#php if (is_mobile()) : ?> #php else : ?> #php endif; ?>
2020年4月1日より施行される健康増進法の改正によって、従業員の望まない受動喫煙を防止することが企業責任のひとつに加わりました。
法律改正によって、人事労務担当者は受動喫煙防止や社内のたばこ問題解決に向け、より一層の対策が求められることになります。
本記事では受動喫煙対策関連の法案が設立された背景をはじめ、企業としての法的責任や対策についてご紹介します。
厚生労働省が紹介する各種支援制度、他社事例等もご説明しますので、受動喫煙問題を検討する担当者にとってはどれも見逃せない内容ばかりです。
各社において受動喫煙防止対策が進むのは、国が受動喫煙を防止するために「健康増進法」「職業安定法施行規則」の一部を改正し、2020年4月からその内容が適応されるからです。
この法案可決の背景には、受動喫煙によって引き起こされる健康被害が世界的に問題となっていることが挙げられます。
受動喫煙を重く見た世界保健機構(WHO)は、「たばこ規制枠組条約」を2015年に発効しました。本条約は締結国に法的拘束力のある国際条約で、日本も加盟しています。
これまで労働安全衛生法や健康増進法によって受動喫煙防止対策は努力義務として進められてきました。
しかし、たばこ規制枠組条約への加盟、昨今の受動喫煙防止に関する問題意識や健康志向への関心が後押しとなり、法案の見直しへと至ったのです。
また2019年から2020年にかけて、ラグビーワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックと言った日本が世界から注目を受けるスポーツイベントが開催されます。
こうしたイベントに合わせて日本政府として行動を起こすことで、世界に向けて受動喫煙防止をアピールする目的があるとも推測します。
世界的な受動喫煙防止における動きがある一方で、国内においても企業で生じる副流煙の健康被害は問題視されています。
たばこの煙には、喫煙者が吸い込む「主流煙」とその周りの人が吸い込む「副流煙」の2種類があります。副流煙において特に問題となるのが、その中に含まれる化学成分です。主流煙よりも、ニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍含まれており、発がん性のある化学物質も煙に含まれています。
また厚生労働省の報告によると、受動喫煙による肺がんと虚血性心疾患の死亡数は年間約6,800人です。その50%以上が職場での受動喫煙が原因とされます。
従業員へのたばこによる健康被害が表面化してきている以上、企業としては早急に対策へ乗り出す必要があります。
法案改正によって、企業にはどのような法的責任が課されるのでしょうか。
この問題において、人事労務担当者に把握してほしい法案は「健康増進法」「職業安定法施行規則」「安全配慮義務」「労働安全衛生法」の4つです。それぞれの内容について簡単に紹介します。
健康増進法の一部改正により、受動喫煙防止対策として2020年4月から以下の内容がルールとして適応されます。
健康増進法において受動喫煙に関する企業取り組みは努力義務とされてきましたが、法律の改定により違反すると罰則の適用(過料)が課せられるを受ける場合があります。
法案改正により多くの企業が原則屋内禁煙となるため、喫煙を認める場合には喫煙室等の設置が必要となります。なお、子供や患者に配慮が必要な学校や病院については、敷地内禁煙です。施設によってルールが異なることに注意してください。
職業安定法施行規則の一部改正により、2020年4月から受動喫煙に対する企業対策を採用や募集時に明示することが求められます。
つまり、求人募集の一覧に賃金や労働時間等と同様、受動喫煙対策についても企業は明記しなくてはならないのです。
具体的には、「屋内喫煙」「喫煙可」「屋内原則喫煙(喫煙室あり)」といったルールを記載します。
なお、働く場所が複数にまたがるような場合には、それぞれについて明記する必要があります。
従業員が安全で健康に働けるよう配慮した環境を企業が整える必要がある義務を表しています。
企業として問題を予見出来る可能性・結果として回避出来る可能性が高い問題に対しての安全配慮義務を怠った場合、安全配慮義務違反となるケースがあります。
もし従業員が受動喫煙による被害を受けていたにも関わらず企業としての対策を怠ると、慰謝料等が従業員から請求される場合もあるため、対策の実践は重要は必須です。
従業員の健康を守り、受動喫煙を防止するためにも、事業者および事業場の実情に応じ適切な措置を取ることを努める義務(努力義務)が全ての企業に課せられています。
本法については努力義務とされていますが、他の法案の影響からも努力以上の対応が必要であることは言うまでもありません。
では企業としての社会的な責任を負うことはもちろん、職場環境向上のために、どのような取り組みが出来るのでしょうか。ここでは3つの内容をご紹介します。
社内でどれだけの喫煙者が居るかについての現状把握から、喫煙による業務や職場環境への影響についてどのように従業員たちが捉えているかを知る必要があります。アンケートやヒアリング等を通して、本音を集めるよう心がけましょう。
屋内に喫煙場を設けるのでしたら、受動喫煙を防ぐことができる専用の喫煙室を作る必要があります。
また企業によってはこの機会に全面禁煙に舵を切る場合もあるため、設備を整えるにしても、撤去するにしてもどの方向で投資するかを検討しなくてはいけません。
「なぜ企業として喫煙対策を進めるのか」「受動喫煙が周囲に与える悪影響」等について、従業員へ説明を行う必要があります。
受動喫煙防止に関する勉強会等の教育を同時に実施することで、周囲の人の健康に配慮した対応がこれまで以上に喫煙者へ求められることを自覚してもらうことが狙いです。
受動喫煙防止対策の実施は、法整備によって推し進められているだけでなく、企業が「健康経営優良法人」として認定されるための必須項目としても盛り込まれています。
健康経営優良法人とは、従業員の健康維持・増進を経営戦略に組み込む「健康経営」を実践している企業について、日本健康会議が認定し、経済産業省と共に公表するものです。
健康経営優良法人に認定されるためには、受動喫煙対策に関する取り組みが、大企業・中小企業部門共通で必須とされています。
出典:経済産業省「健康経営優良法人2022(大規模法人部門)認定要件」
出典:経済産業省「健康経営優良法人2022(中小規模法人部門)の認定要件」
さらに2022年からは、受動喫煙対策だけでなく「喫煙対策」も選択できる必須項目のひとつとして追加されることが決定しました。具体的には、「従業員の喫煙率低下に向けた取り組み」が評価項目として選択できるようになります。
このように、受動喫煙および喫煙対策は、健康経営を実現している企業と認められるためにも必要な施策となっているのです。
ここでは、厚生労働省が紹介している、受動喫煙防止対策に関する各種支援事業について説明します。
企業として対策を進めていく中で、活用できそうな制度事業については積極的に検討していきましょう。
中小企業事業主を対象に、受動喫煙防止のための施設設備の整備に対してその工事費用のうち、工費や設備費など1/2(飲食店については2/3)を助成します。
なお助成金額の上限は最大100万円までとなっています。
助成対象の範囲等については厚生労働省HPをご覧ください。
【参考】厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)」
労働衛生コンサルタントをはじめとする専門家が「受動喫煙防止対策に関する計画や実施体制に関するソフト面」「支援・設備等に関するハード面」「受動喫煙防止対策助成金の申請」等の電話相談に無料で対応しています。
状況に応じて専門家を企業へ派遣した実地指導も行っているため、もし対応策にお困りの場合はまずは電話相談をしましょう。相談支援の詳細等については厚生労働省HPをご覧ください。
【参考】厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(技術的支援)」
最後に受動喫煙防止対策にすでに取り組む企業例についてご紹介します。
【会社概要】
会社名:株式会社リコー
事業内容:プリンターをはじめとした事務機器などの製造・販売
連結従業員数:81,184名(2021年3月31日時点)
同社は、2014年にグループ全体として受動喫煙対策の方針を固め、従業員に周知した上で、2015年1月から社内および就業時間内の全面禁煙化を実施しました。
全面禁煙化の実施前には、社員に禁煙化を受け入れてもらいやすくするため、社内通達や社内のポータルサイトでの広報活動が行われました。また喫煙者に対しては、一方的に禁煙を強制するのではなく、「卒煙」してもらうための「禁煙チャレンジ」活動が展開されています。
「禁煙チャレンジ」では具体的に、産業医や保健師との面談や、禁煙外来を受診する場合の費用補助制度の整備など、一人では達成が難しい禁煙へのサポート体制の構築が行われました。このような取り組みの結果として、2019年度比でグループ全体での喫煙者が2.6%減少したと報告されています。受動喫煙対策の取組後、社員からは、「妊娠中でも安心して働ける」などの好意的な声が上がっているようです。
法人名:社会医療法人 正和会
事業内容:医療・福祉サービスの提供
従業員数:670名
同法人では、それまでは職員食堂や休憩スペースに設置されていた喫煙所を、2010年頃より段階的に縮小し、2018年4月には全施設での敷地内全面禁煙を達成しました。
禁煙化の取り組みの開始時は、社会的にも受動喫煙の影響が話題になっている時期であったため、社員の理解を得やすかったようです。また、喫煙所を縮小していく過程で職員から喫煙環境の見直しについての声が上がるなど、受動喫煙や健康に対する意識の高まりが見受けられたとのことです。
全面禁煙後には、喫煙者からも「良い影響があった」という声が上がっています。例えば、それまで禁煙できなかった職員が、喫煙環境が変わったことで禁煙に成功できたり、喫煙本数を減らすことができたりという例が多くあるようです。このような健康経営に取り組む同法人は、秋田県版認定健康経営優良法人および2021年には健康経営優良法人「ブライト500」にも認定されています。
会社名:鈴与商事株式会社
事業内容:石油、ガス、電気などのエネルギーを中心とした商品販売
従業員数: 559名(2021年9月時点)
同社では、2019年1月より、社内の喫煙室をすべて廃止し、全面禁煙化しました。
取り組み開始当初には「喫煙室による分煙で十分ではないか」という意見もあったそうです。しかし、全社的に健康意識が高かったことや、実施前に半年間の猶予を設けたことから、次第に理解してもらえるようになったとのことです。
また、全面禁煙化にあたっては、一方的に喫煙を禁止するのではなく、喫煙者へのフォロー制度も設けられました。具体的には、健康保険組合による禁煙治療費補助事業や、卒煙達成者に補助を支給する「卒煙サポート」などの整備が行われています。全面禁煙化後に喫煙者を対象に実施した無記名アンケートの中には、「以前から禁煙を考えていたので良いきっかけになった」などの好意的な意見も上がったとのことです。
会社名:有限会社アクアテクニカル
事業内容:ポンプや空調機、産業機器やシステムの販売、メンテナンス
従業員数: 26名
働き方改革をきっかけに受動喫煙対策をスタートしたという同社。働きやすい会社にするためには、労働時間の短縮などに加えて、清潔で快適な職場環境を作る必要があると考えたそうです。
具体的な取り組みとしては、喫煙や受動喫煙の健康被害を認識してもらうための社内セミナーの実施、市が実施する禁煙補助制度「禁煙チャレンジ」への参加、喫煙に関する記事の社内掲示などの啓蒙活動、そして喫煙所は非喫煙者が利用するスペースから10m以上離さなければいけない「10mルール」の整備などが行われました。「10mルール」では、それまで工場の入り口に設置されていた喫煙所が離れた場所に移設されたとのことです。これにより、工場に出入りする非喫煙者の受動喫煙を防げるようになっています。
受動喫煙対策への取り組み結果としては、社員の意識の変化が挙げられています。例えば喫煙者からは、社内だけでなく自宅においても「家族に煙が届かないよう、外で吸うようになった」という声が上がるなど、周囲への配慮を持つ人が増えたとのことです。
法人名:国立大学法人 長崎大学
教職員数:約4,000名
学生数:約9,000名
同大学では、2018年に、学生支援や人事担当職員、保健・医療推進センターのスタッフからなるワーキンググループを発足し、キャンパスの全面禁煙に向けた取り組みを開始しました。
禁煙化を急ぐと喫煙者の反発を招く恐れがあることから、同大学では段階的に禁煙推進を実施しています。例えば喫煙者・非喫煙者両方に禁煙推進の必要性を理解してもらうため、講演会での職員教育が行われたり、新入生に対して必修科目の授業プログラム内で喫煙防止教育が行われたりしました。その結果として、合計11カ所あった喫煙所を全て撤去し、衛生担当者による巡視も開始することで、2019年8月1日にキャンパス内の完全禁煙化を成功させました。
禁煙化にあたっては、喫煙者を排除するのではなく、喫煙者にとっても禁煙のメリットを感じてもらえるフォローも重視したとのことです。具体的には、禁煙は就職活動にも好影響をもたらすと伝えたり、無料の禁煙外来を設置し禁煙補助薬を処方したりしています。なお、禁煙外来に訪れた7〜8割の人が禁煙に成功しているとのことです。この結果を見て「自分も禁煙をしてみよう」と挑戦を決める人の声も増えているそうです。
ここまで、受動喫煙防止が進む社会的背景や、企業に求められる法的責任について紹介してきました。受動喫煙の防止は、法律によって実施が義務付けられているだけでなく、健康経営優良法人として認定されるためにも必須となっています。
従業員の健康を守り、気持ちよく働ける職場を実現するためにも、自社に合った受動喫煙対策の方法を検討してみましょう。
これから産業医を選任しようとお考えの企業担当者様向けに、「そもそもいつから選任しなければいけないのか」「選任後には何が必要なのか」「産業医を選ぶ時のポイント」「FAQ」などを丁寧に解説! エムスリーキャリアの産業医顧問サービスについても併せて紹介しておりますので、ぜひご活用ください!
50人以上の事業場向け
1,000人以上の事業場向け
※有害業務従事の場合は500人以上
単発の面談が必要な事業場向け