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従業員数が50人以上になった事業場には、労働安全衛生法や労働安全衛生規則によって複数の義務が課せられています。
「そろそろ従業員が50人以上になりそうだけど何から手をつければいいのだろう」「労基署から勧告を受けてしまった」――。
従業員規模の拡大に伴い、企業の人事労務担当者はそんな悩みを抱えている人も少なくありません。
本記事では、人事労務担当者が知っておくべき「事業場とは?」「従業員50名以上の義務とは?」といった点を解説していきます。
【関連記事】従業員、常時使用(雇用)する労働者の定義とは? 社労士が解説!
事業場とは、端的に言えば「職場」と表すことが出来ます。
「事業場」とは、一つの場所にある職場のことです。「企業」と混同されることもありますが、「事業場」と「企業」は指す中身が異なります。
たとえば、東京に本社、大阪に支社がある企業の場合、東京の本社も大阪の支社もまとめて一つの企業です。
しかし、事業場としては、東京と大阪をそれぞれ一つの事業場としてカウントします。なぜなら、東京の本社と大阪の支社は、それぞれ離れているからです。
自身の職場が「従業員50人以上の事業場」かどうか考えるときも、考え方は同様です。
東京の本社に60人、大阪の支社に20人従業員がいる場合、「従業員50人以上の事業場」は東京の本社だけです。よって、従業員50人以上で生じる法令上の義務に対応しなければならないのは、東京の本社だけということになります。
後述するように事業場の考え方にも例外はありますが、基本的な考え方は「一つの場所にある職場が一つの事業場」です。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生法の施行について」
【関連記事】従業員、常時使用(雇用)する労働者の定義とは? 社労士が解説!
事業場の考え方の例外として、支社の規模が小さすぎる場合は、その支社を一つの事業場としてカウントするのではなく、近隣の上位組織とまとめて一つの事業場とします。
たとえば、東京に本社、大阪に支社がある企業が、神戸に出張所を持っていたとします。神戸の出張所が数名の従業員のみで、組織的関連や事務能力の面から一つの独立した事業場といえない場合、大阪の支社と神戸の出張所はまとめて一つの事業場です。
大阪の支社に47人、神戸の出張所に3人の従業員がいる場合、まとめて一つになった事業場には、50人の従業員がいることになります。
同じ場所にあったとしても、労働内容が大きく異なり、別々の事業場と考えた方が労働安全衛生法を適切に運用できる場合には、別々の事業場として数えます。
たとえば、工場の中に診療所がある場合、工場と診療所を別々の事業場と考えた方が適切である場合には、それぞれ別の事業場と考えます。
自動車販売会社に附属する自動車整備工場なども同様の例です。
【参考】厚生労働省「東京労働局 よくあるご質問」
企業は利益を追求する目的を持っている組織ですが、事業場は企業の具体的な活動が行われる場所です。事業場は、一般的に以下のような場所を指します。
対して、企業は上記の事業所を集めた全体の事を指します。一人の経営者が複数の事業所を経営している場合は、すべてを合わせて1つの企業です。
たとえば支店や拠点が複数ある場合、本社と複数の支店や拠点をすべて合わせて一つの企業とします。
企業は会社より大きな枠組みであり、大企業や中小企業、ベンチャー企業などさまざまな種類があります。
労働安全衛生法では、業種や人数によって産業医や衛生管理者などを選任する必要があります。具体的には、以下のとおりです。
選任義務が発生する者や委員会 | 業種や人数 |
衛生委員会 | 全業種50人以上 |
産業医 | 全業種50人以上 |
衛生管理者 | 全業種50人以上 |
統括安全衛生管理者 | 屋外的業種は労働者100人以上 |
安全管理者 | 屋外・工業的業種50人以上 |
安全委員会 | 屋外・工業的業種50人以上 |
作業主任者 | 危険有害作業ごと |
衛生推進者 | 工業的ではない業種10人以上50人未満 |
安全衛生推進者 | 工業的業種10人以上50人未満 |
衛生推進者や安全衛生推進者は、人事や総務などの業務と兼任ができます。
【参考】
厚生労働省「安全衛生管理体制について」
厚生労働省「安全衛生推進者・衛生推進者を選任していますか」
労働安全衛生法上で、常時50人以上の従業員がいる事業所とは、パートやアルバイト、派遣労働者を含めた従業員が50人以上いる事業所を指します。
常時使用する労働者の定義は法令によって異なり、労働安全衛生法の場合は、派遣労働者を含むのが特徴です。労働安全衛生法は、職場で働くすべての労働者の安全を守るのが趣旨なので、派遣労働者も含みます。
【関連記事】従業員、常時使用(雇用)する労働者の定義とは? 社労士が解説!
従業員が50人以上になった事業場には、労働安全衛生法や労働安全衛生規則によって定められた労働法令上の義務として以下の6つが求められます。
また、業種によっては、追加で以下の2つも義務として定められています。
それぞれの義務について、詳しく解説します。
【参考】愛知労働局「安全衛生管理体制について」
【関連記事】
産業医とは? 企業での役割、仕事内容、病院の医師との違いを解説
産業医の選任義務とは?設置基準や選任届について解説
衛生委員会とは、労働災害防止のために設置する委員会です。労使が一体となり、労働者の健康や安全に対する企業側の意識向上と整備に加え、労働者側の現状の報告、改善を話し合う場です。
労働安全衛生法第18条および労働安全衛生法施行令第9条により、常時50人以上の労働者を使用する事業場において設置が義務付けられています。
6つの義務のうち衛生委員会の設置は、最初に取り組むとよいでしょう。なぜなら、産業医の選任やストレスチェックの実施などを進めていくためには、衛生委員会を通して労使間の合意を取っておく必要があるためです。
可能であれば、従業員が50人以上になる前から設けておくとよいでしょう。
【関連記事】産業医が衛生委員会に出席するのは義務?役割や注意点を解説
衛生委員会の設置は法的義務であり、以下の項目が定められています。
衛生委員会を設置しない場合には、安全(健康)配慮義務違反として50万円以下の罰金が科されるので注意が必要です(労働安全衛生法第18条1項、第120条)。
衛生委員会は、毎月1回以上の実施が義務付けられています(労働安全衛生規則第23条)。衛生委員会には産業医の同席が望ましいため、職場巡視の日程と合わせるとよいでしょう。
月1回開催できない場合の罰則規定はありませんが、法令違反として労働基準監督より指導勧告や是正命令を受ける可能性があります。
厚生労働省では、衛生委員会で話し合うべき内容として、以下の例を挙げています。
衛生委員会のテーマは、自社の課題に適したものを選ぶとよいでしょう。衛生委員会のテーマ選定に迷う場合は、関連記事「【2023年版】安全衛生委員会のテーマ例 マンネリを防ぐネタ選びのポイントは?」 、参考資料「衛生委員会テーマサンプル集」を参考にしてみてください。
議事録については、従業員がいつでも見られる場所への掲示やファイルの保管が推奨されます。衛生委員会における議事録は、3年間の保存が義務付けられています。
議事録のフォーマットのサンプルは、参考資料「衛生委員会議事録フォーマット」をご活用ください。
常時50人以上の従業員が働く企業においては、産業医の選任も法律で義務付けられています。
医学に関する専門的知識が必要なもの(治療は除く)は、産業医の職務です。たとえば、以下が当てはまります。
産業医は毎月1回あるいは2ヶ月に1回、作業場の巡視をすることが定められています。作業方法や衛生状態に問題がある場合は、すぐに従業員の健康障害を防ぐ措置を講じます。
また、産業医は総括安全衛生管理者に勧告、衛生管理者に指導や助言を行えます。事業者は、産業医に対して健康管理を適切に行うために情報の提供が必要です。
【参考】厚生労働省「安全衛生管理体制について」
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産業医選任に関する義務は、労働安全衛生法、労働安全衛生規則により以下が定められています。
産業医には、非常勤の嘱託産業医と常勤の専属産業医がありますが、どちらが必要となるかは事業場の規模で決まっています。嘱託産業医は、50人以上999人以下の労働者が在籍する事業所で設置が義務付けられています。
嘱託産業医は、月に1回から数回のペースで事業所を訪れ、職場巡視や面談、ストレスチェックや健康指導など産業医としての業務に携わります。
一方、専属産業医は1,000人以上の労働者が在籍する事業所、および有害業務に携わる労働者が500人を超える事業所で設置が義務付けられています。
嘱託産業医とは異なり、事業所と直接契約をすることで、その事業所専属の産業医としてのみ業務に携わります。
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選任届は、以下の「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」の用紙に記入して、労働基準監督署に提出します。
産業医選任報告の書き方については、関連記事「産業医選任報告(選任届)の書き方と記入例」をご確認ください。
参考:厚生労働省「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」
初めての選任では、毎月職場に訪問することを前提とすることが推奨されます。
また、原則として毎月1回の職場巡視が必要とされていますが、衛生管理者による巡回を週1回実施し、産業医に情報を共有することで、産業医の巡回を2ヶ月に1度とすることも可能です。
産業医の役割については、以下の記事も参考にしてみてください。
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産業医には、上述の通り専属と嘱託の2タイプの契約種類があります。どちらのタイプの産業医が必要となるかは、事業場の規模によって異なります。法律に規定がありますので以下の図表をご参照ください。
産業医を探す際には、以下の4つの方法を用いる事業場が多いです。
それぞれの方法のメリット・デメリットなど、具体的な産業医の選び方・探し方は、参考記事「産業医の探し方 産業医紹介4つの相談先と選び方のポイント」 をご確認ください。
産業医の報酬については、従業員数が多いほど、産業医に支払う料金は高くなる傾向にあります。なぜなら、従業員数が多いほど面談等の時間がかかり、目を配らなければならない社員の人数が増えるためです。
また、訪問回数を増やしてもらったり、法で定められた産業医業務だけでなくメンタルケア対策にも注力してもらったりすると、報酬も増加するのが一般的です。
実際に産業医に支払う報酬については、他社を参考にするのではなく、従業員数や業務範囲を考慮して決定するのがよいでしょう。
具体的な産業医の報酬の相場については、関連記事「産業医に支払う費用はどれくらい?報酬相場と報酬以外にかかる費用を解説」 をご参照ください。
なお、ストレスチェックにおける報酬相場例は以下の通りとなっています。
対応内容 | 報酬額(1回あたり) |
ストレスチェック実施者 | 500円以上/従業員1名あたり |
ストレスチェック後の産業医活動実施 | 21,500円以上/1回あたり |
働き方改革の実施にともない、産業医の権限が強化されるようになりました。
その背景としては、過重労働による健康障害の報告が増え、それらの防止やメンタルヘルス対策の重要性が増す中、産業医に求められる役割も変化し、対応すべき業務は増加したことにあります。
産業医が必要な措置を講じるための情報収集のあり方中心に、産業医の職務をより効率的・効果的に実施できるような見直しが行われることになりました。
具体的には、2017年に施行された労働安全衛生規則等の改正により以下の項目の見直しが行われました。
見直しされた項目 | 見直し後の内容 |
健康診断の事後措置に必要な情報の提供 | 健康診断の結果、異常所見のあった労働者が医師からの意見聴取を行うにあたり、医師に業務に関する情報を求められた場合、事業者はその情報を提供しなければならない |
長時間労働者に関する情報の提供 | 事業者は、時間外・休日労働が月100時間を超えた労働者について、速やかにその労働者の労働時間に関する情報を産業医に提供しなければならない |
定期巡視等産業医の情報収集の見直し | これまで毎月1回以上が義務付けられていた産業医の作業場の巡視の頻度を、事業者から産業医に所定の情報が毎月提供されるという条件下においては、2ヶ月に1回以上とすることが可能となる |
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衛生管理者は、労働者の健康被害を防止するためのさまざまな活動を行う担当者です。ここでは、衛生管理者の選任に対する法的義務や選任しなければならない数などについて簡単にまとめておきます。
衛生管理者は、従業員の労働環境に目を配り、衛生に関する事項を管理することが職務です。従業員に怪我や病気が発生しないよう、安全管理を行うことが目的です。具体的には、以下のような内容を実施します。
また、少なくとも毎週1回、労働環境を巡視する必要があります。設備や作業方法、衛生状態に問題がある場合は、従業員の健康を守るための措置を講じなければなりません。
オフィスだけでなくトイレや休憩室など業務と関係ない部分でも、衛生環境の調査や改善が求められます。
その他には労災が発生した際、医療機関と迅速に連携し従業員が治療に専念できるよう努めなくてはなりません。
【参考】厚生労働省「職場のあんぜんサイト:衛生管理者」
衛生管理者は、職場で雇用する従業員が常時50名以上になると、法的に選任の義務が発生します(労働安全衛生法第12条1項)。衛生管理者として選任されるためには、業種に応じて労働安全衛生法で定められた以下の国家資格が必要となります。
ただし医師、歯科医師、労働衛生コンサルタント等、厚生労働省が定めるものについては、業種の定めなく衛生管理者として選任可能です。
衛生管理者は、選任すべき事由(常時雇用している従業員が50人以上になった日)から14日以内に選任し、労働基準監督署に選任届を提出する必要があります。選任義務があるのに衛生管理者を選任していない場合は、50万円以下の罰金を科される可能性があります(労働安全衛生法第120条)。
【参考】
愛知労働局『安全衛生管理体制について』
厚生労働省「衛生管理者について教えてください。」
事業場の従業員数 | 専任が必要な衛生管理者数 |
1~49名 | 衛生管理者の選任義務なし
(安全衛生推進者を専任) |
50名~200名 | 1名以上 |
201名~500名 | 2名以上 |
501名~1,000名 | 3名以上 |
1,001名~2000名 | 4名以上 |
2,001名~3,000名 | 5名以上 |
3,001名以上 | 6名以上 |
【引用】健康経営に欠かせない衛生管理者とは?選任義務と必要な資格について解説
選任しなければならない衛生管理者の数は、常時使用する従業員数に応じて変わります。
たとえば従業員数が50〜200名の事業場は、1名以上の衛生管理者を選任しなければなりません。従業員数に対して必要な衛生管理者の具体的な数は、上表をご参照ください。
また、衛生管理者はその事業場の専属でなければならず、たとえば支店や営業所など、同じ会社の中でも兼任はできません。
ただし、2名以上の衛生管理者の選任が必要なケースで衛生管理者の中に労働衛生コンサルタントがいる場合は、一人は非専属で問題ありません。
ストレスチェックは、ストレスに関する質問票(選択回答)に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
ストレスチェックの第一の目的は、労働者のメンタルヘルス不調の防止です。労働者が自分のストレスの状態を知ることで、「うつ」などの重篤な状態になる前に適切な対処を行えます。
また、実施者は匿名化し集計したデータから、職場環境の改善につなげられます。
【参考】
厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単!導入マニュアル」
ストレスチェックは、常時50人以上の従業員がいる企業においては毎年1回の実施が義務となっています(労働安全衛生法第66条の10)。
適切に実施しない、労働基準監督署への報告を怠った場合には、50万円の罰金を科される可能性があります(労働安全衛生法第120条)。また、ストレスチェック制度に携わった者(実施者、実施事務従事者)には法律上の守秘義務が課されます。
これに違反した場合には刑罰の対象となりますのでご注意ください。さらに、ストレスチェック制度、とくに面接指導の申し出をしたことを理由として不利益な取り扱いをしてはならないことが法律に規定されています(労働安全衛生法第66条の10第3項)。
ストレスチェックの対象者は、以下のすべての要件を満たす従業員です。
つまり、正社員だけでなく、条件を満たしていればパートやアルバイトも対象となります。ただし、経営者や役員、派遣労働者は労働者ではなく「使用者」となるので、ストレスチェックの対象に含まれません。
ストレスチェックの実施者とは、ストレスチェックを企画し、結果の評価をする者を指します。医師、保健師、看護師、精神保健福祉士などが担当しますが、事業場に該当者がいない場合は外部委託も可能です。
ストレスチェック制度の実施事務従事者とは、実施者の補助をする者です。質問票の回収、データ入力、結果送付など、個人情報を取り扱う業務を担当します。
産業医が実施事務従事者になることもありますが、以下の場合においては従業員が実施事務従事者になり得ます。
【関連記事】ストレスチェックはなぜ必要?経営者や上司が実施者になれない理由とは?
労働者に対する健康診断は、雇い入れ時のほか、基本的に1年に1回の定期健康診断を受けさせる必要があります。1年以上雇用している、またはする予定の労働者が1人でもいる事業者では必ず実施しなければなりません。
ここでは健康診断にまつわる法的義務について簡単に解説します。
労働者に健康診断を受けさせるのは、従業員数を問わず使用者としての義務です。健康診断を受けさせなかった使用者には、50万円以下の罰金が科されます(労働安全衛生法第120条1項)。
受診の対象となるのは1年以上雇用している、または、する予定・週の労働時間が正社員の4分の3以上の労働者となります。条件を満たせば、パートやアルバイトでも健康診断を受けるべき対象となりますので注意しましょう。
労働者が50人以上となった場合、健康診断を受診させるだけでなく、健康診断の結果を労働基準監督署へ報告する義務が生じます(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第52条)。
健康診断に関する義務についての詳細は、関連記事「健康診断は企業の義務!会社で実施される健康診断の種類、対象者なのを解説」 をご確認ください。
従業員が横たわって休める休養室、または休養所を職場に設置するのも事業者の義務です。休養室・休養所は、職場で従業員の体調が悪くなったときに休ませたり、救急車が来るまで待機させたりするための場所です。
事業者は、常時50人以上の従業員、または常時30人以上の女性の従業員を使用するときには、労働者が横たわれる休養室または休養所を設けなければなりません(労働安全衛生規則第618条)。
なお、休養室・休養所は男女別に設けることになっています。
安全管理者とは、事業場の安全に関わる事柄全般を管理する人です。以下の業種では、常時50人以上の従業員を使用する場合、「安全管理者」を選任することになっています。
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む。 ) 、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
安全管理者は、選任すべき理由が起きた日から14日以内に選ぶ必要があります。 |
【出典】厚生労働省「Q 安全管理者について教えて下さい。」
前述した法定の業種では、常時50人以上の従業員を使用する事業場ごとに、安全管理者の資格がある人の中から、安全管理者を選任しなければなりません(労働安全衛生法第11条第1項)。
安全管理者の資格がある人は下記の1か2に該当する人です。
1.(1)~(5)のいずれかに該当する者で、厚生労働大臣が定める研修(安全管理者選任時研修)を修了したもの | (1)学校教育法による大学、高等専門学校における理科系統の正規の課程を修めて卒業した者で、その後2年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの |
(2)学校教育法による高等学校、中等教育学校において理科系統の正規の学科を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの | |
(3)学校教育法による大学、高等専門学校における理科系統の課程以外の正規の課程を修めて卒業した者で、その後4年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの | |
(4)学校教育法による高等学校、中等教育学校において理科系統の学科以外の正規の学科を修めて卒業した者で、その後6年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの | |
(5)7年以上産業安全の実務に従事した経験を有するもの | |
(6)その他(職業訓練課程修了者関係) | |
2. | 労働安全コンサルタント |
【出典】厚生労働省「Q 安全管理者について教えて下さい。」
違反した場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります(労働安全衛生法第120条)。
安全管理者は、事業場に専属の人から選任しなければならないことになっています。
しかし、安全管理者を2人以上選任する場合で、安全管理者の中に労働安全コンサルタントが選任されている場合はやや規定が異なります。
労働安全コンサルタントが安全管理者に含まれている場合は、労働安全コンサルタントのうち1人は事業場に専属でなくても構いません。
【参考】厚生労働省「Q 安全管理者について教えて下さい。」
安全委員会とは、職場での危険の防止策や安全に関する規定に関して審議する場です。以下の業種の事業場は、従業員を常時50人以上使用する場合、安全委員会を設置しなければならないことになっています。
林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業 |
【出典】厚生労働省「Q 安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
安全委員会の設置は法律で義務として定められています(労働安全衛生法第17条1項)。安全委員会の委員になるのは、以下の人たちです。
【出典】厚生労働省「Q 安全委員会、衛生委員会について教えてください。」
違反すると、50万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労働安全衛生法第120条)。
安全委員会と衛生委員会を両方とも設置しなければならない事業場は、それぞれの委員会を別々に設置するのではなく、一つにまとめて、「安全衛生委員会」を設置できます。
安全衛生委員会で調査・審議をする事柄は、安全委員会や衛生委員会で調査・審議する事柄と同じです。
産業医に関する義務を怠った場合、6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金を科される可能性があります。従業員が50人以上いるにもかかわらず産業医を選任しなかった場合だけでなく、選任をしていても産業医が業務を行わなかった場合も罰則の対象です。
罰則を科された場合、企業のブランドイメージが下がると同時に、ハローワークの雇用関係助成金が利用できなくなります。
産業医の設置をせず労働基準監督署が調査に入った場合、産業医関連の内容以外にも、長時間労働やサービス残業の有無なども調べられる可能性があります。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生法」
従業員が50人未満の企業は産業医を選任しなくても問題ありませんが、可能であれば産業医を選任しておくほうがよいでしょう。
従業員は日々健康リスクにさらされており、外傷やメンタルの不調などが発生することも少なくありません。一人の従業員が健康を損ない休職や離職となると、他の従業員の業務負担増加を招き、さらなる不調者の発生にもつながります。
このような事態を防ぎ、従業員・企業双方にとってよい職場を作るために、専門の知識をもつ産業医の選任は効果的です。
また、労働安全衛生法では、すべての企業が果たすべき義務として「安全配慮義務」を定めています。従業員が安全を確保しつつ働けるよう、企業は労働災害の防止に努めなければなりません。
安全配慮義務の違反には、とくに罰則は設けられてはいません。しかし、損害賠償を請求された際の根拠にもなるため、専門知識をもつ産業医を選任し環境を整えておくに越したことはありません。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生法」
【関連記事】50名未満の事業所にも産業医って必要?―今さら聞けない産業保健vol.3
労働法令上においては、従業員数が50人以上の企業でなくても課される義務があります。
具体的な義務は、以下のとおりです。
それぞれについて詳しく解説します。
安全衛生教育は労働災害防止のため、業務の安全や衛生に対する知識を従業員に学ばせるために行われる教育です。
労働安全衛生法によって、以下に挙げる6つの教育が企業には義務付けられています。
実施される内容は「機械や原材料の危険性・取り扱いについて」や「安全装置の性能や取り扱いについて」などです。
万が一、安全衛生教育を怠るなどの違反があった場合、労働安全衛生法59条3項に基づき6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科されます。
【参考】厚生労働省 東京労働局「労働安全衛生教育の重要性について」
作業環境測定とは、ガス・粉じんなどの有害物質や、騒音・高熱などの有害エネルギーが存在する職場において、危険度の実態を測るために行われる測定です。
以下に挙げる作業場で業務を行う事業者には、測定の義務が課されています。
【出典】厚生労働省「【労働安全衛生法施行令第21条】作業場の種類」
また、作業環境測定の実施および評価は、次に挙げる3つの原則に沿っておこなわれます。
作業環境測定の実施 | 作業環境測定結果の評価 | |
第1の原則 | 11の作業場について規定回数測定し、法で定められた期間保存する | 測定結果に応じて必要な措置等をおこなう |
第2の原則 | 定められた基準に沿って測定する | 定められた基準に沿って評価をおこなう |
第3の原則 | 粉じんを著しく発散する屋内作業場など、6つの指定作業については、作業環境測定士・作業環境測定機関に測定させる |
作業環境測定をおこなわず違反とされた場合、6ヶ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科されます。
作業管理とは、作業方法や使用する道具などの改善を通じて、従業員が安全に作業できる環境を管理することです。職場の安全性を確保し、できるだけシンプルな作業方法で成果を上げられるようにするのが目的です。
具体的には「今使っている物質をより安全な物に変える」「手指に危険がおよぶ作業をする時用の手袋を用意する」などを行い、安全性を確保します。
【参考】厚生労働省「労働衛生の3管理」
健康診断は、従業員が抱える身体の不調や病気を早期に発見するために行われる診断です。
すべての事業所に義務付けられており、従業員が一人でもいる事業所は実施する必要があります。正社員だけでなく、一定時間以上勤務している派遣社員やパートなども健康診断の対象になります。
また、健康診断は定期的に行われるもの以外にも、さまざまなタイミングで実施しなければならず、怠ると法令違反となる可能性があるので注意が必要です。
【参考】厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
【関連記事】健康診断は企業の義務! 会社で実施される健康診断の種類、対象者などを解説
事業者は、長時間の時間外労働および休日労働を行った従業員に対し、専門家による面接指導を実施しなければなりません。
基本的には労働時間を適正に管理し、長時間労働そのものを発生させないことが重要です。
しかし、実際問題としてやむを得ない事情によって、長時間の業務が必要となるケースも少なくありません。やむを得ず長時間働かないといけない従業員に対して、健康に配慮することを目的として面談指導が義務付けられています。
健康診断・長時間労働の詳細については下記の記事で解説しているので、ぜひ参考にしてください。
【関連記事】従業員50人未満の事業場の義務とは? 産業医は必要!?
2022年10月から社会保険加入の対象が段階的に拡大されます。
2024年10月からは従業員数51人以上の企業でも対応が必要となるので、今のうちから準備をしておくとよいでしょう。新たな加入対象者は、以下のすべてに当てはまる人となります。
【参考】厚生労働省「従業員数500人以下の従業主のみなさまへ」
経営者や企業が同じでも事業場が違う場合、原則として最低賃金は地域別です。
たとえば、本社がある東京都の最低賃金が1,050円、事業場のある福岡県の最低賃金が800円の場合、それぞれの地域の最低賃金が当てはまります。
しかし、事業場の規模が小さく独立性がない場合は、本社と同一と見なされることがあるため注意しましょう。同一と見なされる場合、基本的にはそれぞれの最低賃金のうち高額な方が適用されます。
それぞれの地域の最低賃金を適用する場合は、従業員の人事異動に注意が必要です。同じ業務内容にもかかわらず異動によって賃金が減った場合は、異動拒否やモチベーション低下などのトラブルにつながる可能性があります。
社会保険や労働保険(労災保険と雇用保険)は、原則として支店単位で成立し、手続きが行われます。
そのため、支店を設置するごとに保険の手続きが必要です。支店という名称でなくても、意思決定に関する権限を持っている場合は、それぞれ保険の手続きを行う必要があります。
例外として、勤怠の集計や給与計算を一括で行っている場合、事務手続きを簡単にするために、本社での労働保険の取り扱いが可能です。
また、支店が経営組織として独立していない場合は、社会保険や労働保険の別途手続きをする必要はありません。
組織の意思決定を行わず経理の常駐がない営業所なども、本社で一括手続きが可能となる場合があります。
従業員を雇用している場合は必ず社会保険に入る義務があるため、本社と事業所どちらで手続きを行うのか確認をしておきましょう。
就業規則の作成や届出義務は、基本的に事業場単位で考えます。
就業規則は、常時10人以上で作成義務が発生します。しかし、会社の規模が10人以上でも事業場の従業員が「常時10人以上」でない場合、就業規則の作成・届出義務が発生しません。
たとえば、一時的に従業員を雇った結果10名以上になった場合は、常時10人以上ではないため、就業規則の作成は不要です。
常時10名以上かどうかを判断するにあたって、雇用形態や労働時間の要件は一切含まれません。そのため、1〜2時間の短時間勤務でも従業員が10名以上の場合は、就業規則を作らなければなりません。
就業規則を作成する法令上の義務がなくても、働く上でのルールづくりとしては就業規則がある方が望ましいでしょう。
ここまで、50人以上の従業員を抱える企業に生じる義務について紹介してきました。
まとめると、以下の6つの義務が課せられます。
また、業種によっては、以下の2つも義務として定められています。
従業員数が50人以上になった、もしくはもうすぐ50人以上になりそうな企業の担当者は、この記事を参考に必要な準備をしていきましょう。
産業医の選任など、産業保健関連の法定義務が一目でわかるチェックシートです。 最近では、労基署から指摘を受けた企業担当者からの相談も少なくありません。働き方改革を推進する観点から、国では今後も法定義務が遵守されているかの確認を強化していくと思われるため、定期的に自社の状況を確認することをお勧めします。
エムスリーキャリア・エムスリーグループが展開する健康経営サービスについてまとめた資料です。 健康経営の関心の高まりや健康経営を疎かにするリスクについても解説しています。
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け