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健康投資管理会計とは?ガイドラインに沿った作成方法や戦略マップ活用時のポイントも解説

健康投資管理会計は、すでに健康経営に取り組んでいる企業が、自社の取り組みを客観的に測定し可視化するための仕組みのことです。

健康投資管理会計のガイドラインは、2020年6月に策定されたもので、実際にうまく活用できている企業はまだまだ少ない状況といえるでしょう。

本記事では、健康投資管理会計の作成方法や活用時のポイントを解説します。

健康投資管理会計とは

健康投資管理会計とは、従業員の健康増進・保持を推進する活動について、費用対効果を客観的に認識のうえ測定し、可視化するための仕組みのことです。

2020年6月に発表された「健康投資管理会計ガイドライン」の基本となる考え方で、実施することにより健康経営の効果を数値として評価できるようになります。

健康経営の効果の可視化により、従業員や外部企業に対し「何のために健康経営を行っているのか」の正確な伝達が可能です。

また、健康投資管理会計を実施する過程で、適切な経営判断やPDCAサイクルを回す仕組みが構築されます。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計 実践ハンドブック」

【関連記事】健康経営とは?企業が取り入れるメリットや取り組み方法を徹底解説

健康投資管理会計ガイドラインとは

健康投資管理会計ガイドラインは、健康経営を実施している企業向けに、経済産業省が発表したガイドラインです。

経済産業省は、策定の目的を「健康経営を効果的に実施するために必要な管理手法を示すとともに、外部と対話する際の共通認識を提示するため」としています。

そのため、健康経営を目指す場合は、ガイドラインを参考にしつつも企業独自の指標で進めても問題ありません。

しかし、外部への資料として用いる場合、とくにクライアントや投資家へ提示する場合には、ガイドラインに示されている規格に沿って進めることが必要です。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」

健康投資管理会計ガイドライン策定の背景

健康投資管理会計ガイドラインが策定された背景には、健康経営の成果を客観的に社内外に伝える必要性が増えてきたことが挙げられます。

2024年には、健康経営優良法人の認定企業数が19,000社以上となりました。このことから、健康経営に取り組む企業が多いことが分かります。

大規模認定法人数 中小規模認定法人数
2017(第1回) 235 318
2018(第2回) 539 775
2019(第3回) 813 2,501
2020(第4回) 1,476 4,815
2021(第5回) 1,801 7,934
2022(第6回) 2,299 12,255
2023(第7回) 2,676 14,012
2024(第8回) 2,988 16,733

【参考】経済産業省「「健康経営優良法人2024」認定法人が決定しました! 」

健康経営に取り組む企業が増加する一方、健康経営を実施する目的の一つである業績や企業ブランディングの向上に、明確につながっていると分かる企業はほとんどありません。

健康経営を実施し続けるためには、少なくないコストや時間が必要となります。そのため、効果や評価を示す明確な判断基準が必要となりました。

以上のことから、健康投資を見える化し、客観的に判断できる成果を社内外に分かりやすく伝える手段として健康投資管理会計ガイドラインが策定されたのです。

健康投資管理会計の役割

健康投資管理会計には、次に挙げる2つの役割が期待されています。

  • 所属する組織に対する役割(内部機能)
  • 外部に対する役割(外部機能)

それぞれについて詳しく解説します。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計 実践ハンドブック」

所属する組織に対する役割(内部機能)

一つ目は、所属する組織に対する役割で、簡単にいうと自社の健康経営を適切にPDCAサイクルを回す「仕組み」を構築する役割です。

経営者や関係部門には健康投資管理会計ガイドラインを使って、適切な経営判断やPDCAサイクルを回し、効果的な投資判断を行うことが期待されています。

なお、PDCAサイクルを適切に回すためには、KPI(重要業績評価指標)の設定が重要です。

しかし、健康投資管理会計においては単なる数値入力ではなく、後述する健康経営戦略マップを用いて効果を設定し分析することが推奨されています。

外部に対する役割(外部機能)

2つ目は、健康経営による実施内容や結果を、従業員やクライアント、投資家などに適切に伝える役割です。

ガイドラインに沿って進めることで、健康経営の取り組みをどのように行い、どのような効果を得たのかを客観的に示せるようになります。

その結果、健康経営に取り組む目的の一つである、企業ブランディングや従業員採用力の強化へつなげやすくなります。

健康投資管理会計を構成する5つの要素

健康投資管理会計を構成する要素は次に挙げる5つです。

  • 健康投資
  • 健康投資効果
  • 健康資源
  • 企業価値
  • 社会的価値

(出典:経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」

それぞれについて詳しく解説します。

健康投資

健康投資とは、従業員の健康維持・増進を目的として投じられた費用です。

具体的な例としては、メンタルヘルス講習会を実施するための費用や、従業員が使用する健康器具の購入費用などが挙げられます。

また、従業員の健康意識を向上させるために経営者が健康について学んだ費用や、環境や風土を整えるために使用した費用なども、健康投資として含めることが可能です。

健康投資効果

健康投資効果は、健康投資を行った結果の中で短期的なものを指します。健康投資管理会計ガイドラインには、健康投資効果の指標として次の3つが定められています。

  • 健康投資施策の取組状況に関する指標
  • 従業員などの意識変容・行動変容に関する指標
  • 健康関連の最終的な目標指標

上記の各指標における主な評価内容は、次のとおりです。

指標 評価内容
健康投資施策の取組状況に関する指標 ・参加者数

・参加率・満足度

・認知度

従業員などの意識変容・行動変容に関する指標 ・理解度

・運動の継続率

・受診率

・有給取得日数

健康関連の最終的な目標指標 ・身体的指標(血圧・肥満等)

・心理的指標(生活満足度・ストレス反応等)

・就業者関係指標(離職率・昇進率等)

健康投資管理会計ガイドラインにおいては、上記3つの指標に合わせて取り組みを分類し、健康投資管理会計を実施することが推奨されています。

健康資源

健康資源は、健康投資の実施や健康投資効果の分析から中長期的に得られた資源で、次の2つに大別されます。

環境健康資源 ・有形資源(仮眠室、社員食堂、社内ジムなど)

・無形資源(健康経営理念の策定・産業医との提携など)

人的健康資源 ・ヘルスリテラシーの向上(健康情報や健康プログラムへの取り組み)

健康投資などによって得られた健康資源を他の健康投資に活用することにより、より効果を発揮できるようになります。

企業価値

企業価値とは、健康投資効果や健康資源の蓄積によって得られた、財務指標や経営指標の変化のことで、次の2つに大別されます。

経済的価値 ・売上高

・利益率

さまざまな市場から評価 ・求職倍率

・株価

・メディア露出度

実際に使用する指標は、ガイドラインに記載されている以外のものであっても問題ありません。自社の状況に合わせて選択するとよいでしょう。

社会的価値

社会的価値とは、健康経営の取り組みによって、企業が地域社会や社会の問題解決に与える影響です。例としては、企業の活動により社会保障費の適正化や、健康寿命の延長などにつながっていくケースです。

しかし、社会的価値は健康経営以外の要素も含まれるケースが多く評価が難しいため、副次的なものとして捉えておくとよいでしょう。

健康投資管理会計の作成において重要な健康経営戦略について

健康経営を適切に推進するためには、自社が抱える課題を把握し、ゴールまでの流れを戦略として具体的に組み立てる必要があります。

戦略が曖昧な状態で進めてしまうと、当初の目的が抜け落ちてしまい、取り組むこと自体が目的と化してしまう可能性が高くなるためです。

しかし、健康経営は数値として見えにくいこともあり、具体的な戦略を組み立てるのは簡単ではなく、対応が難しい企業も少なくありませんでした。

このような状況を改善するためにまとめられたものが、健康投資管理会計ガイドラインにある「健康経営戦略マップ」です。

健康経営戦略マップをうまく活用することで、経営課題から健康保持・増進に関する具体的な取り組みまでの流れがしっかりとつながった戦略を策定できます。

健康投資管理会計の作成手順

健康投資管理会計の作成手順は次のとおりです。

  • 健康経営戦略マップの作成
  • 健康投資シートの作成
  • 健康投資効果シートの作成
  • 健康資源シートの作成

経済産業省「『健康投資管理会計ガイドライン』について」のページ内に、健康投資管理会計作成準備作業用フォーマットがあるので活用するとよいでしょう。

作成手順について詳しく解説します。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計 実践ハンドブック」

1.健康経営戦略マップの作成

健康経営戦略マップは、自社の健康経営の課題解決につながる具体的な問題点を特定し、改善への取り組みまでを落とし込むフレームワークツールです。

健康経営戦略マップを作成すると、自社の健康経営戦略を誰にでも分かりやすい形で見える化できます。

また、健康施策が自社の健康経営課題の解消につながる流れをストーリーとして説明でき、社内での理解も深まりやすくなります。

健康経営戦略マップの作成手順は、次のとおりです。

  • 健康経営で解決する課題を決定
  • 健康投資効果指標を設定
  • 具体的な施策を決定

健康経営で解決する課題を決定

最初のステップは、健康経営で解決する課題の決定です。戦略マップは、健康経営によって解決したい課題設定から考えることが前提となっています。

健康経営によって解決できる課題には、次のようなことが挙げられます。

  • 求職者の採用力強化
  • コーポレートブランディングの強化
  • 人材の定着率・離職率の改善
  • 従業員個人のパフォーマンス改善

経営層や各部門と協力しながら、自社の課題を洗い出してみましょう。

健康投資効果指標を設定

次に、健康投資効果指標を設定します。健康投資効果には、次に挙げる3つの指標があります。

  • 健康投資施策の取り組み状況に関する指標
  • 従業員などの意識変容・行動変容に関する指標
  • 健康関連の最終的な目標指標

3つの指標は段階的に設定されており、数字が上がるごとに経営課題に近い指標となっています。そのため、健康関連の最終的な目標指標からの作成が理想的です。

しかし、実際には健康関連の最終的な目標指標からの設定は「因果関係が複雑」「イメージしづらい」などの理由から困難です。

健康関連の最終的な目標指標からの設定が難しいようであれば、健康投資施策の取り組み状況に関する指標から設定するとよいでしょう。

健康投資効果指標を設定する際は、健康診断やストレスチェックなどの健康情報を取得できる、産業医や保健師などと協力して進めることをおすすめします。

具体的な施策の決定

健康経営戦略マップ作成の最後のステップは、具体的な施策の決定です。健康投資効果に紐づく具体的な施策をリストアップして選びます

2.健康投資シートの作成

事前に作成した戦略マップをもとに、施策に要した投資額を「健康投資シート」に入力します。

健康投資シートを作成することで、戦略マップで設定した施策ごとの投資額や、最終目標である健康経営に関する課題解決につながる健康投資額の把握が可能です。

健康経営戦略マップに記載した健康投資に必要な費用を、次の各費用に振り分けて記載しましょう。

  • 外注費
  • 減価償却費
  • 人件費
  • その他経費

健康投資シートのフォーマットは「健康投資シート」と「健康投資作業用シート」に分かれています。「健康投資シート」には関数が最初から入力されているため、直接数値を入力しないよう注意が必要です。

「健康投資作業用シート」に必要な項目を記入すれば「健康投資シート」が完成する仕組みになっています。

3.健康投資効果シートの作成

健康投資効果シートは、戦略マップで設定した指標の投資効果を可視化するシートです。健康投資効果シートの作成により、指標ごとの投資額や指標の値がどのように推移したのかが把握できます。

今年度の数値から4年前の数値まで記入することで、経年によってどの程度変化があったのかひと目で確認が可能です。

指標別の投資効果をリストで確認すれば、自社の問題点や改善点が把握しやすいでしょう。

4.健康資源シートの作成

健康資源シートは、企業が蓄積している健康資源を可視化するためのシートです。自社の有形・無形の環境資源や、ヘルスリテラシーのような健康資源などを把握できます。

作成の際は、環境健康資源と人的健康資源に分けて入力しなければなりません。また、すでに従業員の役に立っている資源だけではなく、将来的に役立ちそうな資源も入力します。

健康投資管理会計には経済産業省の実践ハンドブックが役立つ

経済産業省が公開する「健康投資管理会見実践ハンドブック」は、ガイドラインに沿って健康投資管理会計を作成する際のポイントを解説したものです。

下表のステップ3やステップ4に進んでいる企業に向けて、より効果的な健康経営に取り組むための手法が記載されています。

ステップ1 まだ健康経営を始めていない企業
ステップ2 健康経営を始めて間もない企業
ステップ3 健康経営のPDCAサイクルを回している企業
ステップ4 健康経営の評価や効果を社外公開している企業

ステップ3に取り組んでいる企業は、健康投資管理会計の手法を活用することで、内部管理の拡充を図れます。より効果的なPDCAサイクルの回し方や、適切な経営判断のヒントを学ぶことが可能です。

ステップ4に取り組んでいる企業は、社外との適切なコミュニケーションができるようになります。さまざまなステークホルダーや資本市場からの評価につながるため、より踏み込んだ施策が立てられるでしょう。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計 実践ハンドブック」

健康経営戦略マップを活用する際のポイント

作成した健康経営戦略マップは、健康経営を目指す企業のための設計図です。より効果的に活用するために次の3点を実施し、今後の取り組みに活かしましょう。

  • 取り組む施策の実現性を検討する
  • 経営陣に結果を報告する
  • 施策の効果を定期的に見なおす

取り組む施策の実現性を検討する

健康経営戦略マップを活用する際は、取り組む施策の実現性を検討しましょう。

作成者の立場によって、現場とのギャップや従業員と異なる認識を持っている可能性があります。そのため、作成した施策が現実的に実行できるか判断することが大切です。

現場の従業員とコミュニケーションをとり、再現性のある施策を設定しましょう。

また、健康経営戦略マップの作成時は、各項目の相関関係を見極めることも求められます。

たとえば、「喫煙者比率の低下」と「業務効率の低下を軽減」をつなげた場合、それぞれの相関関係を定期的にチェックします。一定期間を空けて数値を測定し、どちらも変化していれば相関関係ありと判断しても問題ありません。

どちらか一方しか変動がない場合は、相関関係なしと判断し再度項目を設定しましょう。

経営陣に結果を報告する

健康投資管理会計を作成したら、決定権をもつ経営陣にも報告しましょう。設定した具体的な施策を実現するには、経営陣の理解と協力が不可欠だからです。

健康経営戦略マップをもとに説明すれば、「健康経営で改善したい経営課題」に紐づいた施策を説明できるため、経営陣からの理解を得やすいでしょう。

また、今まで曖昧にしていた課題や具体的な施策について、経営陣との認識のズレや予算に関する齟齬(そご)など、健康経営戦略マップをもとに擦り合わせられます。

施策の効果を定期的に見なおす

最初から完璧な状態の健康経営戦略マップを作成するのは困難なため、定期的な再評価や見直しが重要です。

定期的な見直しによって、自社に適した健康経営戦略マップが作成できます。適切な健康経営戦略マップが作成できれば、施策の効果が検証しやすくなります。

健康経営戦略マップを見なおす時期は、あらかじめ決めておくとよいでしょう。再評価や見直しの際は、戦略マップだけではなく、各シートの情報も参考にしましょう。

健康投資管理会計の情報を開示するメリット

健康投資管理会計の役割として外部機能がありますが、その利点を享受するためには「情報開示」が大切です。情報開示によるメリットは次の3つです。

  • さまざまなステークホルダーに理解され、外部からの評価が向上する
  • 健康経営が推進される
  • 適切なガバナンス体制のもとで作成されたことを示せる

情報開示のタイミングは、取り組みの熟度で判断しましょう。まずは健康経営戦略マップから情報を開示し、その他のシートは取り組みの熟度によって開示します。

情報開示には、次のような方法が挙げられます。

  • 中期経営計画
  • CSR報告書・サステナビリティレポート
  • 投資家向け説明資料
  • コーポレートガバナンス報告書
  • 有価証券報告書
  • マニュアルレポート
  • 企業のチラシやホームページなど

情報開示の方法は、上場・非上場の違いや経営方針に合わせて判断しましょう。

【参考】経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン概要説明資料」

健康投資管理会計を正しく設定し効果的に健康投資を実施しよう

健康投資管理会計とは、従業員の健康増進・保持を推進する活動について費用対効果を客観的に認識のうえ測定し、可視化するための仕組みのことです。

健康投資管理会計を適切に行うことで、健康経営に関する適切なPDCAサイクルや経営判断を効果的かつ効率的に実施できるようになります。

一方で、健康投資管理会計そのものが発表されたのが2020年6月ということもあり、まだまだ手探りな部分も少なくありません。

そのため、本記事をはじめさまざまな媒体・機関から情報を集めて、自社にとって最適な方法を模索していくことが大切です。

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