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ハラスメントへの意識の高まりに伴い、パワハラ・セクハラ防止に取り組む企業も増えています。そんな中、特に注意したいのが「SOGIハラスメント(SOGIハラ)」です。SOGIハラという言葉を、「聞いたことがない」「詳しく知らない」という方も少なくないのではないでしょうか。
しかし、2020年6月に施行されたパワハラ防止法では、このSOGIハラスメントへの対策が事業主の義務として盛り込まれています。知らず知らずのうちにSOGIハラが発生していた、という事態を避けるためにも、SOGIハラへの理解と防止策が企業に求められているのです。
今回は、SOGIハラスメントの内容や特に注意すべき点、SOGIハラスメント対策に取り組む企業の事例などをご紹介します。
SOGIは「ソギ」「ソジ」と読みます。SOGIとは、Sexual orientation and gender identityの略です。日本語に訳すと「性的指向および、性自認」となります。
性的指向とは、恋愛対象の傾向です。たとえば、異性に好意を抱く人もいれば、同性に恋愛感情を抱く人もいます。また、性自認とは自分で認識している性別のことです。身体的性と精神的な性が一致している人もいれば、違う人もいます。
どのような性的指向・性自認も尊重されるべき、という考えから生まれたのが、性に関する属性すべてを包括する「SOGI」という概念なのです。
性的指向・性自認の多様性を示す言葉として、「LGBT」という言葉を思い浮かべる方もいるかもしれません。SOGIとLGBTは、何が違うのでしょうか。
LGBTは「レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー」の頭文字を取った、性的マイノリティを指す言葉です。レズビアン・ゲイは恋愛対象が同性である人、バイセクシャルは同性・異性いずれも恋愛対象である人、トランスジェンダーは身体の性と心の性が不一致な人を指します。
LGBTという言葉が広がったことで、性的マイノリティに対する認知度はたしかに高まりました。一方で、「性的マイノリティとそれ以外」という線引きにもつながってしまう側面がありました。「自分は性的マイノリティではないから、その手の問題とは関係ない」と部外者意識を持つ一因にもなっているのです。
性的マイノリティを指すLGBTに対し、SOGIは性的アイデンティティを指し、全ての人に当てはまる概念です。あらゆる性的指向・性自認の人に関わるテーマ、つまり誰もが当事者であることを認識する必要があります。
SOGIハラとはどのような行為を指すのでしょうか。LGBT法連合会、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチほか有志を中心とした「なくそう!SOGIハラ」では以下のように紹介されています。
“好きになる人の性別(性的指向:Sexual Orientation)や自分がどの性別かという認識(性自認:Gender Identity)に関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを受けること。また、望まない性別での学校生活・職場での強制異動、採用拒否や解雇など、差別を受けて社会生活上の不利益を被ること。 それらの悲惨なハラスメント・出来事全般を表す言葉です。”
SOGIハラを一言で表すと、性的指向・性自認に関する言動・行動で人を傷つける行為を指します。たとえば、「ホモ」「レズ」といった言葉で相手を侮辱することはもちろん、「まるでホモ(レズ)だな」「仕草がオネエっぽい」などのように冗談めかした言葉も、受け取り手の気持ちによってハラスメントになりえます。
「うちの会社ではSOGIハラは起きていない」と思う方もいるかもしれません。しかし、厚生労働省が行った「職場におけるダイバーシティ推進事業報告書」によると、職場で「同性愛やトランスジェンダーをネタにした冗談、からかい」といった、いわゆるSOGIハラを見聞きしたことがあると答えた人は、LGBの19.2%、Tの24.8%に上り、中でもゲイの11.9%、トランスジェンダーの8.9%が実際にSOGIハラを経験したことがあると答えています。SOGIハラは身近な問題と捉える必要があるのです。
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2020年6月1日よりパワハラ防止法が施行されました。これに伴い策定された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」にSOGIは個人情報やプライバシーであると明記され、SOGIハラもパワハラと見なされることになりました。
つまり、すべての企業がSOGIハラ防止施策の実施を義務づけられたのです。これは「措置義務」であり、対策を怠った場合、各都道府県の労働局による助言・指導・勧告などが行われます。改善がされなければ、制裁措置として企業名が公表されるでしょう。SOGIハラ防止策は企業にとって、目標ではなく“義務”なのです。
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SOGIハラスメントを正しく防止するために、どのようなSOGIハラが職場で起こりうるのか、具体的にみていきましょう。前述の「なくそう!SOGIハラ」では、5タイプの SOGIハラが紹介されています。それぞれ、事例を挙げて解説します。
出典:なくそう!SOGIハラ実行委員会「なくそう!SOGIハラ」
SOGIハラの中でも特に多いのがこのタイプです。「オカマ」「ホモ」「レズ」といった差別的なニュアンスを伴う呼称を用いたり、「ホモ(レズ)は気持ちが悪い」「恥ずかしい」などという侮蔑的な言動・態度をとったりすることはSOGIハラです。たとえば同僚の外見や行動、発言を性的指向や性自認と結びつけてからかう行為もNGです。
性的指向や性自認を理由としたいじめ・暴力行為はあってはならないことです。また、「あの人は同性愛者らしいから、近寄らないようにしよう」と存在を無視するような態度をとることもSOGIハラに当たります。
身体的な性別に基づいて、男女別の制服や服装規定を強要するなどがこのタイプにあたります。たとえば、身体的な性が女性である人に対し、「パンツスーツではなくスカートをはきなさい」と強いることも含まれます。また、トイレの問題も重要です。身体的な性と心の性が一致しない人は、多目的トイレを使用できるようにするなど対処が必要になります。この他、本人が嫌がっているのに「女性が接待してくれる店に行こう」と執拗に誘うなどもSOGIハラに該当します。
SOGIは個人の自由です。たとえば、「男性なのに化粧して出社するなら異動してもらう」などと、SOGIを理由に解雇や異動、入社拒否をしてはいけません。「顧客やほかの社員の理解が得られない」という理由でもダメです。
また、カミングアウトにより、選考を打ち切る・内定を取り消す・身体的な性別に基づいた行動や服装をすることを雇用の条件にするといった、採用過程での行為もSOGIハラに当たります。
性的指向・性自認をいつ、誰に伝えるのかは本人の自由です。
2016年、一橋大学に通う学生が第三者に自分の性的指向を他者に暴露されたことをきっかけに自殺した一件が裁判をきっかけに注目を集めました。(一橋アウティング事件)。本人の同意なく第三者が他人に性的指向、性自認を公表すること(アウティング)はSOGIハラスメントに該当します。
また、性的指向・性自認に関する情報を「ばらされたくなければ言うことをきけ」と脅しに使うのもSOGIハラに当たります。
SOGIハラの5つのタイプを見てきましたが、中でも注意したいのが(1)と(5)です。(1)の差別的な言動については、飲み会でのいじり・からかいなど、発言者は悪気がないケースも少なくありません。
また、(5)のアウティングも、人事情報の共有や、当事者への配慮・対応を行う際に起こりがちです。たとえば、本人からカミングアウトを受けた際に、情報公開範囲を確認しなかったがゆえに、結果として当事者が望まない形で情報が漏れてしまうことは十分考えられるでしょう。
日常の中の何気ないやり取りに差別的な表現が含まれていたり、当事者への配慮のつもりでアウティングしていたりといった、悪意なきハラスメントこそ、意識的な対応が求められます。
SOGIハラを防止するためには、あらかじめ防止策を立てて実践していくことが重要です。企業が対策したい具体的な取り組みについて解説していきます。
自分たちが思っている以上に、性的指向・性自認に関する固定観念はいまだに多くの企業に根付いています。こうした価値観を少しずつ変えていくことが、SOGIハラ対策の第一歩です。パワハラやセクハラと比較するとSOGIハラの認知度は低いため、SOGOハラに該当する無自覚な言動をしている従業員がいるかもしれません。
SOGIハラスメント対策の第一歩として、事業主は社内報、社内イントラなどを活用し、以下の内容を従業員に周知しましょう。
社内でSOGIハラの意識を高めるためにも、上記と併せて、専門家を招いての研修の実施、eラーニングを活用した自己学習などを促していきましょう。
従業員への周知・啓発を推進するためにも、就業規則の見直し・整備をしましょう。
就業規則にあらかじめ盛り込むことで、SOGIハラスメントについての自社の方針を表明することにもつながります。
また、厚生労働省が公表している「モデル就業規則」にも、SOGIハラに関連する条文がありますので、参考にしてみてください。
1 on 1のように従業員との個別面談を定期的に実施することで、従業員の些細な変化に気付きやすくなります。日頃からコミュニケーションをとることで関係性の構築が期待でき、いざというときに従業員から相談してもらいやすくなるでしょう。
事業主は、SOGIハラへの相談窓口を設置し、窓口の担当者が内容や状況に応じ適切に対応できるように体制を整える必要があります。パワハラ・セクハラ相談窓口がすでにある場合は、SOGIハラも相談できると周知するのも効果的です。
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SOGIハラが発生した際には、事業主は以下のように対処する必要があります。
性的指向や性自認は非常にデリケートな問題です。プライバシーの保護には十分に気を配りましょう。対応の過程で情報が漏れれば、SOGIハラスメントを受けた被害者が深く傷ついたり、社会的に不利益を被ったりするかもしれません。
SOGIハラの相談を受ける際は、SOGIに関する情報をどの範囲にまで伝えているのか、どの範囲にまで共有してOKかなど、本人の希望を確認したうえで対応しましょう。部署移動の際などに人事情報を共有する場合も、事前に本人の承諾を得る必要があります。
また、SOGIハラを報告したことで、結果的に本人が異動、退職を余儀なくされる事態は避けなくてはいけません。特に、上司から部下へSOGIハラが行われた場合、報復人事やさらなるハラスメントが起こらないように、適切な対策を講じることが大切です。
SOGIハラの発生を正確に把握し対応することが、再発防止への第一歩となります。
まずは、事実関係を迅速かつ正確に確認しましょう。その後、速やかに被害者に対する配慮の措置および行為者に対する措置を適正に行ってください。これらをふまえて、再発防止に向けた措置を講じることが肝要です。
SOGIハラスメントが起こった場合、従業員から労災申請が行われる可能性は高いでしょう。労災申請がされた後、企業に対して、労働基準監督署から調査が入るケースも考えられます。迅速に対応しましょう。
なお、2022年6月にSOGIハラを原因とするうつ病について労災認定された事例もあります。
出典:労働新聞社「SOGIハラ 性自認侮辱による労災を認定 戸籍の性別変更促す」
実際にSOGIハラ対策を行っている企業はどのような取り組みを実施しているのでしょうか?この項では、SOGIハラ対策を実施している企業の実例を紹介します。
サントリーでは、2014年からLGBTへの理解を深めるプロジェクトに取り組んでおり、2015年にはダイバーシティに関するセミナーの一環として自社でセミナーを開催しました。同時に、社内にプロジェクトチームも発足させています。そのほか、相談窓口の開設、LGBTに関するセミナーやeラーニングの実施なども行っています。また、同性のパートナーを配偶者として認めるなど、社内の規定を改正しました。この他、多目的トイレを増やすなど、全てのSOGIが働きやすい職場になるように、活動を続けています。
日本生命相互会社では、2008年から人権研修において、LGBTに関するテーマを取り上げています。その後、社内で性的指向・性自認に関する文言を盛り込んだダイバーシティ推進方針の策定、福利厚生制度の整備、社内の啓発など取り組みなどを続けています。具体的な事例として、サントリーと同じく、同性のパートナーを配偶者と認め、結婚に関する休暇や祝い金なども異性のパートナーと同じように用意しているそうです。また、社内用の書類にパートナーの性別を記載する欄は無く、パートナーがいるという報告の際、法律的な書類の提出も義務づけません。
ソフトバンクでは、2016年度から同性パートナーを配偶者として認定するよう、社内制度を設けました。また、2017年1月にLGBTなどの性的少数者への差別ならびにハラスメント禁止という社内制度も制定しています。差別やハラスメントを禁止するために、管理部門向けセミナーや社内セッションを実施、eラーニングによる社員教育も行っています。また、相談窓口も設けられ、誰でもSOGIハラの相談ができるシステムを構築しました。
キャスレーコンサルティングでは、LGBT等の性的マイノリティに関する方針を明文化し、コーポレートサイトで開示したことをはじめとし、社内教育に力を入れています。相談窓口を設け、採用担当者を含む人事部門への研修も実施中です。LGBTに関する社員教育をきっかけに社員の考え方や態度が変わったという実感を得ているようです。
参考:株式会社 アウト・ジャパン「企業インタビュー」
SOGIハラは最悪の場合、従業員の精神疾患の発症や退職といった、企業にとって大きな損失につながる可能性もあります。また、パワハラ防止法の施行に伴い、SOGIハラ対策をおろそかにすることは法律違反にもなりえます。
SOGIハラを未然に防ぐことは、より働きやすい職場を作り、企業の生産性アップや企業イメージの向上にもつながります。本記事を参考に、ぜひSOGIハラ対策に取り組んでみてください。
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