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【産業医監修】健康診断後、産業医に求められる対応とは?

労働環境の変化を背景に、医学的な異常所見を指摘される労働者は年々増加しています。その中で、事業者には健康診断の実施が義務づけられており、健康診断実施後は医師(産業医)または歯科医師の意見を聴取・勘案して適切な措置を講じる必要があります。

本稿では、健康診断後に事業者が産業医と連携して行う対応の流れと注意点を概説します。

健康診断における産業医の役割

まず、企業の義務として、従業員に対する健康診断の実施が定められています。
産業医は健康診断の結果に基づき、労働者の健康管理や職場環境など改善すべく、専門的な立場から助言や支援をする役割を担います。
なお、産業医の選任義務がある従業員50人以上の事業場では、産業医に対して健康診断の計画や実施上の注意事項等について助言を求める必要があります。健康診断実施前の対応となるので、事業者はこの点に留意しましょう。

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健康診断後の流れ

健康診断の目的は二次予防(早期発見、早期対応)です。返却された結果を鑑みて労働者の健康状態を正確に把握し、医師(主に産業医)が提供する医学的知見に基づき速やかに必要な措置を行うことで、労働者が健康的に働き続けられるようにサポートすることが本来の目的となります。そのためには、企業と産業医との緊密な連携は必要不可欠です。

健康診断後の一連の流れについて、以下で詳細を説明していきます。

①健康診断結果の通知・産業医による所見確認

労働安全衛生法第66条の6において、事業者は健康診断を受けた労働者に対してその結果を通知しなければならないと規定されています。

健康診断の実施後には実施機関から健康診断の結果が送付されますが、直接事業者に提供される場合と、労働者の自宅に送付される場合があります。後者の場合は、事業者は労働者に対して結果の提出を指示する必要があります。

健康診断の結果については全従業員の結果を産業医が確認し、異常所見の有無を判断します。実施機関でも結果の確認はされていますが、労働者の業務内容や労働環境に精通した産業医が改めて結果を確認することで、労働者の背景を勘案した上で検査結果を正確に解釈できます。また、大量の結果を確認する必要がある健康診断実施機関の医師とは異なり、産業医は各事業者の労働者の検査結果を詳細に確認する時間があります。また、明らかな異常値と判定されていない項目についても、これまでの経過を鑑みて介入の必要性を判断することができます。

個人情報の取り扱いには注意

健康診断結果は個人情報に該当します。産業医が健康診断の結果を確認する際には、事業所内で確認作業を行うのか、産業医の自宅に結果を送付した上で確認作業を行うのか、を確認しておく必要があります。後者の場合は個人情報保護の観点から、適切な結果データの送付方法について人事部門の担当者と相談しておく必要があります。

なお、健康診断の結果のうち、法定項目に関しては事業者側の人間も確認することができます。しかし、その情報を取り扱う者は、人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者(社長、役員など)、産業保健業務従事者(衛生管理者、衛生推進者など)、管理監督者(労働者本人の所属長)、人事部門の事務担当者に限定されます。この範囲については安全衛生委員会で事前に協議しておくのが望ましいです。また、法定項目外の結果については本人の同意がなければ事業者は取得できないので、労働者からの同意の取得方法について予め取り決めをしておく必要があります。

②労働者への受診勧奨

産業医が健康診断の結果を確認した上で、異常所見が認められた労働者に対しては、一度医療機関を受診するように勧めます。そこで受けた二次健康診断や精密検査の結果に応じて、産業医が意見を述べる必要があります。このように、医療機関への受診を労働者に促すことを受診勧奨といいます。

受診勧奨は人事担当者より口頭で行われることもありますが、産業医と連携して書面で行う方が効果的です。一例としては、受診勧奨を受けた労働者は健康診断の結果と産業医が作成した診療情報提供書を持参した上で医療機関を受診し、その医療機関からの返信を事業者へ提出します。この方法では、産業医が作成した文書を労働者に持参させることで受診勧奨を強く促せるだけでなく、同文書があることで医療機関側からも真摯に対応してもらえる可能性が高まります。加えて、その返信を産業医が書面で確認できるため、後述の就業上の措置を決定する上で重要な判断材料とすることができます。

③健康診断結果について、産業医からの意見の聴取

健康診断の結果を踏まえた上で、労働者にこれまで通りの就業をさせていいのかという判断は事業者にとって非常に悩ましいものです。その判断に際しても、産業医が重要な役割を果たします。

健康診断の結果で異常を指摘された労働者については、法令に基づき、事業者は産業医から3か月以内に意見を聴かなければならない、とされています。産業医から意見を聴くに際して、事業者は予め労働者の作業環境、労働時間、深夜業の回数や時間といった労働者の労働環境に関する情報と、過去の健康診断の結果などの情報を提供しておく必要があります。また、それらの情報のみで判断材料として不十分な場合は、労働者と直接面談の機会を設けることが望ましいでしょう。なお、産業医の選任義務がない事業所の場合は、地域産業保健センターや産業医紹介会社を活用して産業医から意見聴取するようにしてください。

産業医が意見を提供する内容については、就業区分及びその内容、作業環境管理及び作業管理の意見に大別されます。
就業区分については、まず当該労働者を下記の3つの区分に従って判定します。その上で、各労働者の背景を考慮した上で、それぞれに応じた必要な措置の内容について述べることとなっています。

一方、健康診断の結果、作業環境管理もしくは作業管理に介入する必要があると判断された場合には、作業環境測定の実施や施設・設備の整備または設置、作業方法の変更について意見を述べる必要があります。

表1 就業判定についての表

 就業区分 就業上の措置の内容
区分 内容
通常勤務 通常の勤務でよいもの
就業制限 勤務に制限を加える必要があるもの 勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じる。
要休業 勤務を休む必要があるもの 療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。

出典:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」

最初に、通常勤務でよいか、就業に制限が必要か、もしくは休業が必要か、の3つに区分します。その上で、就業制限が必要な場合には、本人の状況や就業に関する情報を基に、具体的な内容について意見を述べます。

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④就業上の措置の決定

就業上の措置の決定に際しては、労働者自身の意見を聴く必要があります。その上で、産業医の意見を基に、最終的には事業者が就業区分に応じた就業上の措置を決定します。この際、労働者本人と対話を重ねた上で本人の了解が得られるように進めていくことが大切です。また、必要に応じて産業医の同席の下で労働者の意見を聴くことで、情報や判断の透明性・客観性をある程度担保することができます。

⑤定期健康診断結果報告書の作成・提出

労働安全衛生規則に基づき、従業員50人以上の事業場は労働基準監督署へ提出する「定期健康診断結果報告書」を作成する必要があります。この報告書の様式は、厚生労働省のホームページから入手できます。この書面に、産業医の氏名・所属医療機関の名称および所在地を記載します。以前は産業医の押印も必要でしたが、令和2年の法改正により不要となりました。なお、この報告書については事業者の衛生管理者を通じて産業医に記載を依頼することが一般的です。

参考:厚生労働省「各種健康診断結果報告書」

必要に応じて、保健指導の実施を

健康診断は、受けた後も総合的なフォローアップを行うことが重要です。健康診断の結果に異常所見が認められた労働者に対しては、産業医や保健師が結果の各項目について詳細に説明し、受診の必要性や日常生活への指導、今後の対応についてアドバイスを行う保健指導が努力義務とされています。生活習慣の改善を変えることで異常所見が改善する可能性があるため、産業医による保健指導は健康診断結果をふまえて、栄養、運動、生活習慣それぞれの観点から行います。

健康維持には主体的な姿勢が欠かせません。単に健康診断の結果を通知されただけでは、生活習慣の改善や受診の必要性を感じない労働者が多いのが実情です。そのような方に、産業医が健康診断を通じて個々の労働者に合った説明・指導を行い、状況に応じた目標設定と達成を支援することが労働者のモチベーションの促進や健康維持に繋がります。結果として一次〜三次予防へと繋がっていくため、長期的な健康経営という視点において産業医と連携した保健指導は非常に重要な取り組みと言えます。

もし、労働者に健康診断、産業医面談を拒否されたら

労働安全衛生法66条に定められた通り、事業者には労働者に対して健康診断を実施する義務があります。また、同法に基づき労働者にも健康診断を受ける義務があります。

一方で、健康診断後の健康指導を含めた産業医面談は努力義務です。従って、法的な拘束力はありません。しかし、労働者が働くことを通じて生命や健康の危機にさらされないよう、事業者が安全衛生面に十分に配慮する義務については、安全配慮義務として労働契約法第5条に規定されています。そのため、安全配慮義務を果たしていると証明するためにも、産業医面談が必要になる状況がありえることは理解しておく必要があります。
実際には、様々な理由で健康診断を受けたくないと考える労働者が一定数存在することも事実です。次に、このような場合の対応について説明していきます。

労働者が健康診断を拒否した場合

労働者が健康診断を拒否する場合は、まずその理由を確認しましょう。業務が多忙で受けられないのであれば事業者側での調整が必要になりますし、健康診断の受診は任意だと思っている労働者に対しては、健康診断の受診は義務であることを説明する必要があります。また、労働者が受診しやすいように、健康診断の実施日を複数設定することや、自宅付近の医療機関での受診を可能にする、繁忙期を避けた健康診断時期にする、といった受診環境への配慮も必要です。

また、健康診断を受ける意義について繰り返し説明することも重要です。早期に病気を発見・対処することで得られるメリットや、健康診断を受けないことで被りうる健康上の問題を粘り強く説き続けることで、労働者の受診に対する内発的な動機を促すことができます。

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労働者が産業医面談を拒否した場合

労働者が産業医面談を拒否する場合も、その理由を確認することが先決です。健康診断の場合と同様、それぞれの理由に応じて面談を受けやすくなるような環境調整を事業者側で行う配慮が求められます。また、医師(産業医)と話すこと自体に苦手意識を持っている方もいます。その場合、産業医の人柄や活動内容について社内で掲示やメールなどで周知を行い、面談に対する心理的ハードルを下げることも有効です。産業医には守秘義務があり、社内の人間には相談しにくい内容についても気兼ねなく相談できるという内容についても併せて周知することが重要です。

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健康診断後の注意点

これまで健康診断後の事後措置について一連の流れを説明してきました。この一連の対応は、あくまでも労働者の健康確保を目的とするものです。しかし、その運用においては、事業者側が注意しなければならない点があります。

まず、事業者は労働者の健康情報に基づいて、健康確保に必要な範囲を超えて不利益な取り扱いをしてはならない、ということです。これは2015年に改正された「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」に基づくものです。具体的には、健康診断の結果を理由として、当該労働者に対して解雇、契約更新の拒否、退職勧奨、不当な配置転換や職位の変更等をしてはならないことが挙げられます。また、医師の意見とは全く異なる措置を実施することや、措置の実施に際して医師の意見を聴取しない、といったことも不利益な取り扱いに含まれます。

就業上の措置に関して、産業医の意見を考慮していない場合も注意が必要です。意見を顧みずに不適切な事後措置を行い、その結果、労働者に健康上の問題が生じた場合は事業者側の安全配慮義務違反が問われる可能性もあります。

また、健康診断結果は一定期間の保存が義務付けられています。
一般健康診断は5年間、特殊健康診断は5~40年間と定められています。

参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」

健康診断後こそ、産業医と連携しよう

健康診断とそれにまつわる対応については、事業者と産業医が緊密に連携し、情報を共有することで適切な対応を取ることが可能になります。

産業医の意見を踏まえて適切な事後措置を行うことで、結果として労働者が長期的に健康に働ける可能性が高まります。そのためにも、産業医を有効活用し、労働者の健康管理に努めていきましょう。

Dr. ごろり

皮膚科医・産業医

某国立大学医学部医学科卒業。皮膚科医として大学病院、基幹病院勤務を経て、現在某国立大学院にて皮膚疾患に関する研究を行っている。皮膚科医としての診療経験から、病院での限られた診察時間だけでは病に苦しむ患者さんを減らすことは難しいと痛感し、予防医学の実践のため産業医としての活動を開始。現在は東証一部上場企業や某外資系大企業、地域の中小企業、中核病院まで、幅広い業種の約15社で嘱託産業医活動を行っている。Twitterでも健康についての情報を日々発信中。

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