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障害者法定雇用率は、2024年4月より引き上げられました。障害者雇用率制度の内容は随時改正されており、今後も変更されることが決まっています。対象となる事業場では、障害者法定雇用率を満たさなければなりません。
本記事では、2024年以降の障害者雇用率引き上げの詳細や、障害者雇用率の計算方法について解説します。障害者雇用の方法や厚生労働省による公的サポートも紹介するので、ぜひ参考にしてください。
障害者法定雇用率とは、事業場の全従業員に占める対象障害者の割合の基準です。対象障害者とは、身体障害・知的障害・精神障害をもつ者を指します。実雇用率の算定対象となるのは、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳の所有者です。
一定規模以上の事業場では、満たさなければならない障害者法定雇用率が障害者雇用促進法によって定められています。障害者雇用促進法とは、障害者の自立促進と職業の安定を図るために定められた法律です。
障害者雇用の促進によって、意欲や能力に応じて誰もが社会に参加できる「共生社会」の実現が期待されています。
【参考】e-GOV法令検索「障害者の雇用の促進等に関する法律」
障害者法定雇用率について、2024年以降に変更される内容は以下の3点です。
それぞれの内容について、詳しく解説します。
【参考】厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
民間企業の障害者法定雇用率は、2024年4月より2.3%から2.5%に引き上げられました。
(出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」)
2024年4月以降、40人以上の従業員がいる事業場では、一人以上の障害者を雇用しなければなりません。2026年にはさらに対象事業主の範囲が広がり、法定雇用率も引き上げられるため、これまで対象外だった事業場も注意が必要です。
2024年4月以降は、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者・重度身体障害者・重度知的障害者も雇用率に算定可能です。
以前は週所定労働時間が20時間以上の障害者が対象でしたが、算定対象の拡大により障害者雇用が進めやすくなります。
なお、障害の程度によって算定時の人数の数え方が異なる点には注意が必要です。詳細は下表を参考にしてください。
(出典:厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案の概要」)
また、身体障害者・知的障害者において、重度であると判断される基準はそれぞれ以下のとおりです。
身体障害者 | 身体障害者程度等級表の1級・2級 |
知的障害者 | 以下のいずれかの条件を満たしている者
・療育手帳で程度が「A」(愛の手帳では「1度」「2度」) ・児童相談所・知的障害者更生相談所・精神保健福祉センター・精神保健指定医などから療育手帳の「A」に該当する判定書をもらっている ・障害者職業センターで重度知的障害者と認められている |
障害者雇用の担当者は、障害の等級や雇用率算定時の人数の数え方について理解しておきましょう。
【参考】厚生労働省「主な用語の定義(令和5年度障害者雇用実態調査)」
障害者法定雇用率は、職種によってはそのまま適用すべきではない事業場もあるため、障害者の雇用義務を軽減する「除外率制度」が設けられています。2025年4月以降、職種ごとの除外率は以下のように変更されます。
(出典:厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」)
除外率の引き下げによって、障害者の雇用機会の増加につながるでしょう。
障害者法定雇用率を用いた計算方法として、以下2つを紹介します。
知りたい数値に合わせて、それぞれの方法を使い分けましょう。
事業場で雇用義務のある障害者の人数は、以下の計算式で求められます。
雇用すべき障害者数=(常用労働者数+短時間労働者数×0.5)×法定雇用率2.5% |
たとえば、8時間勤務の正社員が100人、週20〜30時間勤務のパート従業員が20人の場合の計算式は以下のとおりです。
小数点以下の端数は切り捨てとされているため、障害者の雇用義務数は2人となります。
障害者雇用における常用労働者とは、週所定労働時間が20時間以上で1年以上雇用される見込みのある従業員のことです。条件を満たせば、パート・アルバイト・派遣社員なども含まれます。
また、短時間労働者は、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の従業員を指します。雇用率の算定では短時間労働者一人を0.5人とするため、計算時に0.5を乗じる必要がある点に留意しましょう。
事業場の現在の障害者雇用率を求める計算式は、以下のとおりです。
(出典:厚生労働省「障害者雇用率制度の概要」)
計算式中の失業者とは、働く意思や能力があるにもかかわらず、安定した職業に就けていない労働者を指します。
従業員数が40人以上の事業場では、障害者の雇用率が法定雇用率2.5%を上回っているか確認しておきましょう。
障害者雇用を通じて企業や従業員が得られるメリットは、以下の4点です。
それぞれの内容について詳しく解説します。
障害者が働きやすい職場は、健常者にとっても働きやすい職場といえます。これまで気付かなかった業務上の問題点などが、障害者の雇用によって明らかになりやすいためです。
少子高齢化で労働力不足が深刻化する中、働く意欲と能力のある障害者は、貴重な戦力となり得るでしょう。
働く意欲と能力のある障害者を雇用すれば、障害者の社会参加や自立に貢献することになります。障害者雇用促進法の目的に準ずるため、事業場の社会的責任をはたすことにもなるでしょう。
また、積極的に障害者雇用に取り組んでいることを公表すれば、事業場の社会的価値が高まることも考えられます。
障害者と健常者が一緒に働くことは、従業員同士が互いの違いを理解し、助け合える環境が生まれるきっかけとなり得ます。
従業員が、障害の有無・性別・人種などのさまざまな違いを超えて多様性を認め合えれば、事業場の人間関係の向上にもつながるでしょう。
障害者の特性は、人によってさまざまです。事業場での対応には専門的な知識が必要なため、障害者雇用の際は産業医と連携すると、よりスムーズに進めやすくなります。
産業医とは、事業場の従業員が心身共に健康に働けるよう、専門的な立場から指導や助言を行う医師のことです。障害者を雇用する上では、産業医の意見も聞きながら配置や労働条件などを考えるとよいでしょう。
産業医以外にも、衛生管理者・保健師・看護師・心理職などの産業保健スタッフの活用が有効です。
【関連記事】産業医とは?選任が必要な企業やチェックポイントを紹介
障害者雇用は、自社での対応以外に以下のような制度を利用する方法も認められています。
それぞれの内容について、詳しく解説します。
特例子会社制度とは、障害者雇用において特別な配慮をする子会社を設立した場合、その子会社に雇用されている障害者も含めて障害者雇用率を算定できる制度です。障害者に配慮した人員配置や、環境整備がしやすくなるメリットがあります。
厚生労働省は、特例子会社制度について以下のように解説しています。
(出典:厚生労働省「「特例子会社」制度の概要」
特例子会社をもつ親会社には関係する子会社も含められるため、企業グループ全体での実雇用率の算定も可能です。
なお、特例子会社として認定されるには、以下の要件を満たす必要があります。
親会社の要件 | 親会社が子会社の意思決定権を握っている(子会社の議決権の半数以上をもっているなど) |
子会社の要件 | ・親会社との人的関係が緊密(親会社からの派遣社員で構成されているなど)
・雇用される障害者が5人以上、かつ全従業員に占める割合が20%以上 ・雇用される障害者に占める重度身体障害者・知的障害者・精神障害者の割合が30%以上 ・障害者の雇用管理を適切にできる状態である ・障害者雇用の促進・安定が確実に達成できると認められる |
自社での障害者雇用が難しい場合は、特例子会社の設立を検討してみるのも一つの方法です。
【参考】厚生労働省「「特例子会社」制度の概要」
企業グループ内算定特例制度とは、一定の要件を満たせば、特例子会社がなくても企業グループ全体で障害者雇用率を算定できる制度です。
企業グループ内算定特例制度を利用するためには、以下の要件を満たす必要があります。
親会社の要件 | ・親会社が子会社の意思決定権を握っている(子会社の議決権の半数以上をもっているなど)
・親会社が障害者雇用推進者を選任している |
関係子会社の要件 | ・各関係子会社において、それぞれ常用労働者数の1.2%以上の障害者を雇用している
・中小企業においては、以下の数以上の障害者を雇用している 常用労働者数167人未満:要件なし 常用労働者数167人以上250人未満:障害者1人 常用労働者数250人以上300人以下:障害者2人 ・障害者の雇用管理が適切に行えると認められるか、他の子会社が雇用する障害者の業務について、人的関係や営業上の関係が緊密 ・障害者雇用の促進・安定が確実に達成できると認められる |
企業グループ内算定特例制度においては、グループ内に障害者が働きやすい環境の子会社がある場合、障害者雇用を進めやすくなるのがメリットです。
【参考】厚生労働省「「企業グループ算定特例」(関係子会社特例)の概要」
事業共同組合等算定特例は、事業共同組合等と中小企業が雇用する障害者の人数を合わせて雇用率を算定できる制度です。
事業協同組合等算定特例制度を利用するためには、従業員数や障害者雇用率の基準を満たしている必要があります。基準の詳細は、制度についての厚生労働省の資料を参考にしてください。
その他、障害者雇用の特例についての詳細や申請書は厚生労働省のホームページに掲載されています。該当する事業主は確認しておきましょう。
【参考】
厚生労働省「「事業協同組合等算定特例」(特定事業主特例)の概要」
障害者雇用に取り組む事業場は、以下のような公的サポートが利用できます。
障害者雇用の際に利用できる助成金は、以下の2つが代表的です。
トライアル雇用助成金 | 以下2つの条件のいずれかに該当する事業主に適用される助成金
・障害者を試行的に雇用した ・週20時間以上の勤務が難しい精神障害者や発達障害者を、週20時間以上の勤務を目標に試行雇用している |
障害者雇用納付金制度に基づく助成金 | 障害者を雇用するにあたり、必要な設備の整備や特別な措置を講じた事業主に対し、かかった費用の一部が支払われる助成金 |
(参考:厚生労働省「障害者を雇い入れた場合などの助成」)
障害者を雇い入れる際は、自社で利用できる助成金について把握しうまく活用しましょう。助成金の詳しい支給要領や申請様式については、厚生労働省のホームページを確認してください。
障害者雇用に関する相談・支援が可能な機関と、その受け付け内容は以下のとおりです。
ハローワーク | ・障害者の求人申し込み受け付け
・専門の職員による就職希望の障害者に対するきめ細やかな職業相談 ・就職後の障害者の職場定着指導 ・事業主への障害者雇用管理上の配慮などの助言 ・地域障害者職業センターなどの専門機関の紹介 ・事業主向けの各種助成金の案内 |
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 | ・障害者の雇用管理に関する助言や援助
・職場適応援助者であるジョブコーチの派遣 ・障害者雇用支援ネットワークコーディネーターや、就労支援機器アドバイザーによる専門的な相談・援助 ・就労支援に関する機器の展示や貸し出し ・精神障害者の雇用促進・職場復帰・継続雇用についての専門的な支援 ・障害者雇用に関する事例やマニュアルなどの情報提供 |
障害者就業・生活支援センター | ・障害者にとって身近な地域での、雇用・保健・福祉・教育などの各関連機関と連携した支援 |
地域関係機関 | ・障害者職業能力開発校での重度障害者などに対する職業訓練
・発達障害情報・支援センターによる、障害者本人やその家族に対する地域密着型の支援 ・難病相談支援センターによる、難病患者への就労支援・相談受け付け・交流促進支援 |
雇用する障害者にとって必要となる支援機関を把握し、事業場で利用したり障害者本人に利用を勧めたりして活用しましょう。各支援機関の詳細や連絡先については、厚生労働省のホームページをご確認ください。
【参考】厚生労働省「事業主の方へ」
厚生労働省では、一般の従業員に向けて精神・発達障害者しごとサポーターとなるための講座を全国で開催しています。
精神・発達障害者しごとサポーターとは、精神と発達の障害について正しく理解し、障害のある従業員を同僚の立場から支援する応援者のことです。障害者と働くことが当たり前の社会を作り、障害者の職場定着の促進を目的としています。
精神・発達障害しごとサポーター養成講座は、2時間程度の講座です。開催予定や問い合わせ先については、厚生労働省のポータルサイトをご確認ください。
【参考】厚生労働省「精神・発達障害者しごとサポーター」
障害者の雇用や就業に積極的な企業には、税制上の優遇措置が適用される場合があります。利用できる税制優遇制度は、以下の2つです。
助成金の非課税措置は、公共の補助金・給付金・障害者雇用納付金制度にもとづく助成金を利用し、固定資産を取得・改良したときに利用できる制度です。
利用した助成金分は、圧縮記帳で損金算入(法人税)・総収入金額に不算入(所得税)とすることができます。
事業所税の軽減措置は、障害者を多く雇用している事業主が、重度障害者多数雇用事業所施設設置等助成金を利用し施設を設置した場合に利用できる制度です。
その施設で行う事業の事業所税(資産割)の、課税標準となるべき事業所床面積の半分相当が控除されます。
【参考】厚生労働省「税制優遇制度のご案内」
障害者雇用を進める際の注意点は、以下の3点です。
それぞれの内容について詳しく解説します。
障害者の雇用義務のある事業主には、障害者雇用促進法によって以下2つの義務が課せられます。
(参考:e-Gov「障害者の雇用の促進等に関する法律」)
毎年のハローワークへの報告で障害者雇用率が低いことが分かった事業場に対しては、次のように行政指導が行われます。
(出典:厚生労働省「令和5年 障害者雇用状況の集計結果」)
命令・勧告・特別指導が行われたり、企業名の公表に至ったりするため、障害者雇用促進法や雇用率について正しく理解しておきましょう。
企業は障害者の採用やその他の待遇について、健常者と差別してはなりません。また、障害の特性を考慮した合理的な配慮をする必要があります。
事業場で障害者雇用を進める上で、障害者にはそれぞれに特性があることを十分に理解することが大切です。従業員個々の適性や希望を考慮し、適切な配慮を行うよう心がけましょう。
【関連記事】発達障害とは?大人に現れる症状や企業側が配慮すべきことを解説
厚生労働省では、障害者雇用対策基本方針にもとづき、障害者のための職場づくりの取り組みに関してをまとめています。項目概要は次のとおりです。
事業場においては上記を参考にし、障害者が適切に働き続けられる環境を整えることが求められます。
【参考】厚生労働省「事業主の皆様へ」
障害者法定雇用率は、2024年4月から2.5%に引き上げられました。対象の範囲が広がったため、新たに該当する事業場では、障害者法定雇用率を満たす義務が発生します。
法定雇用率を用いれば、障害者を何人雇わなければならないのか、また現在の障害者雇用率は何%かが計算可能です。担当者は事業場の現状を把握し、障害者雇用に向けて取り組み方を考える必要があります。
障害者雇用の際は、さまざまな制度・公的サポート・産業医などの活用が有効です。自社に合った方法を見つけ、障害者を雇用することで事業場の社会的価値を高めましょう。
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