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【2024年4月義務化】労働安全衛生法 保護具着用義務とは?SDSの確認事項、保護具の選び方

近年、化学物質による労働災害は後を絶ちません。特に皮膚への障害や、皮膚からの吸収による健康被害は深刻な問題となっています。このような背景を受け、労働者の安全と健康を守るため、労働安全衛生法が一部改正され、これまで努力義務であった保護具の着用が2024年4月から原則として義務化されました。

本稿では、企業の人事労務担当者の皆様に向けて、この重要な法改正のポイントを解説します。義務化の対象となる業務や保護具の種類、違反した場合の罰則、そして企業が今すぐ取り組むべき対策について、最新の情報と具体的な事例を交えながら詳細に解説します。

なぜ保護具の着用が義務化されたのか?

冒頭でも触れたように、化学物質による労働災害は依然として深刻な状況です。厚生労働省の発表によると、年間数百件の化学物質による労働災害が発生しており、その中でも皮膚障害は大きな割合を占めています。また近年では、皮膚刺激がないにもかかわらず、皮膚から吸収された化学物質が原因でがんを発症した疑いのある事例も報告されています。
このような状況を踏まえ、労働者の健康障害を未然に防ぐためには、これまで以上に確実な対策を講じる必要性が高まりました。その一環として、労働安全衛生法が改正され、一定の有害な化学物質を取り扱う業務における保護具の着用が、事業者の義務として明確化されたのです。

義務化の対象となる業務とは?

今回の法改正により、保護具の着用が義務付けられるのは、以下のいずれかに該当する業務に従事する労働者です。

  1. 皮膚または眼に障害を与える物を取り扱う業務
  2. 有害物が皮膚から吸収され、もしくは侵入して、健康障害もしくは感染をおこすおそれのある業務
  3. 皮膚等障害化学物質等(皮膚もしくは眼に障害を与えるおそれまたは皮膚から吸収され、もしくは皮膚に侵入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかな化学物質または化学物質を含有する製剤)を製造し、または取り扱う業務(法令で保護具の使用が義務付けられている業務、および皮膚等障害化学物質等を密閉して製造・取り扱う業務を除く)

これらの業務に該当するかどうかは、取り扱う化学物質等の安全データシート(SDS)を確認することが重要です。

SDSで確認すべき危険有害性の項目

義務化の対象となる「皮膚等障害化学物質等」に該当するかどうかを判断するためには、SDSの「2. 危険有害性の要約」の項目を確認します。特に以下の3つの項目のいずれかが区分1に該当する場合、その物質は健康被害を起こすおそれのあることが明らかな物質と判断され、取り扱う際には適切な保護具の着用が義務付けられます。

  • 皮膚腐食性・刺激性
  • 眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性
  • 呼吸器感作性または皮膚感作性

もし、これらの項目のいずれかが区分1に該当する化学物質を取り扱っている場合、関連する全ての労働者が保護具着用の義務対象となります。例えば、漂白剤や一部の洗剤に含まれる次亜塩素酸ナトリウムや水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなども該当する可能性があるため、飲食店の厨房や清掃業務など、幅広い業種で注意が必要です。

保護具の種類と選び方

労働安全衛生法第594条の2では、事業者は対象となる業務に従事する労働者に「不浸透性の保護衣、保護手袋、履物または保護眼鏡等適切な保護具」を使用させなければならないと定められています。
ここでは、それぞれの保護具の種類と選び方のポイントについて解説します。

保護手袋

化学物質を取り扱う作業においては、適切な化学防護手袋の着用が不可欠です。化学防護手袋は、酸、アルカリ、有機溶剤など、様々な化学物質の透過や浸透を防ぐことを目的として設計されています。
手袋を選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。

  • JIS規格適合品であること: JIS T 8116に適合した製品は、一定の品質と性能が保証されています。
  • 取り扱う化学物質の種類と濃度: SDSを確認し、適切な耐性を持つ素材の手袋を選定する必要があります。
  • 作業内容: 細かい作業が必要な場合は、薄手で柔軟性のある手袋を、耐久性が求められる作業には厚手の手袋を選ぶなど、作業内容に適した形状と素材を選ぶことが重要です。
  • サイズ: 作業者の手にフィットするサイズを選ぶことで、作業性と安全性を両立できます。

保護衣

皮膚への化学物質の付着を防ぐためには、適切な保護衣の着用が重要です。保護衣には、全身を覆う気密服や、部分的に保護するエプロンタイプなど、様々な種類があります。
保護衣を選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。

  • JIS規格適合品であること: JIS T 8115に適合した製品は、一定の品質と性能が保証されています。
  • 取り扱う化学物質の種類と濃度: SDSを確認し、適切な耐性を持つ素材の保護衣を選定する必要があります。
  • 作業範囲: 化学物質を取り扱う範囲に合わせて、適切な種類の保護衣を選ぶ必要があります。
  • 快適性: 長時間着用する場合もあるため、通気性や動きやすさも考慮する必要があります。

保護眼鏡

眼は化学物質による損傷を受けやすい部位です。液体や粉末状の化学物質が飛散する可能性がある作業においては、適切な保護眼鏡の着用が不可欠です。保護眼鏡には、正面からの飛沫を防ぐタイプ、側面からの飛沫も防ぐタイプ、ゴーグルタイプなどがあります。
保護眼鏡を選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。

  • 作業内容: 飛沫の方向や量に合わせて、適切な形状の保護眼鏡を選ぶ必要があります。
  • 密着性: 眼と保護眼鏡の間に隙間がないように、顔にフィットするサイズを選ぶことが重要です。
  • 耐薬品性: 取り扱う化学物質に対して耐性のある素材を選ぶ必要があります。
  • 視認性: クリアな視界を確保できる製品を選ぶことが、安全な作業につながります。眼鏡の上から着用できるタイプも存在します。

履物

足への化学物質の付着や侵入を防ぐためには、適切な保護履物の着用が必要です。耐薬品性の素材で作られた安全靴や長靴などが該当します。
履物を選ぶ際には、以下の点に注意が必要です。

  • 耐薬品性: 取り扱う化学物質に対して耐性のある素材を選ぶ必要があります。
  • 滑り止め: 作業場の状況に合わせて、滑りにくい靴底の製品を選ぶことが重要です。
  • 安全性: つま先に保護機能がある安全靴を選ぶことで、落下物などによる足の負傷を防ぐことができます。

保護具の管理と教育

保護具の着用義務を遵守するだけでなく、労働者が安全かつ効果的に保護具を使用するためには、適切な管理と教育が不可欠です。

  • 適切な保護具の選定と購入: 作業内容と取り扱う化学物質に適した保護具を選定し、必要な数量を確保する必要があります。
  • 保護具の点検と保守: 使用前に保護具に破損や劣化がないか点検し、定期的にメンテナンスを行うことが重要です。破損した保護具は速やかに交換する必要があります。
  • 保護具の正しい着用方法の指導: 労働者に対して、保護具の正しい着用方法、取り扱い方法、保管方法などを教育する必要があります。
  • 保護具着用の徹底: 保護具着用をルール化し、作業中に必ず着用するよう徹底する必要があります。管理者は、着用状況を নিয়মিতに確認し、指導を行うことが重要です。

違反した場合の罰則

労働安全衛生法では、保護具の着用義務に違反した場合、事業者に対して罰則が科される可能性があります。具体的には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される場合があります。
罰則を受けるだけでなく、労働災害が発生した場合の社会的信用失墜や損害賠償責任なども考慮すると、保護具の着用義務の遵守は企業にとって非常に重要な責務と言えます。

人事労務担当者が今すぐ取り組むべきこと

今回の労働安全衛生法改正を踏まえ、企業の人事労務担当者は以下の点に今すぐ取り組む必要があります。

  1. SDSの確認と対象業務の特定: 自社で使用・製造している全ての化学物質等のSDSを確認し、保護具の着用が義務付けられる業務を特定します。
  2. 適切な保護具の選定と導入: 特定された業務に必要な保護具の種類、規格、サイズなどを検討し、適切な製品を選定・購入します。必要に応じて、専門業者に相談することも有効です。
  3. 保護具の管理体制の構築: 保護具の保管場所、点検方法、交換時期などを明確にした管理体制を構築します。
  4. 労働者への教育・訓練の実施: 保護具の正しい着用方法、取り扱い方法、重要性などを労働者に対して教育・訓練します。定期的な再教育も検討しましょう。
  5. 保護具着用のルール化と周知: 保護具の着用を就業規則や作業手順書に明記し、全労働者に周知徹底します。
  6. 作業環境の点検と改善: 保護具の着用だけでなく、化学物質の漏洩防止対策や換気設備の整備など、より安全な作業環境の構築も検討します。
  7. 記録の作成と保管: 保護具の選定理由、教育・訓練の実施記録、点検記録などを適切に作成し、保管します。

まとめ

2024年4月からの労働安全衛生法改正による保護具着用義務化は、労働者の安全と健康を守るための重要な一歩です。人事労務担当者の皆様は、本稿で解説した内容をしっかりと理解し、法令遵守に向けた適切な対応を迅速に進めてください。
保護具の適切な導入と運用は、労働災害の防止だけでなく、企業の安全文化の醸成にもつながります。労働者が安心して働ける環境づくりを目指し、積極的に取り組んでいきましょう。

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