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個人事業主等の健康管理に関するガイドラインとは?業務委託時の配慮事項を解説

厚生労働省は、令和6年5月に「個人事業主等の健康管理に関するガイドライン」を策定しました。ガイドラインには、業務を個人事業主に委託する際に事業者が配慮すべきことが明記されています。

そのため、自社の業務を個人事業主に委託している場合は、ガイドラインの内容を理解しておかなければなりません。

本記事ではガイドラインにもとづき、事業者が配慮すべき事項を解説します。

個人事業主等の健康管理に関するガイドラインとは?

「個人事業主等の健康管理に関するガイドライン」とは、個人事業主の過重労働を防止するために策定された指標です。

ガイドラインには、健康障害の防止のために個人事業主が自ら気をつけるべきことの他に、仕事を依頼する事業者(注文者)が配慮すべきことも記載されています。継続的に個人事業主に業務を依頼するためには、注文者側の配慮も必要と示されています。

このガイドラインは、あくまでも個人事業主の健康管理に対する理想的な取り組みを示すものです。記載事項を守らなかったからといって、制限や罰則が科せられるわけではありません。

【参考】厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」

個人事業主に業務を委託する事業者が配慮すべき事項

注文者が個人事業主に業務を委託する際、配慮すべきことは以下の5点です。

  • 長時間労働にならないよう配慮する
  • メンタルヘルス不調発生の防止策を講じる
  • 安全衛生教育・健康診断に関する情報提供を行う
  • 健康診断の費用について配慮をする
  • 作業場所を特定する場合は環境整備をする

それぞれの内容について、詳しく解説します。

【参考】厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」

長時間労働にならないよう配慮する

労働安全衛生法には、他人に仕事を請け負わせる際は、安全かつ衛生的に仕事ができる条件で依頼しなければならない旨が定められています。

よって、個人事業主に仕事を依頼する際は、以下の点に注意し長時間労働にならないよう配慮が必要です。

  • 短納期での依頼はせず適正な納期で発注すること
  • 発注した仕事の内容を頻繁に変更しないこと
  • 短納期での大量発注は避けること
  • 日々の業務量が偏らないようにし内容を明確にするなど、発注方法を改善すること

注文者には、個人事業主の労働時間を細かく把握しておく義務はありません。しかし、業務の性質上個人事業主が長時間労働を強いられて健康に影響が出た場合、要求があれば医師面談の機会を提供することとされています。

労働時間を特定する業務を依頼する際は、業務量や納期を調整するなどして、個人事業主の長時間労働を避けるよう配慮しましょう。

【参考】e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

【関連記事】長時間労働はなぜ問題になるのか?労働環境を見直すべき理由

メンタルヘルス不調発生の防止策を講じる

業務委託先の個人事業主のメンタルヘルス不調を予防するためには、まず注文者が前述のような長時間労働を避ける配慮をすることが重要です。

さらに、一定の条件を満たす注文者・個人事業主間で業務委託が行われた場合、注文者はハラスメントの相談に応じる必要があると法律で定められています。

一定の条件とは、注文者が「特定業務委託事業者」、個人事業主が「特定受託業務従事者」であることです。

特定業務委託事業者 ・従業員を雇用している個人
・従業員を雇用している、もしくは役員が2人以上いる法人
特定受託業務従事者 ・従業員を雇用していない個人

・従業員を雇用していない、かつ代表者以外に役員がいない法人

事業者がハラスメントに対して取り組むべき事項は、厚生労働省からいくつか指針が発表されています。個人事業主に業務を委託する際は、参考にするとよいでしょう。

【参考】
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」

安全衛生教育・健康診断に関する情報提供を行う

注文者が個人事業主に対して行う安全衛生教育・健康診断の情報提供には、以下のような例があります。

  • 安全衛生教育や健康診断を受けられる機関を紹介する
  • 個人事業主が安全衛生教育や健康診断を受講・受診できる時間を確保する
  • 自社で教育や健康診断を実施する際、委託先の個人事業主も対象に含める
  • 自社でも行っている危険有害業務の一部を委託する場合は、安全衛生上必要な情報を個人事業主に提供する
  • 個人事業主の作業場に統括者がいる場合、個人事業主が業務に必要な教育や特殊健康診断を受けたかを統括者に確認させる

実際の健康管理はあくまでも個人事業主本人が行うべきであり、注文者は健康診断結果の提出などを求める必要はありません。しかし、仕事を発注する立場として、個人事業主が健康管理に取り組みやすい環境を整える配慮が必要です。

健康診断の費用について配慮をする

特殊健康診断が必要となる危険有害業務を外部委託する際、個人事業主が同等の検査を受けるときの費用は注文者が負担しましょう。

とくにガイドラインでは、以下2つの条件に当てはまれば、特殊健康診断相当の検査費用の全額を注文者が負担することとしています。

  • 個人事業主が一社のみから仕事を受けている
  • 契約期間が6ヶ月以上である

一般健康診断の場合、注文者が検査費用を負担すべきケースは、以下2つの条件に該当する場合です。

  • 個人事業主の労働時間が週40時間以上になる見込みがある
  • 契約期間が通算1年以上である

ただし、個人事業主が40~74歳であれば医療保険者(市町村国保など)が行う特定健康診断の対象となるため、注文者が健康診断の費用を負担する必要はありません。

作業場所を特定する場合は環境整備をする

委託する業務の内容によって個人事業主の作業場所が特定される場合、注文者はその作業環境を適切に整備する必要があります。適切な作業環境の基準は、労働安全衛生規則事務所衛生基準規則を参考にするとよいでしょう。

環境整備の具体例としては、以下のような対応が挙げられます。

  • 必要な気積を確保する
  • 適宜換気する
  • 室内を快適な温度に保つ
  • 必要な明るさを保つ
  • トイレなどの設備を整える

委託する業務の性質によっては、特別な配慮が必要なケースもあります。たとえば有機溶剤業務を委託する場合は、作業現場にいるのが個人事業主だけでも、有機溶剤中毒予防規則に沿って環境整備を行わなければなりません。

【関連記事】事務所則の改正に伴う対応とは?事業者が取り組むべき項目を解説

個人事業主自身が留意すべき事項

個人事業主と一緒に仕事をする事業者は、個人事業主が自ら健康上気をつけるべき点についても知っておくとよいでしょう。個人事業主自身が留意すべき事項は、以下の9点です。

  • 健康管理に意識を向ける
  • 危険有害業務によって健康障害が起こるリスクを理解する
  • 定期的に健康診断を受診する
  • 長時間労働をしないようにする
  • メンタルヘルスに対するセルフケアをする
  • 座り仕事の場合は腰痛の防止策を講じる
  • 情報機器作業における労働衛生管理を行う
  • 作業環境を整える
  • 注文者が行う健康障害防止措置に協力する

それぞれの内容について、詳しく解説します。

【参考】厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」

健康管理に意識を向ける

個人事業主は、事業を継続的かつスムーズに進めるうえで、健康に配慮した働き方や生活習慣の改善を心がける必要があります。

加入している療保険者や市町村が行うセミナーの受講や産業保健総合支援センターや地域産業保健センターの活用などにより、心身の健康維持・増進に努めることが大切です。

産業保健総合支援センターについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。

【関連記事】産業保健総合支援センター(さんぽセンター)とは? 役割や地さんぽとの違いを解説

危険有害業務によって健康障害が起こるリスクを理解する

個人事業主が危険有害業務を請け負う際は、その危険性や健康障害が起こるリスクなどを理解して、防止策を把握しておくとよいでしょう。

必要な安全衛生教育などを受講したり、健康障害の防止策についての情報提供を注文者に求めたりして、個人事業主が自ら情報収集することも重要です。

定期的に健康診断を受診する

事業者に雇用されている従業員は、年1回の一般健康断が受診が労働安全衛生規則により定められています。そのため、個人事業主も年に1回は健康診断を受けるとよいでしょう。

個人事業主の健康診断では、加入している医療保険者の健診や40〜75歳の人が利用できる特定健康診査、一般の医療機関が行う健診などが利用できます。健康診断で再検査や精密検査が必要となった場合は、放置せず再度医療機関を受診しましょう。

また、労働安全衛生法で定められている危険有害業務を請け負う場合は、必要な特殊健康診断と同等の検査を受ける必要があります。

【参考】e-Gov「労働安全衛生規則」

【関連記事】健康診断は企業の義務!実施すべき健診の種類や対象者を解説

長時間労働をしないようにする

個人事業主が業務を行う際は、仕事のペース配分などに注意して長時間労働にならないよう意識しましょう。長時間労働は、脳血管疾患や虚血性心疾患の発症リスクを高めるとされています。

一般の従業員の場合、法定労働時間は1日に8時間以内・週40時間以内で休日は週1日以上と定められているため、個人事業主も目安にするとよいでしょう。

【参考】
e-Gov法令検索「労働基準法」
厚生労働省脳・心臓疾患の労災認定」

メンタルヘルスに対するセルフケアをする

個人事業主は、業務に対するストレスなどによってメンタルヘルス不調が起こる可能性があることを理解し、予防することが大切です。

従業員数が50人以上の事業場では、年1回のストレスチェックが義務付けられています。個人事業主においても、厚生労働省が公表しているストレスチェックツールなどを活用して、定期的に自身の状況を確認するとよいでしょう。

【参考】厚生労働省「ストレスチェックダウンロード」

【関連記事】ストレスチェック制度とは?実施によって得られるメリットや導入手順を解説

座り仕事の場合は腰痛の防止策を講じる

パソコンでの作業や運転など、長時間の座り仕事を請け負う個人事業主は、通常の健康管理に加えて腰痛の防止策を講じる必要があります。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」では、腰痛の予防策について示しているため、参考にするとよいでしょう。腰痛防止策の具体例としては、以下などが挙げられます。

  • 適切な作業姿勢を意識する
  • 室温や椅子などの作業環境を整備する
  • 休憩時間を適切にとる

【参考】厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針」

情報機器作業における労働衛生管理を行う

パソコンやタブレットなどを使用する情報機器作業に携わる個人事業主は、業務内容に合った健康管理が必要です。

具体的には作業場所の明るさや端末・周辺機器・作業台の調整、作業姿勢への配慮などが挙げられます。厚生労働省の「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」も参考にするとよいでしょう。

【参考】厚生労働省「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」

【関連記事】VDT作業とは?健康への影響や取り組むべき対策を解説

作業環境を整える

自宅で仕事を行うなど、個人事業主が自身で作業場所の管理ができる場合は、その場所が業務にとって適切な環境になるよう整えることが大切です。

業務内容に応じて、厚生労働省の「事務所衛生基準規則」「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」などを参考にするとよいでしょう。

また、業務において労働安全衛生法で定められた危険有害物質を扱う場合は、その物質を吸い込んだり接触したりしにくい環境整備が必要です。

【参考】
厚生労働省「事務所衛生基準規則」
厚生労働省「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト(労働者用)」

注文者が行う健康障害防止措置に協力する

個人事業主は、業務において安全衛生上必要な措置を注文者から共有された場合、それに対応する必要があります。

とくに労働安全衛生法で定められた危険有害業務を請け負う際、注文者から作業方法や保護具などの情報提供があれば、それに従って作業しなければなりません

個人事業主等の健康管理に関するガイドラインを把握し、必要な配慮して仕事を依頼しよう

個人事業主等の健康管理に関するガイドラインは、個人事業主が仕事によって健康被害を受けることを防止するために策定された指標です。個人事業主自身が気をつけるべきことだけでなく、仕事を発注する注文者が配慮すべき事項も記載されています。

注文者となる事業者は、安定的・継続的に業務を委託するためにも、個人事業主の健康に配慮しなければなりません。ガイドラインに記載されている配慮事項を参考に、適切な内容で業務を依頼しましょう。

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