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復職基準を決めるのは誰? 関係者の“認識ズレ”を解消する3つの基準―産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒントvol.2

日頃、社内の産業保健対応をするにあたり、「こんな時どうしたらいいんだろう」「他社はどう対応しているんだろう」と思い悩むことはありませんか。
『産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒント』では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長・岸本雄先生に寄稿いただき、産業保健で起こった事例(※)に基づいた対応、そういったケースを未然に防ぐTipsを取り上げていきます。

※事例の細部は変更してご紹介しています。

なぜ、「復職可能」の認識がずれてしまうのか

「で、先生、本当に働けるんですか?」
これは、復職面談の場で人事労務担当者から産業医である私によく投げかけられる質問です。
診断書には「復職可能」と書かれていて、面談時の本人の様子も明るく見える。生活リズムも整っているようだし、主治医も問題ないと言っている――それでも、人事労務担当者としてはいまひとつ納得できない。こうした場面は、現場で非常によく見られる光景です。

この違和感の正体は、「復職可能」という言葉が、誰にとって・どのような状態を指しているのか、関係者の間で共通認識がないことにあります。本人にとっては「日中に活動できるようになった」ことを意味しているかもしれませんし、主治医としては「日常生活が規則正しく送れている」レベルで復職可能と判断している場合もあります。しかし、会社が一般的に求めているのは「従来通りに業務を遂行できる」状態であることが多いように思います。

このように、復職をめぐっては「働ける状態(すなわち「復職基準」)」の認識が関係者ごとにずれており、誰がどの基準で判断するのかが問題になりがちです。

「復職基準」に取り入れるべき、3つの観点とは?

「じゃあ、先生が復職基準を決めてください」
こう求められることもありますが、産業医が一人で基準を定めるのは現実的ではありません。なぜなら、実際の業務の内容や、どの程度の配慮なら現場が対応可能かといった情報は、会社、特に現場の上司や同僚が最もよく把握しているからです。
したがって、復職基準を設定する主体は会社であり、産業医は「会社が定めた復職基準に『医学的に妥当な範囲』で本人が達しているか」を評価する立場にあります。

とはいえ、会社側としても突然「復職基準」を決めなさい、といわれても、目安がなければ運用できないため困ってしまうと思います。その際に有用なのが、「業務基準」「労務基準」「健康基準」という3つの観点です(この考え方は※高尾メソッドを参考にしていますが、一部私なりに改変しております)。

① 業務基準――業務に近い課題を通じた評価

職場復帰は元の慣れた職場へ復帰させることが原則です。 よって本来的な業務基準は、従来の労務が提供できる状態か、もしくは、1-2ヶ月程度の軽減業務を行えば、従来の業務が提供できる程度に回復しているかになります。ただ問題は、休職中に実際の業務を行わせることができないという点です。実際の業務をさせてしまうと労務提供と見なされ、賃金支払義務や傷病手当金の支給停止といった事態が生じるためです。このため、間接的に業務に関係する活動を通じて、仕事への復帰準備状況を把握するという手段を取ります。
たとえば、私が関与した休職者は、皆と協力しながら患者さん全員分の食事の調理、献立作り、配膳準備などを行う業務を行っていました。このケースでは以下のような課題を実施してもらいました。

  • 自宅で1週間分の献立を作成し、実際に時間を計りながら調理。写真におさめ、その内容と感想を日報形式で記録する。
  • 10㎏のダンベルを用いた筋力訓練を最低1時間連続で実施。おかずが大量に入った鍋を持ち上げ、運ぶ体力があるかを確認する。
  • 日中に30分の散歩の実施(復職後もフライヤーやガスを使用するなど高温環境下での作業になるため)

いずれも本来の業務内容を意識しつつ、あくまで「日常生活の範囲内で実施可能な活動」として設定されたものです。
これにより、本人の自己申告だけでは見えにくい、注意力や体力の現実的な水準を確認できます。

② 労務基準――実際の出勤に耐えうる生活リズム・持久力があるか

労務基準では、就労を前提とした生活リズムの維持が可能かを確認します。よく使われるのが「生活習慣表」の記録です。

例えば、始業が8時半で通勤に60分かかる場合、逆算して6時半頃には起床し、朝食・着替え・通勤準備を済ませ、8時15分に会社近くに到着していることが望まれます。そこから定時(17時半)まで睡眠をとらなくても活動が継続できるかを確認します。
さらに、それが週5日連続で4週間程度継続できているか、週末に反動で寝込んでいないか、といった安定性も重要な評価ポイントです。
在宅勤務や時差出勤といった柔軟な勤務形態が契約上認められている場合は、それに即した生活リズムが構築できているかどうかを見ていく必要があります。

③ 健康基準――症状の再燃や対処力の確認

復職に向けた準備期間中に病状が不安定にならないか確認することも重要です。腹痛や息切れのせいで出勤や外出がままならず(いわゆる「事例性」になります)、休職に至ったケースであるならば、その頻度や程度が悪化しないか確認する必要があります。一方で自分なりの対処行動や緊急用の内服でコントロールができているのであれば、それはむしろ望ましい状態といえるでしょう。

なお上記の①~③の活動が実施可能かについては、主治医もしくは産業医に事前に確認することが重要です。ときに休職者側が「厳しすぎる」と難色を示すことがありますが、一般的にこれらの復職基準を確認するタイミングは、主治医から「復職可能の診断書」が発行された後です。この診断書は、本来「休職前の従来の業務が提供可能な状態になっている」ことを前提としているため、従来の業務より軽負荷である①~③の活動ができない時点で、客観的に就労可能とは判断するのは難しくなる――と、本人に説明する形になります。

共通認識をもとにスムーズな復職を

ここまでの内容を読んで、ややハードルが高く感じられた方もいるかもしれません。もちろん、すべてのケースで厳密な基準を設けているわけではありません。しかし、復職基準について話し合い、すり合わせていくことで、「すでにクリアできている部分」と「これから整えるべき部分」が明らかになります。

休職者本人・主治医・産業医・人事労務担当者、場合によっては現場の関係者も含めて、「働ける状態」についての共通認識を形成することが、結果的にスムーズな職場復帰への大きな一歩になるのです。

※高尾メソッドとは、岡山大学の産業医である高尾総司准教授が構築した、業務遂行レベルに基づくメンタルヘルス対応の手法です。10年以上の実績と、多くの企業での運用を通じて発展してきた実践的モデルであり、「職場は働く場所である」という原則に立脚しています。詳細はこちらをご覧ください。

岸本 雄 (きしもと ゆう)

産業医・精神科医

宮崎大学卒業後、東京大学医学部精神神経科で専門研修を積み精神科専門医を取得。都立松沢病院、東京警察病院で精神科救急、緩和ケア、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアに従事。親族の労災事故を契機に産業医に興味を持ち、日本医師会認定産業医を取得。その後両立支援コーディネーター、産業保健法務主任者、産業衛生学会専攻医の資格を取得。現在はVISIONPARTNERメンタルクリニック四谷の副院長として診療する傍ら、株式会社きしもと産業保健事務所を立ち上げ、20の事業所で顧問産業医を務める。

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