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健康経営への注目が高まっている昨今、独自の健康づくりに取り組みたいと希望する企業が増加しています。その一方で、何から始めたらよいのか分からないと頭を抱える経営者や担当者も多いのではないでしょうか。
職場の健康づくりに専門的な立場から助言し、企業価値を高めるパートナーとなるのが産業医です。榊原産業医パートナーズ株式会社代表であり、産業医・精神科医の榊原亙先生が健康づくりのポイントを解説します。
桃から生まれた赤ん坊が成長を遂げ、旅の中で出会った仲間とともに鬼退治を果たすのでした。めでたし、めでたし―。
誰もが1度は聞いたことのある昔話、『桃太郎』のあらすじです。その一連のストーリーは、成長フェーズを経て発展していく組織の姿と重なります。
組織の健康づくりで基本となるのは、法令を遵守することに他なりません。これに加え、組織の成長に合わせて戦略的に健康づくりを行うことがポイントとなります。本記事では、筆者が産業医として実施している取り組みの一部を、現代版『桃太郎』とともに紹介します。
組織が成長する中で現れてくる「健康問題あるある」に対し、「もしも自分が組織のトップなら、健康づくりをどう進めていくべきか?」と想像しながらお読みいただけたらと思います。それでは、創業期・成長期・成熟期における望ましい健康づくりを見ていきましょう。
「よし、きびだんごをみんなへ届けて元気になってもらおう」
桃太郎は、自分の想いに共感してくれたイヌ・サル・キジとともに会社を起こすことにしました。
創業メンバーはそれぞれよく働き、「栄養食品きびだんご」の製造から販売まで一貫して行う体制を作り上げました。
桃太郎による会社経営は順風満帆に見えたのでした。
組織の創業期には使命感に燃えたメンバーが集うため、残業もいとわず働くのが当然、という雰囲気になりやすいと言えます。特に年齢の若い人であれば、多少忙しくとも無理がきいてしまいます。しかし、この頃に組織の健康づくりを怠ると、後々問題が多発してしまうかもしれません。
この時期、組織はどのような対策をとるのが良いのでしょうか?
問題を早期解決する、または予防する「仕組み」を作ること。これが、組織の健康づくりにおける重要なポイントとなります。その仕組みを支える土台づくりのために、まずは産業医へ相談しやすい環境の整備から始めましょう。
組織の健康づくりは最初が肝心です。経営者や担当者は産業医とじっくり話し合い、方向性や優先順位を決めていきましょう。その際に法令上のマストな内容とベターな内容(マストではないが実施が望ましい内容)をそれぞれ洗い出し、どのように進めていくのか検討しておきます。これらを組織全体で共有することにより、健康づくりを進めやすくなります。
健康づくりに関する情報は、社内へ向けて積極的に発信しましょう。まずは運動・睡眠・食事などの身近なテーマを、実践しやすい内容まで落とし込んで伝えます。こうすることで関心を持ってもらいやすくなり、次第に試してくれる人が増えていきます。健康づくりは特定の人だけが行うものではありません。誰もが実践できるよう、カジュアルに啓発していくことが重要です。
相談しやすい環境を整えるにあたり、産業医の顔や人となりを知ってもらうように工夫するとスムーズに進みます。とは言っても、堅苦しいものではありません。まずは社内のコミュニケーションツールやイベントを通して、社員が産業医と気軽にやり取りできる機会を増やしてみてはいかがでしょうか。密なコミュニケーションは、産業医が社員の体調変化や職場環境の変化に気づくきっかけとなります。
組織が成長期に入ると、経営者が社員一人ひとりに目を配ることは難しくなっていきます。その結果、業務負荷の程度・人間関係の複雑さ・個人のストレス耐性などの要因が絡み合い、メンタル不調をはじめとする健康問題が徐々に顕在化します。
この時期、どのような対策をとるのが望ましいでしょうか?
ポイントは、集団・個人双方への積極的なアプローチによって、健康づくりの仕組みそのものを整えていくことにあります。創業期に固めた土台の上へ、確かな仕組みを作り上げましょう。
不調者へのケアにばらつきが出ないよう、対応手順の標準化を図ります。その際は活用できる社内外のリソースを検討し、「誰が(Who)」「いつ(When)」「何を(What)」「どのように(How)」対応するのかを明確にします。特にメンタル不調者の休職・復職フローは早めに整えたい内容です。
集団アプローチの1つに、対象となる集団によってカスタマイズした健康教育があります。成長期に増え始めるメンタル不調者対策の第一歩としては、新入社員へのセルフケア研修や管理職へのラインケア研修がお勧めです。また、人事労務担当者への休職・復職者対応研修もニーズの高いテーマです。これらの研修では、典型的な事例を提示してディスカッションしながら行うと実践的な対応力が身につきます。
個人の健康相談・勤怠状況・健康診断結果などの情報を基に、個別アプローチを要する対象者には産業医面談を行います。面談の目的は、状況確認や本人への助言だけではありません。場合に応じて専門の対応窓口へつなぎ、本人が健康的に働けるよう関係者間の連携を調整することも重要となります。面談対象者を不安にさせることがないように、個人情報の取り扱いや面談の趣旨は事前に十分説明しておきましょう。
「有名企業の健康づくりを、うちにも取り入れてみよう」
思いつきで他社の事例を真似しては、結果が出ないからとすぐにやめてしまう桃太郎。
これでは労働環境はなかなか改善しません。
会社は成熟期に差しかかっていましたが、見切りをつけて辞めていく社員があとを絶ちませんでした。
ある日、忠実な性格で会社を支えてきたイヌが思い詰めた表情で切り出しました。
「桃太郎さん。体調不良者がどんどん増えています。会社対応への不満の声も強く、もう限界です」
別人のようにやつれたイヌの姿を目の当たりにした桃太郎は、ようやく思い至ります。
「そうか……。うちにはうちの健康づくりが必要だったんだね」
反省した桃太郎は、急いで探し当てた専門家とともに一から仕組みを作り始めるのでした。
残念ながら、組織の健康づくりに近道はありません。場当たり的な対応を繰り返しているようでは、継続的な効果は得られにくいでしょう。組織の現状に応じた仕組みを作り、改善を重ねることによってのみ独自の健康づくりが形作られていきます。
改善を重ねていく段階でのポイントは、次の3つです。
「2-1健康づくりのイメージ共有」で検討した内容を、一定期間ごとに振り返ります。実施できなかった項目には、どのような要因が考えられるでしょうか。実施済みの内容を可能な範囲で省力化して未実施の内容へリソースを再分配するなど、全体のバランス調整も検討しましょう。
チーム育成は「ゆるく」始めましょう。イメージとしては、部署を問わず健康へ関心の高い人が集まる社内サークルです。コミュニケーションツールで気軽にやり取りできるよう整備します。産業医はお薦めの書籍やサイトの紹介、事例検討や話題提供の形で積極的にサポートを行います。
「3-2 集団アプローチ」の研修との違いは、本人希望ベースでの集まりという点にあります。このようなグループではコミュニティが育ちやすく、健康づくりチームを育成する第一歩となります。
例えば、「2-2 積極的な情報発信」で生活習慣病予防のために運動を勧めたとします。運動の習慣がない人には、楽しく実践できる機会があると始めやすいものです。歩数チャレンジ(※)など、コロナ禍でも実施可能な健康づくりイベントは無数にあります。また社内からアイデアを募集し、参加型企画へ落とし込む過程そのものをイベント化すると、より一層健康への意識が高まります。
ぜひ柔軟な発想で組織の健康づくりに取り組んでいただけたらと思います。
※ 歩数チャレンジ:各自が万歩計やスマホで計測した歩数を持ち寄って順位を競う、健康づくりイベント
のびのびと働く社員の発案できびだんごのレシピ動画を公開したところ、SNSで人気が加速。
栄養価の高い食材としての地位を確立し、ふもとの村どころか国中の人々の健康状態が大幅に改善されました。
桃太郎たちの想いはついに実を結び、みんなが健康で幸せに暮らしましたとさ。
昔話『桃太郎』の物語は、仲間とともに鬼退治を果たし、おじいさんおばあさんへ財宝を持ち帰ったところで幕引きとなります。
一方で、組織の成長物語においてはいかがでしょう。組織によって目指す「めでたしめでたし」の形が異なります。しかし、組織の健康問題の構造と対策には共通する型があることをイメージしていただけたのではないでしょうか。
組織の「これまで」と「今」をたびたび見つめ直し、計画性をもって健康づくりを進めることが、組織に関わる人たち全ての「めでたしめでたし」を形作っていく。
私はそのように考えております。
本記事が、組織の健康づくりに悩む経営者や担当者のご参考となれば幸いです。
【参考文献】
1) 経済産業省:健康経営の推進
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei.html
2) 厚生労働省: 産業保健活動をチームで 進めるための実践的事例集
https://www.mhlw.go.jp/content/000492931.pdf
3) 厚生労働省:職場における心の健康づくり
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000153859.pdf
従業員数が50名を超えた事業場には、労働法令によって4つの義務が課せられています。 「そろそろ従業員が50名を超えそうだけど何から手をつければいいんだろう」「労基署から勧告を受けてしまった」。従業員規模の拡大に伴い、企業の人事労務担当者はそんな悩みを抱えている人も少なくありません。 本資料ではそのようなケースにおいて人事労務担当者が知っておくべき健康労務上の義務と押さえるべきポイントについて詳しく解説していきます。
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単発の面談が必要な事業場向け