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復職しても欠勤続きの従業員、どうアプローチすればいい?―産業医のメンタルヘルス事件簿vol.11

企業の人事労務担当者が思い悩むことの1つに、従業員のメンタルヘルス対応が挙げられるでしょう。「産業医のメンタルヘルス事件簿」では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷の産業医兼精神科医の先生方に、産業保健の現場で起きていることやその対応について寄稿いただきます。

今回はVISION PARTNERメンタルクリニック四谷のパートナー医師である岸本雄先生に、復職後に突発欠勤を繰り返す従業員への対応について教えていただきました。

診断書では「就労継続が望ましい」とあるけれど…

せっかく復職をしたと思ったら、どうも本調子ではない。でも本人は「働ける」と言っているし、主治医からは「就労継続が望ましい」という診断書が発行されている…。はたして、『本当に』働かせて問題ないのだろうか――。このような場合、人事担当者としてはとても困ってしまうのではないでしょうか。今回は復職後に欠勤を繰り返すケースについて、どのように対応していくのが望ましいのか一緒に考えていきましょう。

            • 【事例:3ヶ月の休職を経て復帰するも、突発的な欠勤が続いているAさん】

           

            • 150名規模のIT系の会社に勤務する、SE職のAさん。X-1年12月にうつ病を発症し、3ヶ月休職となった。3月から復職し、当初の1ヶ月は残業なし、業務量は従来の半分程度からの勤務となった。しかし4月頃から突然の体調不良により週1日ペースで有給休暇を取得するようになった。出社そのものが負担であるという本人の意見があり、主治医からも「在宅勤務が望ましい」という診断書が発行されたため、フルリモートワークとなった。その後も突発的な休みは続き、2023 年6月の段階で有給休暇の残日数は3日となった。職場上司は「今は人手不足だし、本人は稼働時には十分働いているからこのまま働かせてほしい」と述べており、主治医は「休職を繰り返しても治療上有益ではなく、休みながら本人のペースで就労を継続することが望ましい」という診断書を発行していた。しかし人事労務担当者としては「本当にこのまま働かせて問題ないのだろうか」という懸念があり、産業医に相談が入った。

           

          • 産業医面談の場面で本人は「朝起きた時に時々ものすごく体がだるくなる。そうなると午前中は全く動けない」「でも1日で回復するし、職場からも大丈夫と言われている。もう休職もできないし、仕事をしながら治療を続けたい」と述べていた。しかし、情報収集の結果、4月頃から同僚が本人分の仕事を半分以上肩代わりしていたこと、上司は4月から配属されたばかりであり、現場の状況を正確に把握できていなかったことが明らかになった。

さて、上記のようなケースの場合、今後どのように対応していくことが望ましいでしょうか。

ポイントは1)情報収集、2)現状に対する認識の共有、3)会社としての対応の確認の3つになります。

1)情報収集

まずは本人、職場の同僚、人事労務担当者の方それぞれに対して、丁寧に話を伺うところから始めます。

例えば本人に対しては、産業医面談を通して今の生活リズム、治療状況について確認していきます。丁寧にお話を伺うと、実は主治医に話せていないこと(服薬が不規則になっている、眠りのリズムが乱れているなど)がはっきりしてくることもあります。また、会社の就業規則を把握していないがゆえに「休職は1回しかできない」「次休職になったらそのまま退職になる」という誤解から、療養に専念できないでいるケースもあります。仮に最初は「絶対休みたくない。働きながら治療したい」という頑な態度を示していたとしても、「休みを繰り返している」という現実に対して何が起きているのか一緒に考え、誤解があるようであればその誤解を解いていく中で、自然と本人の方から「それなら休んだ方が良いかもしれない」と納得してくれることもあります。

直接本人と関わる職場同僚達からも、ぜひ情報収集をしておきたいところです。在宅勤務であるがゆえに、上司が「実情」について把握できていないことも多く、同僚に確認して初めて「周囲が相当カバーしていた」という現実が見えてくるケースもあります。また「病気を悪化させたら自分たちのせいにされるのではないか」という不安から、上司にも報告せず、波風を立てないようじっと耐えていたというパターンも散見されます。

人事労務担当者に対しては、同じようなケースに対して、これまで会社としてはどのような対応をしてきたのか、確認してみることも重要です。例えば、業績の良い社員には寛大な対応をする一方で、あまり業績が振るわない社員に対しては休職期間を短く設定する、配慮をあまりしないなど、厳しい対応を示す会社があります。そのような不公平は必ず従業員に伝わりますし、トラブルを生みます。原則として同じ対応をすることが望ましいでしょう。

2)現状に対する認識の共有

情報確認をした上で次に行うことは、この現状を本人も含めた関係者の間で共有し、認識のすり合わせをすることです。もちろん個人情報の問題もあるため、どこまで情報を提示するかは産業医の判断になりますが、現在の本人の稼働状況、職場への影響、職場側が懸念していることについては、率直に共有することが重要です。

その結果を踏まえて「月3回以上突発的な休みを繰り返している状況では『安定して業務をこなせている』とは判断しない」「他の社員からのサポートがなければ業務が回らないという現状では、従来の業務をこなせているとはいえない」といった認識を関係者で共有します。

3)会社としての対応の確認

現状に対する認識を共有したところで、次は会社側の対応について皆で確認します。例えば「有給休暇を全て消費した後、更に体調不良で『欠勤』した場合、その時点で休職とする」「その際には事前に主治医に会社での様子について情報提供し、診断書を発行してもらうよう依頼する」などがあります。再休職となる場合は、現時点でどの程度休職期間が残っているのか、復職する際にはどのような手順を踏む必要があるのかについて再度説明することが望ましいでしょう。休職、復職に関する就業規則は、現場職員にはあまり浸透していないことも多く、「一度休職したら二度と利用できない」といった誤解が生じている場合があるためです。

同じ困りごとが起きないためにできること

これまで示してきた対応も、個別ケースごとに異なってしまうと、現場や本人が混乱してしまいます。このため、「休職を繰り返す場合にはどのラインで産業医面談、休職を検討するのか」などについては、就業規則で事前に定めておくといいかもしれません。ただし、内容によっては不利益変更になりうるため、事前に弁護士、社労士と連携することが望ましいでしょう。

情報収集、認識の共有、そして会社としての対応の確認、この3つのステップを踏んでいくことが重要ですが、会社内の人間同士で直接進めていくには、少しハードルが高いかもしれません。こういうときこそ、調整役として我々産業保健職を御活用いただければと思います。

岸本 雄 (きしもと ゆう)

産業医・精神科医

宮崎大学医学部医学科卒業。東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科医局に所属。同大学や都立松沢病院、東京警察病院にて精神科急性期、緩和ケア、精神障がい者の復職・就労支援に従事。現在は労災指定病院である多摩済生病院およびVISION PARTNERメンタルクリニック四谷にて、精神科慢性期、ビジネスパーソンの精神的ケアに従事している。

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