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企業としてのウェルビーイングとは、従業員や周囲の環境も良好な状態にあることを指します。健康経営が注目されるようになり、ウェルビーイングの考え方を取り入れた経営施策や方針提案を実施する企業が増えてきました。
本記事では「ウェルビーイング」の意味や注目される背景、経営に取り入れるメリットを解説します。企業のウェルビーイングの取り組み事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
企業の健康経営におけるウェルビーイングとは、「自身も周囲の環境も良好な状態にある」という意味です。
世界保健機構(WHO)憲章における「健康の定義」では、ウェルビーイングを以下のように定義しています。
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳) |
(出典:日本WHO協会「健康の定義」)
上記内容はWHOの行動指針として、健康や医療をはじめ、社会福祉など幅広い領域で使用されています。
現代において企業にウェルビーイングが求められている背景には、以下が考えられます。
それぞれの内容を説明します。
ウェルビーイングは、SDGs(Sustainable Development Goals)を達成するための重要な価値観として注目されています。
SDGsとは、持続可能な社会を作り上げるために、世界各国が2030年までに達成を目指す目標のことです。2015年に国際連合総会で採択され、世界のさまざまな問題を解決するための17の目標が設定されています。
SDGsの3番目の目標「すべての人に健康と福祉を(Good Health and Well-Being)」には、福祉の意味合いを指す言葉としてウェルビーイングが含まれています。
また、ウェルビーイングは一人ひとりの幸せだけでなく、社会的にもすべてが満たされていることが重要とされる考え方です。このため、人類や地球全体が幸せになり、繁栄することを目指すSDGsにおいて重要な考え方といえるでしょう。
【参考】日本ユニセフ協会「SDGsって何だろう?」
ウェルビーイングが現代において注目されている背景には、「精神的な豊かさ」が重視されるようになっていることも要因と考えられます。
かつての高度経済成長期では、物質的な豊かさが重視されていました。しかし経済が成長した現代では、仕事に対するやりがいや円満な人間関係などを含む精神的な豊かさが求められています。
企業は給与や待遇を充実させるだけでなく、福利厚生や社内制度、労働環境を整えて働きやすい職場を整備する必要があります。
また、貧困や環境破壊、戦争などの問題は物質的な豊かさだけでは解決できません。ウェルビーイングを実践し、一人ひとりが精神的な豊かさを実感しやすくすることが重要視されているのです。
少子高齢化により生産年齢人口が減少していることも、ウェルビーイングが注目される背景です。
総務省の資料によると、15~64歳の生産年齢人口は1995年の8,716万人をピークに減少し続け、2050年には5,275万人になると予想されています。
生産年齢人口が減少すると人材確保が困難となり、長時間労働や時間外勤務などが増えて労働環境が悪くなる可能性があります。また、事業運営に必要な人材を確保できなければ、企業が倒産するかもしれません。
高い課題解決能力をもった優秀な人材は、企業にとって今まで以上に貴重な存在です。そのため、優秀な人材を獲得し長期雇用にもつながるウェルビーイングは、ますます重要視されるでしょう。
【参考】総務省「令和4年版 情報通信白書」
ウェルビーイングが注目される背景には、多様な働き方を推進していることが挙げられます。
働き方の選択肢が多様化したことで労働者は、より個人の価値観に重きを置いた企業選びができるようになってきました。
「とりあえず給与が高い企業で定年まで勤める」という思考から、労働者の意識はシフトしています。「いかに自分らしく働けるか」「長期的なキャリアアップが望める環境か」など、多様な価値観を考慮する必要があるでしょう。
このような背景から、個人の価値観が尊重されるウェルビーイングの重要性は高まっています。
日本の幸福度の低さが問題視されていることも、ウェルビーイングが注目されている背景の一つです。
国連は毎年「世界幸福度ランキング」を発表しています。各国の国民約1,000人に「今の幸せを10点満点で採点したら何点か?」を問うヒアリング調査で、数値が高いほど国民の幸福度も高いと評価されます。
調査・分析する項目は、以下の6つの要素です。
「世界幸福度ランキング2024」によると、日本の幸福度は世界143カ国・地域中で51位でした。2023年の47位から順位は下がり、依然としてG7加盟国の中で最下位です。
幸福の感じ方は国や地域によって差があるとはいえ、日本人の幸福度が低いことは認めざるを得ません。
こうした世界的な背景も相まって、一人ひとりの幸福度を高めるウェルビーイングの考え方が、よりいっそう求められるようになっています。
【参考】SDSN(持続可能な開発ソリューション・ネットワーク)「The World Happiness Report 2024」
個人や企業のウェルビーイングへの意識の高まりは、働き方改革や健康経営など、国が推進する政策の影響も大きいでしょう。
国が働き方改革や健康経営を推進する目的は、企業の生産性や業績の向上などを図るためです。
ウェルビーイングを実践できれば、従業員が身体的・精神的に健康に働ける職場を実現でき、企業の生産性や業績の向上にもつながるでしょう。
ウェルビーイングを実現するために経営者や人事労務担当者には、従業員が仕事に集中するための心理的安全性のある職場整備などが求められます。
【関連記事】心理的安全性を高める方法、組織にもたらすメリットを解説
科学技術振興機構社会技術研究開発センターの研究によると、ウェルビーイングの捉え方には以下3つの側面があります。
・医学的ウェルビーイング
・快楽的ウェルビーイング
・持続的ウェルビーイング
それぞれのウェルビーイングの内容を理解しておきましょう。
【参考】科学技術振興機構社会技術研究開発センター「ウェルビーイングな暮らしのためのワークショップマニュアル」
医学的ウェルビーイングは、病気やケガ、メンタル疾患などがなく、健康的な心身が維持されることを指します。企業では、健康診断やメンタルヘルスチェックなどで測れます。
快楽的ウェルビーイングは、快楽心理学をベースにした考え方です。「気持ちいい」「楽しくて気分がいい」など主観的な状態を指します。
このようなポジティブ感情は、心拍数やホルモンの分泌量などに良い変化をもたらします。ただし、個人の主観によるため、本来の人の豊かさの指標としては疑念が残る部分があるといえるでしょう。
持続的ウェルビーイングは、家族や会社、地域コミュニティなど、あらゆる人との関係性の中で、意義を感じていきいきとしている状態を指します。快楽的ウェルビーイングより長いスパンで個人の状態を総合的に捉えます。
これまでのウェルビーイングでは、快楽主義的ウェルビーイングの捉え方が一般的でした。しかし近年では、持続的ウェルビーイングの捉え方が主流です。
組織が持続的ウェルビーイングに関する施策を考えるときに参考になるのが、PERMAモデルです。PERMAモデルとは、持続的ウェルビーイングの施策を検討する際に用いられる、ポジティブ心理学におけるフレームワークです。
PERMAモデルは、以下5つの要素を満たすことで持続的な幸福が得られると考えられています。
(参考:青山学院大学「PERMA / ポジティブ心理学: ウェルビーイングの状態とは?」
世界中の研究者や機関が同モデルを活用し、ウェルビーイングの政策や教育に活かしています。企業でも活かせるため、5つの要素が満たされる環境や条件を話し合ってみましょう。
アメリカの大手コンサルティング会社のギャラップ社が定義するウェルビーイングの5つの構成要素を紹介します。
上記のどれか一つでもうまくいかない要素があると幸福を感じにくいといわれてます。ウェルビーイングの状態になるには、5つの要素を偏りなく高めることが重要です。
【参考】GALLUP「The Five Essential Elements of Well-Being」
キャリアウェルビーイングは、キャリアに関連する幸福を指します。仕事や仕事以外(育児、趣味、ボランティア)、あるいは好きなことをする時間を含めた自分の時間の使い方などが含まれます。
ソーシャルウェルビーイングは、人間関係に関連する幸福を指します。周りの人との関係性(強固な絆、信頼、愛情など)が重要視されます。
フィナンシャルウェルビーイングは、経済的な幸福を指します。収入や資産の活用方法、貯蓄の運用・管理などが重要視されます。
フィジカルウェルビーイングは、心身が健康であることの幸福を指します。日常的に、ポジティブな感情でエネルギッシュに活動できるかが重要です。仕事の進捗や質、休日の状況など、労働環境の影響も大きい要素だと考えられます。
コミュニティウェルビーイングは、社会における良好なコミュニティとの関わりに対して感じる幸福を指します。居住地域や企業内コミュニティなども含まれるでしょう。
ウェルビーイングと「ウェルネス」「ハピネス」は、それぞれ概念が異なります。
・ウェルビーング:身体的・精神的に健康で社会的に満たされた状態
・ハピネス:精神が喜びに満たされた状態
・ウェルネス:身体的・精神的に健康である状態で、健康な状態を目指す生き方
ウェルネスとハピネスの2つの概念を合わせた状態が、ウェルビーイングであるといえるでしょう。
企業がウェルビーイングを経営に取り入れるメリットには、以下の3つが挙げられます。
それぞれのメリットを説明します。
企業がウェルビーイングを取り入れるメリットは、従業員個人・企業全体の生産性向上です。ウェルビーイングの実践により、従業員が身体的・精神的に健康に働ける職場を実現できるためです。
従業員が健康に長く働くためには、健康診断やストレスチェックの実施、健康相談窓口の設置などによる従業員の健康維持・増進のサポートが欠かせません。
欠勤や休職が減り、従業員がパフォーマンス高く働けるようになると、目標達成のための主体的な行動につながります。結果として、企業全体の生産性や効率の向上が見込まれます。
ウェルビーイングを経営に取り入れると、従業員の帰属意識が高まり離職者の減少にもつながります。幸福度が高まることで、企業に長く勤めたいと考える従業員が増えると考えられるためです。
また、ウェルビーイングを取り入れることで、従業員の変化を早期に察知し、休職・離職につながる前に対応できます。従業員が「自分は会社に大切にされている」と感じることで帰属意識が高まるでしょう。
離職者が減ることによって、人事部・現場の負担軽減や、採用・管理などのコスト削減も見込めます。
ウェルビーイングを経営に取り入れると、企業イメージが向上し優秀な人材が集まりやすくなります。ウェルビーイングに関する取り組みは「企業が従業員をどれくらい大切にしているのか」の指標になるためです。
企業は、ウェルビーイングを意識して従業員の社会的な幸福を重視した施策に取り組むことで、社会的責任を果たしているとの評価を得られます。企業としての価値が高まれば働きたいと考える人も増え、人材の確保につながります。
ウェルビーイングの具体的な取り組み方として、以下5つの方法が挙げられます。
・必要とされる労務管理を徹底する
・健康診断・ストレスチェックを必ず実施する
・福利厚生や社内制度を充実させる
・活発なコミュニケーションを促す環境を作る
・ウェルビーイングを可視化する
それぞれの取り組み内容について解説します。
ウェルビーイングに取り組む際は、まず企業に求められる労務管理の徹底が重要です。安全配慮義務を果たすために、以下のような取り組みを実施しましょう。
上記の施策は、労働安全衛生法に記されている企業の義務なので、確実に実施する必要があります。また、単に実施するだけではなく、効果的に運用するための体制整備も重要です。
【参考】e-Gov法令検索「労働安全衛生法」
【関連記事】安全配慮義務違反に該当する基準とは?企業が取り組むべき対策も解説
従業員の健康と安全を守るには、健康診断とストレスチェックを実施しましょう。健康面・精神面に問題のある従業員を早期に発見すれば、休職・退職につながる前に対処できます。
また、健康診断で異常所見が見られた従業員や、ストレスチェックで高ストレス者と判定された従業員が産業医面談を希望する場合には、必ず実施しましょう。
【関連記事】
【2025年版】ストレスチェックの費用相場は?費用を抑える方法についても解説
健康診断は企業の義務!実施すべき健診の種類や対象者を解説【産業医監修】健康診断後、産業医に求められる対応とは?
ストレスチェック後の面談とは?対象となる従業員や実施の流れを解説
ウェルビーイングの取り組みでは、従業員が利用できる福利厚生や社内制度を充実させましょう。
福利厚生や社内制度は、従業員の日常的な業務・生活に直結し、利用しやすいことが大切です。制度はあるものの、従業員に十分使われていなければ見直しましょう。
福利厚生であれば、健康に関する食事や運動への補助がウェルビーイングにつながります。具体的には、以下などが挙げられます。
また、テレワークや副業の導入、スキルアップやキャリア支援制度などのニーズも高まっています。福利厚生サービスに特化した企業向けのアウトソーシングサービスを活用すると、中小企業でも提供できる福利厚生のラインナップが広がるでしょう。
活発で良好なコミュニケーション環境も、ウェルビーイングの重要な要素です。コミュニケーション環境が整っていると、仕事が進みやすく問題の早期発見や解決に寄与します。
コミュニケーションを促す取り組み内容は、以下などが挙げられます。
自社の業態・業務スタイル、従業員に合わせた整備と改善を目指しましょう。
ウェルビーイングは結果が見えづらいため、取り組み内容を見える化して状況を把握しましょう。
従業員のアンケートから意見を吸い上げていくと、状況の把握と改善点をスムーズに把握できます。ウェルビーイングの取り組みを可視化するツールも増えています。
従業員の健康状態を可視化する場合は、健康経営サービスを利用するのがおすすめです。健康管理システムを活用すれば、従業員の健康診断結果やストレスチェックなどの管理をスムーズに行えます。
また、オプションとしてメンタルヘルスケアサービスも併用できると、カウンセリングを通して従業員のメンタルヘルスケアも可能です。
健康経営サービスに関する概要は以下の記事にまとめていますので、ぜひご確認ください。
【関連記事】
健康経営サービスとは?活用するメリットや選び方を解説
健康管理システムとは?運用するメリット・デメリットや導入事例を解説
経営にウェルビーイングを取り入れている企業の取り組み事例を紹介します。それぞれの取り組みのポイントを押さえて、自社のウェルビーイング施策の参考にしましょう。
【参考】ACTION!健康経営「健康経営先進企業事例集2024年3月健康長寿産業連合会 健康経営ワーキング」
住友生命保険相互会社は、生命保険や資産運用などを取り扱う企業です。従業員一人ひとりの能力を発揮するために、心と体の健康を大切にするウェルビーイングに取り組んでいます。
具体的には、運動習慣改善の取り組みとして、自社保険商品の健康プログラムの利用促進や、健康管理アプリを活用した社内ウォーキングイベントを実施しています。
取り組みの結果、運動不足者の割合が61.6%(2018年)から52.3%(2022年)になりました。
また、従業員の喫煙率低下の取り組みとして、禁煙週間・禁煙デーの運用の実施や、健康アプリを活用した禁煙に関する情報の発信なども行っています。
2018年には喫煙率が25.9%でしたが、喫煙率低下に取り組んだ結果、2022年には23.5%に減少しました。
東京海上日動火災保険株式会社は、火災保険などの損害保険を取り扱う企業です。企業の原動力である従業員の健康保持や増進を目的として、ウェルビーイングに取り組んでいます。
具体的には、女性特有の疾患やホルモンバランスの変化による不調対策のために、健康リテラシー向上を目的としたe-ラーニングを実施。加えて、食事や運動習慣の改善などを促す健康増進にも積極的に取り組みました。
業務パフォーマンスの低下を示す指標であるプレゼンティーズムは、2019年においては60.0でしたが、取り組みの実施により2022年には61.6に改善しました。
また、従業員のエンゲージメント指標である組織のいきいき度は、2.92から2.96に向上しています。
株式会社イトーキは、オフィス家具やオフィスの空間デザインなどを支援する企業です。
同社では男性従業員の育児休業取得率が低かったため、男性育休100%を宣言してウェルビーイングに取り組みました。
男性従業員の育休率改善に向けた取り組み内容は、以下のとおりです。
・育児休業支援金制度の導入
・管理職向けに育児や介護の講義を実施
・仕事と介護両立セミナー、産育休説明会、体験者懇親会を実施。
上記を実施した結果、育休取得率が8.6%(2018年)から、45.7%(2022年)に向上しています。
ウェルビーイングとは、肉体的・精神的・社会的に満たされている状態のことです。
ウェルビーイングが求められる社会的背景には、SDGsへの意識の高まりや労働人口の減少、精神的な豊かさが重視されるようになったことが挙げられます。
企業がウェルビーイングに取り組むことには、生産性の向上・離職者の減少・人材の安定的な確保などのメリットがあります。
他社事例も参考にして、自社なりのウェルビーイング施策に取り組みましょう。
エムスリーキャリア・エムスリーグループが展開する健康経営サービスについてまとめた資料です。 健康経営の関心の高まりや健康経営を疎かにするリスクについても解説しています。
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け