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【人事労務担当者向け】介護休暇における診断書の必要性とは?取得条件・手続き・注意点を解説

高齢化に伴い、従業員による家族介護は企業にとって避けては通れない課題となっています。大切な従業員が家族を介護するために離職する「介護離職」は、企業にとっても大きな損失です。このような事態を防ぐためにも、企業の人事労務担当者は、育児・介護休業法に基づく「介護休暇」や「介護休業」といった制度を正しく理解し、従業員が安心して利用できる環境を整備することが重要です。

特に、「介護休暇の申請に診断書は必要なのか?」という疑問を抱く担当者の方も多いのではないでしょうか。本稿では、介護休暇の基本から、診断書の提出に関する企業の対応、さらには介護休業との違いや申請時の注意点まで、人事労務担当者が知っておくべき情報を網羅的に解説します。この記事を通じて、従業員が介護と仕事を両立できるような、より良い職場環境づくりにお役立てください。

介護休暇とは?基本的な制度の理解

介護休暇とは、従業員が要介護状態にある家族の介護や世話をするために取得できる休暇制度です。育児・介護休業法によって定められており、企業は従業員からの申し出があった場合にこれを拒むことはできません。

要介護状態の定義

「要介護状態」とは、負傷、疾病、身体上または精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態を指します。一般的にイメージされる高齢の親の介護だけでなく、以下のようなケースも「要介護状態」に該当し、介護休暇の取得対象となる可能性があります。

  • 子どもが事故に遭い、一時的に常時介護が必要になった場合
  • 配偶者ががんの診断を受け、手術や治療のために常時介護が必要になった場合

介護休暇の取得可能日数

介護休暇の取得日数は、対象家族の人数によって異なります。

  • 対象家族が1人の場合: 年間5日まで
  • 対象家族が2人以上の場合: 年間10日まで

この日数は、2021年1月からは1日単位だけでなく、1時間、2時間といった時間単位での取得も可能になりました。これにより、例えば「午前中だけ病院に付き添う」といった柔軟な利用が可能となり、従業員はより介護と仕事を両立しやすくなっています。

介護休暇の対象家族

介護休暇の対象となる家族は、以下の通りです。

  • 配偶者(事実婚を含む)
  • 父母
  • 配偶者の父母
  • 祖父母
  • 兄弟姉妹

介護休暇を取得できない労働者

介護休暇は、すべての労働者が取得できるわけではありません。以下の従業員は、原則として介護休暇の取得対象外となります。

  • 日々雇い入れられる者(日雇い労働者)
  • 労使協定によって定められた以下の労働者
    • 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
    • 時間単位で介護休暇を取得することが困難と認められる業務に従事する労働者(ただし、この場合でも1日単位での取得は可能です)

介護休暇の特徴と適したケース

介護休暇は、比較的短期間の介護や、突発的な介護のニーズに対応するのに適しています。

  • 突発的な事態への対応: 家族の急な体調不良や事故など、緊急性の高いケース
  • 単発的な介護: 病院への付き添いや送迎、ケアマネジャーとの面談、役所での手続きなど
  • 短時間での利用: 時間単位での取得が可能であるため、「中抜け」して介護を行い、再び職場に戻るといった柔軟な働き方も可能です。

これらのケースでは、介護休暇を効果的に活用することで、従業員は仕事と介護の両立を図ることができます。

【参考】
厚生労働省「育児・介護休業法について」

介護休暇申請における診断書の必要性

介護休暇の申請において、従業員が「家族の要介護状態を証明する診断書」の提出を求められるケースがあるかもしれません。しかし、育児・介護休業法では、診断書の提出を義務付けているわけではありません

診断書の提出は必須ではない

厚生労働省の通達では、企業が従業員に証明書類の提出を求めることを認めている一方で、「労働者に過大な負担をかけることのないようにすべきもの」とされており、臨機応変かつ柔軟な対応が求められています。

つまり、たとえ会社の就業規則や育児・介護休業規程で診断書などの証明書の提出を求めるルールを設けていたとしても、それを従業員に強制することはできません。診断書がないことを理由に、従業員からの介護休暇の申し出を拒否することはできないのです。

【参考】
厚生労働省「よくあるお問い合わせ(事業主の方へ)」

なぜ診断書以外の書類でもよいのか?

  • 緊急性の高さ: 介護休暇の取得は、家族の急な体調変化や事故など、緊急性が高い状況で必要となることが多いです。そのような状況下で、すぐに病院の診断書を取得する時間的余裕がないことが考えられます。
  • 労働者の負担軽減: 診断書の取得には、時間や費用がかかる場合があります。従業員が介護の不安を抱えている中で、さらに書類取得の負担をかけることは望ましくありません。
  • 柔軟な対応の推奨: 厚生労働省は、企業に対して、証明書類の提出を求める場合でも、事後の提出を可能とするなど、労働者に過重な負担を求めないよう配慮することを求めています。

企業が証明書類を求める場合の対応

企業が対象家族の要介護状態を確認したいと考えるのは、制度の不正利用防止や、両立支援助成金などの申請のために証明書が必要になる場合があるためです。このような目的で証明書を求めることは問題ありませんが、以下の点に留意し、従業員への配慮を忘れないようにしましょう。

  • 必要最小限の書類に限定する: 介護保険の要介護認定の結果通知書、医師や看護師、保健師などが作成した証明書など、従業員が準備できる範囲で必要最小限の書類とすることが望ましいです。
  • 口頭での申し出も認める: 緊急時には、まず電話などで口頭で介護休暇の申し出を受け付け、必要書類は事後に提出してもらう体制を整えましょう。
  • 就業規則への記載: 就業規則の介護休業規程に「各種証明書の提出を求めることがある」と記載することは可能です。ただし、これはあくまで「求めることがある」という規定であり、提出を義務付けるものではないことを明確にしておく必要があります。
  • 柔軟な対応: 従業員から提出された書類の内容が、要介護状態であることを判断するに足るものであれば、必ずしも診断書にこだわる必要はありません。従業員の状況を理解し、事情に応じた柔軟な対応を心がけましょう。

介護休暇の申請方法と注意点

介護休暇の申請は、比較的簡易な方法で行うことができます。しかし、いくつか注意すべき点もあります。

介護休暇の申請方法

介護休暇の申請は、口頭または書面で行うことができます。

  • 会社側への連絡: まずは直属の上司や人事部など、会社が定めている窓口に、介護休暇が必要な旨を伝えます。緊急性が高い場合は、電話などで口頭で伝えても問題ありません。
  • 必要情報の伝達: 以下の情報を明確に伝えます。
    • 対象家族の氏名と労働者との続柄
    • 介護休暇を取得する年月日(時間単位で取得する場合は具体的な時間帯も)
    • 対象家族が要介護状態にある事実(口頭での申し出も可能です)
  • 書類の提出(事後でも可): 会社が用意している介護休暇申請書などがある場合は、出勤後速やかに必要事項を記載し、提出します。緊急事態で診断書などがすぐに用意できない場合は、後日提出できる旨を会社に伝えておきましょう。

介護休暇申請時の注意点

人事労務担当者は、従業員からの介護休暇申請があった際に、以下の点に注意して対応する必要があります。

  1. 介護休暇は有給にならない場合がある: 育児・介護休業法では、介護休暇中の給与について法的な規定を設けていません。そのため、介護休暇期間中に給与が支払われるかどうかは、各企業の就業規則で定められています。従業員には、自社の就業規則を確認するよう促し、経済的支援の有無を明確に伝えましょう。
  2. 社会保険料・住民税は免除されない: 介護休暇中であっても、社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)や住民税の支払いは免除されません。休職中に給与が支給されない場合、会社は従業員から直接これらの費用を徴収するか、復職後にまとめて徴収するなどの対応が必要となります。従業員にはこの点を事前に説明し、誤解が生じないようにしましょう。
  3. 不利益な扱いの禁止: 介護休暇や介護休業の取得を理由として、従業員に対して降格、減給、退職の強要、正社員から非正規雇用への変更などの不利益な取り扱いをすることは、育児・介護休業法により禁じられています。従業員が安心して制度を利用できるよう、適切な対応を心がけましょう。
  4. 他の事業主での休業日数はカウントしない: 中途入社の従業員が、以前の勤務先で介護休業を取得していたとしても、その日数は現在の勤務先での取得日数には算入されません。新規申請者と同様に扱い、改めて自社の制度に基づいた取得日数を確認するようにしましょう。
  5. 勤務先の休暇制度を従業員に案内する: 介護休暇は、育児・介護休業法で定められた最低基準の制度です。企業によっては、これ以上の手厚い介護支援制度を設けている場合があります。従業員からの相談があった際には、介護休暇だけでなく、自社で利用できる他の福利厚生制度(例:独自の有給休暇制度、短時間勤務制度など)もあわせて案内し、最適な選択ができるようサポートしましょう。

介護休業との違いと使い分け

介護のための休暇制度には、「介護休暇」の他に「介護休業」があります。両者は名称が似ているため混同されがちですが、目的や取得条件、取得日数などが大きく異なります。人事労務担当者は、これらの違いを理解し、従業員が状況に応じて適切な制度を選択できるよう情報提供することが重要ですし、参照サイトとして厚生労働省のウェブサイトも確認すると良いでしょう。

介護休暇と介護休業の比較

項目 介護休暇 介護休業
概要 要介護状態の家族の介護や世話をするための休暇 要介護状態の家族を介護するための休業
取得日数 対象家族1人につき年5日、2人以上で年10日まで 対象家族1人につき通算93日まで(3回まで分割取得可)
取得単位 1日単位または時間単位 原則として日単位(長期休業)
申請方法 口頭または書面(当日申し出・中抜けも可) 休業開始予定日の2週間前までに書面で申出が必要
経済的支援 なし(企業規定による) 要件を満たせば介護休業給付金(賃金の67%相当額)が支給される可能性あり
適したケース 突発的な介護、単発的な介護(通院付き添い、面談など) 長期的な介護(老人ホーム入居準備、遠方での介護、看取りなど)

介護休暇と介護休業の使い分け

  • 介護休暇: 家族の急な体調不良や、通院の付き添い、各種手続きなど、短時間または短期間で対応できる介護に適しています。時間単位での取得が可能なため、柔軟な働き方を実現しやすいでしょう。
  • 介護休業: 長期にわたる介護が必要な場合、例えば老人ホームの入居準備、遠方に住む家族の介護、病状が悪化し看取りが近い場合など、ある程度のまとまった期間の介護が必要な場合に適しています。介護休業給付金が支給される可能性があるため、経済的な負担を軽減できるメリットもあります。

従業員がどちらの制度を利用すべきか迷っている場合は、それぞれの制度の特徴やメリット・デメリットを具体的に説明し、介護の状況や今後の見通しを踏まえて最適な選択ができるようサポートしましょう。

従業員をサポートするための企業の取り組み

人事労務担当者として、従業員が介護と仕事を両立できるよう、積極的にサポートする姿勢を示すことが重要です。

制度の周知徹底と情報提供

介護休暇や介護休業といった制度は、従業員にとって知っているようで知らないことも多いのが現状です。就業規則や社内ポータルサイトなどで制度の概要を明確に記載し、定期的に周知する機会を設けましょう。また、制度利用に関する相談窓口を明確にし、従業員が気軽に相談できる環境を整備することも大切ですることはもちろんのこと、参照サイトとして厚生労働省のウェブサイトも確認すると良いでしょう。厚生労働省のウェブサイトでは、制度解説のパンフレットや詳細なQ&A集が提供されており、これらを参考に情報提供を行うことができます。

柔軟な働き方の推進

介護は突発的に発生することが多く、従業員が予測できない状況に直面することもあります。介護休暇の時間単位取得の活用促進はもちろんのこと、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、在宅勤務制度など、柔軟な働き方を導入・推進することで、従業員はより介護と仕事を両立しやすくなります。

個別の事情に応じた対応

介護の状況は従業員によって様々です。型にはまった対応だけでなく、従業員一人ひとりの状況やニーズに耳を傾け、個別事情に応じた柔軟な対応を心がけましょう。例えば、緊急時の連絡体制の確認、業務内容や量の調整、他の従業員との連携支援などが考えられます。

管理職への教育

現場の管理職が介護に関する制度や従業員への配慮について正しく理解していることは非常に重要です。管理職向けの研修を実施し、ハラスメントの防止、情報共有の促進、従業員の状況理解といった視点から、適切なマネジメントができるよう教育を進めましょう。

【参考】
東京労働局

相談体制の強化

社内だけでなく、社外の相談窓口(例:社会保険労務士、ケアマネジャーなど)との連携を検討することも有効です。専門家からのアドバイスを受けることで、従業員はより安心して介護に取り組むことができます。各都道府県労働局では、育児・介護休業法に関する相談窓口が設けられており、個別具体的な事案について相談することも可能です。

まとめ

介護休暇は、従業員が家族の介護と仕事を両立できるよう支援するための重要な制度です。人事労務担当者は、「介護休暇の申請に診断書は必須ではない」という点を正しく理解し、従業員に過度な負担をかけることなく、柔軟かつ適切に制度を運用することが求められます。
本記事で解説した内容を参考に、自社の介護休暇・介護休業制度を今一度確認し、従業員が安心して介護と仕事の両立ができるような、より働きやすい職場環境を整備してください。従業員が安心して働ける環境は、企業の生産性向上にもつながり、ひいては企業の持続的な成長に貢献するでしょう。

介護に関する従業員からの相談があった際は、焦らず、各制度の特徴を説明し、従業員の状況を理解した上で、最適なサポートを提供できるよう努めましょう。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

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