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【2024年版】過労死等の防止のための対策に関する大綱の改定に向けた素案の内容とは?見直しポイントを解説

過労死等の防止のための対策に関する大綱とは、過労死等防止対策推進法をもとに、3年を目安とした具体的な取り組みを示したものです。2024年7月に大綱が見直されるにあたって、その素案が示されました。

本記事では、過労死等の防止のための対策に関する大綱の見直し素案のポイントと、見直された背景を解説します。自社における過労死防止対策を考える際の参考にしてください。

過労死防止大綱の見直し素案のポイント

過労死等の防止対策に関する大綱(以降、「大綱」)の見直し素案のポイントは、以下の5つです。

  • 過労死の再発防止対策の強化
  • フリーランスへの過労死防止のための取り組みを促進
  • 労災事案の分析や調査研究の内容を充実
  • 重点業種に対する過労死防止対策の取り組みを記載
  • 実効性のある対策になるように数値目標を追加設定

それぞれの見直しポイントを詳しく説明します。

【参考】厚生労働省「第27回 過労死等防止対策推進協議会 議事次第」

過労死の再発防止対策の強化

大網の見直し素案には、過労死の再発防止のために、繰り返し過労死が発生した企業に対しての指導強化が盛り込まれました。

具体的には、一定期間内に過労死を複数回発生させた企業には、全社的な再発防止策を立てたうえで改善計画の作成を求めるとしています。

企業は、管轄の都道府県労働局長の助言・指導に従って、改善計画をもとに過労死防止対策に取り組まなくてはなりません。

また、令和6年4月には建設業、運送業、医療従事者にも時間外労働の上限規制が開始されました。このため国は労働基準監督署と連携し、上記の職種に属する企業を中心に上限規制を遵守するよう呼びかけるとしています。

【参考】e-Gov法令検索「過労死等防止対策推進法」
【関連記事】長時間労働はなぜ問題になるのか?労働環境を見直すべき理由

フリーランスへの過労死防止のための取り組みを促進

大綱の見直し素案には、フリーランスの労働実態をより詳細に把握し、健康確保の取り組みにつなげていくことが盛り込まれました。

働き方の多様化により、フリーランスなど労働時間が自己申告制となっている労働者の過労死防止対策が必要になってきているためです。厚生労働省は、業務内容などによって長時間労働となっている実態があるか調査を行うとしています。

フリーランスの健康を守るため、令和6年3月には「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」が策定されました。これに伴い、厚生労働省はフリーランスや副業・兼業者に対して自主的な健康診断の定期的な受診を促すとしています。

また、フリーランスは通常の会社員よりも立場が弱く、無理な発注によって長時間労働になりがちです。注文者側には、フリーランスの健康を配慮したうえでの期日設定が求められます。

【参考】
厚生労働省「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン(素案)」
e-Gov法令検索「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」

労災事案の分析や調査研究の内容を充実

大綱の見直し素案には、過労死や労災に関する分析、調査研究を今まで以上に充実させる旨が盛り込まれました。同時に、調査結果にアクセスできる仕組みを作ることも明記されています。

調査研究においては、過労死や長時間労働の実態が見られる職種・業種を、厚生労働省は重点的に調査する業種として指定しています。見直し素案では重点業種として、近年に長時間労働が見られる芸術・芸能分野が新たに追加されました。

また厚生労働省は、過労死に関する研究結果や最新の知見をもとに、過労死防止をサポートするツール開発・効果検証を実施するとしています。加えて、国は専用ポータル(健康な働き方に向けて)を活用して研究成果や最新情報を公開する仕組みを整備するとのことです。

【参考】過労死等防止調査研究センター「健康な働き方に向けて」
【関連記事】【社労士監修】労災とは?人事労務担当者が知っておくべき基礎知識と対応方法

重点業種に対する過労死防止対策の取り組みを記載

大綱の見直し素案には、重点的に取り組みが求められる業種について具体的な取り組み内容が追加されています。

重点的に取り組みが求められるとされる業種は、以下のとおりです。

  • トラック運送業
  • 教職員
  • 情報・通信業
  • 外食産業
  • 医療従事者
  • 建設業
  • メディア業界
  • 芸術・芸能分野

なかでも、トラック運送業・教職員・医療従事者の3業種では、労働時間や働き方に関する法案の整備や議論が進んでいます。

トラック運送業 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の改正(令和4年12月)
教職員 令和の日本型学校教育を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策についての諮問(令和5年5月)
医療従事者 看護師等の確保に関する基本的な指針の改正(令和5年10月)

大綱の見直し素案においては、上記の動きを踏まえたうえで労働環境の整備に取り組む方針が示されました。

これ以外に、公務員についても各職種(一般職、消防、警察、教職員など)の勤務実態に応じて取り組みを推進することが明記されています。

実効性のある対策になるように数値目標を追加設定

より実効性のある過労死対策として、主に労働時間の削減と勤務間インターバルについての数値目標が追加設定されました。

労働時間の削減目標は、週労働時間が40時間以上におよぶ労働者のうち、60時間を上回る労働者を5%に削減することを目標にしています。達成期限は令和7年までとしていましたが、現在の達成状況を鑑みて令和10年に見直されました。

さらに、重点業種で週労働時間が60時間以上の雇用者の割合が高い業種については、労働時間削減を重点的に推進することが追加されています。

また、見直し素案には、勤務間インターバル制度を導入することで効果が見込まれる企業に着目した数値目標が明記されました。具体的には、「勤務間インターバル制度を導入する必要性を感じない」と回答した企業を除いた企業における導入の割合20%以上を目指すとしています。

過労死防止大綱が見直された背景

過労死防止大綱が見直された背景には、以下のような理由があります。

  • 週労働時間60時間以上の雇用者割合を改善するため
  • 過労死に関するデータについて詳細かつ複合的な調査を実施するため
  • 勤務間インターバル制度の導入を推進するため
  • メンタルヘルスやハラスメントの対策を促進するため

上記の理由について、具体的なデータとあわせて紹介します。

【参考】厚生労働省「第27回 過労死等防止対策推進協議会 議事次第」

週労働時間60時間以上の雇用者割合を改善するため

大綱が見直された背景には、週労働時間60時間以上の長時間労働者の割合をさらに改善する狙いがあります。長時間労働者の割合は削減されているものの、企業のさらなる取り組みが求められているためです。

平成12年から令和5年までの、週労働時間60時間以上の雇用者の変化は以下のとおりです。

(出典:厚生労働省「第27回 過労死等防止対策推進協議会 議事次第」

週労働時間が40時間以上におよぶ労働者のうち、60時間を上回る労働者の割合は年々減少し、令和5年年には8.4%になっています。しかし大綱の目標である5%に対しては、さらなる取り組みが欠かせません。

具体的には、年次有給休暇の取得率を向上させる取り組みや、勤務間インターバル制度の導入を推進する取り組みが必要とされています。

過労死に関するデータについて詳細かつ複合的な調査を実施するため

大綱の見直し素案の背景には、過労死に関してより詳細かつ複合的な調査が求められている現状もあります。効果的な過労死防止対策に取り組むためには、過労死が発生する原因を見極める必要があるためです。

このためには、従来よりも詳細な調査、複数のデータを組み合わせた調査を実施することが重要とされています。

具体的に考えられるのは、以下のような調査です。

  • 過酷な労働環境になりやすい、トラックドライバーの脳・心臓疾患事案の解析
  • 長時間労働の実態が指摘され、重点的に対策が求められる業種の調査
  • 長時間労働とハラスメントの複合要因についての調査研究
  • 経済的な理由で複数の働き先を掛け持っている非正規雇用者の労働時間についての調査

上記のような調査を通じて、過労死防止のためにより効果的な対策を講じることが求められています。

勤務間インターバル制度の導入を推進するため

大綱の見直し素案の背景には、勤務間インターバル制度導入の推進もあります。長時間労働者の割合、過労死の発生件数を削減するために効果的な取り組みであると期待されているためです。

勤務間インターバル制度とは、勤務終了時間から翌日の始業時間まで一定時間以上の休息時間を設ける制度を指します。

とくに労働時間が長いとされている業種における、勤務間インターバル制度の導入企業割合は以下のとおりです。

(出典:厚生労働省「第27回 過労死等防止対策推進協議会 議事次第」

なかでも宿泊業・飲食サービス業や建設業は、勤務間インターバル制度の導入割合が産業計(6.0%)と比べて低い数値となっています

また、企業規模ごとの勤務間インターバル制度の導入割合は以下のとおりです。

(出典:厚生労働省「第27回 過労死等防止対策推進協議会 議事次第」

従業員数1,000人以上の大企業に比べると、1,000人未満の中小企業では導入が進んでいないことが分かります。

勤務間インターバル制度を導入するうえでのハードルを分析し、もう一歩踏み込んだ取り組みが求められているのです。

メンタルヘルスやハラスメントの対策を促進するため

過労死の要因になり得るメンタルヘルスや、ハラスメント対策の重要性が指摘されていることも、大綱見直しの背景にあります。

厚生労働省の労働安全衛生調査によると、仕事に関して強いストレスを感じる人の割合は令和4年度が82.2%で、平成30年度の58.0%から上昇しています。一方でメンタルヘルス対策を実施している事業所は令和4年度で63.4%と低調です。

(出典)
厚生労働省「令和 4 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」
厚生労働省「平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」

上記の数値を改善するためには、職場環境の変化を踏まえたストレスチェック調査票の見直しや、実施した報告の制度を強めることが求められています。

また、職場でのハラスメントもメンタルヘルス不調やストレスを感じる要因の一つです。厚生労働省の過労死等の労災補償状況によると、令和4年度に労災と認定されたパワハラは147件、セクハラは66件といずれも令和3年度から増加しています。

ハラスメントが体質化している企業に対しては周知や啓発など、実効性のある対策が重要です。また、カスタマーハラスメントを減らすためにも、消費者の行動を改めるような啓発活動が必要とされています。

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過労死防止大綱の見直し素案を把握し働きやすい職場を整備しよう

過労死防止大綱の見直し素案では、過労死の再発防止強化が示されました。また、働き方の多様化に伴いフリーランスの過労死防止のための調査・取り組みの実施も記載されています。

また、過労死の原因となる長時間労働はここ3年で削減されつつはあるものの、さらなる改善が求められるとして、数値目標が見直されました。とくに重点的に対策が必要な業種において、長時間労働を削減することが明記されています。

加えて、長時間労働を削減して過労死を防止するための対策として、勤務間インターバル制度の導入推進についても、具体的な目標が記載されました。

過労死防止大綱の見直し素案の内容をもとに過労死防止対策に取り組み、従業員が働きやすい職場を整備しましょう。

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