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ストレスチェック「高ストレス放置」は危険!法リスクと対処法

ストレスチェックで「高ストレス」と判定された従業員への対応、明確にできていますか?「面談希望がなければ放置でいい」と考えていませんか?しかし、高ストレス者を放置することは、従業員の心身の健康悪化だけでなく、企業にとって安全配慮義務違反による法的リスクや、休職・離職増加による生産性低下など、深刻な事態を招く可能性があります。

この記事では、ストレスチェックの高ストレス者を放置するリスクを具体的に解説するとともに、産業医面談の適切な勧奨方法から、面談後の就業上の措置、職場環境改善に至るまで、人事労務担当者が取るべき具体的な対応ステップと注意点をご紹介します。

ストレスチェックの高ストレス者、放置は絶対NG!その深刻なリスクとは

ストレスチェックで「高ストレス」と判定された従業員への対応は、企業の重要な義務の一つです。面談の申し出がないからといって、その従業員を「放置」することは、極めて大きなリスクを伴います。ここでは、高ストレス者を放置した場合に企業が直面する具体的なリスクについて解説します。

安全配慮義務違反による法的リスク

労働契約法第5条では、事業主に対し、従業員が安全に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を課しています。ストレスチェックの結果、高ストレス状態であることが判明しているにもかかわらず、企業が適切な対応を怠り、その結果従業員の心身の健康が悪化したり、精神疾患を発症したりした場合、この安全配慮義務違反に問われる可能性が高まります。

安全配慮義務違反が認められた場合、企業は従業員からの損害賠償請求訴訟に発展するリスクを負います。過去には、ストレスチェック制度義務化以前の判例ではありますが、企業が長時間労働などにより従業員の精神状態が悪化していることを認識しながら適切な措置を取らなかったことで、従業員が精神疾患を発症し、多額の賠償金支払いを命じられた富士通四国システム事件(最高裁平成26年3月24日判決)のような事例も存在します。これは、企業の社会的信用を大きく損なうだけでなく、経済的にも多大な損失を招きます。

従業員の健康悪化と休職・離職リスクの増大

高ストレス状態を放置することは、従業員のメンタルヘルス不調を深刻化させる直接的な要因となります。適切なケアがなければ、気分障害(うつ病など)や不安障害、適応障害といった精神疾患へと進行する可能性が高まります。

精神疾患を発症した場合、従業員は業務を継続することが困難になり、休職や最終的には離職に至るケースも少なくありません。特定の従業員の休職や離職は、その個人だけでなく、チーム全体の業務負担増、士気の低下、そして企業全体の生産性低下に直結します。

企業の生産性低下とイメージ悪化

高ストレス状態の従業員は、集中力や判断力が低下し、業務効率が著しく低下することが一般的です。これにより、個人のパフォーマンスだけでなく、チーム全体の生産性も低下します。また、高ストレス者が増えることは、職場の雰囲気を悪化させ、他の従業員のストレスにも繋がりかねません。

さらに、従業員の健康を軽視する企業というイメージが一度定着してしまうと、採用活動にも悪影響を及ぼす可能性があります。近年の求職者は、企業の福利厚生や健康経営への取り組みを重視する傾向にあり、高ストレス者への対応が不適切であるという情報は、優秀な人材の確保を困難にする要因となり得ます。

ストレスチェック高ストレス者への対応フローと具体的なステップ

高ストレス者を放置しないためには、以下の流れに沿って適切に対応することが重要です。

高ストレス者への産業医面談の積極的な勧奨

ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された従業員に対しては、速やかに産業医面談の機会があることを伝え、面談を受けるよう積極的に勧奨しましょう。この際、以下の点を明確に伝えることで、従業員が安心して面談を申し出やすくなります。

  • 守秘義務の徹底: 面談で話した内容は、従業員の同意なく企業に開示されることはありません。
  • 不利益な取り扱いの禁止: 面談を受けたことによって、人事評価や配置転換などで不利益な扱いを受けることは一切ありません。
  • 面談の目的: ストレスの原因を特定し、心身の健康維持・増進をサポートするためのものであることを説明し、面談の意義を理解してもらう。

勧奨は、書面での通知だけでなく、可能であれば人事担当者など信頼できる立場の方からの個別面談を通じて行うなど、きめ細やかな配慮が求められます。

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面談希望者の情報共有と産業医との連携

従業員から面談の申し出があったら、速やかに産業医と連携し、面談の設定を進めます。この際、産業医に以下の情報を提供できるよう準備しておくと、スムーズな面談につながります。

  • 従業員の氏名、部署、役職、年齢
  • 業務内容、労働時間(時間外労働の有無など)
  • ストレスチェックの結果(個人の同意を得て、面談の参考として提供)
  • 健康診断の結果(必要に応じて)
  • 職場の環境や人間関係など、ストレス要因となりうる情報(従業員の同意に基づき、客観的な情報に留める)

これらの情報は、産業医が従業員の状況を正確に把握し、適切な助言を行う上で非常に重要です。

産業医による面接指導の実施

面談の申し出から1ヶ月以内を目安に、産業医による面接指導を実施します。産業医は、従業員の勤務状況、心理的な負担、心身の状況などを聴取し、ストレスの原因や程度を評価します。必要に応じて、医療機関への受診勧奨や、就業上の措置(労働時間短縮、勤務場所の変更など)に関する意見を述べます。
面接指導は、対面だけでなく、一定の要件を満たせばオンラインでの実施も可能です。従業員が面談を受けやすい環境を整えることも重要です。

措置の決定と職場環境の改善

産業医の意見や面接指導の内容を踏まえ、企業は必要に応じて就業上の措置を講じます。具体的な措置は、従業員のストレス要因や健康状態によって異なりますが、以下のような選択肢が考えられます。

  • 労働時間の短縮・残業制限
  • 深夜勤務の制限・免除
  • 勤務場所や業務内容の変更(配置転換など)
  • 休職
  • 時短勤務

就業上の措置だけでなく、ストレスの要因が職場環境にある場合は、根本的な職場環境の改善も検討しましょう。たとえば、過重な業務量の見直し、人間関係の調整、ハラスメント対策の強化などが挙げられます。

結果報告書の作成と労働基準監督署への提出

産業医による面接指導後、産業医は面接指導の結果に関する報告書を作成します。事業者は、この報告書に基づき、必要な措置を講じた上で、その内容を労働基準監督署へ報告する義務があります。提出期限は明確に定められていませんが、速やかに提出することが求められます。未提出の場合、労働安全衛生法違反として罰則の対象となる可能性があるため注意が必要です。

高ストレス者対応で配慮すべきこと

個人情報の厳重な管理と守秘義務の徹底

高ストレス者の情報は、非常にデリケートな個人情報です。面接指導の内容や結果は、厳重に管理し、関係者以外がアクセスできないように徹底しましょう。紙媒体であれば鍵のかかるキャビネットに保管し、データであればパスワード設定やアクセス制限を設けるなど、情報漏洩を防ぐ対策が必須です。また、産業医には守秘義務があることを改めて従業員に伝えることで、安心して面談に臨んでもらえます。

面談を申し出やすい環境づくり

従業員が高ストレスと判定されても、面談をためらうことがあります。これは、「面談を受けると周囲に知られるのではないか」「不利益な扱いを受けるのではないか」といった不安が原因であることが多いです。これらの不安を払拭し、面談を申し出やすい環境を整備することが重要です。

  • ストレスチェック制度の周知徹底: 目的、面談のメリット、守秘義務、不利益な取り扱いの禁止などを繰り返し従業員に伝えましょう。
  • 申出窓口の明確化: どこに、どのように申し出れば良いのかを分かりやすく提示し、手続きを簡素化しましょう。
  • プライバシーへの配慮: 申し込みや面談の場所、時間帯など、他の従業員に知られにくい工夫も有効です。

社外相談窓口の設置も検討

社内に相談しにくいと感じる従業員のために、社外の相談窓口(EAPサービスなど)の設置も有効な手段です。第三者機関であれば、より安心して相談できるというメリットがあります。従業員が多様な選択肢の中から、自身に合った相談先を選べるようにすることで、早期の対応に繋がりやすくなります。

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ストレスチェックの高ストレス者を放置せず、適切な措置を講じましょう

ストレスチェックは、実施するだけで終わりではありません。高ストレスと判定された従業員を放置することは、企業の法的リスクを高め、従業員の健康を害し、ひいては企業の生産性やイメージを損なうことにも繋がります。
人事労務担当者は、ストレスチェックの結果を真摯に受け止め、高ストレス者への産業医面談を積極的に勧奨し、必要に応じて適切な就業措置や職場環境の改善を講じる義務があります。従業員が安心して面談を申し出られる環境を整備し、早期の対応に繋げることで、企業と従業員双方にとって健全な職場環境を築きましょう。

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