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HSPに対する理解を深め、従業員全員が働きやすい環境を作ろう

森賀麻由良(もりか まゆら)

産業医・循環器内科医

某国公立大学医学部医学科卒業後、循環器内科医として20年以上のキャリアを積む。 現在は総合病院循環器内科に勤務しながら、2020年より本格的に産業医業務に従事している。 現在は、東証一部上場企業をはじめ複数の企業の嘱託産業医として産業保健活動に携わる。 高血圧をはじめとした生活習慣病の予防と管理から、過労死を減らすことを目標として活動中。

近年、繊細すぎて周りの人と上手くやっていけない従業員の対応にお悩みの人事担当者の方が非常に多くなっています。発達障害と診断名がつく従業員も中にはいますが、大半はもともと人よりも感受性が強く、敏感な気質を持った人(HSP:ハイリー・センシティブ・パーソン)です。
本記事では、HSPの特徴や対処法について解説します。HSPもそうでない従業員も一緒に楽しく働ける職場環境作りを目指しましょう。

「HSP」とは

HSPとは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の頭文字をとった言葉です。「生まれつき感受性が非常に強く、敏感な気質をもった人」という意味です。アメリカの心理学者であるエレイン・N・アーロン博士が1996年に提唱しました。HSPは脳にある扁桃体(へんとうたい)の働きが生まれつき強く、感覚処理感受性(SPS:Sensory-Processing Sensitivity)が人よりも高いことが知られています。統計的には人口の15%~20%、およそ5人に1人があてはまるとされています。

HSPは病気ではなく、あくまで持って生まれた特性(気質)や性質です。人種や性別で違いはなく、また生涯を通じて変わらないとされています。HSPの人は多かれ少なかれ他よりも刺激に敏感な面を持ちますが、全員が生きづらさを感じているわけではありません。したがって治療の適応となるものではありませんし、治療で治すものでもありません。

発達障害ともよく混同されがちですが、この2つは全く異なるものです。発達障害は、精神疾患の診療(診断)基準の一つであるDSM(精神障害の診断と統計の手引き:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)にも「神経発達症群/神経発達障害群(Neurodevelopmental Disorders)」として診断基準が明記されている精神疾患です。一方、HSPはあくまで気質・性質であり、心理学上の概念です。精神医学上はHSPに該当する概念は存在しません。

「人間関係が上手くいかない」などでお悩みの方の中には、自己判断で「私はHSPだから」と思い込んでいる方もいるようですが、中には発達障害の傾向をお持ちの方が少なからず含まれています。発達障害がある場合とそうでない場合は、対処のアプローチがかなり異なります。心配な方は、ぜひ一度心療内科や精神科の専門医に相談してみましょう。

HSPと「内気である」ことは異なる

HSPはとにかく繊細な人であり、引っ込み思案で怖がり、そして神経質であることが多いと思われています。ところが、HSP全てが必ずしも内向的な性格である訳ではありませんし、内向的な人が全てHSPであるということもありません。

実はHSPの30%あまりは外向的であると言われています。外向的なHSP(HSS:High Sensation Seeking、刺激追求型)は、一見するとHSPには見えないことがよくあります。HSSは非常に好奇心旺盛であり、いつも新しい経験や情報を求めています。常に刺激を求めているのに刺激に非常に敏感で傷つきやすく、心身を疲弊させてしまうのです。

HSPが持つ4つの特性

HSPは「DOES」と呼ばれる次の4つの特性を全て持つとされています。逆にいうと、どれか1つでも当てはまらない項目があればHSPではない、とも言われています。

D:Depth of processing(処理の深さ)

HSPの脳は物事を深く考え、情報を深く処理することができます。物事に没頭するので、他の人は気がつかないような細かいことにも容易に気がつきます。間違ったことをするとどうなるかがよくわかるので、慎重なところがあります。

例)
・物事を深く掘り下げて考える・理解する
・物事に取り組むまでにあれこれ考える
・さまざまな可能性を考慮するので、決断や行動に時間がかかる
・生き様や人生観なども、深く広くじっくりと捉えがちである
・相手の話や表情から、多くの事を想像して考えることができる

0:Overstimulated(刺激を強く受けやすい)

HSPではない人と比べて、物事に対して受ける刺激が非常に強いです。刺激が多い時には、過敏で動揺しやすくなります。何に対して敏感かは人によって異なります。

例)
・大きな音が苦手
・人ごみで疲れやすい
・感触や温度・痛みなどに敏感で影響を受けやすい
・話し相手の言動、気分を敏感に感じ取り、何気ない言葉を気にしたり、傷ついたりすることがある
・気心知れた相手に対しても気疲れしやすく、一人でホッと安らぐ時間が必要

E:Emotional reactivity and high Empathy(感情的な反応が強い)

脳科学による研究で、HSPの脳は、ミラ-ニューロン(他の人が何かをしたり感じているのを見ると発火して、あたかも自分が同じことをしたり感じているように感じる神経細胞)の活動が活発であることが示されています。そのため共感力が高く、つらい思いをしている他人の気持ちが手に取るようにわかります。直感が鋭い、感情移入しやすい、想像力が豊かなどの特徴があります。また正義感が強く、完璧主義である傾向が見られます。不公平なことが許せず、些細な間違いに強く反応することもあるため、対人関係ではトラブルの原因になることがあります。

例)
・人の心や感情を読んだり、見抜いたりすることが得意
・同情や共感が強く、涙もろい面がある
・他人に起こった出来事に深く共感し、傷ついてしまうことがある
・ニュース番組で流れる災害や事件の報道にシンクロし、傷ついてしまうことがある
・本や映画の登場人物に感情移入し、喜んだり悲しんだりする
・人が怒られているのを見ると、自分が怒られているように感じて気分が落ち込む

S:Sensitivity to Subtleties(些細な刺激に対する感受性の高さ)

HSPは人の髪型や服装、場所の小さな変化や、人が自分を笑ったこと、逆にちょっとした励ましなどにもよく気がつきます。体内の刺激にも敏感で、薬が効きやすいこともあります。少しの刺激で痛みを感じ、何か悪い病気ではないかと不安になります。

例)
・においの変化や音などの変化にも気が付く
・相手の声のトーンや声色、視線、表情の変化にも気付きやすい
・相手の感情や考えが何となくわかる
・人の体臭や口臭を過度に気にする

HSPの簡易診断テスト

「自分にHSPの傾向があるかどうかを簡単に知りたい」という方向けに、HSP研究の第一人者であるアーロン博士がつくった無料の診断テストがあります。また、日本人に合うように修正したHighly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)を使用している医療機関もあるようです。

【アーロン博士考案のもの】
http://hspjk.life.coocan.jp/selftest-hsp.html

【日本人向けに改良したもの】
https://www.shinjuku-stress.com/column/psychosomatic/hsp/

【出典】Highly Sensitive Person Scale日本版(HSPS-J19)の作成

敏感すぎて生きづらさを抱えている方で、簡易診断テストの結果、HSPの気質がありそうな場合は、うつ病や発達障害など他の精神疾患を合併している可能性が少なからずあります。自己判断せず、心療内科や精神科の専門医に相談しましょう。

HSPはうつ病発症リスクが高い

HSPは細かい刺激に過敏に反応し、人より多くのことに気が付くため、日常生活においてストレスを抱えやすい傾向にあります。その結果、「眠れない」「疲れやすい」「気分が落ち込む」「自信が持てない」など、うつ病と似たような状態が日常生活で継続することがあります。

しかし、HSPとうつ病は医学的に全く異なるものと考えられています。一番の違いは、その不調の症状が生まれつきのものかそうでないかです。HSPは生まれながらにして持っている気質であり、背が高いなど身体的特徴と同じ性質のものです。一方、うつ病は人間関係や環境に由来するストレスなどで発症する病気です。

ただし、HSPは周囲の刺激に影響を受けやすく、ストレスを溜めやすいのは確かです。そして溜まったストレスをうまく解消できず、心身ともに過剰に反応することでうつ病や適応障害といった精神疾患になるリスクが比較的高いとされています。HSPの物事を深く考える特性も、ネガティブな内容を考え込みすぎてうつ状態に陥るリスクになると言えます。

HSPの社員に対して、ケアできること

HSPは病気ではないので、うつ病など精神疾患の復職時のような特別な配慮は不要です。周りの従業員に「自分たちとは感じ方が違う敏感な人が周囲にいる」と認識してもらうだけで十分です。

通常は問題にならないような刺激で心が疲れてしまうこと、さらにその状態をなかなか理解してもらえないことが、HSPがうつに陥りやすい要因の一つです。刺激に疲弊して周囲と同じように働けなくなる人も多いため、HSPはわがままで怠け者であると誤解されてしまう場合もあります。HSPにとっては、理解者が周りにいるだけで働きやすさが向上します。

また、職場の雰囲気を穏やかなものにするのもHSPの従業員が長く働くためには重要なポイントです。共感力が非常に高いので、自分に関係なくても同じフロアで怒鳴り声がしたり、従業員が慌ただしく仕事をしたりしている状況に身を置くだけで、HSPの従業員は疲弊してしまいます。

可能であれば、HSPの従業員には自分のペースでできて、他人と比較されない業務を割り振ることをお勧めします。HSPは自己肯定感が低く自己主張が苦手な方が多いので、締め切りが厳しい業務や常に他人との評価を気にしなければならない業務では、実力を発揮できない可能性が高いです。

普段の接し方で配慮したいポイント

HSPといっても、どんな刺激に敏感であるか、またその程度は非常に個人差が大きいため、一人ひとりに合わせた対応が必要となります。

一般的には、HSPは刺激の多い環境ではストレスを溜め込むことが多くなりますので、刺激が少なく1人になれる環境を作ることがとても大切です。職場の状況が許せば、パーテーションで区切られた個人スペースなど、あらゆる刺激をシャットアウトできて集中できる環境を提供できれば最良です。それが難しければ、疲れた時や休憩時などに一人になれる空間を準備すると良いでしょう。

さらに、従業員の個人スペースの環境を整える場合は、HSPの従業員だけではなく全ての従業員に同様の環境を用意できることが望ましいです。なぜならHSPはその敏感な感覚から、「自分だけ特別扱いされている」ということを感じ取り、それがストレスの元となってしまうことすらあるからです。快適な職場環境の提供は、HSPだけでなく全ての従業員にとって大きなメリットがあります。

雑音の負担を軽減するために

HSPは周りの人が気づかないような小さな雑音にも強い刺激を感じ、疲れてしまう事があります。周囲の音が聞こえなくても支障がない業務の際には、ノイズが耳に入るのを防ぐためにヘッドフォンを着用したり、耳栓をしたりすると良いでしょう。通勤中もノイズキャンセリング機能のついたヘッドフォンやイヤホンが特におすすめです。

同じ要領で、光に敏感で眩しく感じる、光の刺激で疲れるような場合には、偏光サングラスの使用を検討するのもよいでしょう。

人ごみを避けるために

HSPの中には、周りに人がいるだけで、その人たちから受ける刺激で仕事に集中しにくい人もいます。人がいることで受けるあらゆる刺激を和らげるため、人々の平均的なスケジュールを避けた時間に行動するのがよいでしょう。

例えば時差出勤をして出勤時間をずらす、自分のデスクではなく人がいない会議室などの空間で仕事をするなどは、他の従業員にも迷惑がかからずお勧めです。

時には産業医に話を聞いてもらう選択肢も

HSPが感じている「生きづらさ」の要因の一つに、周囲から理解されないことがあります。加えて、HSPは他人の感情には敏感なのに自分の感情には鈍感な方も多く、刺激によるストレスで自分が疲弊していることに気が付いていないこともよくあります。

同じようなことで共感し合えるHSPの人と交流を持つのも良いですし、そのような人が周りにいない場合は、HSPについて知識のある産業医に話を聞いてもらうのもおすすめです。

まとめ

HSPは「人よりも敏感な生まれつきの気質」です。生きづらさを抱えている人が多くうつ病になるリスクも高いと説明してきたので、HSPであることは短所のように思えるかもしれません。しかし、そんなことはありません。HSPの持つ独特の繊細さは、逆に考えると非常に素晴らしい長所でもあります。

・人よりも本質にモノを捉えることができる
・細かい変化に気がつくことができる
・共感力が高いので、相手の気持ちに寄り添うことができる

これらの長所をうまく仕事に活かせれば、能力をより活かし他の人にはできない仕事を成し遂げることが可能です。人事担当者としてHSPの長所を存分に活かし、HSPもそうでない人も楽しく働ける職場環境作りを目指しましょう。

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