう。
従業員の健康上の課題が明確になったら、課題を解決するための目標を決めます。
目標を設定する際は、「◯年までに従業員の喫煙率を△%させる」のように具体的な数値で設定しましょう。具体的な指標を用いることで、目標が達成できているか評価しやすくなります。
目標を踏まえて実施計画を作成し、計画に沿って施策を実行します。施策の実施後は、成果が得られているか評価しましょう。施策の効果を評価することで、取り組み内容が適切であるか判断できます。
目標が達成できていない場合は、目標が高すぎていないか、実施方法が適切であったかなどの見直しが必要です。
企業の課題によっては、自社のみの力による達成が困難な場合もあります。たとえば従業員の食生活改善のための施策を実施し、効果を得られていない場合は、健康保険組合や産業医、栄養士などに協力を仰ぎ、施策を再検討するとよいでしょう。
なお、データ分析などを外部事業者に委託して個人情報を活用する場合は、個人名を記号化するなど、個人情報の取り扱いには十分注意しなければなりません。
健康経営につながる取り組みは、以下などが挙げられます。
それぞれの取り組みについて解説します。
健康診断は、病気の早期発見や生活習慣の見直しを図るために有効で、健康経営の基本です。そもそも、年に1回の健康診断は企業の義務であり、労働安全衛生法で受診させるように定められています。
健康診断の100%受診が達成できていない企業は、第一に取り組むべき施策です。従業員の健康診断の受診率を上げるための具体的な取り組み内容については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
【関連記事】
健康診断の受診率を向上させるには?企業の成功事例も紹介
【参考】厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断」
健康診断で有所見が認められた従業員への二次検査の受診勧奨も、健康経営につながる取り組みです。
健康診断は、病気のリスクを発見するためのものであり、再検査や治療につながらなければ意味がありません。
保険者や産業医などと協力し、有所見者に再検査の重要性を説明し受診を促すことが大切です。
当該従業員が二次検査を受けていない場合は放置せず、働きかけていきましょう。従業員に二次検査を受けてもらうために実施すべき取り組みについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
【関連記事】
健康診断の受診勧奨とは?二次検査を受けてもらうための取り組みを解説
健康診断の再検査、従業員に受けてもらうには?企業がとるべき対応を解説
健康診断の有所見とは?定義や受診勧奨が必要な基準値を解説
【関連資料】健康診断後の受診勧奨 参考例文フォーマット
喫煙習慣はがんや循環器疾患をはじめとした病気のリスクを高めるため、喫煙率低下や受動喫煙の機会を失くす取り組みは、健康経営につながる施策です。
具体的には、以下のような施策が挙げられます。
しかし、喫煙はあくまで従業員の自由なので、禁煙を強制する施策にならないように注意が必要です。従業員の理解を得ながら、無理なく禁煙に取り組める施策を考えるとよいでしょう。
【関連記事】健康経営において禁煙対策はなぜ重要?取り組むメリットや事例を紹介
従業員の心理的安全性が確保できる取り組みも、健康経営につながります。同僚や先輩、上司や部下とのコミュニケーションが取りやすく、風通しのよい職場は、メンタルヘルス上の問題が発生しにくく、疲労度や業務効率にも好影響をもたらします。
そのため、コミュニケーションが取りやすいオフィスレイアウトにしたり、社員旅行をはじめとしたイベントを開催したりするとよいでしょう。
また、ハラスメントの発生を予防するための講習や勉強会などの取り組みも、心理的安全性の確保に有効です。
【関連記事】
心理的安全性を高めてチームの生産性を向上――人事労務ができる4つの行動
健康を維持するための運動習慣や食事管理、規則正しい生活を推進する取り組みも健康経営の一環です。従業員の健康習慣は個々の自己責任と考えていては、少子高齢化の中で持続可能な事業展開は難しい時代になりました。
従業員の健康習慣を企業がサポートしたり、健康な生活を送りやすい仕組みを作ったりする取り組みが必要とされています。
たとえば、従業員が利用できる食堂の設置や弁当支給、栄養補助食品の自動販売機設置などで健康的な食事が取れる環境を作る方法が考えられます。また、スポーツ施設との提携で安い料金で施設を利用できるようにするのもよいでしょう。
マラソンや球技をはじめとした同好会の設置は、定期的に運動する生活習慣につながるとともに、従業員同士の部署を超えたコミュニケーションを活性化させます。
また、通勤ラッシュを回避して無理なく出社できる時差出勤の導入もおすすめです。
【関連記事】
健康経営オフィスとは?メリットや取り組み手順、企業事例を紹介
スポーツエールカンパニーとは?認定基準や取り組み事例を紹介
ここからは、健康経営を実践している企業の取り組み事例を紹介します。健康経営の施策を検討するうえで、ぜひ参考にしてください。
【参考】経済産業省「健康経営先進企業事例集2024」
事務用品やセキュリティ機器などの開発・販売を行う株式会社イトーキは、従業員のワークエンゲージメント向上のための取り組みを実施しています。同社では、従業員のコミュニケーション活性化の施策を実施し、成果を上げています。
取り組みを実施したきっかけは、従業員に対しアンケート調査をしたところ、ストレスの評価スコアが全国平均を下回っていることが判明したためです。
ストレスによるパフォーマンス低下を防ぐには、上司と部下のコミュニケーションが重要であると考え、コミュニケーションを活性化させるための取り組みを実施しました。
具体的な取り組み内容は、管理職向けにラインケア研修や1on1フォローアップ研修などです。
取り組みの結果、ワークエンゲージメントスコアが全国平均(48.0%)を上回り、2021年度は55.3%に上昇。さらに、2023年度には57.5%に上がりました。
住友生命保険相互会社は、健康組合と協力して健康経営を推進しています。同社では喫煙する従業員が多く、2018年度の喫煙率は25.9%。全国平均の16.7%と比べて高水準であったことが課題でした。
そのため年に2回、禁煙週間を設けたり月に3回禁煙デーを作ったりするなど、喫煙率低下を目指した取り組みを実施しました。
禁煙の取り組みの推進により、2022年度には23.5%に低下しています。
健康経営を取り入れることで、生産性や企業イメージの向上などが期待できます。健康経営に取り組む際は、まず従業員の健康上の課題を把握し、課題に応じた目標を設定して施策を実施しましょう。
健康経営の取り組みの効果が出るまでには時間がかかるため、長期スパンで取り組む必要があります。健康経営を推進し、従業員が働きやすい職場環境を構築しましょう。
エムスリーキャリア・エムスリーグループが展開する健康経営サービスについてまとめた資料です。 健康経営の関心の高まりや健康経営を疎かにするリスクについても解説しています。
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け