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【チェックリスト付き】産業医の職場巡視ガイド|義務は?2ヶ月に1回でいい?オンライン対応できる?

産業医による職場巡視は、労働安全衛生法で定められた企業の義務ですが、その本当の価値は単なる法令遵守にとどまりません。適切に実施することで、職場の潜在的なリスクを早期に発見し、従業員が安全で健康に働ける環境を構築するための重要な機会となります。

しかし、人事労務担当者の皆様からは、「巡視の頻度は本当に月1回必要なのか?」「リモートワークの従業員はどうすれば?」「チェックリストはこれで十分だろうか?」といった、運用上の疑問や不安の声をよくお伺いします。

本記事では、こうしたお悩みを解決するため、産業医の職場巡視に関することを網羅的に解説します。

  • 法的根拠と巡視の本来の目的
  • 「月1回」の原則と「2ヶ月に1回」に変更するための具体的な条件
  • 準備から改善まで、実務に沿った巡視の進め方(PDCA)
  • すぐに使える詳細なチェックリスト
  • リモートワーク環境下での正しい対応方法

また、衛生管理者の職場巡視については別記事でご紹介しています。あわせてご覧ください。

産業医による職場巡視の法的根拠と目的

産業医の職場巡視は、なぜ実施しなければならないのでしょうか。まずは、その法的根拠と、巡視が果たすべき本質的な目的について正しく理解することが、効果的な運用への第一歩です。

職場巡視は法律で定められた企業の義務

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任し、職場巡視を実施することが法律で義務付けられています。この義務は、「労働安全衛生法」および、その詳細を定めた「労働安全衛生規則 第15条」に基づいています。

【出典】e-GOV 法令検索 「労働安全衛生規則」

この規定は、企業が従業員の安全と健康に配慮する「安全配慮義務」を果たすための、具体的かつ基本的な手段の一つと位置づけられています。したがって、巡視を怠ることは、単なる規則違反ではなく、企業のガバナンス上の問題であり、万が一労働災害が発生した際には、企業の責任が厳しく問われる可能性があります。

【関連記事】〈社労士解説〉安全配慮義務とは?企業が取り組むべき対策と違反基準・事例まとめ

職場巡視の3つの主要な目的

法律で定められているからという理由だけで形式的に巡視を行うのではなく、その目的を理解することで、より有意義な活動にすることができます。主な目的は以下の3つです。

  • 問題の早期発見と改善
    産業医が専門的な視点で職場を観察することにより、不適切な作業環境(例:照度不足、騒音)、有害な作業方法、衛生状態の問題などを客観的に評価します。これらを健康障害や労働災害が発生する前に発見し、改善につなげることが最大の目的です。
  • 労働安全衛生水準の向上
    巡視は、単に問題点を見つけるだけでなく、産業医からの専門的な助言を通じて、職場全体の安全衛生に関する意識と水準を継続的に向上させるための機会です。衛生委員会での審議と連携することで、より効果的な改善策を講じることができます。
  • 産業医と従業員の信頼関係構築
    産業医が定期的に職場を訪れることで、従業員にとって産業医が「身近な存在」となります。普段、産業医と接する機会のない従業員も、巡視の場で顔を合わせることで、健康に関する相談をしやすくなります。これは、メンタルヘルス不調の早期発見や、健康診断後のフォローアップなどを円滑に進める上で、非常に重要な効果をもたらします。

職場巡視の頻度:「月1回」の原則と「2ヶ月に1回」の例外

職場巡視の頻度については、多くの担当者様が悩まれるポイントです。ここでは、法律で定められた原則と、2017年の法改正で設けられた例外規定について解説します。

原則は「毎月1回以上」

労働安全衛生規則 第15条において、産業医による職場巡視は「少なくとも毎月一回」実施することが原則として定められています。これは、職場の状況を定点観測し、変化や新たなリスクを迅速に把握するための基本的な頻度です。

【2017年法改正】「2ヶ月に1回」が認められる2つの条件

2017年の労働安全衛生規則の改正により、一定の条件を満たすことで、産業医の職場巡視の頻度を「少なくとも2ヶ月に1回」に変更することが可能になりました。

【参考】厚生労働省「産業医制度に係る見直しについて」

法改正の背景には、過重労働の防止やメンタルヘルス対策などの重要性が増していることがあります。より効果的な対応を期して、産業医が柔軟に動けるようにしたのです。
実際、産業保健担当者もおよそ4人に1人が職場巡視を「産業保健業務で特に多くの時間を占めている」としており、職場巡視の効果的・効率的な運用が求められています(エムスリーキャリア調べ)。

多くの時間を占めている産業保健業務TOP10で職場巡視は上位

つまりこの法改正は、産業医による職場巡視の頻度を減らす代わりに、過重労働やメンタルヘルス対策の強化に時間を割くことを目指したものといえます。

【参考】厚生労働省「産業医制度の在り方に関する検討会報告書」

頻度を変更するためには、以下の2つの条件を両方満たす必要があります。

  • 事業者から産業医への、所定の情報の毎月提供
    事業者は、産業医に対して、定められた情報を毎月1回以上提供しなければなりません。これにより、産業医は事業場を直接訪問せずとも、職場の健康リスクに関する重要な情報を継続的に把握できます。
  • 事業者の同意
    頻度の変更には、事業者の同意が必要です。この同意は、事業者が一方的に決定するものではなく、産業医の意見に基づき、衛生委員会等で調査審議を行った上で得られる必要があります。産業医の専門的判断と、労使双方の代表者で構成される衛生委員会の審議を経ることが、適切な運用を担保するために不可欠です。

産業医へ毎月提供が必要な情報とは?

頻度を「2ヶ月に1回」に変更する場合、事業者が産業医へ毎月提供しなければならない情報は、具体的に以下の通りです。これらの情報を漏れなく、かつ継続的に提供できる体制が整っているかどうかが、頻度変更の可否を判断する上で重要なポイントとなります。

【参考】厚生労働省「産業医制度に係る見直しについて労働安全衛生規則等が改正されました」

情報区分 具体的な内容 根拠/補足
1. 衛生管理者の巡視結果 衛生管理者(またはそれに準ずる者)が少なくとも週1回実施した職場巡視の結果。具体的には以下の情報を含みます。
・巡視担当者の氏名、日時、場所
・設備、作業方法、衛生状態に有害のおそれがあると判断した場合の、その内容と講じた措置
・その他、労働衛生対策の推進に参考となる事項
労働安全衛生規則 第15条 第1項 第1号
2. 長時間労働者に関する情報 休憩時間を除き、1週間あたり40時間を超える労働が1ヶ月あたり100時間を超えた労働者の氏名および、その労働者にかかる超過時間に関する情報。 労働安全衛生規則 第52条の2 第1項の規定に基づき提供が義務付けられている情報
3. その他衛生委員会で定めた情報 上記のほか、労働者の健康障害防止や健康保持のために必要として、衛生委員会等で調査審議の上で事業者が産業医に提供すると定めた情報。 労働安全衛生規則 第15条 第1項 第2号

頻度変更の注意点と罰則

職場巡視の頻度を2ヶ月に1回に変更した場合でも、その決定は永続的なものではありません。衛生委員会等において、定期的にその妥当性を見直す必要があります。例えば、「まずは半年間この頻度で運用し、問題がないか再度審議する」といった形が望ましいでしょう。

なお、事業主が産業医による職場巡視を実施しなかった場合は法令違反とみなされ、50万円以下の罰金に処される可能性があります。巡視を怠っていたことが原因で労働災害が発生した場合には、企業の安全配慮義務違反が問われ、民事上の損害賠償責任などに発展するリスクもあります。

職場巡視の進め方(PDCAサイクル)

職場巡視を形骸化させず、継続的な改善活動につなげるためには、計画(Plan)、実施(Do)、評価(Check)、改善(Act)のPDCAサイクルを意識した進め方が非常に有効です。

【参考】労働者健康安全機構「産業保健21 第80号」

Plan(計画):事前準備とチェックリストの作成

効果的な巡視は、入念な準備から始まります。

  • 日程調整と周知: 産業医、衛生管理者、現場の責任者と日程を調整し、関係部署へ事前に巡視の目的と日時を周知します。
  • 情報共有: 前回の巡視での指摘事項や、最近発生したヒヤリハット、従業員からの健康相談の傾向など、事前に産業医と情報を共有しておきます。
  • チェックリストの準備: 事業場の特性(オフィス、工場、店舗など)に合わせて、確認すべき項目を盛り込んだチェックリストを作成します。第4章で紹介するリストを参考に、自社用にカスタマイズしましょう。

Do(実施):巡視当日の流れとポイント

当日は、以下の流れで進めるのが一般的です。

  • キックオフミーティング: 巡視開始前に、参加者(産業医、衛生管理者、人事労務担当者、現場責任者など)で、本日の巡視ルートや重点確認項目について最終確認を行います。
  • 現場巡視: チェックリストに基づき、現場を巡回します。単に見て回るだけでなく、現場で働く従業員に声をかけ、作業の様子や困っていることなどをヒアリングすることも重要です。産業医の顔と名前を従業員に覚えてもらう絶好の機会と捉えましょう。
  • ラップアップミーティング: 巡視終了後、参加者で簡単な振り返りを行います。産業医から気づいた点や所見をその場で共有してもらいい、認識を合わせます。

Check(評価):職場巡視報告書の作成と保管

巡視で得られた所見や指摘事項は、必ず文書化して記録を残します。

  • 報告書の作成: 産業医に「職場巡視報告書」を作成してもらいます。報告書には、巡視日時、場所、参加者、指摘事項、改善に向けた意見などを具体的に記載します。
  • 記録の保管: 法律上、職場巡視報告書自体の保管義務期間は明確に定められていません。しかし、巡視を実施した証拠として、また改善の進捗を追跡するために、保管することが強く推奨されます。参考として、衛生委員会の議事録(3年間)健康診断個人票(5年間)の保管期間に合わせて管理するのが一般的です。

【参考】e-GOV法令「労働安全衛生規則」

Act(改善):衛生委員会での審議と改善措置

巡視は、報告書を作成して終わりではありません。改善につなげて初めて完結します。

  • 衛生委員会への報告: 産業医から提出された報告書は、衛生委員会の議題として正式に報告・審議します。
  • 改善計画の策定と実行: 指摘事項に対して、誰が、いつまでに、何を行うのか、具体的な改善計画を策定し、実行に移します。改善の進捗状況は、次回の衛生委員会で報告し、PDCAサイクルを回していきます。

【チェックリスト付】産業医が確認する具体的なポイント

ここでは、さまざまな事業場を想定した、実践的なチェックリスト例をご紹介します。以下からダウンロードできる資料には、オフィス仕様、工場や倉庫など作業場仕様、衛生管理者用など、合計5種のチェックリスト例をご用意しました。これをベースに、自社の実態に合わせて項目を追加・修正してご活用ください。

【関連資料】職場巡視チェックシート

現代の課題:リモートワークとオンラインでの対応

テレワークの普及以降、「在宅勤務者に対する職場巡視はどうすればよいのか」というご相談も見られるようになりました。ここでは、オンラインでの対応の可否について、厚生労働省の見解に基づき解説します。

【重要】職場巡視はオンラインでは実施できない

結論から申し上げると、産業医による職場巡視を、ビデオ通話などの情報通信機器を用いてオンラインで実施することは認められていません

【参考】厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」

その理由は、職場巡視が、視覚や聴覚から得られる情報だけでなく、室温や湿度、臭いといった、その場に行かなければ分からない五感を使った総合的な環境評価を必要とするためです。万が一、有害な状況を発見した場合に、その場で迅速な措置を講じる必要性からも、実地での確認が原則とされています。

現時点では、在宅勤務を行う個人の自宅まで産業医が訪問して巡視を行うことは現実的ではなく、法的な義務もありません。しかし、企業には在宅勤務者に対しても安全配慮義務があるため、セルフチェックリストの配布や、VDT作業に関する情報提供など、別の形でのケアが求められます。

巡視と面談の違い:オンラインで可能な産業医業務

ここで重要なのは、「巡視」と「面談」を明確に区別することです。職場巡視はオンラインで実施できませんが、長時間労働者や高ストレス者に対する産業医による面接指導(面談)は、一定の要件を満たせばオンラインで実施することが可能です。

【関連記事】産業保健活動、オンライン対応がOK、NGなものは?―今さら聞けない産業保健vol.4

オンラインで面談を実施するためには、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 映像と音声でのやり取り: 労働者の表情や様子が確認できる、ビデオ通話システムを使用すること。
  • プライバシーの確保: 第三者に会話が漏れない環境を、事業者と労働者の双方が確保すること。
  • 情報セキュリティの確保: 安全な通信環境を確保すること。
  • 緊急時対応体制の整備: 必要に応じて近隣の医療機関と連携できる体制を整えておくこと。
  • 衛生委員会での審議と周知: オンライン面談の導入について、事前に衛生委員会で審議し、従業員に周知しておくこと。

このように、産業医業務の中でもオンライン化できるものとできないものがあります。人事労務担当者はこの違いを正しく理解し、適切に運用することが重要です。

まとめ:職場巡視を「義務」から「価値ある活動」へ

本記事では、産業医の職場巡視について、法的根拠から具体的な進め方、現代的な課題までを網羅的に解説しました。

最後に、重要なポイントを振り返ります。

  • 法的義務と目的: 職場巡視は労働安全衛生規則第15条に基づく企業の義務であり、職場の問題点を早期発見し、安全衛生水準を向上させる目的を持ちます。
  • 頻度の原則と例外: 原則は「月1回」ですが、厳格な情報提供と衛生委員会の審議を条件に「2ヶ月に1回」への変更が可能です。
  • PDCAサイクルの実践: 計画・実施・評価・改善のサイクルを回すことで、巡視を形式的なイベントで終わらせず、継続的な職場改善につなげることができます。
  • 実地巡視の原則: リモートワークが普及する中でも、職場巡視はオンラインでは実施できず、実地での確認が必須です。一方で、面談はオンラインでの実施が可能です。

産業医の職場巡視は、決して「面倒なルーティン業務」ではありません。産業医や衛生管理者と連携し、本記事でご紹介した知識やチェックリストを活用することで、従業員の安全と健康を守り、ひいては企業の生産性向上にも貢献する、価値ある活動へと昇華させることができます。

まずは、自社の職場巡視の現状を見直し、より効果的な運用に向けた第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

産業医サービスを中心に健康経営ソリューションを提供

健康経営に関するお役立ち情報を発信する「健康経営コラム」編集部です。 産業医サービスを提供するエムスリーキャリア株式会社が運営しています。 全国34万人以上(日本の医師の約9割)が登録する医療情報サイト「m3.com」のデータベースを活用し、あらゆる産業保健課題を解決に導きます。 お困りの企業様はお問い合わせボタンよりご相談くださいませ。

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