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従業員、常時使用(雇用)する労働者の定義とは? 社労士が解説!

労務管理をする上で法令遵守は当然ですが、法律用語を正しく理解していないと意に反して法令違反を犯すリスクがあります。注意したい用語の一つが「常時使用する労働者(常用労働者数)」です。

今回の記事では、常時使用(雇用)労働者の定義について解説します。労務管理の基本として、しっかり理解しておきましょう。

従業員とは?

従業員とは、雇用契約に基づき、使用者(事業主)と雇用契約書もしくは労働契約書を取り交わした上で業務に従事する者を指します。そのため、従業員の雇用形態は正社員、契約社員、アルバイト、パートなど多岐にわたります。雇用契約以外の形態で働く者については、従業員とは定義しません。具体的には、代表取締役や取締役、業務委託契約者、外注先の方が該当します。

なお、法律上、雇用されている人は労働者と呼ばれることが多いです。そのため、労働者と従業員は同義語と考えてよいでしょう。

従業員数とは?

上記の通り、従業員とは、使用者(事業主)と雇用契約を結んでいる労働者を指します。このため、従業員数はそれに該当する労働者の数となります。なお、出向労働者については、雇用契約を結んでいる事業主の労働者として数えるため注意しましょう。

この場合、「従業員数」の数え方はどうなる?

役員

前述の通り、役員は会社と雇用契約を結んでいないため、従業員として数えることはできません。ただし、執行役員は会社法上では役員ではなく管理職にあたるので、従業員として数えることができます。

派遣社員

派遣社員は派遣先企業ではなく、派遣元企業と雇用契約を結ぶため、派遣元企業の従業員扱いとなります。

【関連記事】派遣社員は「従業員数」に含める? 従業員数50名以上の企業の義務とは

出向中の労働者

出向中の労働者については、出向中の雇用契約内容によって従業員として数えるか/数えないかが変わってきます。

例えば、現在の勤務先と雇用契約を結んで出向する場合、出向元である現勤務先の従業員として数えます。現在の勤務先との雇用契約を終了して出向先と雇用契約を結ぶ場合、出向先の従業員として数えられます。

従業員数は、いわば雇用契約を結んでいる労働者の総数です。出向中の従業員の数え方に迷った場合は、まずはどこと雇用関係を結んでいるかを確認しましょう。

従業員数の「連結」「単体(単独)」とは?

従業員数を表記する場合、企業によっては「連結」「単体(単独)」と記載することがあります。この違いについて次に説明します。

連結従業員数

親会社だけではく、子会社や関連会社といったグループ会社全体の従業員数を指します。

単体(単独)従業員数

企業単体の従業員数を指します。この場合、子会社や関連会社といった連結会社の従業員数は含まれません。

常時使用(雇用)する労働者とは?

常時使用(または雇用)するという用語は、労働関係法令の中で事業所を規模別に区分するためなどに用いられます。

たとえば、労働安全衛生法は「常時使用する労働者数が50人以上の事業場では産業医を選任すること」を義務付けています。また、障害者雇用促進法は事業主に「常時雇用する労働者数に障害者雇用率を乗じた数以上の障害者を雇用すること」を求めています。

「常時使用(雇用)する労働者」は同じ労働者が対象であると勘違いされやすいですが、実は異なります。つまり、法令によって「常時使用(雇用)する労働者」の定義は異なるのです。法令ごとの定義について解説します。

労働基準法における「常時使用する労働者」とは?

まず、労働基準法についてみていきましょう。

労働基準法は「全ての労働者の最低限の労働条件」を定めた法律

労働基準法は、使用者と比べて立場の弱い労働者を保護するために、労働者の最低限の労働条件を定めた法律です。

対象となる労働者は、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で賃金を支払われる者(第9条)」です。つまり、使用者(事業主や経営担当者)を除く全ての労働者が対象で、パートやアルバイトの人も含まれます。

「常時使用する労働者」に関連する条文

労働基準法で「常時使用する労働者」について定められた条文は次の通りです。

89条:就業規則の届け出基準
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し行政官庁に届け出なければならない。

32条の51週間単位の非定型的変形労働時間
日常業務に著しい繁閑の差が生ずる所定の事業で、常時使用する労働者数が10人未満の場合、労使協定などの要件を満たせば1日10時間労働させられる。

附則・36協定の例外:時間外割増の経過措置の対象となる中小事業主の定義
常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主は50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主に100人)以下である事業主。
※中小事業主を区分する基準は、常時使用する労働者数のほかに「資本金の額」もあり。

また、36協定を締結する労働者の代表は「労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数を代表する者」とされていますが、ここでの労働者は「常時使用する労働者」を指します。

「常時使用する労働者」の範囲

「就業規則の届け出基準」や「中小事業主の定義」などで用いられる「常時使用する労働者」は、原則全ての労働者で、短時間労働のパートやアルバイトの人(1年以上継続雇用が見込まれる人)も含まれます。雇用保険や社会保険の加入の有無は関係ありません。

ただし、派遣社員については注意が必要です。労働基準法の労働者は「事業に使用される者で賃金を支払われる者」であるため、派遣社員は派遣元の会社の労働者となります。派遣先の会社では、派遣社員は除いて従業員数を計算しましょう。

また、繁忙期など期間限定で働く労働者については、常時ではないので原則対象外です。

【参考】労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)

労働安全衛生法における「常時使用する労働者」とは?

次に、労働安全衛生法です。労働安全衛生法でも労働基準法と同じ「常時使用する労働者」という用語が使用されますが、対象となる労働者は異なります。

労働安全衛生法は「職場で働く全ての労働者の安全」を守る法律

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的に制定されました。具体的には労働災害を防ぐための規制や、労働者の健康管理に関する制度などを定めています。

労働安全衛生法の対象となる労働者は、「労働基準法第9条に規定する労働者」(労働安全衛生法第2条)と定められています。原則、労働基準法と同じですが、「職場で働く全ての労働者の安全」を守る法律であるため、後述の通り少し異なる点があります。

「常時使用する労働者」に関連する条文

労働安全衛生法で「常時使用する労働者」について定められた条文は次の通りです。

12条、規則(※1)第7条:衛生管理者の選任
事業場の規模に応じて、下表に掲げる数以上の専属の衛生管理者を選任すること。

※1  労働安全衛生規則のこと。労働安全衛生法とは異なる。
※2 常時500人を超える労働者を使用し、かつ法定の有害業務に常時30人以上の労働者を従事させている事業場では、1人以上専任すること
※3  1000人超の場合は1人以上専任すること

常時使用する労働者数 衛生管理者数
50人以上200人以下 1人
200人超500人以下 2人
500人超1000人以下 3人(※2)
1000人超2000人以下 4人(※3)
2000人超3000人以下 5人
3000人超 6人

13条、規則第13条:産業医の選任基準
政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し労働者の健康管理その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

常時使用する労働者数 産業医
50人以上500人未満 1人
500人以上1000人未満 1人(※1)
1000人以上3000人以下 1人(※2)
3000人超 2人

※1 有害業務を扱う場合、専属産業医が必須
※2 1000人超の場合は1人以上専任すること

66条、規則第43条:雇入時の健康診断
常時使用する労働者を雇い入れるときは、医師による健康診断を行わなければならない。

66条、規則第44条:定期健康診断
常時使用する労働者に対し1年以内ごとに1回医師による健康診断を行わなければならない。

66条の10規則第52条の9:心理的な負担の程度を把握するための検査・ストレスチェック
常時使用する労働者に対し1年以内ごとに心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。

そのほか、常時使用する労働者数や業種などによって、総括安全衛生管理者や安全管理者、作業主任者の選任・専属などが定められています。

【関連記事】
産業医の選任義務はいつから?把握すべき事業場の定義や業務・罰則について

【参考】
労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)
労働安全衛生規則(昭和四十七年労働省令第三十二号)

「常時使用する労働者」の範囲

労働安全衛生法における「常時使用する労働者」の範囲は、原則、労働基準法と同様で全ての労働者です。パートやアルバイトの人も含まれます。

ただし、労働安全衛生法は「職場で働く全ての労働者の安全」を守る法律であるため、労働基準法とは異なり、派遣先では派遣労働者も含めて常時使用する労働者を計算します。

定期健康診断の対象者は要確認

労働安全衛生法における「常時使用する労働者」は原則全ての労働者と解説しましたが、雇入時の健康診断や定期健康診断、ストレスチェックについては例外です。

労働時間の短いパートやアルバイトについては、事業主に定期健康診断の実施義務はありません。対象になるのは、1週間の所定労働時間が同じ事業場の同種の業務にフルタイムで働く従業員の3/4以上のパートやアルバイトだけです。

また、従業員の日頃の健康管理義務は雇い主にあるため、派遣元と契約する派遣労働者の健康診断やストレスチェックは、派遣先ではなく派遣元が実施することになります。

障害者雇用促進法における「常時雇用する労働者」とは?

続いて、障害者雇用促進法(正式には「障害者の雇用の促進等に関する法律」)です。「常時使用」ではなく「常時雇用」という言葉を使います。

障害者雇用促進法は「障害者の安定した雇用」を促進する法律

障害者雇用促進法は、雇用分野における障害者の働く機会や待遇を確保し、職業の安定を図ることを目的とした法律です。事業主の障害者の雇用義務や障害者に対する差別の禁止などが定められています。

対象となる障害者は、身体障害者や知的障害者、精神障害者、発達障害者、難治性疾患患者など、長期間にわたり職業生活に相当の制限を受ける人です。各障害者の範囲は次の通りです。

  • 身体障害者:障害者雇用促進法・別表に記載されている障害のある人
  • 知的障害者:知的障害者更生相談所等により知的障害があると判定された人
  • 精神障害者:精神障害者保健福祉手帳を持つ人や所定の精神疾患に罹患している人

【参考】障害者雇用促進法における障害者の範囲、雇用義務の対象

「常時雇用する労働者」に関連する条文

障害者雇用促進法で「常時雇用する労働者」について定められた条文は次の通りです。

43条:一般事業主の雇用義務等
雇用する対象障害者である労働者の数が、常時雇用する労働者の数に障害者雇用率(※)を 乗じて得た数以上であるようにしなければならない。
※いわゆる「法定雇用率」のこと。2021年3月1日から民間企業は2.3%
【参考】厚生労働省「2021年3月1日から障害者の法定雇用率が引き上げになります」

附則第4条:納付金及び報奨金等に関する暫定措置
雇用する労働者の数が常時100人以下である事業主は、当分の間、第49条第1項第1号、第50条の規定は適用しない。

第49条第1項第1号の規定は「納付金」、第50条の規定は「障害者雇用調整金」のことです。常用雇用労働者数が100人を超える事業主を対象に、障害者雇用が法定雇用率を下回る事業所から国が納付金を徴収し、法定雇用率を上回る事業所に対して障害者雇用調整金が支給されます。
【参考】独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」

また、常時雇用する労働者が一定数以上の事業主は、毎年61日現在の「障害者雇用状況報告」が義務付けられています。一定数とは1名以上の障害者を雇用しなければいけない事業所の労働者数で、法定雇用率が変わると変更されます。現在は、常時雇用する労働者が43.5人以上の事業所に報告義務が課されています。

「常時雇用する労働者」の範囲

障害者雇用促進法における「常時雇用する労働者」の範囲は、労働基準法や労働安全衛生法とは異なり、 労働時間が一定以上の人に限られます。また、短時間労働者については、労働者0.5人としてカウントするなど特殊な計算をします。常時雇用する労働者数は1週間の所定労働時間に応じて、次の通りカウントします。

  • 30時間以上の人:労働者1人としてカウント
  • 20時間以上30時間未満の人:0.5人としてカウント
  • 20時間未満の人:労働者としてカウントしない

パートやアルバイトについても雇用形態ではなく、1週間の所定労働時間によって「1人」「0.5人」「非該当」となります。障害者雇用促進法は事業主の障害者雇用義務等について定めた法律であるため、派遣社員については雇用主である派遣元で労働者として計算します。

障害者雇用促進法において、常時雇用する労働者数は事業規模を判断するために使用されるとともに、障害者の法定雇用率の計算基礎として利用されます。毎年報告が求められるなど、労務担当者として必須の知識であるといえます。

【参考】愛知労働局「障害者を雇用する義務とは」

安全衛生法における「常時使用する労働者」のカウント方法一覧

最後に、安全衛生法における「常時使用する労働者」のカウント方法一覧を紹介します。

【出典】和歌山産業保健総合支援センター:「産業医の選任義務など「常時50人以上」や「在籍労働者数」のカウントする対象者」

既に説明した通りですが、上記を見るときは次の2点に注意しましょう。

  • 「産業医や衛生管理者の選任基準」と「健康診断やストレスチェックの取扱」では、対象となる「常時使用する労働者」の定義が異なる
  • 「派遣社員」や「パート・アルバイト」は、通常の労働者と取り扱いが異なる

要件を満たす事業場は、産業医や衛生管理者を必ず選任しなければなりません。また、該当者の健康診断やストレスチェックも必須です。どちらも、労働安全衛生法で義務付けられたものですから、漏れのないようにチェックして確実に実施しましょう。

西岡 秀泰 (にしおか ひでやす)

社会保険労務士 / 西岡社会保険労務士事務所

生命保険会社に25年勤務後、西岡社会保険労務士事務所を開設。労働保険・社会保険に関して企業をサポートするとともに、年金事務所の相談員を行う。http://anshin-roumu.com/column.html

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