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特殊健康診断とは?有害業務に従事する社員を守る大事なポイントは?

健康上で有害な影響がある業務についている労働者に対しては「特殊健康診断」を行う必要があります。特殊健康診断とは、どのような健診なのでしょうか、また健診結果から社員を守るためにはどう対応すればよいのでしょうか。ここでは、特殊健康診断の内容を踏まえ、社員を守る大事なポイントについて説明します。

特殊健康診断とは

事業者は、健康上で有害な影響がある業務に就いている従業員に対しては、特別な健康診断(特殊健康診断)を行わなければなりません。さらに一部の業務では、従事しているときだけでなく、従事しなくなった後であっても継続的に特別な健康診断が必要になります。

特殊健康診断は事業者に課せられた義務であるため、受診は労働時間内に行わなければなりません。労働時間内の受診が難しく時間外に実施する場合は、従業員に対し割増賃金を支払う必要があります。

【参考】厚生労働省「安全衛生キーワード 特殊健康診断」

特殊健康診断と一般健康診断の違い

特殊健康診断は、有害な影響のある特定の業務に従事している従業員が対象となります。これに対し、一般の健康診断はすべての企業の従業員が実施対象です。勘違いされやすいもので、特定業務従事者の健康診断がありますが、これは一般の健康診断に該当します。

一般の健康診断に含まれる健康診断は、以下のとおりです。

  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 海外派遣労働者の健康診断
  • 給食従業員の検便

【関連記事】健康診断は企業の義務! 健康診断の種類、対象者などを解説

特殊健康診断を実施しなければならない業務

特殊健康診断が必要な業務は、高気圧業務・放射線業務・特定化学物質業務・石綿業務・鉛業務・四アルキル鉛業務・有機溶剤業務の7種類で、労働安全衛生法施行令に定められています。さらに、じん肺法にじん肺健診が規定されています。
また、法令による定めはありませんが、行政指導により特殊健康診断が推奨されている業務(情報機器作業、騒音、振動工具作業など)もあります。行政指導による特殊健康診断は、法的な義務ではありませんが、実施しておくことが望ましいと考えられます。

特殊健康診断の費用

特殊健康診断にかかる費用は、事業者負担となります。費用は健康診断の種類により異なりますが、2,000円〜13,000円程度の場合が多いようです。従業員により必要な検査項目が異なるため、どの検査が必要になるかを確認し、受診予定の病院へ問い合わせるようにしましょう。

【参考】
関東労災病院「特殊健康診断検査項目・料金表」
新潟県けんこう財団「特殊健康診断」
日本健康管理協会「特殊健康診断」

法令で定められている特殊健康診断

ここでは、法令で定められている特殊健康診断について、具体的な内容や特殊健康診断を実施する間隔について見ていきます。
ほとんどすべての特殊健康診断では、「既往歴および業務歴の調査」があります。これは、元々リスクが高い疾患が無いかどうかを確かめたり、有害の業務をどのくらい行っているのかを確認したりします。とくに、業務歴の調査は重要で、期間・頻度・1回の作業量・保護具着用についても確認し、現在の作業が身体に与える影響の強さを判断するための基礎情報になります。

健康診断結果が記された個人票は、一般の定期健康診断と同様に5年間保存することが必要です。ただし、一部の特殊健康診断では例外があり、粉塵作業に対するじん肺健康診断では7年、特定化学物質のうち特別管理物質や電離放射線の取扱い業務がある場合は30年、石綿の取扱いがある場合は40年という長期間にわたって保存する必要があります。
それでは、次に個別の特殊健康診断の内容について確認していきます。

高気圧作業健康診断

地下トンネルや海面下での橋脚工事などの工事や海底に潜る潜水士も高気圧作業にあたります。高圧下では身体への影響が強いため、特殊健康診断が必要になります。

対象者

上記の様な「高圧業務」または「潜水業務」に従事する従業員が対象になります。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 関節、腰もしくは下肢の痛み、耳鳴りなどの自覚症状または他覚症状の有無の検査
  • 四肢の運動機能の検査
  • 鼓膜および聴力の検査
  • 肺活量の測定

二次健康診断が必要な場合の検査内容

  • 作業条件調査
  • 肺換気機能検査
  • 心電図検査
  • 関節部のエックス線直接撮影による検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6ヶ月以内ごとに1回となっています。

電離放射線健康診断

電離放射線は、医療現場では骨や内臓の検査のためにレントゲン写真やCT検査、産業分野では非破壊検査(放射線透過試験)として用います。これらに従事する従業員は電離放射線を通常の業務より多く浴びるため、健康被害を確認することが必要です。

対象者

放射線業務に従事し管理区域(放射線量が一定以上ある場所)に立ち入る従業員が対象になります。

放射線業務とは、エックス線等電離放射線の発生を伴う装置の使用、または検査の業務や放射性物質を装備している機器を取り扱う業務のことです。坑内における核原料物質の掘削を行う労働安全衛生法施行令別表第2に掲げる業務なども該当します。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 被ばく歴の有無
  • 白血球数および白血球百分率の検査
  • 白内障に関する眼の検査
  • 皮膚の検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6ヶ月以内ごとに1回となっています。

特定化学物質健康診断

特定化学物質は健康への影響の大きい化学物質です。第1類物質、第2類物質、第3類物質という区分に分けられていますが、その中でも発がん性がある物質は、特定管理物質として、とくに厳重な管理が行われています。
医学的・科学的な知見を踏まえて、法令が改正され、特定化学物質に指定される物質は増える傾向にあります。

特定化学物質は具体的には、ジクロルベンジジン・重クロム酸・ベンゼンなど、労働安全衛生法施行令別表第3に掲げる物質のことです。

対象者

特定化学物質を取扱う業務に、常時従事する従業員が対象になります。

検査内容

特定化学物質の特殊健康診断では、それぞれの化学物質の性質・有害性に応じた検査項目があります。例を挙げると下記の様な検査項目になります。

  • クロム酸:鼻粘膜の異常、鼻中隔穿孔などの鼻腔の検査
  • 塩化ビニル:肝臓や脾臓の腫大などの腹部の検査
  • ベンジン:血尿、頻尿の有無や尿沈渣などの尿に関する検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6月以内ごとに1回となっています。ただし、ベリリウムやニッケルカルボニルに対する胸部X線による検査は1年以内ごとに1回となっています。

ただし、2023年4月の改正により以下のすべてを満たす場合は、次回より1年に1回の実施でよいと緩和されました。この条件は事業場単位ではなく、従業員ごとに判断します。

①当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されたこと

②直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見が無いこと

③直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更が無いこと

(参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等」

有機溶剤健康診断

有機溶剤は、他の物質を溶かす性質を持った有機化合物の総称で、塗装・洗浄・印刷などのさまざまな場面で用いられています。常温では液体ですが、揮発し、蒸気になりやすい性質も持っています。そのため、呼吸によって作業者の体内に取り込まれやすく、健康被害が出現することがあります。さらに、油に溶けやすい性質もあるため、直接触れると、皮膚を通して身体に取り込まれてしまいます。
有機溶剤の有害性がより詳しく分かると、前述の特定化学物質として指定されることもあります。

有機溶剤は具体的には、アセトン・キシレン・トルエンなど労働安全衛生法施行令別表第6の2に掲げる物質のことです。

対象者

屋内作業場などで有機溶剤を取り扱う業務に常時従事する従業員が対象です。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 有機溶剤の代謝物(体内に取り込まれた有機溶剤が、肝臓などの働きで分解された物質)の有無
  • 肝機能検査
  • 貧血検査

医師が必要と認める場合に行う検査内容

  • 作業条件の調査
  • 貧⾎検査
  • 肝機能検査
  • 腎機能検査
  • 神経内科学的検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6ヶ月以内ごとに1回となっています。

ただし、2023年4月の改正により以下のすべてを満たす場合は、次回より1年に1回の実施でよいと緩和されました。この条件は事業場単位ではなく、従業員ごとに判断します。

①当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されたこと。

②直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見が無いこと。

③直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更が無いこと。

(参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等」

石綿健康診断

石綿は1955年頃から広く建築材料として用いられていました。発がん性があることが分かり、2011年以降は新たな石綿製品は日本では製造されていません。しかし、現在でも古い建物の取り壊しでは、石綿を含んだ粉塵が発散する業務がありますので、そのような作業をされる方の健康管理が引き続き重要です。

石綿は具体的には、石綿もしくは石綿をその重量の0.1%を超えて含有する製剤のことを指します。

対象者

石綿の取扱い等に伴って、石綿の粉塵を発散する場所における業務に常時従事する従業員や過去に従事したことがある従業員が対象です。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • せき・たん・息切れ・胸痛などの自覚症状または他覚症状の有無の検査
  • 胸部X線検査(直接撮影)

二次健康診断が必要な場合の検査内容

  • 作業条件の調査
  • 特殊なX線撮影による検査
  • 喀痰の細胞診または気管⽀鏡検査
  • (胸部のX線直接撮影による検査の結果、石綿肺による繊維増殖性の変化によるものを除く異常な陰影があり医師が必要と認める場合に実施)

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6ヶ月以内ごとに1回となっています。

じん肺健康診断

粉塵が周囲に発散する作業(溶接、研磨など)に従事している従業員では、十分に対策を取っていたとしても粉塵を吸い込んでしまうことがあります。肺に吸い込まれた粉塵は、なかなか肺外に排出されませんので、長期間にわたって肺を刺激し、ダメージが蓄積してしまい、じん肺と呼ばれる状態になることが知られています。
そのため、粉塵作業による健康障害を最小限にするために、じん肺健康診断を適切に行なうことが必要です。

対象者

対象者は大きく分けて、3通りになります。
(1)新たに常時粉塵作業に従事する従業員
(2)常時粉塵作業に従事している従業員
(3)常時粉塵作業に従事させたことがあり、現在は粉塵作業以外の作業に従事している従業員

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。
・胸部X線検査(直接撮影または一定の条件を満たしたDR撮影)
※この胸部Ⅹ線検査で、じん肺の所見が認められた場合はさらに詳しい検査(スパイロメトリーによる肺機能検査、動脈血ガス分析など)が必要です。

健診の周期

対象者の区分によって、健診の周期が異なっています。
(1)の方では、就業の際のみです。
(2)の現状で粉塵作業に従事している従業員では、管理区分1の方では3年に1回、管理区分2または3の方では1年に1回の健診が必要です。
(3)の過去に粉塵作業に従事していた方は、管理区分2の方では3年に1回、管理区分3の方では1年に1回の健診が必要になっています。

鉛健康診断

鉛を取り扱う業務には、鉛合金や鉛を含む製品の製造の他に印刷における活字関連の業務があります。鉛は体内に蓄積すると、酵素の働きを阻害し、健康被害をもたらします。そのため、作業者の健康被害を予防する必要があります。

対象者

鉛中毒予防規則に定められた業務に従事する従業員が対象者です。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 鉛による自覚症状または他覚症状の有無の検査
  • 血液中の鉛の量の検査
  • 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査

医師が必要と認める場合に⾏う検査内容

  • 作業条件の調査
  • 貧⾎検査
  • ⾚⾎球中のプロトポルフィリンの量の検査
  • 神経内科学的検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際、6ヶ月以内ごとに1回となっています。

ただし、2023年4月の改正により以下のすべてを満たす場合は、次回より1年に1回の実施でよいと緩和されました。この条件は事業場単位ではなく、従業員ごとに判断します。

①当該労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分されたこと。

②直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見が無いこと。

③直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更が無いこと。

(参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等」

四アルキル鉛健康診断

四アルキル鉛はガソリンのアンチノック剤として使用されていましたが、神経毒があることから自動車用ガソリンへの添加が禁止され、現在はほとんど使われていません。

対象者

四アルキル鉛を取扱う業務に常時従事している従業員が対象になります。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 自覚症状や他覚所見の有無
  • 血液中の鉛の量の検査
  • 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際および6ヶ月以内ごととなっています。

ただし、2023年4月の改正により以下のすべてを満たす場合は、次回より1年に1回の実施でよいと緩和されました。この条件は事業場単位ではなく、従業員ごとに判断します。

①直近3回の健康診断において、当該労働者に新たな異常所見が無いこと。

②直近の健康診断実施日から、ばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更が無いこと。

(参考:厚生労働省「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要等」

歯科医師による健康診断

労働安全衛生法66条により、特定の有害な物質を扱う業務に従事している従業員は、歯科医師による健康診断の実施が定められています。

対象者

塩酸・硝酸・硫酸・亜硫酸・弗(ふつ)化水素・⻩りんや、その他歯や身体に有害な物質のガス・蒸気・粉じんを取扱う業務に常時従事している従業員が対象になります。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 作業条件の調査
  • 歯科検診
  • 口腔・顔面・皮膚状況の確認
  • 顎骨状況の確認

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際および6ヶ月以内ごとに1回

【参考】厚生労働省「労働安全衛生法第66条第2項、3項の政令で定める有害な業務について(特殊健康診断、歯科検診)」

指導奨励で定められている特殊健康診断

法令ではなく、行政指導で推奨されている特殊健康診断にはいくつかありますが、ここでは3種類について紹介します。

情報機器作業健康診断(旧VDT作業健康診断)

情報機器(主にコンピューター)を長時間操作することによって生じる健康被害を早期に発見するための特殊健康診断が行政指導により奨励されています。

対象者

ディスプレイ、キーボード等機器を常時使用する作業に従事する作業者が対象です。

検査内容

具体的な検査項目は作業区分や自覚症状の有無等により異なりますが、主に下記の項目が実施されます。

  • 自覚症状の有無の検査
  • 眼科学的検査(通常の視力検査だけでなく、必要に応じて眼位の検査など)
  • 筋骨格系に関する他覚的検査

健診の周期

作業前および1年以内ごとに1回です。

騒音健康診断

厚生労働省のガイドラインで示されている作業場(多くは、騒音レベル85dB以上の強烈な騒音を発する業務)で仕事の従事する従業員に対して、健康診断を実施することが推奨されています。

対象者

厚生労働省のガイドラインが示すような騒音が強烈な作業場で働く従業員が対象です。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 自他覚症状の有無の検査
  • オージオメータによる気導純音聴力検査(雇入れ時、配置替え)
  • オージオメータによる選別聴力検査(定期の健診)

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際および6ヶ月以内ごとです。

振動業務健康診断

強烈に振動する工具を用いることにより、末梢循環障害や末梢神経障害という状態になり、手指や腕にしびれ、冷え、こわばりなどの症状が生じます。これは振動障害と呼ばれます。このような障害の早期発見、悪化予防のために、振動業務健康診断の実施が推奨されています。

対象者

チェーンソー、さく岩機などの強烈に振動する工具を使用する従業員を対象としています。

検査内容

特徴的な検査内容として、下記があります。

  • 運動機能検査(握力)
  • 末梢循環機能検査(皮膚温、爪圧迫)
  • 末梢神経機能検査(痛覚、振動覚)

健診の周期

雇入れ時、配置替えの際および6ヶ月以内ごとです。ただし、レッグ式さく岩機、チッピングハンマーなどの工具を用いる場合は、定期健診のうち1回は冬に実施します。

その他の指導奨励される特殊健康診断

指導奨励される特殊健康診断には、上記3項目を含めて30項目ほど設定されています。以下の表に当てはまる業務を扱う際は、特殊健康診断の実施を検討するとよいでしょう。

指導奨励される対象物質および対象作業
紫外線・赤外線 超音波
騒音 メチレンジフェニルイソシアネート(M.D.I)
黄りん・りんの化合物のガス フェザーミル
有機りん剤 クロルプロマジン等フェノチアジン系薬剤
亜硫酸ガス キーパンチャー業務
二硫化炭素 都市ガス配管工事(一酸化炭素)
ベンゼンのニトロアミド化合物 地下駐車場における業務(排気ガス)
脂肪族の塩化または臭化化合物 チェーンソー(身体に著しい振動を与える業務)
砒素化合物(アルシンまたは砒化ガリウムに限る) チェーンソー以外の振動工具
フェニル水銀化合物 重量物取扱い作業
アルキル水銀化合物 金銭登録業務
クロルナフタリン 引金付工具取扱い作業
沃(よう)素 VDT作業
米杉、ネズコ、リョウブまたはラワン レーザー機器取扱い作業またはレーザー光線

特殊健康診断の報告義務

特殊健康診断実施後は、所轄の労働基準監督署長または道府県労働局長へ報告が必要です。特殊健康診断は下記が対象になっています。種類が多く、用紙も異なるため注意しましょう。

対象健康診断 診断結果報告先
高気圧作業健康診断 所轄労働基準監督署長
電離放射線健康診断 所轄労働基準監督署長
特定化学物質健康診断 所轄労働基準監督署長
有機溶剤健康診断 所轄労働基準監督署長
石綿健康診断 所轄労働基準監督署長
じん肺健康診断 都道府県労働局長(所轄の労働基準監督署長を経由)
鉛健康診断 所轄労働基準監督署長
四アルキル鉛健康診断 所轄労働基準監督署長

【参考】
厚生労働省「主要様式ダウンロードコーナー(安全衛生関係主要様式)」
厚生労働省「健康診断の種類および報告義務」

特殊健康診断を実施しなかった場合

法令によって定められている特殊健康診断は、事業者は従業員に対して健康診断を受けさせる義務があります。もし、健康診断を受診する機会を設けないとしたら、違法行為となります。
そのような違法行為は労働基準監督署からの指導が入ります。それにもかかわらず適切な対応をとらずにいると、送検され罰金50万円以下の罰則がくだることもあります(労働安全衛生法120条1項)。
健康診断未実施による送検は、健診実施率が上昇しているため、近年では少なくなっています。しかし、2020年11月12日には、岸和田労働基準監督署が従業員に健康診断を受けさせる義務を怠ったとして運送業A社と当時の健康診断の責任者を送検した事例があります。労働基準監督署としても、従業員の健康が適切に守られているかどうかをチェックする最初のポイントとなっているようです。

万が一、診断結果に異常がある従業員が発生したら

特殊健康診断で診断結果に異常がある従業員が発生したら、なんらかの対応をとる必要があります。対応としては大きく2つに分かれます。

まず、1点目は、異常がある従業員本人への対応です。就業場所の変更、作業の転換などの事後措置をとったり、作業環境測定を行ったりする必要があります。特殊健康診断では、会社に再検査・精密検査の実施が義務付けられているので注意しましょう。とくに、一部の特殊健康診断では、対象者全員が受ける一次健康診断と、一次健康診断の結果を見て医師が必要と判断した方だけが受ける二次健康診断の二段階で実施する体制になっています。
また、2点目として、作業場への対応です。同じ作業場で働く他の従業員の状態や、作業環境測定結果を踏まえた作業環境管理・作業管理について再確認する必要があります。
このような対応は、専門性が求められる内容となりますので、産業医など専門的知見がある人の意見を踏まえることが必要です。

三橋 利晴 (みつはし としはる)

産業医・労働衛生コンサルタント

岡山大学にて産業衛生・疫学・予防医学の実務や研究を行う。 平行して2008年からは嘱託産業医として様々な業種の事業所を担当。 大学病院では疫学や研究倫理の観点から院内の臨床研究支援を行う。

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