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産業医は役立たず?そう感じる原因、産業医との上手な連携、変更を解説

企業の人事労務担当者には、従業員の健康管理やメンタルヘルス対応に奔走する中で、産業医の対応に疑問を抱く場面が出てくることもあります。なかには、「産業医が役立たずだ」と語気を強めて不満を漏らす方もいます。

形式的な面談、当たり障りのないアドバイス、会社の意向ばかりを尊重する姿勢。産業医を設置している義務は果たしていても、実態が伴わなければ意味がありません。

この記事では、なぜ産業医が「役立たず」と感じられてしまうのか、その原因を深掘りします。さらに、産業医の能力を最大限に引き出すための「うまい使い方」、そして、どうしても改善が見られない場合の「産業医の変更・解任」の具体的な手続きや、自社に最適な産業医の探し方まで、人事労務担当者が知りたい情報を網羅的に解説します。

産業医を「役立たず」と感じてしまう5つの理由

人事労務担当者の皆様が、産業医に対して「役立たず」と感じてしまう背景には、共通するいくつかの理由があります。自社の状況と照らし合わせてみてください。

面談や職場巡視が形式的

最も多く聞かれる不満の一つが、業務の形式化です。

  • 休職・復職面談: 本人の話を傾聴するよりも、決まった質問をして「復職可否」の判断だけを伝える。背景にある職場環境や業務内容への踏込みが浅い。
  • 過重労働者面談: 「疲れていませんか」「睡眠は取れていますか」といった表面的な確認に終始し、業務負荷の根本的な問題解決につながらない。
  • 職場巡視: 月1回(または契約頻度)の訪問時に、会議室と人事担当者の席を往復するだけで、実際の作業現場を見に来ない。

これでは、従業員の健康状態や職場の潜在的リスクを把握するという産業医の役割を果たしているとは言えません。

産業医の中立性が感じられない(会社の味方すぎる)

産業医は、労働者と事業者の双方に対し、中立的な立場で専門的助言を行うことが求められます。しかし、実際には「会社の味方すぎる」と感じられるケースがあります。

例えば、従業員がメンタル不調で「休職が必要」と訴えていても、会社側の「人手が足りない」という事情を過度に忖度し、安易に就業継続を促すような意見を出す場合です。これでは従業員は産業医に本音を相談できなくなり、信頼関係が失われ、不調の早期発見・早期対応が困難になります。

メンタルヘルスや業界特有の知見が不足している

医師免許があれば産業医になれますが、すべての医師がメンタルヘルス対応や、特定の業種(例:IT、製造業、運送業など)の労働環境に精通しているわけではありません。

  • 身体疾患には詳しくても、精神疾患の対応経験が乏しい。
  • 自社の業務内容や特有のストレス要因(例:長時間労働、シフト勤務、クレーム対応)への理解が浅く、的外れなアドバイスが多い。

企業のニーズと産業医の専門性(能力)がミスマッチしていると、「使えない」という評価につながりやすくなります。

企業への具体的な提案や指導がない

産業医の役割は、面談や巡視だけではありません。衛生委員会への出席や、職場環境の改善、健康教育(衛生講話)などを通じて、企業全体のリスク管理に貢献することも期待されます。

しかし、衛生委員会に出席しても発言がなかったり、職場巡視で見つけた問題点を指摘するだけで改善策の提案がなかったりすると、企業側は「何のために来ているのか」と疑問を感じてしまいます。

コミュニケーションが取りづらい(訪問頻度が低い)

嘱託産業医の場合、訪問は月1回、数時間程度という契約も少なくありません。訪問時以外は連絡が取りにくかったり、緊急のメンタル不調者が出た際に対応を相談できなかったりすると、人事担当者にとって「いざという時に役立たない」存在になってしまいます。

また、産業医の側から積極的に人事担当者や管理職と連携しようとする姿勢が見られない場合も、不満の原因となります。

なぜミスマッチが起きる?産業医の役割と企業側の期待

「役立たず」という不満の根底には、産業医に期待する役割と、産業医が認識している役割の「ズレ」が隠れていることがよくあります。

産業医の本来の役割(法律上の職務)

産業医は「医師」ではありますが、従業員の病気を「治療」する(薬の処方など)のが仕事ではありません。産業医の目的は、労働安全衛生法に基づき、事業者が従業員の健康管理を適切に行えるよう「指導・助言」することです。

主な職務には以下が含まれます。

  • 健康診断の実施と結果に基づく措置(就業判定、事後指導)
  • ストレスチェックの実施(高ストレス者面談など)
  • 過重労働者への面接指導
  • 職場巡視(少なくとも月1回、条件により2ヶ月に1回)
  • 衛生委員会への出席と助言
  • 健康教育(衛生講話)や健康相談の実施

期待とのズレ

一方で、近年企業(特に人事労務担当者)が産業医に期待する役割は、メンタルヘルス不調者の対応や、ハラスメント問題への関与、生産性向上につながる健康経営の推進など、より高度で能動的なものへと変化しています。

この「法律上の最低限の義務」しか果たさない産業医と、「能動的な健康パートナー」を求める企業側との間に期待値のギャップが生まれると、「役立たず」という評価につながってしまうのです。

産業医との上手な連携とは

産業医の能力や意欲に問題がある場合もありますが、多くの場合、企業側の「使い方」次第で産業医のパフォーマンスは大きく変わります。産業医を変更する前に、まずは以下のような連携を試してみてください。

衛生委員会を「報告の場」から「議論の場」へ変える

衛生委員会は、産業医から専門的な意見を引き出す絶好の機会です。

  • 議題の事前共有: 産業医に事前に議題(例:今月の残業時間、ヒヤリハット事例、メンタル不調者の傾向)を共有し、意見を準備してもらいます。
  • 産業医からの発言を促す: 「先生の専門的な見地から、この問題についてどう思われますか?」と名指しで意見を求めましょう。
  • 衛生講話のテーマをリクエスト: 従業員の関心が高いテーマ(例:睡眠、ストレス対策、運動)で、短い衛生講話を依頼するのも有効です。

職場巡視に人事・現場管理職が同行する

産業医が一人で職場を巡視しても、現場の課題は見えにくいものです。

  • 問題意識を持って同行: 「この部署は最近残業が多い」「この作業は負担が大きい」といった現場の情報を人事担当者が提供しながら一緒に回ります。
  • 従業員への声かけ: 同行する人事担当者が、従業員と産業医が話すきっかけを作ることで、産業医も現場の雰囲気を掴みやすくなります。

産業医への情報提供を充実させる

産業医は社外の人間であり、待っているだけでは社内の情報は入ってきません。良い判断をしてもらうためには、人事からの積極的な情報提供が不可欠です。

  • 休職・復職面談前: 対象者の業務内容、勤務状況、上司や同僚からのヒアリング内容、主治医の診断書など、判断材料を整理して事前に共有します。
  • 定期的な情報交換: 訪問時以外でも、社内で起きた労災(疑い含む)や、ハラスメントの相談状況、組織変更の予定など、従業員の健康に影響しそうな情報をこまめに共有します。

産業医に期待する役割を明確に伝える

「契約で決まっているから」ではなく、「会社としてメンタルヘルス対策を強化したい」「復職支援の精度を上げたい」といった具体的なニーズや期待する役割を、産業医にはっきりと伝えましょう。

産業医も、企業側が何を求めているかが分かれば、動きやすくなります。要望を伝えた上で、産業医側の得意分野やリソース(時間)とすり合わせることが重要です。

産業医の変更は可能?手続きと注意点

連携を試みても改善が見られない場合、産業医の変更(解任)を検討する必要があります。

産業医の変更・解任は法的に可能

事業者は産業医を選任する義務がありますが、特定の産業医を継続して選任し続ける義務はありません。そのため、事業者側の判断で産業医を変更・解任することは可能です。

ただし、産業医が法律に基づく勧告(例:健康への重大な懸念から、特定の作業の停止勧告)を行ったことを理由に解任するなど、不当な解任は認められません。

産業医変更・解任の一般的な手続き

  • 現行契約の確認:
    まずは現在の産業医との契約内容(契約期間、解約予告の時期)を確認します。通常、「解約の〇ヶ月前までに書面で通知する」といった条項があります。
  • 変更理由の整理と通告:
    契約内容に基づき、産業医(または契約先の紹介会社)に変更・解任の意向を伝えます。円満に進めるためにも、感情的にならず、期待した役割と現状のギャップなどを客観的に伝えることが望ましいです。
  • 後任の産業医の選定:
    非常に重要な点として、現在の産業医を解任する前に、必ず後任の産業医の目処をつけておく必要があります。産業医が不在の期間(空白期間)が生まれると、法令違反(安全衛生法違反)となるためです。
  • 労働基準監督署への届出:
    産業医を変更した場合、選任(変更)から14日以内に、所轄の労働基準監督署へ「産業医選任報告書」を提出する必要があります。

変更・解任時の注意点

  • 空白期間を作らない: 上記の通り、法令遵守のため、後任の選定を最優先で行ってください。
  • 引継ぎ: 可能な限り、現在の産業医から後任の産業医へ、従業員の健康情報や進行中の案件(休職者対応など)を引き継いでもらうことが理想です。ただし、産業医の協力が得られない場合もあるため、人事側で情報を整理しておく必要があります。

失敗しない!自社に合う「良い産業医」の探し方

産業医の変更を決めたら、次は「役立つ」産業医をどうやって探すかが問題です。

産業医の探し方:主な3つのルート

  • 産業医紹介サービス(外部委託):
    最も一般的な方法です。企業と産業医をマッチングする専門の会社を利用します。
    メリット: 企業ニーズ(メンタルヘルス強化、特定の業界経験など)に合わせた医師を探しやすい。紹介会社が契約や日程調整を代行してくれる。複数名の候補者と面談できる。
    デメリット: 仲介手数料や月額の外部委託料金が発生する。
  • 地域の医師会:
    地域の医師会に相談し、産業医活動に登録している開業医などを紹介してもらう方法です。
    メリット: 地域密着型で、料金が比較的安価な場合がある。
    デメリット: メンタルヘルス専門医など、企業の細かいニーズに合わせたマッチングが難しい場合がある。紹介される候補者が少ない。
  • 知人・健診機関からの紹介:
    他の企業の人事担当者や、健康診断を委託している医療機関からの紹介(コネクション)です。
    メリット: 実績や人柄が事前に分かる安心感がある。
    デメリット: 属人的な探し方であり、必ずしも自社に合うとは限らない。

自社に合う産業医を選ぶための面談チェックポイント

新しい産業医候補者とは、契約前に必ず面談(オンライン可)を行いましょう。人事担当者だけでなく、経営層や現場の責任者も同席するのが理想です。

  • 専門性と経験:
    「メンタルヘルス不調者の対応経験は豊富ですか?」
    「当社の業種(例:IT、製造)特有のリスクについて、どのような知見がありますか?」
  • 能動性・コミュニケーション:
    「衛生委員会では、どのような役割を期待できますか?」
    「職場巡視では、どのような点を重視して見られますか?」
    「訪問日以外での相談(例:緊急のメンタル不調者)は可能ですか?」
  • 人柄・相性:
    高圧的でなく、人事担当者や従業員と円滑にコミュニケーションが取れそうか。
    中立的な立場で、専門家として毅然とした意見を言ってくれそうか。

まとめ:産業医は「連携」と「選定」が鍵

産業医が「役立たず」と感じられる背景には、産業医自身の能力や意欲の問題だけでなく、企業側の期待とのミスマッチや、連携の仕方の問題も大きく関わっています。

まずは、自社の産業医に求める役割を明確にし、積極的に情報を共有し、衛生委員会や職場巡視を活用することから始めてみてください。

それでもなお改善が見られず、従業員の健康管理に支障が出ると判断した場合は、法令違反にならないよう注意しながら、産業医の変更を検討することも人事労務担当者の重要な役割です。

自社に最適な産業医と連携し、実効性のある安全衛生体制を構築しましょう。

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

エムスリーキャリア健康経営コラム編集部

産業医サービスを中心に健康経営ソリューションを提供

健康経営に関するお役立ち情報を発信する「健康経営コラム」編集部です。 産業医サービスを提供するエムスリーキャリア株式会社が運営しています。 全国34万人以上(日本の医師の約9割)が登録する医療情報サイト「m3.com」のデータベースを活用し、あらゆる産業保健課題を解決に導きます。 お困りの企業様はお問い合わせボタンよりご相談くださいませ。

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