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職場復帰させて本当に大丈夫? 見落としがちな“事例性”とは―産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒントvol.1

日頃、社内の産業保健対応をするにあたり、「こんな時どうしたらいいんだろう」「他社はどう対応しているんだろう」と思い悩むことはありませんか。
『産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒント』では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長・岸本雄先生に寄稿いただき、産業保健で起こった事例(※)に基づいた対応、そういったケースを未然に防ぐTipsを取り上げていきます。

※事例の細部は変更してご紹介しています。

初期対応を見誤ると……

休職者から診断書が提出され、いよいよ休職が始まるとき、多くの人事労務担当者の方は、「今はそっとしておくべきだろう」と配慮されるかもしれません。しかし、まさにこの休職初期の段階こそ、休職者本人や主治医との認識をすり合わせておく勘所になります。

たとえば、次のような事例をみてみましょう(以下、事例の細部は変更しています)。

【事例:不眠は改善し復職したものの、日中の眠気が強く働けないAさん】

 

30代男性Aさん。経理作業に従事していたが、夜間の入眠が困難になり、なんとか寝付いた後も夜中に何度も起きるようになった。このため日中居眠りするようになり、ミスが目立ち始めた。徐々に勤怠も乱れる中、ある日、突然診断書を持参し休職を開始した。診断書には「非器質性不眠症:睡眠リズムの乱れが著しく日常生活にも支障が生じており、従来の労務は不能と判断する。このため3ヶ月程度の休職を要する」と記載されていた。
休職2ヶ月後、薬物療法の結果、夜間の入眠はスムーズになり、23時~6時まで通して眠れるようになった。一方で副作用により午前中の眠気は強まり、ふらつきも伴うようになった。本人は主治医に対して「夜よく眠れるようになりました」と述べ、早期の復職を希望した。主治医は「夜間の不眠は改善しており、復職可能と判断する」という診断書を発行した。人事労務担当者は診断書を確認し、本人からの「眠りの問題は解決しました」という言葉を信じて復職させたものの、その後も朝はぼんやりとして業務に集中できない状態が続いた。

症状の有無にこだわると見落とす“本当のリスク”

このようなケースは、現場でもしばしば見受けられます。休職判断や復職判断を「診断名」や「症状の有無」だけにこだわってしまうと、結果的に不適切なタイミングでの復職につながることがあります。
身体疾患に置き換えるとわかりやすいかもしれません。たとえば高血糖の状態だからといって、それだけで休職を指示することはないと思います。ただ著しい高血糖の結果、日中ぼんやりしたり、ふらついたり、目がかすんで手元がおぼつかなくなって、危うくドリルで手に穴をあけるところだった……という状況ならばどうでしょうか?おそらく休職して治療に専念してほしいと思うのではないでしょうか。

よって症状だけにこだわるのは片手落ちであり、

  1. 何が起きているために業務に支障が出ているのか
  2. どのような状態になれば復職が可能と判断できるのか

この2点を明確にすることがより重要といえます。逆にこれらが不明確なままでは、主治医も本人も、治療のゴールを適切に定めることができません。このように、業務を推進するうえで困る具体的事実のことを『事例性』と呼びます。(反対に「不眠症」「抑うつ気分」「動悸・頭痛」といった診断名や症状など、医学的な事実のことを『疾病性』と呼びます。)

今回のケースの場合、「睡眠障害」「入眠困難」という「疾病性」だけに着目するのではなく、
「本来の出勤時間に間に合うような生活リズムができているか?」
「日中もミスなく作業ができる程度の注意・集中力が回復しているか?」
という「事例性」としてのクリア目標にも注目すべきだったと言えます。
これらのポイントを休職者や主治医と早い段階で共有しておくことが、復職後のトラブルを未然に防ぐ「休職直後の勘所」になるのです。

診断名・症状(疾病性) 業務上の支障(事例性) 復職に向けた課題例(ゴール)
不眠症/入眠困難/夜間中途覚醒 朝の遅刻・欠勤、
始業時にぼんやりしている
・本来の出勤時間に間に合うように起きられる
・会社最寄駅まで通勤可能な時間に移動できる
・日中横にならず活動が維持できる
注意集中力の低下/倦怠感 ミスの頻発、指示漏れ、事故未遂(ヒヤリハット)、業務中の居眠り ・日中の眠気が改善し、業務に集中できる
・業務関連の書類や本を読み、まとめることができる
・資格勉強に2時間程度継続して取り組める(実際の正答率やページ数を確認する)
情動不安定性/不安・緊張の亢進 会社内で突然泣き出す、面談や出社前に心臓がどきどきしてしゃがみこむ、会社に近づけない ・不安な場面を思い出しても涙を流さずにいられる
・社屋や部署に近づいても情動が安定している
・会社内での面談にも落ち着いて参加できる
・振り返り作業をしても取り乱さない
・気持ちを落ち着かせる対処行動がとれる
自律神経症状(腹痛・動悸等) 作業を何度も中断する、トイレに30分こもってしまう ・1時間に1回5分程度など、会社が容認できる範囲内での回数に抑えられる
・症状があっても自分で対処し業務継続が可能

人事労務担当者ができること

事例性の共有をスムーズに進めるために、人事労務担当者ができることは次のように整理されるかもしれません。

  • 現場から「いつから、どのような支障が現れ始めたのか」を確認し、情報を整理すること
  • 本人に対して、「どのような体調や行動の変化によって出勤や業務遂行が難しくなったのか」を確認すること(ただし、著しく疲弊している場合は、2~4週間程度経過した定期連絡のタイミングがより望ましいかもしれません)
  • 上記内容から「復職に向けた課題(クリアすべきゴール)」を明確化し、「主治医に伝えるべき情報」として整理すること

これらの情報をまとめ、本人や主治医に手渡すことが、治療方針の明確化や復職準備の助けとなります。また、産業医による復職面談時にも重要な資料となります。
もし人事担当者だけでこれらをまとめることが難しい場合は、産業保健スタッフにご相談いただければと思います。その場合は、従来本人が行っていた勤務情報を合わせて添付することも有効かと思います。
復職の成否は、休職開始の時点から決まり始めています。だからこそ、“入口”の段階で情報収集と共有認識を図っておくことが重要になります。

岸本 雄 (きしもと ゆう)

産業医・精神科医

宮崎大学卒業後、東京大学医学部精神神経科で専門研修を積み精神科専門医を取得。都立松沢病院、東京警察病院で精神科救急、緩和ケア、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアに従事。親族の労災事故を契機に産業医に興味を持ち、日本医師会認定産業医を取得。その後両立支援コーディネーター、産業保健法務主任者、産業衛生学会専攻医の資格を取得。現在はVISIONPARTNERメンタルクリニック四谷の副院長として診療する傍ら、株式会社きしもと産業保健事務所を立ち上げ、20の事業所で顧問産業医を務める。

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