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「休職を繰り返す従業員がいる。産業医面談の結果を踏まえて、解雇(クビ)や退職勧奨はできないだろうか…」
人事労務担当者として、従業員の健康問題と労務管理の板挟みになり、このように悩んだ経験をお持ちの方も少なくないでしょう。
しかし、結論から申し上げると、産業医面談を直接の理由として従業員を解雇(クビ)することは、原則として不当解雇にあたり、極めて高い法的リスクを伴います。
この記事では、なぜ産業医面談でクビにできないのかという法的根拠から、人事担当者が取るべき適切な対応フロー、そして産業医面談の本来の目的と正しい活用法まで、分かりやすく解説します。安易な判断で重大な労務トラブルに発展させないためにも、ぜひ最後までご覧ください。
目次
まず最も重要な結論として、「産業医が復職困難と判断した」「本人に改善が見られない」といった産業医面談での所見を直接の理由として、企業が一方的に従業員を解雇(クビ)することはできません。
もしこれを行ってしまうと、従業員から「不当解雇」として労働審判や訴訟を起こされる可能性が非常に高くなります。
その理由は、産業医の法的な位置づけと役割にあります。次章で詳しく見ていきましょう。
人事担当者として、産業医の役割を正しく理解しておくことは、適切な労務管理の第一歩です。
産業医は、企業の味方でも、従業員の味方でもありません。事業者と労働者の中立的な立場から、専門的な知見に基づき、労働者の健康管理等について指導・助言を行う医師です。
会社の依頼を受けて、従業員に退職を促すような「退職勧奨」を行うことは、産業医の職務として全く想定されていません。
産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条第1項で具体的に定められています。
ご覧の通り、この中に従業員の雇用契約の終了(解雇・退職)に関わる項目は一切含まれていません。
産業医の「勧告権」は会社に対するもので、退職勧奨ではない
産業医には強い権限として「勧告権」(労働安全衛生法第13条第5項)があります。これは、労働者の健康を守るために必要がある場合に、事業者(会社)に対して健康管理上の措置などを「勧告」できる権利です。
(要約)産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。事業者は、その勧告を尊重しなければならない。
※出典
労働安全衛生法 第13条 第5項
この勧告権は、あくまで事業者(会社)に向けられたものです。従業員に対して退職を勧めるために使われるものではないことを明確に理解しておく必要があります。
ここでは、「クビ」の問題と関連して人事が抱きやすい産業医面談に関する疑問について、Q&A形式で解説します。
A. 申し出ベースの面談は拒否できますが、安全配慮義務に基づき「業務命令」として実施できる場合があります。
従業員からの相談や、高ストレス者への面談推奨など、本人の申し出を基本とする面談は強制できません。
しかし、長時間労働や健康診断の結果など、客観的な事実から著しい健康悪化が懸念され、放置すれば会社の「安全配慮義務」違反に問われる可能性がある場合は、業務命令として面談を命じることが可能です。正当な理由なく拒否が続く場合は、懲戒処分の対象となり得ます。ただし、命令に至るまでには慎重なプロセスが必要です。
A. 原則として同席はできません。ただし、本人の明確な同意があれば可能です。
産業医面談は、従業員が安心して心身の悩みを話せる場であることが大前提です。上司や人事が同席すると、従業員が萎縮してしまい、正直に話せなくなる恐れがあります。そのため、本人が明確に同席を希望し、同意した場合を除き、同席は避けるべきです。
A. まずは主治医の診断書を提出してもらい、その上で産業医面談を実施するのが一般的な流れです。
従業員が「休職したい」と希望しても、即座に休職が決定するわけではありません。
休職中の給料については、会社の就業規則の定めに従います。多くの場合、無給となりますが、傷病手当金の申請をサポートする必要があります。
A. 産業医には厳格な守秘義務があります。本人の同意なく、病名やプライベートな相談内容が会社に報告されることはありません。
産業医から会社へ報告されるのは、就業を継続できるか、どのような配慮が必要かといった「就業上の措置」に関する意見が中心です。例えば、「時間外労働の制限が必要」「在宅勤務への切り替えが望ましい」といった内容です。従業員が安心して面談を受けられるよう、この守秘義務について人事から事前に説明しておくことが重要です。
産業医の役割を無視し、面談を退職への布石として利用しようとすると、企業は3つの重大なリスクを負うことになります。
前述の通り、産業医の意見のみを根拠とした解雇は、客観的合理性と社会的相当性を欠く「不当解雇」と判断される可能性が極めて高いです。解雇が無効とされれば、バックペイ(解雇期間中の賃金支払い)や慰謝料の支払いを命じられるリスクがあります。
「産業医もこう言っているから、辞めた方がいいのでは?」といった形で退職を促すことは「退職勧奨」にあたります。退職勧奨自体は違法ではありませんが、従業員の自由な意思決定を妨げるような執拗な勧奨や、心理的圧力をかける行為は、違法な権利侵害(パワーハラスメント)と見なされ、損害賠償の対象となります。
なお、従業員が退職勧奨に応じて退職した場合でも、雇用保険上は「会社都合退職」となり、自己都合退職扱いにはなりません。
不適切な対応が原因で訴訟などのトラブルが起きれば、企業の社会的信用は大きく損なわれます。また、社内で「あの会社は、病気になるとクビにされる」といった噂が広まれば、他の従業員のエンゲージメントや士気の低下を招き、人材の流出にも繋がりかねません。
では、休職後も回復が見られず、客観的に見て復職が困難と思われる従業員に対して、人事はどのように対応すればよいのでしょうか。焦らず、以下のステップを慎重に踏むことが重要です。
まずは、主治医の「復職可」の診断書が出た後、産業医面談を設定します。産業医は、主治医の意見に加え、会社の業務内容を理解した上で、「試し出勤(リハビリ出勤)は可能か」「どの程度の業務なら遂行可能か」といった、より具体的な復職可否の意見を会社に提出します。
産業医の意見を踏まえ、本人と面談します。元の職場への復帰が難しい場合でも、異動や配置転換、時短勤務、業務内容の軽減など、会社として可能な限りの配慮(就業上の措置)を検討し、提案します。このプロセスを真摯に行うことが、後のトラブルを防ぐ上で極めて重要です。
多くの企業の就業規則には、「休職期間が満了してもなお、業務に復帰できない場合は、自然退職(または自動退職)とする」という規定があります。STEP2の配慮を尽くしてもなお復職が不可能な場合は、この規定に従って雇用契約が終了することになります。これは解雇とは異なる手続きです。
就業規則に休職期間満了による退職の定めがない場合や、その他のケースで、どうしても雇用契約を終了せざるを得ない場合、「普通解雇」を検討することになります。
ただし、この解雇が有効と認められるには、「客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当である」ことが厳格に求められます(労働契約法第16条)。具体的には、「心身の故障により、労働契約の本旨に従った労務の提供が全くできない状態」であり、かつ「配置転換など解雇を回避するための努力を尽くした」という客観的な事実が必要です。ハードルは非常に高いと認識してください。
本記事で解説した通り、産業医面談を理由に従業員をクビ(解雇)にすることはできません。
人事労務担当者としては、問題のある従業員への対応に苦慮する場面もあるかと存じます。しかし、安易に解雇や退職勧奨に踏み切ることは、企業にとって計り知れないリスクを伴います。
重要なのは、産業医を「従業員を排除するための手段」としてではなく、「従業員の健康を守り、職場環境を改善するためのパートナー」として捉え、正しく連携することです。
休職・復職に関する問題は、主治医、産業医、そして本人と丁寧にコミュニケーションを取りながら、就業規則や法に則って慎重に進めることが、結果的に企業と従業員の双方にとって最善の解決策となります。
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