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働く人の健康管理の重要性が高まる現代において、企業にとって産業医制度の適切な運用は必須の法的義務です。
産業医は、労働安全衛生法に基づいて選任されますが、その職務を果たすにあたっては、医師としての基本的な法律である医師法も深く関わってきます。
本稿では、産業医制度の法的根拠である労働安全衛生法(安衛法)を中心に関連法令を解説するとともに、産業医の根幹をなす「医師法」の側面についても補足します。
目次

産業医の選任義務や具体的な職務、資格要件は、すべて労働安全衛生法(以下、「安衛法」といいます)およびその下位法令である労働安全衛生規則(以下「安衛規則」といいます)に定められています。
労働安全衛生法第13条第1項により、事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、医師のうちから産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないとされています。
産業医選任の要件:産業医は、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければなりません(安衛法第13条第2項)。これについては後述します。
産業医の勧告権:産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます。事業者は、この勧告を受けたときは、これを尊重しなければならないとされています(安衛法第13条第5項)。
情報提供義務:事業者は、産業医が職務を適切に行うために、労働者の労働時間に関する情報など、必要な情報を産業医に提供しなければなりません(安衛法第13条第4項)。
労働安全衛生法第13条第2項は、産業医が「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない」と規定しています。この「厚生労働省令で定める要件」の具体的内容は、労働安全衛生規則第14条第2項に定められており、産業医として選任される医師は、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
1. 研修を修了した者
労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって、厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者(注:この指定される者には、例として日本医師会や産業医科大学が挙げられます)。
2. 産業医養成課程を修了し、実習を履修した者
産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて、当該課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修したもの。
3. 労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)の合格者
労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの。
4. 大学の労働衛生関連科目の教員経験者
学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあった者。
5. その他
上記1から4に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者。
労働安全衛生規則の附則(平成8年9月13日)に基づき、上記1〜5の現行要件の規定にかかわらず、特例的に産業医の要件を備えた者とみなされる場合があります。
旧規則相当研修の修了者:平成8年10月1日の施行の日前に、改正後の規則第14条第2項第一号に規定する研修に相当する研修として厚生労働大臣が定めるものの受講を開始し、当該研修を修了した者。
実務経験3年以上の者:平成10年9月30日において、労働安全衛生法第13条第1項の産業医として労働者の健康管理等を行った経験年数が3年以上である者。
産業医の選任義務が発生した場合、事業者は14日以内に産業医を選任する必要があります(安衛規則第13条)。
労働者数については、従業員50~999人の事業場では嘱託産業医の選任でも可。従業員数1,000人以上では専属産業医を選任する必要があります。なお、3,000人を超える場合は2名以上の専属産業医を選任します。また、従業員500人以上であっても、有害業務に従事させる場合は専属産業医の選任が必要です。
産業医の職務は、医学に関する専門的知識を必要とする以下の事項(7項目)です。
また、産業医はこれらの事項について、総括安全衛生管理者への勧告や、衛生管理者への指導または助言を行うことができます(安衛規則第14条第3項)。
産業医は、原則として少なくとも毎月1回、作業場等を巡視し、有害のおそれがある場合は直ちに健康障害を防止するために必要な措置を講じなければなりません(安衛規則第15条第1項)。
ただし、産業医が衛生管理者の巡視結果など必要な情報を毎月1回以上受け、事業者の同意を得ている場合は、少なくとも2ヶ月に1回の巡視で足りるとされています。

産業医は、労働安全衛生法に基づいて選任されますが、その前提として「医師のうちから」選任されることが定められています(安衛法第13条第1項)。
このため、産業医として活動する医師は、労働安全衛生法の規定を遵守するだけでなく、すべての医師に適用される医師法も遵守する必要があります。
医師法は、医師の資格、免許、業務上の義務、および医療倫理の基本を定めています。産業医の職務遂行においても、以下の医師法に基づく責務が重要となります。
守秘義務:医師法に基づき、職務上知り得た労働者の個人的な健康情報や機密情報を正当な理由なく漏洩することは厳しく禁じられています
医療行為と記録:産業医として健康診断や面接指導の結果を管理する際、医師法や関連法規に基づく適切な医療記録の作成・保管義務が生じます。
産業医が労働者の健康管理において信頼性を保ち、適切な医療を提供するためには、労働安全衛生法が定める産業保健の専門知識だけでなく、医師法が定める基本的な職業倫理と義務を果たすことが求められます。

産業医は、事業者(企業)によって選任され報酬を受けますが、その職務を遂行するにあたっては、医学的・倫理的な独立性と中立性が法的に強く求められます。この独立性は、労働者の健康を確保するために、企業経営の都合や利益に左右されない公正な判断を下すための基盤です。
産業医の独立性を裏付ける主要な規定は、以下の通りです。
産業医は、労働者の健康確保のため必要があると認めるときは、事業者に対し、健康管理等について必要な勧告をすることができます。事業者はこの勧告を受けたときは、これを尊重しなければならないと定められています。これは、事業者に産業医の専門的意見を重く受け止めることを義務づけ、産業医の意見が職場で埋没しないように独立性を担保する規定です。
事業者は、産業医が職務を適切に遂行できるように、労働者の業務内容、労働時間に関する情報など、必要な情報を産業医に提供しなければなりません。これは、情報面での独立性を確保し、企業の不都合な情報を隠蔽することを防ぐための規定です。
産業医は、事業場の健康管理に関する重要事項を調査審議する衛生委員会(または安全衛生委員会)の構成員とされ、医学的な見地から意見を述べ、企業の安全衛生管理体制の中で専門家としての地位を確立しています。
産業医は、企業側、労働者側のどちらにも偏ることなく、専門家として中立の立場で健康管理の指導・助言を行うことが、その職務の根幹です。
産業医の活動は、労働安全衛生法と医師法以外にも、労働契約法や個人情報保護法といった重要な法令と深く関連しており、企業はこれらの遵守も求められます。
労働契約法には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定されています。
企業が産業医を選任し、産業医の勧告に基づく適切な就業上の措置を講じることは、この安全配慮義務を履行するための具体策の一つです。産業医の意見を無視したり、制度を不適切に運用したりすることは、安衛法違反だけでなく、この民事上の安全配慮義務違反として、損害賠償請求のリスクに直結します。産業医制度の適切な運用は、企業にとって最大の法的リスクヘッジとなります。
要配慮個人情報など、産業医が取り扱う健康情報(健康診断結果、面接指導記録など)は、個人の人種、病歴、犯罪の経歴などを含む「要配慮個人情報」に該当し、特に厳格な取り扱いが求められます。
企業は、産業医を通じて入手した労働者の健康情報を、あらかじめ特定した利用目的の範囲を超えて利用してはなりません。
また、産業医には、医師法上の守秘義務に加えて、個人情報保護法に基づく厳重な情報管理義務が課せられます。企業が産業医から得た情報を不適切に利用したり、漏洩したりした場合、個人情報保護法に基づく罰則や、社会的信用の失墜につながります。
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本稿では、産業医制度の根幹である安衛法を中心に、活動にかかわる法令を紹介しました。企業が法令を遵守し、罰則リスクを避けつつ、労働者の健康という重要な経営資源を守るためには、これらの法的な側面を深く理解し、産業医の中立性と専門性を尊重した制度の適切な運用が不可欠です。
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