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従業員のメンタルヘルス対応に悩む企業は多くあります。「産業医の専門が精神科ではないので、メンタルヘルスが苦手ではないか?」「産業医が精神科医であってもメンタルヘルスに手が回っていないのではないか?」と考えてしまうかも知れません。しかし、メンタルヘルスは産業医の職務の1つとなっています。今回は、産業医と精神科医の違いを解説します。
産業医の職務は、従業員の安全や健康を守ることです。産業医には、従業員が安全に、そして健康に働くことができる職場環境となるように、専門的観点から指導や助言を行う役割があります。
精神科医の職務は、他の専門科の医師同様、何らかの不調を訴えて受診した患者さんに対して、診察・治療などを行うことです。
このように、産業医と精神科の医師の大きな違いは、診察や治療を行うか、行わないかです。
精神科医とは、精神科を専門とする医師です。精神科医は、医師資格を持ち、精神疾患や精神障害、神経症、心身症などの診断と治療を専門的に行っている専門家です。心身の不調を訴えて受診した患者さんに対して、精神状態・病状から必要な薬物療法・認知行動療法などを行います。対象としている主な疾患には、うつ病・統合失調症・拒食症・依存症・発達障害などが含まれます。
特に専門性が高い場合には臨床経験や知識などを踏まえて、日本専門医機構が「精神科専門医」を認定しています。また、精神科医が対応する病気には、自分自身が病気であることを認識できない患者さんもいらっしゃいますが、そういった患者さんの医療を受ける権利を確保するための「精神保健指定医」という資格もあります。
令和2年12月31日現在では、16,490人(医師総数339,623人の約5%)が精神科医として診療しています。
一方で、産業医は医師資格を持ち、職場において従業員の安全や健康を守るために専門的観点から事業場に指導や助言などを行う専門家です。従業員が安全で健康に働ける職場環境作りについて助言を行ったり、病気によって休職した従業員の復職支援などを行ったりします。産業医が対応する対象となるのは、病気の診断や治療ではなく、職場環境などです。職場環境や従業員に対して、作業環境管理・作業管理・健康管理という手法を通して、安全で健康に働ける環境作りを支援します。
特に専門性が高い場合には、産業医経験や知識などを踏まえて、日本産業衛生学会が「日本産業衛生学会専門医」を認定しています。また、国家資格である「労働衛生コンサルタント(保健衛生)」を取得している産業医もいます。
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精神科医で産業医という医師数はあまり多くありません。
現在、産業医として活動している医師はおよそ33,600人(医師総数の約10%)です。
このことから、精神科医かつ産業医は、単純計算すれば、5%×10%=0.5%と推定されます。つまり、「精神科医で産業医」という医師は、推定でおよそ1700人ということになります。これは、全国の50人以上の事業場数(162,107)と比較するとかなり少ないということがわかります。
出典:日本医師会「都道府県別 産業医活動における実態調査分析」
前述の通り、産業医の役割は従業員の安全・健康を管理することです。近年、従業員のメンタルヘルスに課題がある企業が増加傾向にあります。メンタルヘルス不調の従業員は生産性の低下、休職・退職のリスクがあるほか、最悪の場合は自殺に至る可能性があります。
2022年に行なわれた厚生労働省の調査では、「仕事や職業生活に関することで、強いストレスになっていると感じる事柄がある」と答えた労働者の割合は82.2%でした。前年の調査では53.3%だったことから、ストレスを抱える労働者が急増していることがわかります。ストレスが引き金となってメンタルヘルス不調になるケースもあるため、企業は産業医と連携して従業員のメンタルヘルスケアに注力する必要があります。
産業医と精神科医では、従業員に対するメンタルヘルスへの対応が異なっています。この違いについては、以下の表を参照ください。注目すべき点は、メンタルヘルス対応の目的が大きく異なることです。精神科医は疾病の治療を通じて支障なく日常生活を送れるようにすることが目的ですが、産業医は従業員が安全かつ健康に就労できるための指導などを通じて、就業できるレベルを目的として支援を行います。なお、メンタルヘルスに関する産業医面談には、ストレスチェック実施後の高ストレス者との面談、メンタルヘルス不調を理由とした休職・復職面談などがあります。
【産業医と精神科医のメンタルヘルス対応の違い】
産業医 | 精神科医 | |
目的 | 安全かつ健康に就労する | 疾病から回復する |
手段 | 評価・助言・指導など | 検査・診断・投薬など |
目標とする 回復レベル |
就業できるレベル 健康を害することなく、安全に就業を継続できるかどうか? |
日常生活レベル 支障なく日常生活を営むことができるかどうか? |
立場 | 中立の立場 事業場と従業員の双方の立場を考慮する |
患者優先の立場 |
注目する ポイント |
事例性 職場で困っていることや仕事上で問題となっている行動など |
疾病性 病気の診断や症状そのもの |
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次に、「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を元に、具体的な精神科医と産業医の違いを解説します。
まず、メンタルヘルスに何らかの問題があるものの、休職していない状況を想定します。
このような状況では、精神科医は従業員の健康状態が回復するように検査・診断・投薬などを行います。就業しながらの治療では改善が難しいと考えられる場合には、要休業の診断書が作成されます。一方で、産業医は事例性の評価を行い、従業員の上司といった管理監督者などに助言や指導を行います。特に、事例性が疾病によって生じていると考えられるにもかかわらず、従業員が受診・加療を行っていない場合には、精神科医への受診を指示することになります。このような状況下で、産業医として安全に健康に就業することが難しいと判断される場合には、本人にその旨を説明し、主治医(精神科医)から診断書を受けるように指示します。
次に、職場復帰支援の手引きの第1ステップ(病気休業開始および休業中のケア)についてです。
上記の通り、精神科医は病状を確認し、療養が必要である旨の診断書を作成します。休業中も投薬などの治療を通じて、従業員を支援します。産業医は休業開始にあたって、従業員が安心して療養できるように、休業中の対応について管理監督者などに助言・指導します。例えば、事業場からの不必要な連絡は、本人のストレス源になるため、極力控える等の指示を行います。
第2ステップ(主治医による職場復帰可能の判断)では、精神科医は復帰診断書を作成・発行します。
事業場として注意するべき点は、この診断書は「就業できるレベル」ではなく、「日常生活レベル」であることが多い点です。そのため、産業医は事業場の業務内容などを踏まえ、評価します。一般に復帰準備(リワークプログラム等)を行う必要があります。産業医は、この復帰準備について助言、指導を行います。
第3ステップ(職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成)では、精神科医は、従業員の疾病の特性や回復状況を踏まえて、復帰後の要配慮事項について書面で提示します。
産業医は、職場上司などと共に職場環境の情報収集・評価を行い、復帰後の要配慮事項は実行可能かどうかの評価を行います。過大な配慮は職場内の公平性を欠いたり、従業員が十分に回復する前に復帰したりすることにつながるため、関係者との連携を行いながら評価していきます。そして、従業員本人の復帰意志や状況を評価し、復帰プランに関する助言・指導を行います。
第4ステップ(復帰の決定)では、これまでのステップでの支援があれば精神科医としての関わりは、ほぼありません。
産業医は、復帰可否や就業上の制限を踏まえた産業医意見書を作成し、事業者に提出します。診断書や産業医意見書や踏まえて、最終的に事業者が復帰可否を決定します。
第5ステップ(職場復帰後のフォローアップ)では、精神科医は引き続き、従業員本人の診断・治療を継続し、疾病性の再発の予防や早期発見に努めます。
産業医は、復帰後の事例性の再発を評価したり、就業上の制限が守られているかについて評価したりします。また、職場環境の改善が必要と考えられる場合には、その支援を行います。
職場のメンタルヘルス対応において、精神科医と産業医が連携を取ることが重要です。しかし、精神科医と産業医が同時に会する機会はあまりありません。そのため、情報共有は書面で行うか、時間を合わせて電話やオンラインミーティングなどを行う必要がありますが、記録が明確に残るので書面でのやりとりが多くなっています。また、健康に関する情報は、個人情報保護法における「要配慮個人情報」ですので、従業員本人の同意が必要です。書面のやり取りであれば、本人経由で行ったり、なんらかの方法で同意を取得したりしておく必要があります。
第1ステップ(病気休業開始及び休業中のケア)においては、精神科医から診断書経由で療養が必要な旨の情報を受けとることになります。逆に、産業医から療養が必要であると考えられる場合には、従業員本人を経由して診断書の作成を依頼することになります。
第2ステップ(主治医による職場復帰可能の判断)・第3ステップ(職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成)では、精神科医側としては、従業員の業務がどのようなものか分かりません。そのため、一般的な診断書の作成・配慮事項の記載になりがちです。これに対して、職場監督者と産業医で連携し、職場として聴取したい情報をまとめておき、それを精神科医に確認するといった手法で情報のやりとりを行います。特に、事業場で従業員が行っている業務が、具体的にどのようなものであるか等も含めることが必要です。
第5ステップ(職場復帰後のフォローアップ)では、復帰に関する産業医意見書を精神科医にも情報共有し、実際に事業場で行っている配慮内容などを精神科医にも確認しておいてもらいます。そして、事業場での業務状況から症状の再燃・再悪化が疑われる時には、早期に受診する必要がある点についても情報共有しておきます。
出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」
精神科医は、メンタルヘルス疾患(精神科領域)の治療を専門としているので、その対応に長けています。しかし、事業場で必要になるのは治療ではなく、産業医学的な知見に則った事例性の解決や対応支援です。そのため、職場におけるメンタルヘルス対応では、産業医に事例性の対応を依頼するとよいでしょう。この対応は、精神医学とは専門が異なるので、必ずしも精神科である産業医に依頼する必要はありません。
また、運良く精神科である兼産業医を選任している場合でも、事業場としてその産業医が1人2役(主治医兼産業医)を担ってくれることを注意が必要です。前述のように、精神科医と産業医では目的とする点が異なります。1人が主治医と産業医の役割を担うことで利益相反してしまい、適切な判断ができなくなる懸念があるためです。産業医にメンタルヘルス対応を依頼する際は、この点を踏まえて現状や対応してほしいことを伝えるようにしましょう。
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