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船員向け産業医とは、船員の健康を管理するための専門的な知識を兼ね備えた医師です。
近年、船員の健康状態が問題視されるようになり、2023年4月に船員向け産業医の選任が制度化されました。しかし、施行されてまだ日が浅いこともあり、内容を詳しく知らない方も多いでしょう。
本記事では、船員向け産業医の概要や、選任・制度の内容を解説します。
船員向け産業医とは、船員の健康管理において、専門家としてアドバイスや指導を行う医師を指します。
そもそも産業医とは、職場において従業員の安全や健康を守るために、企業に選任される医師を指します。臨床医と違い、基本的に産業医が診察行為をすることはありません。産業医の主な役割は職場において従業員の健康を保持・増進するための活動を行うことです。
船上は陸上と比べて職場と住居が接近しており、人間関係のストレスを抱えやすいうえに、産業医が巡視できる機会も限られています。産業医には、船員の状況を的確に把握するための観察力やコミュニケーション力も求められるでしょう。
【参考】国土交通省「船員向け産業医選任・活用マニュアル」
【関連記事】産業医とは? 企業での役割、仕事内容、病院の医師との違いを解説
船員向け産業医制度は、令和5年4月1日に施行された「船員法施行規則等の一部を改正する省令」に含まれています。
国土交通省は以下の状況を鑑み、船員向け産業医制度を設けました。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
以下において、これらの項目について詳しく説明します。
船員向け産業医の選任が必要とされるようになった背景として、船員に生活習慣病が多く見られることがあげられます。
2020年度に国土交通省が行った「船員災害疾病発生状況報告」では、船員の疾病全体のうち、生活習慣病である循環器系・消化器系・新生物の疾病が約45%を占めます。
また、病気による死亡者の割合のうち、生活習慣病と判定されるその他の心疾患・脳内出血・虚血性心疾患の割合は約9割にのぼる88%です。
【出典】国土交通省「船員災害疾病状況集計書(令和2年度)」、「船員の健康確保について」
船員の生活習慣病が多い背景として、船員は長期間を船上で過ごすため運動不足になりやすく、医師のサポートも受けにくいことが考えられます。
船員の健康状況として、メタボリックシンドロームの割合と喫煙率が高いことも問題視されています。
全国健康保険協会 船員保険部によると、各医療保険加入者におけるメタボリックシンドローム該当者の割合は、陸上労働者が約2割、船員は3割です。
喫煙率に関しても、陸上労働者の30%台前半で毎年推移しているのに対して船員は40%以上と、10ポイント以上も高くなっています。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
喫煙とメタボリックシンドロームはどちらも生活習慣病につながるおそれがあり、船員は健康リスクの高い生活を送っている状況です。
船員は高ストレス者の割合が高い職業であることも、産業医が必要とされている背景の一つです。
一般財団法人海技振興センターの調査によると、船員の高ストレス者の割合は全体の15.5%と、陸上労働者の平均値13.6%を上回っています。
ストレスの主な要因としては「気の合わない上長と乗船すること」「限られた人たちと職務や生活をともにすること」などが上位です。
【出典】国土交通省「船員のメンタルヘルスに関するアンケート調査結果報告書」
船上という狭い空間で生活するため、人間関係のストレスを抱える船員が多いと考えられます。
船上は特殊な環境であり、船員への労働負荷が高くなりやすい環境であることもあげられます。
船員特有の労働負荷として考えられるものは以下の通りです。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
船上は仕事とプライベートの区別が難しく、労働負荷がかかりやすい環境といえます。船員に健康的に長く働いてもらうためには、産業医による健康管理が欠かせません。
船員向け産業医の選任は、常時50人以上の船員を使用する船舶所有者に義務付けられています。
ここでいう「船員」には、常用で雇用されている船員だけでなく、期間雇用(臨時雇い)の船員も含まれるので注意が必要です。派遣船員の場合には、派遣先と派遣元の船舶所有者の両方が「船員」に含まれます。
該当する船舶所有者は産業医を選任し、医学的なサポートを継続して受けられるように環境を整備しなくてはなりません。
【参考】国土交通省「船員の健康確保について」
船舶所有者が、船員向け産業医制度において取り組まなくてはいけないことは次の5項目です。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
以下において、それぞれ詳しく説明します。
該当する船舶所有者は、産業医としての要件を満たす医師を選任しなくてはなりません。船員向け産業医に求められる要件は労働安全衛生法に定められており、陸上の産業医と共通です。
基本的に、選任すべき事由が発生してから14日以内に産業医を選任する必要があります。このため、船員が増えるなど選任が義務付けられる条件を満たす可能性が生じたら、余裕を持って選任の準備をしておくとよいでしょう。
産業医を選任した際には、報告書を地方運輸局長に提出する必要があります。
【参考】
厚生労働省「産業医の関係法令」
e-Gov法令検索「船員労働安全衛生規則」
船舶所有者は、選任した産業医の業務を船員に対して周知しなくてはなりません。他にも健康診断の申請方法、船員の健康情報の取扱い方法なども周知する必要があります。
とくに健康診断によって得られた情報の取扱いには、船員が不安を抱かないように利用目的や範囲を明確にしなくてはなりません。
産業医の業務内容は、見やすい場所に掲示する、船員に配布するなどして確実に周知しましょう。
【参考】e-Gov法令検索「船員労働安全衛生規則」
産業医が適切に労働環境を改善できるよう、船舶所有者は次の情報をすみやかに提供しなくてはなりません。
【出典】e-Gov法令検索「船員労働安全衛生規則」
以上は、産業医が船上の労働環境を把握し改善するために重要な情報です。船員は陸上労働者と比べて過度なストレスや労働負荷にさらされることが多いので、こまめな情報共有を心がけましょう。
産業医が労働環境を改善できるよう、船舶所有者は産業医に次の権限を与えなくてはなりません。
【出典】e-Gov法令検索「船員労働安全衛生規則」
また、船員の健康を確保する必要があるときには、産業医は船舶所有者や管理者に勧告・助言ができます。勧告や助言を理由に、船舶所有者は産業医に不利になるような扱いをしてはなりません。
産業医が船内の作業環境・衛生状態を具体的に把握するために、船舶所有者は船内巡視を実施する必要があります。具体的には次の2つを行います。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
産業医は巡視結果や報告を受けて助言や指導を行い、船舶所有者は助言・指導に応じて労働環境改善を実施します。複数の船舶を所有している場合は、改善結果を他船へ横展開することも重要です。
選任された船員向け産業医が行う業務や担う役割は、次の2つです。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
基本的には、陸上の産業医の役割・業務と大きくは変わりません。しかし船上という特殊な環境のため、安全衛生委員会と密に連携しながら健康管理を実施する必要があります。
船員向け産業医は、船員の健康管理として次の8つのことを行います。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
健康管理を実施するうえで必要と判断したときには、船舶所有者や衛生管理者などに助言・勧告・指導を行うこともあります。船舶所有者は、勧告などを行ったことで産業医を解任したり、不利益な取扱いをしたりしてはなりません。
船員向け産業医の選任義務が生じる船舶所有者は、同時に安全衛生委員会を設置しなくてはなりません。
安全衛生委員会は、船員の危険や健康障害を未然に対策する目的で活動します。産業医とも連携することが重要です。
具体的には、安全衛生委員会が産業医に情報提供を行ったり、産業医は必要に応じて安全衛生委員会に出席したりします。
また、船舶所有者は次のようなときに安全衛生委員会への報告が必要です。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
【関連記事】安全衛生委員会と衛生委員会とは? それぞれの役割と開催条件について
新しく船員向け産業医を探すにはいくつかの方法があります。
その中でも地域医師会や医師紹介会社に依頼して紹介してもらうパターンが主な探し方になるでしょう。詳しくは関連記事をご覧ください。
【関連記事】【まとめ】産業医の探し方 紹介を受けられる5つの相談先と選び方のポイント
船員向け産業医の選任以外にも、船舶所有者が取り組むべきことは次の3つです。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
産業医選任に合わせて対応を検討しましょう。
船舶所有者は、船員に対して健康検査を受けてもらい、その結果にもとづいた健康管理が求められます。
多くの船員が健康を損なう要因である生活習慣病を予防するためには、次のような健康状態を継続的に把握できる取り組みが欠かせません。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
以上の対応事項は、船員向け産業医制度・過重労働対策・メンタルヘルス対策と違って、すべての船舶所有者が対象です。令和5年4月の改正では、国際航海に従事する船員向けの検査と、騒音が激しい作業に従事する船員向けの聴力検査が追加されました。
船員の過重労働を対策するための取り組みも、常時50人以上の船員を使用する船舶所有者の義務となっています。
船員は長期間連続乗船することが多く、長時間労働によって疲労が蓄積され、脳・心臓の疾患リスクが高くなるおそれがあります。船舶所有者は船員の過重労働対策として、次のような対応を取らなくてはなりません。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
労働時間を正確に把握するためには、労務管理責任者と産業医の連携も欠かせません。
ストレスチェックの実施をはじめとするメンタルヘルス対策も、常時50人以上の船員を使用する船舶所有者の義務です。
船員は、船上という狭い空間で生活するために高いストレスを抱える人材が多くなる傾向にあります。船員のメンタル状態を正しく把握し対策するため、船舶所有者が取り組むことは次の通りです。
【出典】国土交通省「船員の健康確保について」
以上の取り組みによって、船員のメンタルヘルスの不調を把握し、早期対策する必要があります。
【関連記事】職場のメンタルヘルスケアとは? 企業が知っておくべき対策を徹底解説
船員向け産業医制度は、船員の次のような健康状況を考慮して令和5年4月に整備されました。
船員向け産業医の主な業務は、船内巡視や面接指導を通した船員の健康管理、安全衛生委員会との連携です。船舶所有者には産業医への必要な情報の提供、産業医の指導をもとに労働環境を改善するなどの取り組みが求められます。
職場に合った産業医を選任して、船員の健康確保に取り組みましょう。
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