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【実施基準をケース別解説】産業医面談とは?人事担当者が知るべき義務・基準・拒否対応

近年、働き方の多様化やメンタルヘルスへの関心の高まりを受け、「産業医面談」の重要性は増すばかりです。しかし、「法律で定められた義務は?」「どんな従業員が対象になるの?」「もし従業員に拒否されたらどうすれば?」といった疑問や不安を抱える人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。

産業医面談は、単なる法遵守だけでなく、従業員の健康を守り、休職や離職を防ぎ、ひいては企業全体の生産性を向上させるための重要な施策です。この記事では、産業医面談の基礎知識から、法律で定められた実施義務、ケース別の対象基準、具体的な実施フロー、そして最も対応に悩む「面談拒否」への対処法まで、人事労務担当者が知るべき全てを網羅的に解説します。

産業医面談とは?企業の義務と従業員の健康を守る要

このセクションでは、産業医面談が単なる「面談」ではなく、企業の法的義務と密接に関連し、従業員の健康と会社の未来を守るための戦略的な機能であることを定義します。

産業医面談の基本的な定義と目的

産業医面談とは、産業医が従業員と直接対話し、心身の健康状態を医学的・専門的見地から確認・指導する制度です。主な目的は、従業員の健康障害を未然に防ぎ、不調を早期に発見して対応すること、そして必要に応じて職場復帰を支援することにあります。

産業医は、企業と従業員の中立的な立場から、専門的な助言を行います。これにより、上司や人事には直接相談しにくい業務上の悩みや健康問題についても、従業員が安心して話せる環境が提供されます。

企業にとっての3つのメリット

産業医面談は、法的な義務として捉えると消極的な運用になりがちですが、本質は企業と従業員の双方にとっての「戦略的投資」です。従業員の健康という無形資産を守り育てることで、離職率低下や生産性向上といった具体的な経営成果に繋がります。

  • リスクマネジメント: 従業員の健康問題に起因する労働災害や、企業の「安全配慮義務」違反による訴訟リスクを低減します。
  • 生産性の向上と人材定着: 専門家による早期介入を通じて、従業員の心身の不調が悪化する前に対処し、休職や離職を未然に防ぎます。健康で長く働ける職場環境は、従業員の定着率向上に直結します。
  • 健康経営の推進: 産業医面談は、従業員の健康を重要な経営資源と捉え、戦略的に投資を行う「健康経営」の根幹をなす施策の一つです。従業員の健康増進への取り組みは、企業の社会的評価やブランドイメージの向上にも貢献します。

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従業員にとってのメリット

従業員にとっても、産業医面談には大きなメリットがあります。

  • 専門家への相談機会: 自身の健康状態を客観的に把握し、生活習慣の改善やストレス対処法について、医学的知見に基づいた専門的なアドバイスを無料で受けられます。
  • プライバシーの保護: 産業医には厳格な守秘義務が課せられており、相談内容が本人の同意なく会社に共有されることはありません。安心してデリケートな問題を相談できます。
  • 職場環境改善のきっかけ: 個人の健康問題だけでなく、長時間労働や人間関係といった職場環境に起因する問題について、産業医という中立的な立場を通じて会社に改善を働きかけるきっかけとなり得ます。

産業医面談の法的根拠と企業の実施義務【人事担当者が押さえるべきポイント】

このセクションでは、人事担当者が最も注意すべき「法律」について、条文の解説だけでなく、なぜそれが重要なのか、違反した場合のリスクは何かを具体的に解説します。

中核となる法律:労働安全衛生法

産業医面談に関する規定は、主に労働安全衛生法および関連する労働安全衛生規則に基づいています。特に、長時間労働者やストレスチェックで高ストレスと判定された従業員など、特定の条件下において、企業には産業医による面接指導を実施する義務が課せられています。

重要なのは、多くのケースで面談実施のきっかけが「従業員からの申し出」である点です。しかし、企業は単に申し出を待つだけでなく、従業員が制度を理解し、安心して申し出ができるような環境を積極的に整備する義務も負っています。

【参考】e-GOV法令検索「労働安全衛生法」

最も重要な概念「安全配慮義務」とは?

安全配慮義務とは、労働契約法第5条に定められた、企業が従業員の生命や身体の安全を確保し、健康に労働できるよう必要な配慮をする義務のことです。

産業医面談を法律や社内規程に則って適切に実施することは、この安全配慮義務を履行していることを示す重要な証拠となります。もし、必要な面談を怠った結果として従業員が心身の健康を損なった場合、企業は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

【参考】e-GOV法令検索「労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)」

「企業の実施義務」と「従業員の受診義務」の違い

ここで人事担当者が直面するのが、「義務のねじれ」です。

  • 企業の義務: 法律で定められた対象者に対し、産業医面談の機会を提供する義務があります。
  • 従業員の権利: 一方で、一部の例外(研究開発業務従事者の月100時間超労働など)を除き、従業員に面談を受ける義務はなく、拒否することが可能です。

この「企業は実施義務を負うが、従業員は拒否できる」という構造が、実務上の難しさの根源です。そのため、強制ではなく、従業員が自らの意思で面談の重要性を理解し、受診したくなるような丁寧なコミュニケーションと環境整備が極めて重要になります。

法的な観点から見ると、企業の義務の核心は「面談を無理やり受けさせること」ではありません。むしろ、「企業として従業員の健康を守るために、あらゆる合理的で適切な手段を尽くした」というプロセスを、客観的な記録として証明できるかどうかにあります。たとえ従業員に面談を拒否されたとしても、適切な方法で面談を勧め、その事実と代替案の提示などを記録として残しておくことが、企業の法的リスクを管理する上で不可欠なのです。

【ケース別】産業医面談が必要となる6つの基準

ここでは、人事労務担当者が日常業務で遭遇する具体的な6つのケースについて、どのような場合に面談が必要となるのか、その基準と目的を詳しく解説します。

長時間労働者への面接指導

長時間労働は、脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調の重大なリスク要因です。そのため、法律で厳格な基準が定められています。

  • 対象者(申し出により義務化): 時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる従業員から面談の申し出があった場合 。
  • 対象者(申し出なしで義務化): 研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度適用者については、時間外労働が月100時間を超えた場合、本人の申し出がなくても面接指導の実施が義務となります。
  • 目的: 過重労働による健康障害を未然に防ぐため、産業医が勤務状況や疲労度合いを確認し、適切な指導を行います。
  • 人事の役割: 全従業員の労働時間を正確に把握し、対象者に面談制度を通知すること、そして申し出があった場合に速やかに面談を設定することが法律で義務付けられています。

【参考】厚生労働省「長時間労働者への医師による面接指導制度について」
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ストレスチェックの高ストレス者

従業員50人以上の事業場で年1回の実施が義務付けられているストレスチェックも、産業医面談の重要な入り口です 。

  • 対象者: ストレスチェックの結果、「高ストレス者」と判定された従業員のうち、本人が面談を希望した場合 。
  • 目的: 高ストレス状態がメンタルヘルス不調へ移行するのを防ぐため、産業医がセルフケアの方法を指導したり、ストレスの原因となっている職場環境について評価したりします。
  • 人事の役割: ストレスチェック実施後、結果にかかわらず全ての従業員に対し、高ストレスと判定された場合には産業医面談を申し出ることができる旨を明確に周知する必要があります。

【参考】厚生労働省「ストレスチェック制度導入マニュアル」
【関連記事】ストレスチェック「高ストレス放置」は危険!法リスクと対処法

健康診断結果に異常所見があった従業員

定期健康診断は、身体的な健康問題を発見する重要な機会です。

  • 対象者: 健康診断の結果、血圧や血糖値、肝機能などの項目で「異常の所見」があると診断された従業員。
  • 目的: 健診結果が業務に与える影響を評価し、就業を継続する上での措置(通常勤務、就業制限、要休業など)について、産業医の専門的な意見を聴取します。
  • 法的要件: 事業者は、健康診断で異常所見があった従業員について、健診後3ヶ月以内に医師から就業上の措置に関する意見を聴かなければならないと定められています。

【参考】厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
【関連記事】【産業医監修】健康診断後、産業医に求められる対応とは?

メンタルヘルス不調の兆候が見られる従業員

法律で明確に基準が定められていなくても、企業には安全配慮義務の観点から対応が求められるケースがあります。

  • 対象者: 明らかな理由なく遅刻や欠勤が増えた、業務上のミスが目立つ、周囲とのコミュニケーションを避けるなど、メンタルヘルス不調のサインが見られる従業員。本人または心配した上司からの相談がきっかけとなることが多くあります。
  • 目的: 専門的な観点から従業員の状況を客観的に評価し、早期に医療機関へ繋げたり、休職の必要性を判断したりします。
  • 人事の役割: プライバシーに最大限配慮しながら、本人に産業医面談を提案します。強制はできませんが、状況を放置することは安全配慮義務違反に問われるリスクがあるため、非常に重要な対応です。

休職・復職時の面談

休職から復職に至るプロセスにおいて、産業医面談は極めて重要な役割を果たします。

  • 休職時: 従業員から主治医の診断書が提出された際に、産業医が面談を実施します。休職の妥当性を医学的見地から確認するとともに、療養に専念するためのアドバイスを行います。
  • 復職時: 主治医から「復職可能」の診断書が出た後が、最も重要な局面です。産業医は、「日常生活が可能」なレベルと「職場で求められる業務遂行能力が回復している」レベルの違いを見極めるため、面談を行います。具体的には、生活リズムの安定、通勤可能な体力の回復、業務に必要な集中力・判断力の状態などを慎重に確認します。
  • 人事の役割: 厚生労働省が示す「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に基づいた社内フローを整備し、産業医、主治医、本人、所属部署の間の連携を円滑に進めるハブとしての役割が期待されます。

【関連記事】産業医面談が休職時に必要な理由とは?タイミングと復帰支援の方法を解説

従業員本人からの申し出があった場合

上記のケース以外でも、従業員が自らの意思で相談を希望する場合があります。

  • 対象者: 自身の健康状態や職場環境(人間関係、業務内容など)について不安や悩みを抱え、専門家のアドバイスを求めている従業員。
  • 目的: 潜在的な健康リスクや職場内の問題を早期に把握し、従業員の不安を解消することで、問題が深刻化する前に対処します。
  • 人事の役割: 従業員がいつでも気軽に相談できる窓口(例:人事部の専用メールアドレス、社内イントラネットの申込フォームなど)を常設し、その存在を広く周知することが重要です。相談しやすい体制があること自体が、従業員の安心感に繋がり、企業の健康配慮への姿勢を示すことになります。

【表1】産業医面談の実施基準早見表

人事担当者が日常業務で遭遇する様々な状況において、法的義務と取るべきアクションを瞬時に判断できるよう、以下の表にまとめました。

ケース種別 対象者基準 企業の義務レベル 従業員の申し出 人事の主なアクション
長時間労働 (月80h超) 時間外・休日労働が月80h超で疲労蓄積あり 法的義務 必要 労働時間を把握し、対象者に制度を通知。申し出があれば速やかに面談を設定。
長時間労働 (月100h超) 研究開発職等で時間外・休日労働が月100h超 法的義務 不要 対象者を特定し、申し出の有無にかかわらず面談を実施。
高ストレス者 ストレスチェックで高ストレスと判定 法的義務 必要 全従業員に面談申し出の権利があることを周知。申し出があれば速やかに面談を設定。
健康診断異常所見 健診で「異常の所見」ありと診断 法的義務 不要 健診後3ヶ月以内に産業医等の医師から就業上の措置について意見聴取を行う。
メンタル不調の兆候 遅刻・欠勤の増加、生産性の低下等 努力義務 (安全配慮義務) 不要 プライバシーに配慮し、本人に面談を推奨。状況を記録。
休職・復職 主治医の診断書提出時、復職希望時 努力義務 (安全配慮義務) 不要 職場復帰支援プランに基づき、適切なタイミングで面談を実施。
本人からの希望 従業員が健康等に関する相談を希望 努力義務 必要 相談窓口を設け、申し出があれば速やかに面談を設定。

産業医面談の実施フローと人事労務担当者の役割

産業医面談を効果的に実施するためには、準備から事後フォローまでの一貫したフローを確立することが重要です。ここでは、人事労務担当者が担うべき役割を7つのステップで解説します。

  • Step 1: 面談対象者の選定と情報整理
    長時間労働の実績、ストレスチェックの結果、上司からの相談など、各基準に基づき面談対象者を選定します。
  • Step 2: 産業医への事前情報共有
    面談の質を高めるため、産業医に事前に客観的な情報を共有します。共有すべき情報には、面談を推奨する理由(例:勤怠の乱れ)、対象者の具体的な業務内容、労働時間の実績、職場環境、上司から見た様子の変化などが含まれます。これにより、産業医は限られた面談時間で的確なヒアリングが可能になります。
  • Step 3: 日程調整と場所の確保
    従業員のプライバシー保護が最優先です。面談場所は、声が外に漏れず、人の出入りが少ない個室(会議室など)を確保します。オンラインでの面談も可能ですが、その場合は厚生労働省のガイドラインに沿って、相互に表情が確認でき、情報漏洩のリスクがないセキュアな通信環境を整える必要があります。
  • Step 4: 対象者への通知と説明
    このステップは、従業員の不安を払拭し、面談への協力を得る上で最も重要です。通知は、他の従業員の目に触れないよう、個人メールや封書で行います。通知文には、以下の点を明記しましょう。
    • 面談の目的(健康サポートのためであり、人事評価のためではないこと)
    • 産業医の厳格な守秘義務(本人の同意なく内容が漏れることはないこと)
    • 面談が任意であること(義務の場合を除く)
    • 相談したい内容を事前に整理するための簡単な質問票(任意)
  • Step 5: 産業医面談の実施
    面談は、原則として産業医と従業員の1対1で行われます。人事担当者や上司の同席は、従業員が本音を話すことを妨げる可能性があるため、原則として避けるべきです。ただし、復職面談で具体的な業務調整を話し合う必要がある場合など、本人が明確に同意した場合に限り、同席が検討されることもあります。
  • Step 6: 面談記録・意見書の保管
    産業医は面談の結果に基づき、必要に応じて企業に対して就業上の措置に関する意見書を提出します。企業は、この意見書や面談の実施記録(産業医面接指導結果報告書など)を、労働安全衛生規則に基づき5年間保管する義務があります。
    【参考】e-Gov法令検索「労働安全衛生規則第52条の6」
  • Step 7: 面談後のフォローアップと措置の実施
    産業医面談は、実施して終わりではありません。産業医の意見書に基づき、企業は従業員の健康回復と再発防止のために必要な措置(業務内容の変更、労働時間の制限、配置転換、職場環境の改善など)を講じます。措置が実行されなければ、従業員は「面談しても意味がない」と感じ、制度そのものへの信頼が失われてしまいます。

最も難しい課題:従業員が面談を拒否する場合の対応

人事担当者が最も頭を悩ませるのが、従業員からの面談拒否です。ここでは、その背景にある心理を理解し、法的リスクを回避しながら建設的に対応するための具体的な方法を解説します。

【関連記事】「産業医面談は意味ない」と従業員が拒否したら?人事のための対処法を紹介

なぜ従業員は面談を拒否するのか?5つの深層心理

従業員が面談を拒否する背景には、多くの場合、以下のような不安や懸念が存在します。

  • 不利益への懸念: 「面談を受けることで、人事評価が下がったり、昇進に不利になったりするのではないか」という不安。
  • プライバシーへの不安: 「相談した内容が、結局は上司や人事に伝わってしまうのではないか」という会社への不信感。
  • 時間的負担: 「ただでさえ業務が忙しいのに、面談のために時間を割けない」という現実的な問題。
  • 無意味感: 「どうせ形式的な面談で、話しても何も解決しないだろう」という過去の経験などからくる諦め。
  • 産業医への不信感: 産業医を「会社の味方」と捉え、中立的な立場であることを信じられないケース。

これらの拒否理由は、個々の従業員の問題というよりも、組織の「心理的安全性」が確保されていないことの表れである可能性があります。したがって、個別対応と並行して、日頃から従業員が安心して健康問題を相談できる組織文化を醸成することが、根本的な解決策となります。

拒否された際の対応4ステップ

従業員から面談を拒否された場合、高圧的な態度や強制は逆効果です。以下の4つのステップで丁寧に対応しましょう。

  • Step 1: 傾聴と共感
    まずは、「面談はちょっと…」という従業員の気持ちを否定せず、受け止める姿勢が重要です。「ご心配な点があるのですね」「お忙しいところ、お時間についてご配慮いただきありがとうございます」といった言葉で、相手の立場に寄り添い、話しやすい雰囲気を作ります。
  • Step 2: 懸念の払拭(丁寧な説明)
    従業員の不安を一つひとつ解消していきます。
    • 守秘義務の徹底説明: 「産業医には法律で非常に重い守秘義務が課せられています。ご本人の明確な同意がない限り、相談内容の詳細が会社に伝わることは絶対にありません」と、具体的に、かつ断定的に伝えます。
    • 不利益がないことの保証: 「この面談は、あくまであなたの健康をサポートするためのものであり、人事評価とは一切関係ありません」と明確に線引きをします。
  • Step 3: メリットの提示
    面談が従業員自身にとっていかに有益であるかを伝えます。「ご自身の健康状態について専門家から客観的なアドバイスがもらえます」「もし職場に原因がある場合は、産業医という専門的・中立的な立場から会社に環境改善を働きかけてもらうこともできます」など、具体的なメリットを提示します。
  • Step 4: 柔軟な代替案の提示
    画一的な対応ではなく、個々の状況に合わせた選択肢を提示します。
    • 業務が多忙な従業員には、複数の日程候補を提示したり、オンライン面談を提案したりします。
    • どうしても産業医との面談に抵抗がある場合は、本人の同意を得た上で、かかりつけの主治医から意見書(診療情報提供書)を提出してもらうという代替案も検討可能です。

それでも拒否された場合の最終手段と記録の重要性

丁寧な説明を尽くしても面談を拒否される場合、それ以上の強制はできません。しかし、ここで対応を終えてしまうと、安全配慮義務違反のリスクが残ります。

企業が取るべき最終手段は、これまでの経緯を詳細に記録として残すことです。具体的には、以下の項目を記録します。

  • いつ、誰が、どのような方法で面談を勧奨したか
  • その際に、どのような説明(守秘義務、メリットなど)を行ったか
  • 従業員が拒否した事実と、可能であればその理由
  • 提示した代替案(日程変更、主治医の意見書など)の内容

この客観的な記録こそが、万が一の際に、企業が安全配慮義務を果たすために誠実な努力を尽くしたことを証明する重要な証拠となります。

産業医面談に関するよくある質問(FAQ)

ここでは、人事労務担当者から寄せられることの多い具体的な疑問について、Q&A形式で回答します。

  • Q1: 面談に人事や上司は同席できますか?
    A: 原則として同席しません。従業員のプライバシーを保護し、安心して本音を話せる環境を確保するため、産業医と従業員の1対1での実施が基本です。ただし、復職後の業務調整など、具体的な話し合いが必要で、かつ従業員本人が明確に同席を希望し同意した場合に限り、例外的に同席することがあります。
  • Q2: 人事として、面談内容をどこまで把握できますか?
    A: 産業医には厳格な守秘義務が課せられているため、従業員本人の同意なく、具体的な相談内容や診断名などが会社に共有されることはありません。会社側には、安全配慮義務を果たすために必要な「就業上の措置」に関する意見(例:業務内容の変更、労働時間の制限など)が、産業医の意見書として提供されます。これにより、人事は医学的見地に基づいた適切な対応を講じることができます。
  • Q3: 産業医に、特定の従業員への退職勧奨を依頼することはできますか?
    A: できません。産業医の役割は、あくまで従業員の健康を守り、安全に働き続けられるよう医学的・中立的な立場から助言することです。退職勧奨のような雇用に関する判断に関与することは、産業医の職務ではありません。産業医面談は、休職や業務上の配慮など、従業員が働き続けるための選択肢を検討する場であり、退職を促す目的で利用することはできません。

    【関連記事】産業医面談でクビは可能?違法性リスクと人事の適切な対応を解説

  • Q4: オンラインでの面談は可能ですか?
    A: はい、可能です。2020年11月の法改正により、一定の要件を満たせばオンラインでの面談が認められています。ただし、厚生労働省が示すガイドラインに基づき、「従業員と産業医が相互に表情や顔色、声などを確認できる環境」や「情報漏洩や不正アクセスを防止するセキュリティ対策」などを確保する必要があります。
  • Q5: 従業員50人未満で産業医がいない場合はどうすればよいですか?
    A: 従業員50人未満の事業場には産業医の選任義務はありませんが、安全配慮義務は規模にかかわらず全ての事業者に課せられています。このような小規模事業場のために、各都道府県に設置されている「地域産業保健センター(地さんぽ)」を活用することができます。地域産業保健センターでは、長時間労働者への面接指導や健康相談などを無料で利用することが可能です。

    【関連記事】地域産業保健センター(地さんぽ)とは?役割や利用時の注意点を解説

まとめ:戦略的な産業医面談で、従業員の健康と企業の成長を両立する

産業医面談は、労働安全衛生法で定められた企業の重要な義務であると同時に、従業員の心身の健康を守り、いきいきと働き続けてもらうための不可欠な制度です。

  • 長時間労働、ストレスチェック、健康診断、休復職など、面談が必要となる基準を正しく理解し、適切なフローで実施することが、法遵守とリスク管理の第一歩です。
  • 従業員からの拒否は、多くの場合、会社や制度に対する不安や不信感の表れです。強制ではなく、丁寧な説明と信頼関係の構築を通じて、従業員が安心して面談を受けられる環境を整えることが、人事労務担当者の腕の見せ所と言えるでしょう。
  • 最も重要なのは、産業医面談を単なる「義務」や「コスト」として捉えるのではなく、従業員の健康を維持・増進し、組織全体の生産性と活力を高めるための「戦略的投資」と位置づけることです。

この視点を持つことで、産業医面談は企業の持続的な成長を支える強力なエンジンとなり得ます。本記事が、その一助となれば幸いです。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

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