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産業医は診断できない? 産業医の意見書と主治医の診断書、役割別の対応を解説

従業員の健康管理において、産業医と主治医の役割は大きく異なります。本記事では、産業医と主治医の役割の違いを踏まえて、産業医が診断できない理由や、主治医の診断書と産業医の意見書の違い、両者の意見が食い違った場合の対応方法について解説します。

産業医は、診断することができない?

産業医は、従業員の健康をサポートする役割を担う専門家ですが、一般的には診断を行うことはできません。理由としては、産業医の主な役割が職場環境の改善や健康管理のアドバイスであり、病気の診断や治療を直接行う主治医とは異なる役割を持つからです。また、わが国の保険診療制度では、産業医契約で診断や治療を行うことができません。産業医の役割についての詳細は、下記の関連記事をご参照ください。

【関連記事】産業医とは?企業での役割、病院の医師との違いを解説

なお、一部の企業で設置されている企業内診療所・病院に勤務している産業医であれば、主治医も兼ねていますので、診断が可能です。しかし、主治医と産業医の役割を分離し、利益相反を回避することが必要です。そのため、産業医(兼主治医)が診断を行うことは、望ましくありません。主治医・産業医の利益相反については、下記の関連記事をご参照ください。

【関連記事】精神科医ではない産業医でも、メンタルヘルス対応できる? 各自の役割と対応を

事例:うつ病の疑いがある従業員への対応

次に、うつ病の疑いがある従業員への対応を例に、産業医と主治医の違いについて説明します。

うつ病の疑いがある従業員に対する産業医の役割は、健康改善のための支援となります。まず、うつ病の疑いがある従業員に対して面談を行い、状況や症状を詳しくヒアリングします。そして、面談を通じて従業員の精神的負担の程度やストレス要因を把握し、職場環境の改善やストレス対策、就業上の制限を提案します。普段の就労状況や産業医面談で収集した情報などから症状が重篤であり、医療機関の受診が必要であると判断した場合は、産業医は従業員に対してその旨を説明し、診断や治療を勧めます。

産業医は、うつ病疑いの従業員本人へのアドバイスや職場環境の改善策に加え、人事労務担当者や職場上司などとも連携し、従業員のサポートを行います。この連携により、産業医は制度上の対応やより広い範囲での職場環境の改善のためのアドバイスや提案を人事労務担当者や上司に提案することができます。人事労務担当者や上司は、それらの対策について実行可能なものから着手し、従業員の健康状態や職場環境の改善状況をモニタリングします。また、必要に応じて関係者(上司などの会社関係者、主治医、家族など)からの情報や意見を元に、従業員のフォローアップの見直しを行います。これにより、従業員の健康を総合的にサポートすることが可能となります。

主治医の診断書と産業医の意見書の違いとは

従業員の休職・復職対応において、主治医の診断書と産業医の意見書は重要な役割を果たします。ここでは、それぞれの書類について説明し、休職から復職までの対応の概要を解説します。

まず、休職開始時から復職完了までには、様々な書類で情報のやり取りを行なうことになります。ここでは箇条書きで整理します。

    • 休職開始時に必要となる書類
      • ・休職願い
        従業員の休職意志を確認するために必要になります。ただし、休職時に症状が特に重度であるなど余裕が無い場合には、この書類は休職の期間中に時間を遡って提出されます。
  • ・診断書/意見書
    後述する通り、従業員の休職意志と臨床的の適切性などを評価します。
      • 復職準備中に必要となる書類
  • ・復職準備状況報告
    従業員の体調が回復し、復職に向けて準備を行う段階の書類です。その準備がどのように行われているかを従業員が会社に伝達するために作成されます。この準備状況を踏まえて、復職時期を検討します。

復職時に必要となる書類

  • ・診断書/意見書
    後述する通り、従業員の復職意志と臨床的の適切性などを評価します。
  • ・復職願い
    従業員の復職意志を確認するために必要になります。復帰可否を判断する際には、「従来と同様に働くことができる」という意思表示が大前提です。
  • ・復職支援プラン
    復帰した後に職場で行う仕事内容や就業上の制限内容などについての計画。医療的な配慮だけでなく、職場として対応可能であることも重要です。
  • 復職後に必要となる書類
    • ・復職後状況記録
      職場復帰後に期待されている仕事が十分にできているか、再悪化の徴候が無いかなどの状況を記録するための書類です。

これらの中でも、事業者として注意が必要なのが主治医の診断書および産業医の意見書です。

主治医の診断書は、従業員が休職を希望する際や復職を検討する際に提出される書類で、従業員の健康状態や病状を元に、休職や復職の適切性について記載されています。主治医は、従業員の病状や治療経過を診断し、適切と考えられる判断を診断書に記載します。この診断書をもとに、事業者は従業員の休職申請や復職の適切性を判断し、休職期間中の対策や手続きを行います。この際、主治医は「業務が問題ない体調かどうか 」ではなく、「日常生活が円滑に行えるかどうか」という観点で判断を行う事が多い点に注意が必要です。

産業医の意見書も、従業員が休職・復職を希望する際に提出される書類ですが、従業員の健康状態と職場環境の適合性について評価しています。産業医は、従業員と面談などを通じて、職場環境や従業員の症状、適応能力に関する情報を収集し、その結果を意見書にまとめます。復職時、事業者は産業医の意見書を参考に、適切な復帰条件や配慮事項を検討します。また、産業医は主治医とは異なり「業務に問題がない体調かどうか」という観点で意見書を作成しています。

このように、主治医の診断書と産業医の意見書のいずれも、休職・復職対応において重要な役割を果たします。ただし、これらはそれぞれ別の観点から専門性を用いて記載された書類であることに注意が必要です。事業者はこれらの情報をもとに、従業員に適切なサポートを提供し、職場環境を整えることで、従業員の健康状態の改善や復職成功率を高めることができます。

【関連記事】:【人事担当者必見】休職に必要な手続きと対策とは?うつ病時の手当から復職対応まで

もし、主治医と産業医の意見に相違があったら

もし、主治医と産業医の意見に相違がある場合、どうすればよいでしょうか。

基本的な考え方としては、安全配慮義務の観点から、従業員の健康と安全を最優先に考慮し、安全側に寄った対応をとることが必要です。例えば、休職時判断において、いずれか一方でも「要休職」との意見であれば、休ませるべきですし、復職時判断において、いずれか一方でも「療養継続」との意見であれば、復職は延期させるべきです。これは、従業員の健康状態を悪化させるリスクを回避するためであり、従業員の長期的な健康と職場復帰をサポートする観点からも重要です。

しかし、最終的な復職の判断は事業者が行うものであり、主治医と産業医の意見はあくまで参考資料の一つです。主治医・産業医両者の意見を慎重に比較検討し、従業員の健康状態や職場環境、業務内容を総合的に考慮した上で、最適な対応を決定する必要があります。

また、主治医と産業医の意見に相違がある場合でも、両者と密に連携が必要です。個人情報保護に留意しながらも、従業員の健康状態や職場環境に関する情報を双方の医師と共有することで主治医と産業医の意見をすり合わせできることもあります。これにより、事業者は従業員により適切なサポートを提供し、安全で健康的な職場環境を整備することができます。

産業医と主治医の役割を理解して、従業員健康管理を効果的に

「産業医は診断できない」と聞くと、ギョッとするかも知れませんが、本稿で説明したとおり、主治医とは役割が違うため、診断や治療を行っていません。前提として、主治医と産業医の役割の違いを理解したうえでコミュニケーションを取ることが重要です。例えば、休職~復職対応の流れにおいて、主治医の診断書と産業医の意見書は重要な役割を果たします。主治医の診断書は健康状態の評価であり、産業医の意見書は従業員の健康状態と職場環境の適合性の評価です。

もし、主治医と産業医の意見に相違がある場合であっても、最終的な復職判断は事業主が行う必要があります。安全配慮義務の観点から事業者は従業員の健康と安全を最優先に考慮し、基本的に安全側に寄った対応を優先すべきです。

事業場では、この主治医と産業医の役割の違いを念頭に置いて、情報を活用し、従業員の健康管理や職場環境の改善に努め、従業員の健康状態の改善や復職の支援を行ってください。

三橋 利晴 (みつはし としはる)

産業医・労働衛生コンサルタント

岡山大学にて産業衛生・疫学・予防医学の実務や研究を行う。 平行して2008年からは嘱託産業医として様々な業種の事業所を担当。 大学病院では疫学や研究倫理の観点から院内の臨床研究支援を行う。

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