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従業員のメンタルヘルス不調は、休職や退職につながる可能性があり、企業によるサポートが重要です。
しかし、怪我や身体的な病気と異なり、休職してもいつ復帰できるのか分からないケースが多く、個人の病状に合わせて柔軟な対応が必要になります。
メンタルヘルス不調に伴う復職で、近年注目が高まっているのが生活記録表です。復帰時期を明確に決めにくい場合でも、客観的な判断を助けてくれる生活記録表は、多くの企業の休職者対応において活用されています。
本記事では、生活記録表の必要性から書き方までを詳しく解説します。
生活記録表とは、主に休職中の従業員が毎日の生活のリズムを記録していく表です。メンタルヘルス上の問題で休職した従業員が作成し、復職できるかどうかの判断材料にするために使用します。
また、休職者自身に自らの生活や心の変化を見つめ直してもらい、セルフケアを促す意味でも効果的です。
生活記録表は起床と就寝、食事の時間を基本に、実際に睡眠が取れた時間や外出した時間をグラフや表にして、客観的に生活リズムが分かるように記録します。
記入者が通院や服薬している場合は、通院日や処方された薬をいつ飲んだかも分かるようにします。自宅にいる間は主に何をして過ごしたか、外出はどこに行ったかも分かれば、なおよいでしょう。
また、日々の気分や症状、感情を数値化して記録すると、症状の変化をより客観的に示せます。朝や夕方に症状が悪くなる傾向がある疾患の場合は、1日の推移も記録してもらいます。
2021年に厚生労働省が実施した調査では、メンタルヘルスによる不調で1ヶ月以上休職したり、退職したりした従業員がいる事業所は10.1%でした。
前年に実施した調査では9.2%で、増加傾向にあります。メンタルヘルス不調による退職者に限定すると4.1%で、前年の3.7%から増加しています。
また、同時に実施された従業員個人に対する調査では、仕事に強いストレスを感じていると回答した割合が53.3%と、実に半数以上の結果でした。
仕事量や責任の重さのほか、セクハラやパワハラをはじめとした対人関係、雇用の安定性とさまざまな要因がストレスになっています。
貴重な人材が流出してしまう退職や、休職と復職が繰り返されるような不適切な人材運用を防ぐためにも、生活記録表の効果的な運用が求められています。
【参考】
厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(事業所調査)」
厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況(個人調査)」
休職者の生活記録表の作成には、客観的な復職判断の材料とする目的と、休職者が自分自身を見つめなおす目的があります。
生活記録表は、復職できる生活リズムが送れているかを客観的に評価する材料になります。
復職の可否は本人の意思だけに基づかず、主治医や産業医、人事部が連携しながら判断します。複数の担当者が関わるため、誰が見ても同じ事実で判断するための材料として、生活記録表は有効です。
うつ病をはじめとしたメンタルヘルス上の疾病は、症状として睡眠障害が多く現れます。そのため、睡眠リズムの健全化は疾病からの回復を客観的に判断する材料として有効です。また、通院や外出ができているかどうかで、実際に通勤ができるかも判断できます。
生活記録表を使えば、症状はどのような推移で発症しているか、抑えられているかを確認できるため、回復の度合いを客観的に評価できるのです。
生活記録表は、休職者自身が自分の状態を客観的に見つめなおす材料としても重要です。自分自身の行動を客観的に記録できるため、いつどんなときに症状が出やすいのか、体調がよいのかが分かるようになります。
また、症状の推移が目に見えるので回復の実感も得やすく、目標に向けた行動を取りやすくなります。
メンタルヘルス上の疾病は、視野や行動が狭くなり、休職中はとくに根拠のない不安に襲われるケースも多いです。自分自身を客観視して、問題を具体的に見つめなおすきっかけとなる生活記録表は、認知行動療法的な観点からも有効です。
【参考】厚生労働省「うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル」
生活記録表の活用で適切な復職判断につながれば、再休職や退職のリスクも減らせます。日本産業衛生学会に投稿された論文によれば、復職してから1年後の出社継続率が54.2%だったところ、生活記録表の活用で91.6%まで改善させた報告例もあります。
うつ病をはじめとしたメンタルヘルス上の疾病は、職場環境だけが原因に限らず、一定数発生してしまうと考えましょう。
企業は、メンタルヘルス不調による休職者が一定の割合で発生する前提で人材管理を実施しなければなりません。休職者に対して適切な対応がとれるかどうかで、再休職や退職のリスクが大きく変わる可能性があるのです。
有能な人材流出を防ぐ観点からはもちろん、休職や退職に伴うコスト管理の観点からも、生活記録表の効果的な活用が望まれます。
【参考】
公益社団法人 日本産業衛生学会 産業衛生学雑誌「メンタルヘルス不調者の出社継続率を 91.6% に改善した復職支援プログラムの効果」
厚生労働省「メンタルヘルス不調による休職者に対する科学的根拠に基づく新しい支援方策の開発」
メンタルヘルス上の疾病に伴う休職者の復職判断として、厚生労働省では下記のような基準を示しています。
他にも判断基準は示されていますが、少なくとも上記項目は生活記録表を使わないと、なかなか客観的に評価しづらいです。厚生労働省でも産業医に対して、高ストレス者との面談における生活記録表の活用を推奨しています。
【参考】
厚生労働省「医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル」
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
生活記録表を復職時の客観的な判断材料とするためには、何を書いてもらうかを知っておく必要があります。
起床と就寝を基本に、食事、外出、通院といった1日の行動を記録してもらいます。
睡眠リズムの安定化は、とくに復職判断に重要なため必ず記入してもらいましょう。加えて、昼間に眠気があるかどうかを判断するため、昼寝をした場合も記入してもらいます。
また、通院や散歩をはじめ、外出ではどこに行ったかも記録してもらい、交通機関を使えたか、人混みの中に行けたかどうかを分かるようにします。
自宅で過ごしていた場合は、読書やストレッチをはじめ、できたことはなるべく具体的に記録してもらいます。時間軸を図式化して、一目で就寝の時間や睡眠時間、外出した時間が分かるように記入してもらうと把握しやすくなるためおすすめです。
具体的な行動だけでは分かりにくい症状の変化を数値化し、改善の有無を客観的に分かるように記録してもらいます。
たとえば、まったく症状がない状態を0、最も症状が重い状態を10として、日々の体調を数値化して記入してもらいます。丸、三角、バツのように記号を使って視覚的に分かりやすく記入してもらうのもよいでしょう。
寝起きをはじめ、特定の時間帯で症状に変化がある場合は、午前と午後に分けて体調を記録してもらうようにします。
睡眠や食事は、単に眠れた時間や食べれたかどうかだけでなく、よく眠れたか、美味しく食べられたかを記録します。メンタルヘルス不調者はとくに、布団の中に入ってもなかなか寝付けない場合も多いです。また、食事を美味しいと感じなくなる症状もよくあります。
睡眠の質を客観的に分かりやすくするためには、布団に入った時間と、実際に眠れた時間が分かるように記録してもらうとよいでしょう。
食事の質に関しては、美味しく感じたか、食べるものに偏りかないかが分かるように、食べたものを簡潔に記録してもらいます。
生活記録表は休職期間中、可能な限り毎日記入してもらうのが望ましいです。もちろん、生活記録表の記入自体が負担になってしまっては意味がないので、症状の程度に応じて、記入開始のタイミングは調整します。
ただし、復職判断には復職面談直前までの生活記録表が必要です。最低でも連続して2週間以上は記録してもらいます。
従業員に生活記録表の記入を求める場合は、産業医や主治医とコミュニケーションを取りながら無理のないように進めましょう。また、復職後も経過を確認するため、記入の継続を求めた方がよいでしょう。
【参考】厚生労働省「メンタルヘルス不調による休職者に対する科学的根拠に基づく新しい支援方策の開発」
生活記録表を活用して復職の可否を判断する際の評価ポイントは、生活のリズム、疲労レベル、通勤の可否です。もちろん、生活記録表を見ただけでは誤った理解につながる可能性もあるので、本人とすり合わせしながら確認しましょう。
生活記録表を使って生活リズムが整っているかどうかを評価します。とくに睡眠リズムが整っているか、昼間に眠くならないかは、復職後に通常勤務できるかどうかの重要な判断材料です。
出社時間に間に合う時間に起床できているか、睡眠時間や質の高い睡眠は確保できているか、昼寝を頻繁にしていないかを確認しましょう。
加えて、定期的に外出できているかや、人混みの多い場所で活動できているかどうかも確認します。
また、自宅で過ごしている時間も、読書をはじめ集中力を保つ活動ができているかで、長時間の業務に対応できるかを図れます。
数値化した疲れや気分が、通常時の数値と同程度に戻っているかを評価します。数値を見る際は、適度な運動や外出、人と会った後に突発的に疲れや気分の落ち込みが高まっていないかを確認しましょう。
また、復職直前の期間で、継続して疲れのレベルが落ち着いているかどうか確認することも大切です。
なお、疲れのレベルが落ち着いていても、本人の復職したい意思が十分高まっている必要がある点に注意しましょう。
通勤時に公共の交通機関を使用する場合は、人混みの中に長時間いられるかどうかも復職の判断材料として重要です。
外出が定期的にできているか、街中や公共の交通機関を利用した移動があるかどうかを生活記録表で確認します。外出後の疲れや気分のレベルに変動がないかどうかも合わせて確認しましょう。
復職においては生活記録表以外にも、企業が留意すべき点がいくつかあります。スムーズな復職につなげ、再休職や退職を防ぐために最低限下記4項目は確認しておきましょう。
メンタルヘルス不調者が復職する際、もっとも大切なのは本人の働きたい意思です。生活記録表で復職できると考えられたとしても、本人の働く意思が高まっていない状態で無理に職場復帰させれば、休職を繰り返す可能性があります。
産業医の面談や、人事担当者とのコミュニケーションの中で、本人の不安を一つずつ解消していく努力も必要です。
また、本人は働きたいと考えていても、まだ働ける状態にない場合も多いです。生活記録表を有効に活用しながら、働きたい焦りの有無を含め、休職者の働く意思と体の状態を見極める必要があります。
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メンタルヘルス不調からの復職では、時短勤務や出勤数の調整をはじめ、段階的に業務量を増やしていく方法もおすすめです。ストレスが少ない生活から急激に変化すると、体が追いつかない場合があります。
いきなりフルタイムの勤務に不安を感じる休職者も少なくありません。双方でコミュニケーションを取りながら、どのような復職方法がベストかをケースバイケースで考えてもよいでしょう。
休職者のストレス要因が職場にある場合、そもそものストレスを取り除いたり、復職者から遠ざけたりする配慮も必要です。休職中に十分回復できたとしても、職場に同じ問題があれば休職を繰り返す可能性があります。
適応障害をはじめとした特定の疾病では、ストレス要因が明確に分かる場合もあります。たとえば、職場の人間関係に問題があるなら、復職に当たり配置換えも検討しましょう。業務内容や量に問題があるなら、本人の特性に合わせた配慮も必要です。
【関連記事】適応障害による休職まとめ|うつ病との違いや復職までの注意点を解説
メンタルヘルス不調からの復職では、継続的なフォローが重要です。徐々に業務上の負担や難易度を上げていく過程で、負担が許容量を超える可能性があるため、段階的なフォローは不可欠です。
また、環境が急激に変わる復職後数ヶ月は、生活記録表の記入を求めた方がよいでしょう。復職プラン通りに業務内容や働き方が配慮されているかを確認する機会を作る上でも重要です。
万が一、症状が再発した場合や、新しいストレス要因が発生した場合にも早期対応が可能になります。
見た目では分かりにくいメンタルヘルス上の疾病は復職時期の判断が難しく、本人の意思や会社の都合で安易に復職させると、休職を繰り返す可能性もあります。
メンタルヘルス不調による休職者が増えている近年、復職サポートをうまくできるかどうかは、人材運用を考える上でも重要です。復職判断を客観的に判断できる生活記録表を有効活用し、効果的な復職サポートを目指しましょう。
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