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働き方改革関連法の開始以降では産業医の権限が大幅に強化されました。
それとともに産業医が企業で果たすべき役割も非常に大きなものとなっていますが、その一方で稼働実態のない「名義貸し産業医」を選任している企業も存在しています。
名義貸し状態の産業医を選任していることは、従業員の健康管理が適切に行われないばかりか、法的措置の対象となるおそれや企業のイメージダウンのリスクがあります。
本記事では、名義貸し産業医を選任し続けることのリスクとその対策について医師が解説いたします。
「名義貸し産業医」とは、企業が産業医として選任しているものの産業医業務を十分に果たさない「名前だけの産業医」のことです。
よって、労働基準監督署へ提出する書類上は産業医を選任していることになっていますが、産業医としての業務実態がないような場合が名義貸しということになります。
本来、産業医は企業において働く人の健康を守るため、定期的に事業場を訪問し、職場巡視や衛生委員会、各種面談の実施などさまざまな業務にあたることが法律で定められています。
よって、産業医が「労働安全衛生法」で定められた業務を行わないことは法律違反となってしまい、企業にとっては大きなリスクとなります。
具体的には、以下のような産業医が「名義貸し産業医」であると言えます。
【関連記事】産業医に関係する法律「労働安全衛生法」とは?義務や罰則について解説
では、どうして産業医の「名義貸し」が起こるのでしょうか?
これは大きく分けて「企業が違反だと認識していない」「産業医が業務を理解していない」「コスト削減のために企業・産業医が共謀している」といったケースが考えられます。
一つずつ見ていきましょう。
産業医の業務には、従業員の健康状態のチェックやそのことに関する相談や指導、メンタル面のチェックや職場の衛生環境の確認など、さまざまな業務があります。
産業医には、職場巡視など労働安全衛生法などの法律で定められた業務もありますが、これまで産業医を選任したことがない、もしくは名義貸し産業医に業務を委託していた企業では、人事・労務担当者が違反に気付いていないことがあります。
働く人の健康を守るため、ここ10年あまりの間で産業医に求められる役割は非常に大きくなっています。心身に負担を抱える従業員を早めにケアするために、ストレスチェックも法令で義務化されました。
某大手企業の過労死事案を契機とした働き方改革は、労働者の健康管理に対する社会のあり方をさらに大きく変えました。2019年4月に施行された労働安全衛生法により、産業医の権限はさらに大きくなるとともに、企業からの独立性・中立性が高まっています。
ところが、同じ企業で長年産業医をしている医師の場合、職場巡視やストレスチェックが法律上の義務であることなど、自分の職務範囲についてきちんと理解していないケースが考えられます。
さらに「自分は精神科の専門医ではないから」などの理由で、ストレスチェックやメンタル不調従業員への対応を拒むケースも散見されます。
このような産業医を選任し続けていることは、結果的に「名義貸し産業医」を作り出していることになります。
【関連記事】産業医とは? 企業での役割、仕事内容、病院の医師との違いを解説
3つめは悪質なケースです。産業医へ支払う報酬を抑えるために業務内容を絞るよう、企業と産業医が示し合わせていることがあります。
企業側には相場より安い報酬で法律上の選任義務を果たせるメリット、産業医側は名義を貸すだけで少々の収入が得られるメリットがあります。
このケースは、「法規定されているため」、「罰則金を払わないようにするため」、「安全配慮義務違反にならないようにするため」に、とりあえず選任すれば良いという従業員の健康を守る意識の低い企業と、少しでも楽をして報酬が欲しい産業医側、双方の意識の低さに大きな問題があります。
産業医の「名義貸し」が発覚する理由のほとんどは、労働基準監督署による臨検などの立ち入り調査です。
立ち入り調査には「定期監督」と「申告監督」の2種類があり、これらの調査を通じて名義貸し産業医の状態が発覚します。
・「定期監督」
通常調査。ランダムに選出された企業に行われる調査で、事前に立ち入り日時が通知されます。調査に備え、あらかじめ必要な資料を揃えておくことができます。
・「申告監督」
労働安全衛生法や労働基準法などが守られていないなどの内部告発があった際に行われる調査。証拠隠滅の危険を防ぐために、抜き打ちで行われます。情報提供者を守るため、時には「定期検査」という名目で検査に入ることがあります。
「労基署にばれなければ企業側にも産業医側にもメリットがあるのでは?」というように見える産業医の「名義貸し」ですが、発覚した場合にはそのメリットをはるかに凌駕するリスクが存在します。
産業医の「名義貸し」によるリスクは、長期間にわたって企業に影響を及ぼします。場合によっては企業の存続にも関わるほど大きなものです。次に、産業医の「名義貸し」が企業に及ぼす3つのリスクについて解説します。
産業医が実施する業務には、法律に定めのあるものがいくつかあります。
そのうちの一つが職場巡視です。職場巡視は労働安全衛生規則第15条に定められた産業医の義務です。
「名義貸し」産業医を選任した結果、職場巡視を怠ると、労働安全衛生法第13条第1項違反となり、同法第120条の処罰規定に触れてしまいます。職場巡視を怠った場合の罰則は50万円以下の罰金が科されるリスクがあります。
【関連記事】安全配慮義務違反に該当する基準とは?企業が取り組むべき対策も解説
二つ目のリスクは違反企業として公表されること。
労基署から指摘が入ると、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として企業名を公表される可能性があります。
「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は、厚生労働省のサイトで誰でも確認することができます。名前を公表された企業は労働環境が整っていない“ブラック企業”であると認識する人もいますので、企業イメージが大きく毀損されます。
リスクの三つ目は労基署の追加調査が入る可能性です。
産業医の「名義貸し」は、れっきとした労働安全衛生法違反です。
「名義貸し」の発覚をきっかけに、労基署の追加調査が入る可能性があります。追加調査で未払いの残業代や違法な長時間労働などが発覚した場合、名義貸しの罰金(50万円以下)とは比べものにならないほど大きな金額を支払わざるを得ないことになります。
「名義貸し」産業医との契約を防ぐためには、企業側にも最低限の知識とモラルが求められます。
ここでは、産業医の名義貸し状態を発生させないために企業が簡単にできることを紹介します。
人事・労務の担当者は産業医が企業内で行う業務について確認し、特に法律上定めのある業務については要件なども含めてしっかり把握することが名義貸し対策の第一歩です。
基礎知識のないまま産業医を選任してしまうと、本来実施されるべき業務が行われていないことに気がつかず、知らないうちに自社で産業医の「名義貸し」状態が発生してしまいます。
産業医が最低限実施すべき業務については以下のようなものがあります。
産業医は月に1~3回のペースで職場巡視をします。その中で安全確認を行い、問題点や改善点が発見されたら適切な指導を行う必要があります。
【関連記事】産業医の職場巡視は法律上の義務!目的や頻度、チェック項目を解説
長時間労働者や高ストレス者など、産業医面談が必要とされた従業員は速やかに産業医と面談を行い、適切な助言や指導を受けることが必要です。
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年に1回実施するストレスチェックにおいて、産業医は計画や実施、事後措置まで携わり、高ストレス者と面談の機会を設ける必要があります。
【関連記事】ストレスチェック制度とは?導入された背景や目的、実施時の流れを解説
労働安全衛生法では「健康診断結果に異常の所見があった場合、事業所は3か月以内に医師などに意見を聞く必要がある」と定められています(労働安全衛生法第66条の4)。産業医を選任している企業であれば産業医に、選任していない企業であれば従業員のかかりつけ医などに意見を聞くのが一般的です。
要所見の診断が出た従業員に対し、必要に応じて医療機関への受診を指示するとともに、今後の就労の可否や就労制限の判断を行います。必要に応じて就労についての意見書を作成します。
【関連記事】【産業医監修】健康診断後、産業医に求められる対応とは?
衛生委員会の参加は必須ではありませんが、産業医は積極的に参加することが望ましいです。参加するだけでなく、その場で意見を出すことも大切な役割となります。
産業医が衛生委員会に参加しない場合は、作成された議事録に目を通す必要があります。
【関連記事】産業医が衛生委員会に出席するのは義務?役割や注意点を解説
対策①にて主な業務を理解したら、次は産業医に対しそれらの業務に取り組んでもらうよう依頼します。
前述のとおり、産業医が自信の業務範囲を理解していないケースも考えられます。
その際には厚生労働省が公開している「産業医の職務」の資料などを互いに参考にしつつ、産業医へ業務の依頼を行うこともおすすめです。
また、こうした話し合いの場に産業医が参加してくれないような場合では、現状を改善することが難しいことも考えられます。
上記の対策①・②に取り組んだとしても現職の産業医が稼働しない場合は産業医を交代することも検討しましょう。
過労死などが社会問題となる現在、社会的にも健康経営が重視されているため、健康管理のキーパーソンである産業医の選任は慎重に行うことが望まれます。
自社のニーズと予算に合った産業医を選ぶためには、「なぜ企業には産業医が必要なのか」、「産業医は企業内でどのような役割を果たすのか」、「産業医を選任することによって自社の労働環境をどのように変えていきたいのか」を明確にすることが大切です。従業員がより楽しく元気に働き続けられる環境にするためにも、自社の傾向にあった産業医を選ぶ必要があります。
以前は、医師会の紹介や知り合いのつてなどで産業医を選ぶことが多かったものですが、現在では紹介会社に依頼するなど、いろいろな方法で産業医を選任することができます。適切な報酬で自社のニーズに合った産業医を選任しましょう。
【関連記事】【まとめ】産業医の探し方 紹介を受けられる5つの相談先と選び方のポイント
産業医の選任など、産業保健関連の法定義務が一目でわかるチェックシートです。 最近では、労基署から指摘を受けた企業担当者からの相談も少なくありません。働き方改革を推進する観点から、国では今後も法定義務が遵守されているかの確認を強化していくと思われるため、定期的に自社の状況を確認することをお勧めします。
従業員数が50名を超えた事業場には、労働法令によって4つの義務が課せられています。 「そろそろ従業員が50名を超えそうだけど何から手をつければいいんだろう」「労基署から勧告を受けてしまった」。従業員規模の拡大に伴い、企業の人事労務担当者はそんな悩みを抱えている人も少なくありません。 本資料ではそのようなケースにおいて人事労務担当者が知っておくべき健康労務上の義務と押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け