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リモートネイティブ世代のメンタルヘルス、課題と対応方法は?

新型コロナウイルス感染症の影響により、急速に普及したリモ―トワーク。
今年度入社した新卒社員には、これまでとは異なるケアが必要となります。
今回は、ビジネスパーソンのメンタルケアを専門に扱う「VISION PARTNER メンタルクリニック四谷」副院長の堤多可弘先生(精神科医、産業医)がWithコロナ時代の新卒社員──すなわち、リモートネイティブ世代のメンタルヘルスケアについてお伝えします。

新入社員=リモートネイティブ世代に起きるメンタル問題は?

2020年4月に入社した新卒社員の方々は、リモートワークが普及しつつある状況下で社会人となり、“リモートネイティブ”の第1世代になろうとしています。
このリモートネイティブ世代に起き得るメンタル問題として、大きくは以下の2つが挙げられるかと思います。
①    孤独やコミュニケーション不全
②    エンゲージメントの低下(*)
(*)エンゲージメント:会社や仕事への満足度や信頼感、意欲のこと
まずは、「孤独やコミュニケーション不全」についてです。
新卒社員は、社内の人間関係が構築できていないため、孤独やコミュニケーション不全が起きやすいと言えます。そして、孤独はそれ単体で生産性を下げてしまうことが知られています(1)。
コミュニケーション不全は「質問できない」「やり方を聞けない」など業務に支障を来すことにつながり、同じく生産性を下げてしまいます。
さらに生産性が下がると、自己肯定感が失われてしまう──というように、負の連鎖が生まれてしまうのです。
孤独を感じ、コミュニケーション不全を抱え、自己肯定感を失ってしまうと、「エンゲージメントの低下」を招いてしまいます。そして、最終的には完全なメンタル不調に陥ってしまう可能性もあるのです。

重要なのは、タテヨコよりも「ナナメ」の関係

上司と部下
リモートワークで新卒社員が孤独を感じず、コミュニケーション不全に陥らないためには、どのように対応すべきなのでしょうか。
新卒社員の心強い支えになってくれるのが、「ナナメ関係」、すなわち身近に感じやすい少し年上の先輩との関係性です。多くの企業では、上司と新卒社員が個別に向かい合って話し合う「1on1」などが取り入れられています。
また、リモートワークとはいえ、新卒社員同士は、オンラインで行われる入社式や研修などで交流する機会があるでしょう。こういったタテヨコの関係は、リモート下でもある程度保たれるのです。
しかし、実際に仕事をするにあたって、新卒社員が安心して相談でき、実務上のアドバイスを求めたくなる相手というのは多くの場合、前述したような「自分よりも少し年上の先輩」です。
ある会社では、数年ぶりに新卒社員を採用したところ、定着率が良くない事態が発生しました。退職時の面談では、その原因の一つとして、新卒社員と年齢が近い先輩がいなかったことが挙げられました。
こうした例は珍しくなく、新卒社員にとって年齢が近い先輩は、必要な存在であると分かります。
新卒社員にとって重要な「ナナメ」の関係を作るための取り組みとして、先輩との「1on1」の機会を設けたり、いわゆるブラザー・シスター制度を活用したりすることが有効です所属の垣根を越えたサークル活動への参加を促すのもよいでしょう。
人事や管理職の皆様には、孤独やコミュニケーション問題へのアプローチとして、積極的・能動的に、「ナナメ」の関係を作れるような仕掛け作りを行っていただきたいと思います。
 

「ムラ社会」から「ネットワーク社会」へ

続いては、リモートワークやオンライン主体のコミュニケーションをプラスに転換していく工夫についてです。
SNSに代表されるような緩く広いコミュニティー=「ネットワーク社会」は、強固で緊密なコミュニティー=「ムラ社会」よりもユニークな意見が交換されやすいとする論文もあり(2)、その分イノベーションをもたらす可能性も大きいと言われます。
イノベーションが強く求められている今の時代、「ネットワーク社会」が持つ強みを生かせれば、企業にとっても大きな成長につながるチャンスになるということです。
そして、「ネットワーク社会」でこそ、リモートネイティブはさらに輝く可能性を秘めています。
リモートネイティブは、デジタルネイティブかつSNSネイティブの世代と重なります。チャットやWeb面談などのデジタルな環境下でのやり取りに抵抗感が少なく、むしろ、こういった場の方が積極的な発言をしやすい傾向が見られます。
また、従来型の企業で重視されていた、強固なムラ社会的な人間関係よりも、ネットワーク社会的な人間関係への親和性が高い傾向もあります。
では、ネットワーク社会的な人間関係を企業内で作るためには、どのような工夫をしていくべきでしょうか?
私は、チャットツールや社内SNSなどを活用し、部署間を問わず多様なネットワークを作っていくことが重要と考えています。これはリモートでなくなりがちな「居場所」を作り、心理的安全性を保ちながら発言するチャンスを作ることでもあります。
さらにこのような工夫はエンゲージメントを高める効果もあります。
ビジネスシーンや人事領域では、仕事に対してポジティブで充実した心理状態にあることを「エンゲージメントが高い」と表現します。
そしてエンゲージメントは褒められたり、認められたりすることで高まります。
つまり、チャットツールやSNSでの発言に建設的なリアクションを得ることは、社員にとってエンゲージメントの向上にもつながるのです。
なお、人事労務や管理職の方は、オンラインに限らず、対面の場でもエンゲージメントについて意識していただくとよいでしょう。
ある会社の事例です。その会社は新卒社員向けの全体研修(数百人規模)をオンラインで行いました。
その研修後に社内外の講師と受講者が自由にやり取りできるチャットツールを用意したところ、研修から1カ月以上経った今も、活発にやり取りがあるそうです。
これもまさにネットワークの一つです。
ほかにも、チャットツールの中に“雑談部屋”を作り「何でも話していい」という建て付けにするだけでも、コミュニケーションは活発化します。
対面での雑談がなくなった今こそ、こういった「居場所」を作る工夫も重要です。
以上のように、ネットワーク社会的な人間関係へと転換を図り「居場所」を作ることで、孤独やコミュニケーションの問題は解決でき、エンゲージメントを高めることができます。
対面での全体研修や飲み会などで集まることが難しい昨今ではありますが、考えようによっては、プラスに転換できることがあります。人事労務の方々には紹介した例をはじめ、積極的な仕掛けを打ち出していただきたいと思います。
 

終わりに

仕事中の女性
長文となりましたが、リモートネイティブ世代に起き得るメンタル問題とその対応の工夫を述べさせていただきました。
ムラ社会からネットワーク社会へと転換していく中では、セルフケアをはじめとした自律性も非常に重要になります。
今までのように管理職や人事が「様子をよく見て面倒をみる」のではなく、社員本人が「自ら気づき、対処し、必要な相談をする」ように育てていくことが求められます。
管理職の方には「1on1」で新卒社員の自律性を高める方向に導き、人事・労務の方は身近な資源である産業医を活用し、セルフケア研修や管理職研修などに注力していただきたいと思います。
【参考文献】
1)Roy F Baumeistera, C. Nathan DeWalla, et al. “Social Exclusion Impairs Self-Regulation” Journal of Personallity and Social Psychology, 88(4),pp589-604,2005.
2)Sinan Aral and Paramveer Dhillon, “”Unpacking Novelty: The Anatomy of Vision Advantages# Availlable at SSRN: https://dx.doi.org/10.2139/ssrn.2388254, January 30, 2016

堤 多可弘 (つつみ たかひろ)

VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長(精神科医・産業医) / 精神科医・産業医

弘前大学医学部卒業後、東京女子医科大学精神科で助教、非常勤講師を歴任。 現在はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷の副院長とスタートアップ企業の取締役を務めるとともに、首都圏及び青森県の企業や行政機関の産業医を10か所以上担当。 ブログや著作、研修などを通じて、メンタルヘルスや健康経営、産業保健の情報発信も行っている。 共著に「企業はメンタルヘルスとどう向き合うか―経営戦略としての産業医 」(祥伝社新書)がある。

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