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従業員が50名以上になると産業医の選任義務が生じますが、「いったい産業医の選任にはどのくらいの費用がかかるのだろう」「今選任している産業医には月間〇〇万円の報酬を支払っているけれど、高いのか安いのか分からない」といったお悩みをお抱えの方もいるかと思います。
また、初めて産業医を選任するような場面では、人事担当者が「産業医に関する適正な勤務体系や報酬などがわからない」というご相談も当社には多く寄せられています。
本記事では、産業医を選任する際の費用とランニングコストなどの料金・報酬相場・課税のルールについてご紹介します。
そして、格安で産業医を探す方法も解説しますので、「できるだけコストを抑えて産業医を選任したい」と考えている企業担当者の方は、参考にしてください。
産業医の報酬体系は、嘱託産業医と専属産業医で大きく異なります。
そもそも嘱託産業医と専属産業医の違いはというと、事業場(職場)の規模によってどちらを選任するかが法律で決まっています。
従業員が50~999名の事業場であれば嘱託産業医(非常勤産業医)の選任でOKであり、1,000名以上の事業場では専属産業医(常勤産業医)の選任が必要になります(有害業務等を行う事業場を除く)。ここでは詳細を省きますが、詳しく知りたい方はこちらの関連記事もチェックしておきましょう。
また、産業医に支払う費用は訪問回数や事業場の規模によって大きな差がつくこともポイントです。
まずは嘱託産業医の費用・報酬の相場から見ていきます。
公益社団法人日本橋医師会では嘱託産業医の基本報酬月額について、産業医に対してヒアリングした内容を公開しています。
産業医へ毎月支払う費用(報酬額)を見てみると以下の表のようになっており、従業員が50人未満であれば報酬相場は75,000円。
50~199人では100,000円、それ以上では200人増える毎に50,000円程度アップしていくことがわかります。
勤務先企業の労働者数 | 産業医の基本報酬(月額) |
50人未満 | 75,000円 |
50~199人 | 100,000円 |
200~399人 | 150,000円 |
400~599人 | 200,000円 |
600~999人 | 250,000円 |
表の出典:公益社団法人日本橋医師会「産業医報酬基準額について」
次に、紹介会社を利用して産業医を選任した際にかかる月額の報酬相場を見てみます。
以下の図は産業医紹介を行っている当ブログ運営会社(エムスリーキャリア)が2023年4月に行った調査のものです。
嘱託産業医の月額費用(報酬)は30,000円から50,000円がボリュームゾーンとなっています。
編集部が複数の紹介会社を調べたところ(会社によって多少の差こそあるものの)産業医の月額費用は30,000円が最安値の水準となっているようです(2024年6月現在)。
産業医の紹介会社を比較する際の要点・注意点についてはこちらの記事にまとめています。
また、紹介会社の各社を比較した一覧表もご用意しました。以下のバナーから無料でダウンロードできますのでよろしければご活用ください。
金額自体には差がありますが、いずれの調査でも従業員が多い企業の方が高い費用を産業医に支払っている傾向にあります。
産業医に支払う費用は相場にあわせるのではなく、自社の従業員数を考慮して検討する必要があるでしょう。
また、産業医に依頼する業務内容や訪問回数でも費用は変わってきます。
報酬費用が最も安価になるケースは、以下のような法令で定められている最低限の業務を依頼した場合です。
よって、健康経営を意識して訪問回数を増やしたり、追加で業務を依頼したりする場合には、その分の費用を支払う必要があります。
たとえば昨今では嘱託産業医に従業員のメンタルケアを依頼するケースがありますが、これにはメンタルヘルス対応やストレスの知識が必要です。このため、面談指導が行える産業医に支払う費用は、一般の産業医よりも割高になります。
産業医に支払う費用の変動について、詳細については後述します。
一般的な専属産業医の年俸の算出式は以下のようになります。
年俸 =(300万~400万円) × (週あたりの勤務日数)
この計算式から出した、勤務日数による年俸の相場は以下の表のようになります。
勤務日数 | 産業医に支払う年俸 |
週1日 | 300万~400万円 |
週2日 | 600万~800万円 |
週3日 | 900万~1200万円 |
週4日 | 1200万~1500万円 |
週5日 | 1500万~2000万円 |
専属産業医の勤務日数については法令や通達には明確な定めはありません。
労働安全衛生規則第13条第1項に「その事業場に専属の者」という記載に基づき、社会保険加入対象となる週3.5日以上の勤務としている事業場が大半です。
実際には、臨床能力の維持などのため週1日程度を研究日に当てることを希望する専属産業医も多いため、週4日程度の勤務が一般的です。
また、2023年4月にエムスリーキャリアが500人以上の企業に調査した結果は以下のとおりです。
とくに「年間1,500万円以上」の割合は従業員数が多くなるほど高くなる傾向が見られます。
これは従業員数が増えるほど産業医の稼働日数が増え、支払う費用が高くなっているためでしょう。
以上のデータも参考にしつつ、自社の状況や従業員数にあわせた稼働日数や業務から、産業医に支払う費用を検討しましょう。
これまで産業医の報酬の相場について簡単に説明してきましたが、産業医の報酬は様々なオプションや事情で大きく変動します。
当然ながら、産業医に求める役割や依頼する業務が多くなればなるほど産業医に支払う費用・報酬は高額になるといえます。
ここでは産業医への報酬を左右する主な5つのポイントを紹介します。
産業医へ依頼する業務について、健康診断やストレスチェックへの対応は別料金になることが多いです。
この背景には、産業医と契約した訪問時間内からはみ出てしまう業務になることがあるからです。
前述した最低限の業務を依頼する契約の場合では、不調を来した従業員への面談対応などは追加の費用を支払うことになります。
そのため、これらを依頼に含めると、報酬は上がっていきます。
また嘱託産業医の面談は、一定の回数・時間を超えると報酬や交通費が上乗せされます。その場合、時給換算で費用がかかります。
産業医の報酬には地域差もあります。
一般的に都市部であれば医師数も多いため、産業医の確保も難しくないことが考えられます。
しかし、地方のエリア等では産業医の資格を持つ医師が少ないケースも多く、報酬を上げるなどして都市部から訪問してもらう場合もあります。
その他にも、有害物質を取り扱う業種の場合などでは、専門知識を有する産業医が求められることも多いため、3割ほど費用が高額になることがあるのです。
前述した専門知識の有無にも関連しますが、産業医としてのキャリアにこだわる場合は費用が変動することが多いです。
例えば「精神科を専門にしている産業医を選任したい」ですとか「大手企業での産業医経験を有する人材を選任したい」といった場合では産業医に支払う報酬・費用は高額になるでしょう。
また、専属産業医の場合では統括産業医の業務・役割を依頼することで報酬が上がることが一般的です。
産業医に支払う報酬が変動するポイントとして、産業医に来てもらう頻度も関係しています。
専属産業医は企業に常勤で雇用されているため、週3〜5日勤務し従業員と定期的に面談を行えます。産業医の業務量が多くなりやすいため、その分費用は高くなる傾向にあります。
一方、嘱託産業医は医師のスケジュールに合わせて月1回程度、1~数時間の訪問が一般的です。専属産業医に比べると産業医の業務量は少ないため、それに比例して費用は安くなります。
最も安価に産業医を選任できるケースとしては、隔月訪問の形式で産業医に来てもらうことが考えられますが、各種の法定要件をクリアしている必要があります。
これは産業医の業務である「職場巡視」の頻度によって変わります。ちなみに、職場巡視の要件についてはこちらの記事で解説しています。
ご自身で産業医を探したり交渉したりする手間はあるものの、産業医との直接契約であれば、支払いは基本的に産業医個人への報酬のみになります。
人材紹介会社を介して業務委託契約などにする場合、仲介・紹介料等の手数料がかかります。
詳しくは次の章で解説します。
【関連記事】
・産業医との契約、何をどうする? 契約形態や契約書作成など徹底解説
・産業医の派遣を依頼するには?報酬や業務内容についても解説
産業医に適正な報酬を支払うためのポイントは、以下の3つです。
産業医に支払う費用を決める際には、以上の項目について検討を進めましょう。それぞれのポイントを解説します。
産業医に支払う費用を決めるためには、まず産業医に求める要件(勤務日数、通常の業務範囲、緊急時の対応業務など)を決めることが大切です。そのためには、自社における労働環境の課題やリスクを正しく把握する必要があります。
産業医の選定は、企業において労働環境を見直し、従業員の健康に関する意識を高めるきっかけになります。社内の安全衛生委員会で話題に出すなど、この機会に多くの社員で議論を重ねましょう。
産業医を選任する際、どんな業務をどの程度の費用で依頼したらいいのか見当がつかないこともあります。この場合、人材紹介会社に見積もりを依頼すれば費用感を出してもらえるでしょう。
ただし、企業の抱える課題次第で産業医に依頼する業務は変わることには注意が必要です。最終的には労働環境の状況を考慮したうえで費用を決定しましょう。
今後、産業医に依頼する費用を決める場合には、助成金の扱いにも注意する必要があります。これまで活用できていた「産業保健関係助成金」が2021年で廃止になったためです。
これに代わり、小規模事業所の支援を目的とした「団体経由産業保健活動推進助成金」が導入されています。大きな違いは、事業所ごとの申請から、活動を支援する事業所団体ごとの申請に変わった点です。
団体経由産業保健活動推進助成金については、以下の関連記事も参照してください。
【関連記事】団体経由産業保健活動推進助成金とは? 補助内容や支給要件を解説
産業医の報酬以外でかかる費用は、おもに次の3点です。
自社で産業医を選定する際には、これらのコストを事前に想定し、必要な費用は提案の時点で計上しておくといいでしょう。
次に考えなくてはならないコストが、産業医を探し、見つけるまでにかかる人的・時間的なコストです。
日本医師会認定の産業医は70,208人(2022年時点、有効な資格保持者のみ)いますが、そのうち産業医として活動しているのは半分以下の34,166人です。
一方で産業医の選任が必要な事業所数は約16万事業所ですので、新たに産業医を見つけるのは決して簡単なことではありません。
また、安衛法や労働安全衛生規則では、従業員数が50人を超えるなど、産業医を選任しなければならない状況になってから14日以内の選任を求めています。
遵守しない事業者への罰則も規定しているため、場合によっては時間的猶予もなく、担当の方が集中して対応しなければならず、さらに人的・時間的コストが必要になります。
嘱託産業医を選任したら、定期的に来社日の調整や業務内容を伝達するなどのコミュニケーションが必要になります。その際に、産業医との調整・コミュニケーションを煩雑に感じる場合があるかもしれません。
請求書の発行依頼、報酬額の支払い対応など、事務的な作業も発生します。契約を結んだものの、産業医の都合で契約更新がされない、辞めたいと申し出があった場合、再度産業医を選任するコストがかかってしまいます。
その他に忘れられがちですが、選任後に産業医の仕事ぶりが自社に合わない、求めていた業務に対応してもらえない可能性という隠れたコストがあります。
これは単に社風に合わないということだけでなく、業種の事情に慣れていないケースもあります。
産業医にも得意分野・専門分野がありますので、それら以外の対応を求められると「期待に応えられるか保証できない」などと考えるのです。
なお、費用を見直す目的などで産業医を交代している場合には、こちらの記事にて産業医交代の流れや手続きについて紹介していますので合わせてチェックしておきましょう。
また、当ブログを運営している会社(エムスリーキャリア)では、しっかり法令対応をクリアする産業医の紹介・選任サービスをご提供しています。
はじめての産業医選任でも、産業医の交代でも対応可能で、料金も業界の最安値水準です。
以下では簡単な費用の見積もりが可能ですので、よろしければ試してみてください。
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産業医にかかる費用について、負担者ごとに次の2種類に分けて説明します。
費用の負担者は法律に明記されていないため、労使トラブルのもとになりえます。事前に社内ルールを決めておき、周知しておくことでトラブルを回避しましょう。
産業医による対応については、事業者側である会社負担となるのが一般的となっています。労働契約法や労働安全衛生法により、会社には安全配慮義務が課されているためです。
産業医にかかる費用として、会社負担になるものは以下があげられます。
なお、産業医には診断が認められていないため、診断書が必要な場合にはその従業員の主治医に診断してもらう必要があります。この場合、会社側が従業員に対して診断書の提出を求めるのであれば、費用自体は会社負担となるでしょう。
先述の通り、産業医にかかる費用は、基本的に事業者による負担です。ただし、以下にあげる健康診断については個人負担となる場合があります。
ただしこれらの費用についても、一部が会社負担になる場合があるでしょう。事前に取り決めやルールを作っておき、周知しておく必要があります。
選定する産業医が決定したら、契約書を作成して契約を交わします。具体的なフォーマットは日本医師会などにおいて公開されていますが、とくに確認しておくべきなのは次の3つです。
それぞれのポイントで注意する部分を解説します。適正な契約を交わせるようにチェックしておきましょう。
【参照】日本医師会「産業医契約書の手引き」
産業医に依頼する職務内容は確実に確認しておきましょう。ベースとなるのは労働安全衛生規則第14条第1項および第15条第1項が規定する職務です。
ただし、これらの業務のなかでも企業の状況や従業員数によって、優先的に対応してほしい職務は異なります。また、労働安全規則に規定されていないイレギュラーな業務が発生する可能性もあるので、これらも含めて確認しましょう。
契約書には、産業医に依頼する報酬の金額や条件についても明記します。金額が職務内容と照らし合わせて適正かどうか、支払い期限がいつになっているかなどを確認しておきましょう。
トラブルが発生しやすい事項として、契約の有効期限もチェックポイントです。とくに契約更新を行うタイミングや、契約解除となりうる注意事項については慎重に確認しておきましょう。
本項では、産業医に支払う報酬の会計処理について解説します。ひとくちに産業医選任といっても、依頼先によって勘定科目や消費税の取り扱いが異なるため注意が必要です。
産業医に支払う報酬の勘定科目は、支払先が医療法人であれば「福利厚生費」、個人であれば「給与」として分類されることが一般的です。
医療法人と契約して勤務医に来てもらう場合、その対価は医療法人の収入となり、給与には該当しません。また、依頼元の企業からすると、従業員の健康管理にかかわるサービスとして契約しているため福利厚生費として処理するのが妥当といえるでしょう。
個人の医師(法人化していない開業医など)に産業医として来てもらう場合は、所得税法上は原則として給与として扱われます。そのため、勘定科目も給与とするのが妥当でしょう。
なお、開業医の中には法人化しているケースと、法人化していない個人のケースがあるため、契約する際には確認しておきたい点です。
【参照】国税庁「産業医の報酬」
産業医報酬の消費税は、支払先が法人であれば課税対象、個人であれば非課税です。また、源泉徴収は支払先が法人であれば不要で、個人であれば必要です。
医療法人から産業医を派遣してもらう場合、その対価は医療法人の「その他の医業収入」となり、消費税の課税対象になります。そして源泉徴収は、法人への支払いに対しては不要です。
個人の医師(法人化していない開業医など)に産業医として来てもらう場合には、報酬は原則「給与収入」となるため、消費税は不課税です。そして、源泉徴収が原則として必要になります。支払調書の交付も必要になります。
なお、前述の通り、開業医の中には法人化しているケースと、法人化していない個人のケースがあるため、契約する際には確認しておきたい点です。
表にまとめると、以下のとおりです。
医療法人 | 個人医師 | |
勘定科目 | 福利厚生費 | 給与 |
消費税 | 課税 | 不課税 |
源泉徴収 | 不要 | 必要 |
最近ではメンタル不調の従業員が急増していることもあり、メンタル面での対応を求めがちですが、産業医の業務は多岐にわたります。したがって、自社の業務内容にマッチした産業医を選任することは、非常に重要です。
産業医に適切な報酬を支払うことで、自社の抱える課題を解消し、健康経営に貢献してくれる自社に合った産業医と契約することが可能です。
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