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安全衛生とは? 企業の産保担当者が知っておくべき対策、体制、法律を徹底解説

「安全衛生」は、企業にとって重要な経営課題の一つです。労働者の安全と健康を守ることは、企業の社会的責任であるとともに、生産性向上にもつながります。

本稿では、安全衛生の基本的な考え方から、企業が取り組むべき具体的な対策、安全衛生管理体制の構築方法、関連する法律や規則まで、人事労務担当者の皆様が知っておくべき情報を網羅的に解説します。

安全衛生管理の定義と概要

安全衛生の重要性と定義

安全衛生とは、職場で働く従業員の安全と健康を確保するための一連の活動と管理体制を指します 。労働安全衛生法という法律で、企業は労働者の安全と健康を守る義務を定められています 。

労働安全衛生法の概要

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を形成することを目的として、1972年に制定された法律です 。この法律では、企業が実施すべき安全衛生対策や、設置すべき組織、守るべき規則などが定められています 。

安全衛生の基本的な考え方

安全衛生の目的

安全衛生の最大の目的は、労働災害を防止し、従業員が安全で健康的な環境で働けるようにすることです 。労働災害とは、労働者が業務に起因して被るケガや病気、死亡などのことです 。

労働災害の現状

労働災害による死傷者数は、長期的には減少傾向にあるものの、2021年度の死亡者数は2019年、2020年よりも増加しています 。また、休業4日以上の死傷者数は近年増加傾向にあり、2021年度は1998年以降で最多となりました 。企業は、労働災害の発生状況を把握し、防止に努めなければなりません 。

安全と衛生の違い

「安全」は事故や災害を防ぐことを指す一方で、「衛生」は従業員の健康を維持・向上させる活動を指しています 。どちらも重要で、一方が欠けても全体の安全衛生管理は成立しません 。例えば、機械の定期的なメンテナンスを行うことで「安全」を確保し、その際に機械から発生する騒音や振動、排気ガスのレベルも測定して「衛生」の側面も考慮することが重要です 。

メンタルヘルス対策の重要性

近年では、労働者のメンタルヘルス不調も大きな問題となっています 。精神的な負荷は肉体的な負荷と同様に見逃してはならない問題であり、実際に厚生労働省は2020年に「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正し、カスタマーハラスメントやパワーハラスメントなど、精神面への負荷も労働災害に認定されると発表しています 。企業は、メンタルヘルス対策にも力を入れ、労働者が心身ともに健康に働くことができる職場環境を作る必要があります 。

安全衛生のために企業が行うべきこと

【労働災害の防止】
労働災害を防止するために、企業は以下のような対策を行う必要があります 。

  • 労働災害のリスクを調査しあらかじめ対処する:労働災害のリスクを調査しあらかじめ対処することで事故の発生を防ぐリスクアセスメントの実施が欠かせません 。
  • 危険防止の措置を行う:機械、器具その他の設備による危険、爆発性の物、発火性の物、引火性の物などによる危険、電気、熱その他のエネルギーによる危険を防止するための措置を講じる必要があります 。
  • 健康障害を防止するための措置を講じる:原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体などによる健康障害、放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧などによる健康障害を防止するための措置を講じる必要があります 。
  • 作業環境を整備する:通路、床面、階段などの保全、換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難および清潔に必要な措置その他労働者の健康、風紀および生命の保持のための必要な措置を講じなければなりません 。
  • 労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止する:労働者の作業行動から生じる労働災害を防止するための措置を講じる必要があります 。
  • 労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる:労働災害発生の急迫した危険がある場合、事業者は直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等の措置を講じる必要があります 。
  • 安全衛生に関する活動を行う:安全衛生委員会の設置や安全パトロールなど、職場全体で安全衛生に関する活動を行うことがおすすめです 。
  • 安全衛生にまつわる標語/スローガンを掲げる:標語やスローガンは、従業員が日々の業務で安全衛生を意識するための有効な手段です 。

【安全衛生教育の実施】
労働者を雇い入れたときや、作業内容を変更したとき、また危険または有害な業務に従事させる際には、労働者に対して安全衛生教育を行うことが義務付けられています 。安全衛生教育には、雇入れ時教育、作業内容変更時教育、特別教育、職長教育などがあります 。

【健康診断の実施】
企業は、労働者に対して定期的に健康診断を実施することが義務付けられています 。健康診断の結果に基づいて、労働者の健康管理を行うことも重要です 。

【作業環境測定】
有害なガスや粉じんが発生する作業場などでは、作業環境測定を行い、労働者が健康障害を起こす恐れがないか確認する必要があります 。

【 労働災害防止措置】
労働安全衛生法では、機械による危険の防止、化学物質による健康障害の防止など、さまざまな労働災害防止措置が定められています 。企業は、これらの措置を確実に実施しなければなりません 。

【リスクアセスメント】
リスクアセスメントとは、職場に潜む危険性や有害性を特定し、それらを除去・低減させるための一連の手順です 。製造業や建設業など一定の業種の事業場に対して、リスクアセスメントの実施が努力義務としています 。

【ストレスチェック】
常時50人以上の労働者を雇用する事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられています 。ストレスチェックの実施はもちろん、カウンセリングサービスの提供、ワークライフバランスの推進といった取り組みも重要です 。

安全衛生管理体制を構築するための基本

安全衛生に関する資格

安全衛生に関する資格には、以下のようなものがあります 。
産業保健師:労働者の健康を守るための専門家で、労働者の健康診断や健康管理のアドバイス、職場での健康教育などを行います 。
安全衛生管理者:作業環境の安全を確保する役割を担い、安全衛生に関する計画の策定や安全教育、労働災害が発生した場合の初動対応などを行います 。
危険物取扱者:化学物質やガスなどの取り扱いに関する専門知識を持つ資格で、危険物の安全な取り扱いや保管、事故発生時の対応などを行います 。
これらの資格を持つ人材を配置することで、より専門的な安全衛生管理を行うことができます。

安全衛生のために企業に必要な人員と役割

労働安全衛生法では、事業場の規模や業種に応じて、以下の安全衛生に関する人員の選任が義務付けられています 。

  • 総括安全衛生管理者:常時使用する労働者が一定数以上の事業場において選任が必要で、衛生管理者と安全管理者を指揮し、職場の安全と衛生の統括管理を行います 。
  • 安全管理者:安全に関する技術的な管理を担い、危険防止のための措置のほか、安全についての教育や訓練、労働災害の原因調査や再発防止措置などを行います 。危険な作業を伴う業種で、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任する必要があります 。
  • 衛生管理者:労働者の作業環境や健康などを管理し、健康障害を防止します 。具体的には、作業環境の衛生上の調査や改善、衛生についての教育、労働者の健康管理などを行います 。業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が義務づけられています 。
  • 安全衛生推進者・衛生推進者:常時使用する労働者が10人以上50人未満の事業場のうち、一定の業種では安全衛生推進者を、それ以外の業種では衛生推進者を選任しなければなりません 。安全衛生推進者・衛生推進者は、労働者の安全・衛生のための措置や教育などを行います 。
  • 産業医:労働者の健康管理について専門的な立場から指導・助言を行う医師で、健康診断の実施やその結果にもとづく指導・勧告などを行います 。業種を問わず、常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が必要です 。
  • 統括安全衛生責任者・安全衛生責任者・店社安全衛生管理者・元方安全衛生管理者:建設業と造船業において選任されるもので、事業の一部を請負事業者に請け負わせる「元方事業者」と「請負事業者」が、同一の作業場で生じる労働災害を防ぐ役割などがあります 。

安全衛生委員会

安全衛生委員会は、労働安全衛生法にもとづき設置される組織であり、特定の条件を満たす事業場では設置が義務付けられています 。労働者の安全と健康を確保するための重要な役割を果たし、労働者の危険・健康被害を防止するための対策などの重要事項について、労働者の意見を反映した調査審議を行うのも安全衛生委員会です 。安全衛生委員会の中でも安全委員会と衛生委員会が存在し、安全委員会は主に労働者の安全に関する事項を、衛生委員会は労働者の健康に関する事項を扱います 。

安全衛生に関する具体的な取り組み

労働者の安全衛生意識を高めるためには、安全衛生教育が不可欠です 。安全衛生教育には、KY活動、KYT(危険予知訓練)、特別教育などがあります 。

  • KY活動:従業員が危険を事前に予測し、予防措置を講じる活動で、労働災害やトラブルを未然に防ぐ効果があります 。
  • KYT(危険予知訓練):従業員が危険を事前に予知する能力を高める訓練で、労働災害を未然に防ぐための有効な手段とされています 。
  • 特別教育:労働安全衛生法にもとづき、特定の危険有害業務に就業する前に実施される教育です 。
  • 安全衛生教育の手法(動画マニュアルなど):安全衛生教育を効果的に進める手法として、動画マニュアルの活用が注目されています 。動画マニュアルは複雑な手順や安全対策を視覚的に伝えられるため、従業員の理解を深めるのに非常に有効です 。

安全衛生に関する法律と規則

労働基準法

労働基準法は、労働者の基本的な権利と安全を保障するための法律で、労働時間や休日、賃金などが規定されており、労働者が過度な負担を強いられることなく働ける環境が整えられます 。労働基準法は、正社員、契約社員、派遣社員、パート・アルバイトなど、日本国内で働くほとんどの労働者に適用されます 。

労働安全衛生法、労働安全衛生法施行令、労働安全衛生規則

労働安全衛生法は、労働者の安全と健康を確保することを目的とした法律です 。労働安全衛生法は、もともと労働基準法の第5章に定められていた労働安全衛生に関連する規定を独立させる形で制定された法律です 。労働安全衛生法施行令は「政令」に分類され、法律の実施に必要な具体的な手続きや基準を定めるものです 。労働安全衛生規則は、労働安全衛生法を具体的に実施するための規則です 。

労働安全衛生法における企業の義務と罰則

労働安全衛生法では、企業が実施すべき安全衛生対策が具体的に定められており、違反した場合には罰則が科されることもあります 。労働安全衛生法に違反すると、懲役または罰金が科される場合があり、労働者を雇い入れる際に安全衛生教育を行わない安全衛生教育実施違反や、クレーン運転などの運転を無資格者に行わせる無資格運転などが罰則の対象となるケースがあります 。

まとめ

労働者の安全と健康を守ることは、企業の社会的責任であり、持続的な成長にも不可欠です 。安全衛生が確保されている職場は安全で生産性が高く、従業員のモチベーションも向上します 。
また、産業保健や健康経営への注目が高まる中、安全衛生を確保するためのさまざまなサービスも登場しています。外部のサービスも活用しながら、より効果的な安全衛生管理体制を構築していくと良いでしょう。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

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