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30~40代中間管理職の“SOSサイン”とは?人事担当者ができる3つのこと―産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒントvol.4

日頃、社内の産業保健対応をするにあたり、「こんな時どうしたらいいんだろう」「他社はどう対応しているんだろう」と思い悩むことはありませんか。
『産業医と事例で学ぶ!人事労務の『困った』を解決するヒント』では、VISION PARTNERメンタルクリニック四谷 副院長・岸本雄先生に寄稿いただき、産業保健で起こった事例(※)に基づいた対応、そういったケースを未然に防ぐTipsを取り上げていきます。

※事例の細部は変更してご紹介しています。

30〜40代は負担が重なる時期

メンタルヘルスケアの取り組みとして、管理職が部下をケアする「ラインケア」が挙げられます。一方で、管理職の不調はなかなか気づかれにくいケースもあります。今回は、セルフケアをしているはずなのに、なぜか不調が進行していく中間管理職の方の例を取り上げ、その理由について考えてみたいと思います(以下、事例の細部は変更しています)。

「休日はジムに行っていました。平日夜はヨガもして、お酒もタバコも控えています。それでも、夜になると仕事のことが頭から離れず眠れないんです。だから自分なりにジャーナリングもしていたんですけど…」
35歳で課長に昇進したAさんは、産業医面談でそう語りました。責任感が強く、部下や同僚からの信頼も厚い人物です。昼間は部下のフォローに追われ、自分の業務は定時後に後回し。休日も顧客対応を引き受け、部下に休んでもらおうと努めていました。
本人なりに「不調を起こしてはいけない」と意識し、セルフケアを続けていました。しかし、遅刻や居眠りが目立ち始め、会議での発言も急に減りはじめました。廊下で上司から「大丈夫か」と声をかけられたとき、Aさんは思わず泣き出してしまったのです。

30〜40代は、仕事と生活の両面で大きな転機を迎える時期です。

  • 昇進と管理職の重圧
    従来の業務に加えて部下のマネジメントを担うことになり、十分な準備がないまま責任を負う。
  • 子育てや家庭との両立
    結婚や育児、住宅ローンに加え、早い人では親の介護も始まる。休日や在宅勤務中も気が休まらない。
  • 「やって当たり前」とされる立場
    20代のうちは失敗してもフォローされやすいが、30代以降は「できて当然」とみなされ、むしろ若手社員のフォローもしなければならない。
  • キャリアへの迷い
    「このまま働き続けていいのか」「自分の専門性は育っているのか」といった不安が募る。

パーソル総合研究所の調査でも、中間管理職は業務量と責任が増し、ストレスや健康リスクが高まることが報告されています。特に「組織内のトラブル対応」「部下のマネジメントの難しさ」といった、セルフケアでは解決しない要因が大きなストレス因になることが分かっています。

中間管理職の不調サインとその背景

さて、そのような負荷を背景にどんな不調サインがみられるのか?それを示したのが下の表です。一見するとどこかできいたことがあるサインのように見えますが、その背景を知っておくとで、より当事者の苦しみがリアルに感じられると思います。

表に出るサイン なぜその状態になるか
雑談を避ける

孤立する

話しかけづらい雰囲気が出る

「弱みを見せたら管理職としての信用を失う」「雑談している暇があったら仕事をしないといけない」そんな言葉がよく聞かれます。他者からの評価を気にして弱音を出せない。もしくは業務過多な中で少しでも早く仕事を終わらせたい…その結果、周囲とのかかわりを避けるようになり、孤立していきます。
遅刻・早退・欠勤が散発する 平日夜も、土日も仕事のことを考え続け、ふとした瞬間に限界を超えてしまい、その綻びとして散発的に勤怠の乱れが生じます。この状態がしばらく続いたのちに、ある日「ぷつん」と来て、長期欠勤になるパターンがみられます。
部下の仕事を突然取り上げる

過度に介入し始める

人手不足、業務過多に見舞われる中で徐々に余裕がなくなると「これだったら自分がやった方が早い」と突然部下の仕事を取り上げたり、過度に介入するようになります。いわゆるマイクロマネジメントというものです。しかしマイクロマネジメントをすればするほど、当事者の時間がなくなり、業務過多となるため、悪循環にはまっていきます。
小さな指摘に過敏に反応する

攻撃的、被害的になる

勤怠の乱れやマイクロマネジメントが発生し、孤立するレベルになると「自分は役に立っていないんじゃないか」「周囲からどう思われているんだろう」といった、自責と他責が混じった感情が芽生えるようになります。その結果、周囲からの気遣いの言葉に対しても「私がダメって言いたいのか?」と攻撃的になることがあります。
ケアレスミスが急に増える 孤立により周囲からの協力が得づらくなり、同時に業務量が個人の処理能力を超えるため、ケアレスミスが増え始めます。最初は、自分で気づいてカバーできるものの、徐々に進行する中で、周囲に気づかれるレベルに発展します。

表面的な行動だけを見ると「やる気がない」「怠けている」もしくは「ハラスメント」に見えることもあるかもしれません。しかし実際には、責任感の強さや周囲への気遣い、業務過多による余裕のなさが裏にあるケースが多いのです。表面的な行動に目を奪われるのではなく、「これは助けを求めているサインなのかもしれない」とその視点をもてるかが、30~40代のメンタルヘルス不調予防につながります。

人事労務担当者ができること

「もしかしてこれって不調のサインかも」…そう気づいたら人事としてどのようにかかわるのが望ましいでしょうか?ポイントは大きく3つあります。

  1. 「不利益な取扱いをしない」という保証を明確にする
    中間管理職が最も恐れているのは、相談することで自分のキャリアが閉ざされてしまうことです。このため人事担当者としては、この不安をいかに取り除けるかが鍵になります。
    相談対応で把握した情報を理由にした解雇、退職勧奨、不当な配置転換や職位(役職)の変更などは、決して行われないことを明確に伝えることが大切です。
  2. 制度や支援の存在を伝える
    休職制度や短時間勤務、外部相談窓口など、制度はあっても意外と社員には知られていません。単に「制度の紹介をする」だけではなく、「申請手順」「実際に使った事例」「当事者の感想」など、本当に使っている実態を示しながら、利用者の生の声を伝えることが重要です。
  3. 相談のハードルを下げる
    相談窓口を匿名で使えるようにする、産業医面談を気軽に予約できるルートを整える…など、相談ハードルを下げる仕組み作りも有効です。一歩攻めの対策としては、勤怠データや有給取得率を定期的に把握し、過重労働が疑われる社員にアプローチすることも有効です。当事者からは「なんで面談する必要があるんだ」という反応が返ってくることもありますが、その際は、「突然話を振って驚かせてしまったこと」についてまず謝罪しつつ、「相談しても個人情報は守られること」「人事評価には関係しないこと」を明言しながら、客観的事実をデータで示しつつ「あなたの心と体の健康状態が心配であること」を伝えるのが重要です。

本人がどうしても会社関係者には直接話せない、もしくは明らかに業務に支障がでるほどの不調サインがみられている、そういうときは遠慮なく産業保健職にご相談ください。どうやったら当事者の負担を減らすことができるか、一緒に考えていきたいと思います。

参考資料:中間管理職の就業負担に関する定量調査(パーソル総合研究所)

岸本 雄

岸本 雄 (きしもと ゆう)

産業医・精神科医

宮崎大学卒業後、東京大学医学部精神神経科で専門研修を積み精神科専門医を取得。都立松沢病院、東京警察病院で精神科救急、緩和ケア、ビジネスパーソンのメンタルヘルスケアに従事。親族の労災事故を契機に産業医に興味を持ち、日本医師会認定産業医を取得。その後両立支援コーディネーター、産業保健法務主任者、産業衛生学会専攻医の資格を取得。現在はVISIONPARTNERメンタルクリニック四谷の副院長として診療する傍ら、株式会社きしもと産業保健事務所を立ち上げ、20の事業所で顧問産業医を務める。

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